魅力至上主義の教室   作:Mr.♟️

2 / 3
よう実はスラスラかけて楽しい。



僕は君の杖

 

盤上に澄んだ音が響く。彼女の白魚のように細い指が、迷いなくクイーンを滑らせた。

 

「チェックメイト」

 

自信に満ちた、どこか楽しげな声が耳に届く。盤面を見つめたまま、僕は小さく息を吐き出した。

 

「......まさか、1週間で負けるなんて思わなかったよ」

 

あの日から、僕と坂柳さんは毎日昼休みにこの図書室の窓際でチェスを指すのが日課になっていた。

 

いくら相手が天才とはいえ、まだ小学一年生だ。少なくとも1ヶ月くらいは僕の独壇場で勝ち続けられると踏んでいたのに。

 

これが『坂柳有栖』という圧倒的な天才。いつかは追いつかれると覚悟していたとはいえ、流石に成長速度が規格外すぎる。

 

「ふふ、それは私を見くびりすぎですよ。それに、今日負けたのなら、明日勝てばいいだけではないですか?」

 

彼女は微笑みながら、僕を煽るように言葉を紡ぐ。勝者の余裕を纏っているが、その瞳の奥には熱を帯びた感情が揺らいでいる。

 

「もちろん、そう簡単に諦めるつもりはないよ。まだ1回負けただけだからね」

 

負け惜しみのように聞こえるかもしれないが、僕も本心からそう返した。

 

坂柳さんとの関係は、良好の一言に尽きる。

 

彼女にとって僕は、この退屈な日常の中で初めて出会った、対等に戦える同年代の存在なんだろう。

 

だからなのか、彼女は時折こうして僕の闘争心を煽り、自分から興味を失って離れていかないように試すような真似をしてくる。

 

その不器用な引き留め方は、年相応の子どもらしくて可愛らしいと思う。

 

そもそも、僕の方から坂柳さんの元を離れるという選択肢は存在しない。僕はこの世界でハーレムを作りたいんだ。だから、坂柳さんみたいに可愛い女子を放置なんてしない。

 

なにより、僕と坂柳さんが2人で教室で話していると、数多くの嫉妬の目を集める。男女ともにね。

 

その冷たい視線やヒソヒソ話に晒されるだけで、僕の『メンタル』ステイタスはチクチクと刺激され、確実に向上していくから、本当にありがたい。

 

たまにその重圧に耐えきれず、生理現象として涙がツゥーッと頬を伝ってしまうこともあるけど、ステイタスアップの恩恵に比べれば安い代償だ。まあ、気にしない気にしない。

 

「いつまでその負けん気がもつか、楽しみですね」

 

「明日勝つのは僕なのに、今からそんなこと言って大丈夫?」

 

盤上の駒を片付けながら、僕たちは軽口を叩き合ういながら、時計の針を一瞥する。

 

あと5分で、昼休みの終わりを告げる予鈴のチャイムが鳴る。そして、そのチャイムから5分後には午後の授業開始を告げる本鈴が鳴り響く。

 

そろそろ戻らないとダメかな。

 

「戻ろうか、教室に」

 

「そうですね」

 

彼女は満足げに目を細めると、ゆっくりと立ち上がった。

 


 

 

放課後、お手洗いに行ってから教室に戻ると、坂柳さんがランドセルを背負って壁伝いに歩いていた。その手に、いつも持っているはずの杖はない。

 

彼女と目が合う。はぁ、こんな状況でも顔色一つ変えずに冷静なのは、子どもとしてどうなんだろうか。天才の一言で済ませられない次元だよ。

 

「どこにあるか分かる?」

 

子どもは正直で、純粋で残酷だ。相手の痛みを想像するよりも、自分の欲望や感情に忠実に人を害してしまうのだから。

 

これは、クラスの女子たちが坂柳さんに嫉妬したから起きた嫌がらせだ。こうならないように、僕もそれとなく注意はしていたんだけど......やっぱり、難しかったか。

 

「『返して欲しかったら、体育館倉庫まで来なさい』と言われました。無視してそのまま帰ろうかと」

 

「そのまま帰るにしても、杖がなかったら大変でしょ?僕が杖になってあげるよ」

 

僕は坂柳さんに近づいて、手を差し出す。きっと、彼女は僕が肩を貸すとでも思っているだろう。でも、そうじゃない。

 

この状況は、坂柳さんからの好感度を稼ぐ絶好のチャンスであり、また、彼女に二度と同じことを起こさせないように牽制する機会でもある。

 

「ありがとうござ──きゃっ......!」

 

坂柳さんが僕の手を取ろうとした瞬間、僕はその手をスッと引き、彼女の小さな身体をふわりと持ち上げた。所謂──お姫様抱っこである。

 

ランドセルを背負っているからか、思ったよりも重たい......

 

もし僕が嫌われていたら、好感度が地の底まで落ちる暴挙だろうけど、その心配はない。だって、僕は彼女に嫌われていないからねっ!

 

「今の僕は、坂柳さんの杖だよ。向かう先は、玄関?それとも、体育館倉庫?」

 

「......主人に問いかける杖なんて、生意気な道具もあったものですね」

 

そう言いながら、彼女は僕のほっぺたを軽くつねってきた。

 

至近距離で見つめるその顔が、少しだけ赤くなっているように見えるのは気のせいかな、坂柳さん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お望み通り、来て差し上げました」

 

人に抱きかかえられたまま、ここまで堂々と偉そうに振る舞えるのは一つの才能だと思う。

 

「な、なんで、神代くんまで......?」

 

「ど、どうするの、あやちゃん......?」

 

「坂柳ちゃんに、杖を返すから神代くんに近寄るなって言いたかっただけなのに」

 

ああ、やっぱり原因は嫉妬だった。僕も坂柳さんと関わり始めてから、男子に嫉妬されて嫌がらせを受けることがあるから、お互い様だよね?

 

「な、なんで、神代くん連れてきてるのよ!普通1人で来るでしょ!」

 

「人数の指定はありませんでしたよね?」

 

あ、メンタルがゴミなせいで、この空間の最悪の空気にあてられて、頭がクラクラしてきた。

 

あー、身体がダルい。少しは慣れたつもりだったけど、やっぱりキツイなぁ、これ。

 

かといって、坂柳さんを落とすわけにも、床に下ろすわけにもいかない。前者は論外だし、後者はせっかくの見せ場が台無しでかっこ悪いからね。

 

でも、このまま坂柳さんに話し合いの主導権を任せていたら、僕がきつい。僕が辛い。メンタルの負荷が増加する一方だし、そろそろ口を挟んでもいいかな?

 

「今、どんな気持ちですか?神代くんと私を引き離したかったはずが、こんな無意味なことをするから、彼はよりいっそう私のものになってしまいましたよ?」

 

意地悪く微笑みながら、坂柳さんは僕の首筋や鎖骨付近、そしてほっぺたを撫でるように触ってくる。お、大人げない......目の前の3人とも、完全に涙目になってるじゃん。

 

あと、一応言っておくけど僕は坂柳さんのものにはなっていない。

 

「ぅ......ひぐっ......うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっん!!!」

 

あ、泣いちゃった。いや、そりゃあ、こんな容赦のない脳破壊をされたら泣くよ。まだ小学一年生の子どもには、刺激が強すぎる。

 

【スキル取得条件達成:不屈】

 

『逆境時に任意のステイタスを1段階ランクアップさせることができる』

 

え、え......?本当に?こんなに都合のいいスキルが......!?

 

逆境時限定っていう縛りが少し微妙だけど、それを差し引いてもめちゃくちゃいいスキルだよ!やった、ラッキーだ!

 

 

 

 

 

 

この後、体育館倉庫に響き渡る泣き声を聞きつけてやってきた先生によって、この一件は喧嘩両成敗ということで強制的に終わらされた。

 

 


 

「神代くん」

 

「神代くん、お願いします」

 

「杖がないと歩けません......」

 

──ど・う・し・て・こ・う・な・っ・た。

 

あの体育館倉庫での事件から1週間が経過した。うん。あれ以来、なぜか坂柳さんが堂々とお姫様抱っこをせびってくるようになったのだ。

 

いや、実際に言葉で直接そう要求してくるわけではない。ただ、移動教室などのタイミングになると、スッと両腕を広げて無言で僕の方をじっと見つめてくる。あれは絶対に確信犯だ。

 

彼女の思考回路には0か100しか存在しないのだろうか。

 

ついこの間なんて、『階段はそんなことをしながら登ったらダメですよっ!』と、すれ違った先生から僕だけがこっぴどく怒られた。あまりにも正論すぎて、反論の余地すらなかったよ。

 

「──チェックメイト」

 

盤上に乾いた音を響かせ、僕は静かに勝利を宣言した。

 

ちなみに、今いるこの図書室までも僕が彼女を抱えて運んできた。彼女は杖を教室の自席に置いてきているから、戻る時も当然僕が運ばないといけない。

 

「......もう一度やりましょう」

 

「いや、昼休み終わるよ」

 

本当に負けず嫌いだなぁ。まだ何とか勝ち越せてはいるけれど、少しでも気を抜けばあっという間に負け越しそうだ。

 

彼女の成長速度を考えれば、中学に上がる頃にはおそらく一勝もできなくなっていると思う。

 

もう1局指すには時間が足りないけれど、教室に戻るにはまだ少し早い。こういう中途半端な時間は、決まってチェス盤を挟んで暇つぶしの雑談をしている。

 

「そういえば、来週は遠足がありますね。行先は水族館らしいですけど、神代くんは行ったことありますか?」

 

「ないかな。坂柳さんは?」

 

「私もありません。あえて、今行かなければならない理由がありませんから」

 

涼しい顔で言い切る彼女に、僕は苦笑いを浮かべた。

 

「ふーん。じゃあ、お互いに初めての水族館だね」

 

「ええ、そうですね。少しだけ、楽しみにしておきます」

 

「もしかしたら、ペンギンの餌やりとかできるかもよ?」

 

あれって、なんかイベント時間?があって、その時に選ばれたらできるんだよね?僕もやってみたいなー。

 

「興味あるんですか?」

 

「まあ、こういう時くらいしか水族館に行かないだろうからね」

 

「ふふっ、ペンギンを見る余裕があるといいですね」

 

「まさか、水族館の中でも抱っこしろって言わないよね?」

 

「あら、それは神代くんの体力次第ではないでしょうか?」

 

クスクスと悪戯っぽく笑う彼女を見て、僕は小さくため息をついた。楽しそうでなによりだよ。

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン......

 

遠くから、昼休みの終わりを告げる予鈴のチャイムが響いてきた。

 

「ほら、時間だ。教室に戻ろうか」

 

「はい、お願いしますね」

 

当然のように両腕を広げて待つ坂柳さんの前で、その羽のように軽い小さな身体を再びふわりと抱き上げ、僕たちは静まり返った図書室を後にした。

 


 

【ステイタス】

 

知力A(30)

 

記憶力、理解力、器用さ、計算能力等に影響する。

 

身体能力B(10)

 

筋力、体力、瞬発力、持久力、反射神経などのフィジカル全般に影響する。

 

メンタルE(65)

 

メンタルにダメージを負うと泣いてしまう。耐えようとした場合、精神的・肉体的負荷が生じる(ランクアップで解消)。

 

重圧に弱い。注目されるとベストなパフォーマンスを発揮できなくなる(ランクアップで解消)。

 

状況により、他ステイタスに一時的に影響を及ぼすことがある。

 

運B(10)

 

幸運体質。

 

魅力A(20)

 

異性からの好感度を得やすい。

 

同性からの好感度を得にくい。

 

スキル

 

不屈

 

『逆境時に任意のステイタスを1段階ランクアップさせることができる』

 

※取得条件:精神的or肉体的負荷がかかっている状態で100回逃げずに立ち向かうこと。

 


 

お姫様抱っこ待ちの坂柳さん

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転校先にいるのは?(項目少なく上げてしまったため、上げ直してます)

  • 長谷部波瑠加
  • 長谷部波瑠加&他クラスに櫛田桔梗
  • 長谷部波瑠加&同じクラスに櫛田桔梗
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。