朝の5時過ぎ。
薄暗い部屋の中で、設定してもいないはずのアラームがなったかと思えば、端末は着信音を鳴らしていた。
ディスプレイに目をやると、そこには思いがけない名前が表示されていた。
【堀北鈴音】
その文字を見つめながら、僕はベッドの中で少しだけ思考を巡らせる。
彼女が、こんな非常識な時間にわざわざ電話をかけてきた理由はなんだろうか。
意外とお茶目なところがある彼女が、部屋で朝から何か取り返しのつかないミスをやらかして、自力で解決できずにSOSを求めてきた。
もしくは──僕を朝食に誘うために、勇気を振り絞って電話をしてきた。
十中八九、後者だろう。
昨日の昼休みに僕を狙っている女性が多いことに気がつき、少し焦っている。行動の動機としては充分すぎる。
とりあえず行こうか。
鈴音なら帆波みたいに、僕のことをどさくさに紛れて押し倒そうとすることもないだろうし、彼女の部屋に行っても危険性はない
はず。
僕はゆっくりと通話ボタンをタップし、端末を耳に当てた。
そして、向こうで彼女が何か言葉を発するよりも早く、僕から話しかけた。
『今すぐ行くよ、待ってて』
仮に朝食のお誘いじゃなくて、別の用事や間違い電話だったとしても問題ない。その時は、自分の部屋に戻るだけでいい。
もしくは、強引に鈴音の部屋に上がり込んで、のんびりと朝の時間を過ごすのも悪くない。
僕はあえて服装は寝巻きから着替えず、寝巻き姿のままでいくことにした。当然ながら、歯磨きや洗顔といった最低限の身だしなみだけは整えた。
無防備な姿を見せることで『君のためなら急いで駆けつける』というこをアピールするためだ。
なお、身支度を整えている数分間、ベッドに放置した端末の画面には鈴音からの着信が何度も表示されていたけど、あえて全て無視した。
今頃、僕の言葉に頭を抱えて、ひどく混乱していることだろう。
不意打ちっていうのは、こうやって相手の思考を奪ってペースを握るためにやるんだよ。
僕は部屋を出てエレベーターに乗り、まだ誰も歩いていない静まり返った廊下を進み、鈴音の部屋へと向かった。
目的の部屋の前に到着し、迷わずチャイムを鳴らす。
ピンポーン、という音が響いた後、バタバタと慌ただしい足音が聞こえ、すぐにガチャリと少しだけドアが開かれた。
隙間から覗くのは、明らかに動揺している鈴音の顔だった。
「お待たせ、待った?」
わざとらしく、それでいてとびきり優しい笑顔で声をかける。
「..............着替えるから少しだけ待ってちょうだい」
チェーンをかけたまま、彼女は顔を赤くして必死にドアを閉めようとしてきた。
「え、鈴音のパジャマ姿が見れるの?見たいなぁ」
ドアの隙間にスッと手を入れて閉まるのを阻止し、真っ直ぐに彼女の瞳を見つめる。
多分、僕が『今すぐ行く』なんて無茶を言ったから、彼女は本当に急いで最低限の身支度だけをしていたんだろう。
寝癖を直すために軽く髪を整えたり、歯を磨いたり、顔を洗ったり。
その慌ただしい時間の中で、まさか僕がこんなに早く到着するとは思わず、着替えの優先順位が低くなってしまったんだと思う。
少しの間、見つめ合う無言の時間が続いたけど──やがてカチャリとチェーンが外され、ドアが完全に開いた。
おおっ、と心の中で感嘆の声が漏れる。本当に、無防備なパジャマ姿だ。
普段の隙のない着こなしの彼女からは想像もつかないような、柔らかくて薄手の生地。
僕はためらうことなく一歩踏み出し、流れるように、その薄手のパジャマを着ている鈴音の身体をふわりと優しく抱きしめた。
「か、神代、くん。いきなり...その、何を......してるのかしら」
腕の中にすっぽりと収まった彼女の身体が、ビクッと大きく跳ねる。
顔を真っ赤にして、僕の胸板に添えられた彼女の両手は、押し返すこともできずに微かに震えていた。至近距離から漂う、少し甘くて清潔な香りが鼻腔をくすぐる。
「鈴音が可愛くて、抱きしめずにはいられなかった。ダメだった......?」
耳元でわざと吐息がかかるように、甘く掠れた声で囁きかける。
彼女の心臓が、早鐘を打つようにトクトクと鳴っているのが、密着した身体越しに伝わってくる。
「......................ダメ、ではないわ」
長い沈黙の後、消え入りそうなほど小さな、許容の言葉がこぼれ落ちた。
彼女の腕が、恐る恐る僕の背中に回り、そっと抱き返してくる。
僕に電話をかけてきた理由は、『声を聞きたくなったから。1時間後くらいに朝食を一緒に食べたかったから』というものだった。
もちろん、ここまでストレートな言い方をしたわけじゃない。顔を赤くしながら回りくどい言い訳を並べていたけど、要約するとこういうことだった。
「......神代くんは座っていてもいいのよ」
僕は台所で鈴音が朝食を作っているのを、少し離れた位置から壁に寄りかかって眺めていた。
フライパンの上では、卵液をたっぷりと吸い込んだパンが甘いバターの香りを漂わせて焼き上がろうとしている。
鈴音が作ってるのは、フレンチトースト。そしてサブとして、別のコンロでベーコンとソーセージをカリッと香ばしく炒めている。
こうしてパジャマ姿のままキッチンに立つ彼女の背中を見ていると、まるで新婚のような気分になってくる。
「鈴音のことを見ていたいから」
「......そう」
ストレートな好意の言葉に、彼女は耳まで赤く染めながら、それ以上口出ししてくることはなかった。ただ、フライパンを揺らす手がほんの少しだけぎこちなくなったのが、たまらなく可愛い。
やがて完成した朝食をテーブルに並べ、2人で向かい合ってナイフとフォークを手に取る。
フレンチトーストは外がカリッと、中はフワフワで絶品だった。お世辞抜きで、プロ顔負けの味だ。
「櫛田さんとは、あまり仲良くしない方がいいわ」
一緒に朝食を食べ進めていると、鈴音がふとフォークを止め、真面目な顔で唐突にそんな話題を切り出してきた。
「鈴音がそんなこと言うなんて珍しいね。何かあったの?」
「その、告げ口みたいになるのが嫌だから詳細は伝えられないけれど......私からの忠告よ」
少しだけ視線を伏せ、言い淀む鈴音。
桔梗が鈴音を一方的に嫌い、陥れようとしているだけなら、僕の知る『原作』通りの展開だ。
しかし、鈴音の方から桔梗に対して明確な敵対心、あるいは強い警戒心を持っているというのは少しおかしい。
僕がこの世界に存在し、彼女たちに干渉した影響で、中学時代に何かトラブルでも起きたんだろうか。
とはいえ、鈴音の言う通りに桔梗との関わりを控えるなんて選択肢は、僕の中には存在しない。だって、桔梗も僕のハーレムの一員にしたいから。
「それなら、これだけ教えて欲しいんだけど。桔梗に何か嫌なことをされたの?」
「ええ、中学時代にね」
「ならさ、もし桔梗がその事について謝ったら、許してくれる?」
僕の問いかけに、鈴音は少しだけ眉をひそめ、冷たい瞳を向けてきた。
「......それは、どうかしら。その時になってみないとわからないわ」
「もし、桔梗が鈴音に謝った時に許してくれたら、僕が鈴音のお願いを『なんでも』聞くとしたらどうかな?」
全然許してくれなさそうなので、とびきり甘い餌をそっと目の前に吊り下げる。
「なんでも......?......なんでもってことは、本当になんでもなのよね?」
食いついた。鈴音の瞳が、期待で僅かに揺れている。
「そうだよ。鈴音は僕が嫌がるようなことは絶対に頼まないだろうし、君の願いならなんだって聞くよ」
「そう。もし、万が一、櫛田さんが反省して謝罪してきたなら──その時は許すことにするわ。勘違いしないでちょうだい。決して、あなたが何でも言う事を聞くからこう言ってるわけではないのよ」
ツンデレの鑑のような早口の言い訳。
その実、彼女の頭の中ではすでに僕への要求をあれこれと考えているだろう。分かりやすくて、本当に愛おしい。
「ありがとう。やっぱり鈴音はいい子だね」
僕は立ち上がり、彼女の隣に寄り添って、さらりと流れる黒髪を優しく撫でた。
「......子供扱いしないで」
口では文句を言いながらも、彼女は僕の手を振り払おうとはしなかった。
そのまま、食後の温かい紅茶を飲みながら、しばらくの時間を鈴音の部屋で穏やかに過ごした。
そんな時間は僕の端末に届いたメッセージによって唐突に終わりを告げた。
『朝ごはん作りすぎちゃって、良かったら凪くん食べに来ない......?』
ディスプレイに表示されたメッセージの送り主は、先ほど話題に上がったばかりの桔梗だった。
画面に表示された時刻は、6時15分。
朝食を作りすぎたなんて古典的な言い訳だ。まあでも、いいよ。行こうか。面倒ごとは早く終わらせるに限る。
──桔梗には、鈴音に言葉だけでも謝ってもらう必要があるからね。作戦はある。きっと、問題ない。多分。
「朝から鈴音と一緒にいれて楽しかったよ。僕はそろそろ戻るね」
「....もう少し、ゆっくりしていってもいいのよ」
後ろ髪を引かれる思いもありつつ、なんとか別れを告げ、僕は今、桔梗の部屋のテーブルに向かい合って座っている。
朝食を2回連続で食べるなんて、僕はいつからこんな食いしん坊キャラになったんだろうか。
胃袋の中には先ほど鈴音が作ってくれたフレンチトーストがしっかりと収まっている。
それなのに、目の前のテーブルには、焼き魚に卵焼き、おひたしに具沢山の味噌汁といった、彩り豊かな和食がズラリと並べられている。
「うん、美味しい」
胃の重さを微塵も顔に出さず、完璧な笑みを浮かべながら卵焼きを口に運んだ。
味は確かに文句のつけようがない。
出汁がしっかりと効いていて、彼女がいかに手間暇をかけてこの朝食を準備してくれたかが一口で伝わってくる。
「本当に?凪くんの口にあったようで良かったよ」
桔梗は心底嬉しそうに目を細め、とびきりの笑みを浮かべている。
「本当に美味しいよ。朝早くからこんなにたくさんの品数を用意できるなんて、桔梗は本当にいいお嫁さんになるね。毎日でも食べたいくらいだよ」
僕がそう言葉を紡ぐと、桔梗の顔がパッと明るく華やいだ。
僕からの評価と褒め言葉。承認欲求の塊である今の彼女にとって、それは何にも代えがたい極上の麻薬なんだと思う。
和やかな雰囲気で食事が進む中、桔梗がふと箸を止め、少しだけ言い淀むような、それでいて『心配そうな表情』を作って見せた。
「あ、そうだ。凪くんって、堀北さんとも仲がいいよね?あんまりこういうこと言いたくないんだけど、堀北さんとは距離を置いた方がいいと思うなぁ」
仲がいいのか悪いのか、偶然にも2人の話題のタイミングが完全に被った。
さっきは鈴音から桔梗を牽制され、今は桔梗から鈴音を牽制されている。さて、始めようか。
「中学時代に桔梗がやらかしたことを、僕に告げ口されるから?」
あえて回りくどい前置きはせず、核心を突く言葉を真っ直ぐに投げかける。
「──っ、なんのことかな?もしかして、堀北さんから何か聞いた?」
声のトーンは、いつも通りの愛らしい高さを保っている。
しかし、その実、彼女の身体は石のように硬直していた。
瞳孔はわずかに収縮し、呼吸がほんの一瞬だけピタリと止まったのがわかる。
テーブルの下で、彼女の手がギュッと強く握りしめられている。
「いや、聞いてないよ。でも、そのくらい分かるよ。だって、僕はずっと桔梗のことを見てたんだから」
「......はははっ、嬉しいなっ!凪くんが私のことをそんなに見てくれてたなんて」
そう言いながら、彼女の顔に張り付いた笑みが若干引きつっているように見えるのは、決して僕の勘違いではないだろう。
彼女の心の中では今、凄まじい警報が鳴り響いているはずだ。自分が絶対に知られたくない、クラスを崩壊させたという過去。
それを、最も知られたくない大好きな相手である僕に勘付かれているかもしれないという絶望感と恐怖。
僕は静かに箸を置き、彼女の揺れる瞳を真っ直ぐに見つめる。
「桔梗が中学時代にどれだけストレスを抱えて、どれだけ無理をして周りに合わせて、自分をすり減らしていたか......僕は全部知ってる。そして、その反動で何をしてしまったのかもね」
「な、凪、くん......?」
ついに桔梗の声が震え、完璧に作り上げられていた笑顔の仮面が音を立ててひび割れ始めた。
「でもね、安心して。僕はそんな桔梗の裏側も含めて、全部が愛おしいと思ってるんだ。君がどんな過去を持っていて、どんな本性を隠していても、僕にとって桔梗が特別な女の子であることに変わりはないよ」
愛おしいと、僕は君を全肯定する。人間だもん、裏表があって当然だ。むしろその歪みすら、可愛らしい。容姿がいいって何にも勝るよね。
僕は席を立ち、彼女の隣に移動して、震える小さな肩を背後から優しく抱き寄せた。
「それでさ、桔梗。鈴音に中学時代、悪いことしたんだよね?あ、責めてるわけじゃないよ。ただ、僕からのお願いなんだけど──」
耳元で、甘く囁くように言葉を紡ぐ。
「鈴音に謝ってくれたら、僕の秘密を教えてあげるよ」
僕が目指しているのは、ヒロイン同士が互いを潰し合う血みどろの修羅場じゃない。いや、たまには潰しあってもいいけどさ。
手を取り合うことができる、比較的穏やかなハーレムだ。そのためにも、まず鈴音と桔梗の因縁を綺麗に清算させる必要がある。
「......凪くんの、秘密......?」
「そう。僕が誰にも教えたことがない秘密」
まあ、厳密には家族には言ったことがあるけれど。
僕が彼女に教える秘密は、僕が『ハーレムを作ろうとしている』野望のことだ。
どうせ遅かれ早かれバレるんだから、桔梗を今のうちにハーレム容認派、あるいは共犯者に引き摺り込んでおきたい。
僕の腕の中で、桔梗の肩の震えが少しずつ収まり、代わりに熱を帯びた荒い呼吸が漏れ始める。
彼女はゆっくりと姿勢を変え、至近距離で僕を見つめ上げた。
その瞳には、僕の秘密を知りたいという渇望と、深い愛情がドロドロと渦巻いているように見える。
「凪くん......」
良かった、これでとりあえず2人の問題は解決したも同然──
バッ、と。勢いよく、桔梗は自らの服を脱ぎ捨てた。
突然の行動に、僕は思わず少しだけ距離を取る。
「──凪くんの秘密を教えてもらうんじゃなくて......2人だけの秘密を『作ってくれる』なら.....堀北に謝る」
あらわになったシミ一つない白い肌。
顔は耳の先まで真っ赤に染まり、平静を装おうとしているが、その実、激しく取り乱しているのが痛いほど伝わってくる。
やばっ、甘やかしすぎたかもしれない。というか、鈴音に謝るのどれだけ嫌なんだよ。
僕の行動が、彼女のタガを完全に外してしまったらしい。あーあ、この辺の調整難しいなぁ......
んー.......とりあえず、この場を収めようか。まだ肉体関係を持つつもりはないんだよね。
言った。
言ってしまった。
もう、絶対に後戻りなんて出来ない。
自ら衣服を脱ぎ捨て、半裸の状態で大好きな男の子の前に身を晒すなんて。とち狂ってるとしか思えない。
だけど、私は悪くない。
私の本性を知っていて、中学時代のことも──私の全てを知っているような口ぶりで。
あまつさえ、その上で私の全てを『愛おしい』なんて、そんな言葉を甘い声で囁くから──全部、私をおかしくした凪くんが悪いんだ。
......お願いだから、早く何か言ってよ。
男の子にこんな無防備な格好を見せるのなんて初めてなんだから。
恥ずかしくて、顔から火が出そう。心臓がうるさく鳴りすぎて、胸が張り裂けてしまいそう。
沈黙の時間が、永遠のように長く感じる。
凪くんの熱を帯びた視線が、私の露わになった肩から、胸元、そして震える指先へと這っていくのが痛いほどわかった。
「綺麗だよ、桔梗」
やがて、静寂を溶かすような、この上なく優しい声が降ってきた。
「君の覚悟を尊重したいけど──僕の秘密を聞いてからじゃなくていいの?後悔するかもしれないよ」
「うん。凪くんがどんな秘密を抱えてても......私も、全部受け入れる」
迷いなんて微塵もなかった。
それに、こうでもして彼を縛り付けないと、この学校には凪くんを狙っている厄介な女の子が沢山いる。
堀北だってそう。他クラスの女の子たちだって、みんな凪くんの魅力に当てられているのは明白だ。
凪くんが誰かのものになる前に──身体を捧げてでも、どんな卑怯な手を使ってでも、絶対に私のものにしたい。
だって、凪くんは──私が初めて本気で手に入れたいと思った『たった一人の特別』。
凪くんだけは、絶対に誰にもあげない。他の人からの評価なんて、もうどうでもいい。凪くんさえ私を肯定してくれれば、それでいいの。
「桔梗ならそう言ってくれると思ってたよ。大丈夫、絶対に後悔させないから」
凪くんが、ゆっくりと距離を詰めてくる。彼の長く綺麗な指先が、私の震える頬にそっと触れた。
その瞬間にビクッと肩が跳ねたけれど、彼の手のひらの温もりが心地よくて、私は自然と目を閉じていた。
「んっ......」
最初は、羽のように軽い、触れるだけの優しいキスだった。
ちゅっ、と微かな音を立てて唇が重なり、離れる。それだけで、背筋に電流が走ったようにゾクゾクとした。
しかし、そんな甘い時間は一瞬で終わりを告げる。
「ふぁっ......んんっ......!?」
再び重なった唇は、先ほどまでの優しさが嘘のように、ひどく強引で、圧倒的な熱を持っていた。
私の少し開いた唇の隙間を容易くこじ開け、彼が侵入してくる。
息をするタイミングさえ与えられないほど、深く、激しく、そして容赦なく私を貪るような攻めっ気のあるキス。
「んちゅ......あっ......んぁ......凪、くん......!」
逃げ出そうにも、私の腰は彼の見た目よりがっしりとした腕によって強く抱き寄せられ、完全に固定されていた。
密着した身体から、彼の力強い鼓動と高くなった体温が直に伝わってくる。
私の口内を、彼がすべてを支配するように蹂躙していく。
舌が絡み合い、甘い唾液が混ざり合うたびに、頭の奥が真っ白にショートしていくような強烈な快感が全身を駆け巡った。
「んんっ......ふぁ......はぁっ......んっ......」
呼吸が苦しい。なのに、彼が少しだけ唇を離して酸素を与えてくれると、自分から彼を求めてすがりついてしまう。
腰の奥底からジーンとした痺れが広がり、立っていることすらままならない。
膝から力が抜け、へなへなと崩れ落ちそうになる私を、凪くんの強い腕がしっかりと支えてくれている。
それがまた、彼に完全に支配され、依存していることを実感させて、たまらなく嬉しかった。人に支配されるなんて、自分は絶対に嫌だと思ってたのに。
1分、いや、10分?
時間感覚が完全に狂っていく。
激しいキスの合間に、時折降ってくる優しくて甘いバードキス。その緩急に弄ばれ、私の思考は泥のようにドロドロに溶かされていく。
「桔梗......可愛いよ。君は僕のものだよね」
「はぁっ......んっ......凪くん......好きっ......私、凪くんのもの......!」
「そう、いい子だね。僕は桔梗のことも、他の女の子のことも同時に愛して、最高のハーレムを作りたいんだ。桔梗なら、僕の全部を受け入れてくれるよね?」
「んんっ......ふぁ......はぁい......なんでも......凪くんの言う通りに......するぅ......」
もう、彼が何を言っているのか、脳が正常に言葉を処理できていなかった。
ただ、耳元で囁かれる極上に甘い声と、直後に再び与えられる深いキスの快感に溺れ、私はひたすらに肯定の言葉を紡ぎ、ただただ彼に身を委ねて頷き続けていた。
肯定したら気持ちよくなれるから。愛されてると感じるから。
永遠とも思えるような、甘く暴力的な30分が過ぎた。
何度も何度も唇を重ねられ、唾液に塗れ、私の身体は完全に彼に開発されたかのように熱を持ったまま痙攣していた。キスしかしていないのにおかしな話だ。
チュッ、と最後の軽いキスを落とし、凪くんがゆっくりと身体を離す。
「──キスだけでこんなに腰が砕けちゃうなら、この先はお預けだね」
凪くんの声は、少しだけ息が上がっているものの、相変わらず余裕に満ちていた。
「あ、それと。僕がハーレムを作る件、快く受け入れてくれて本当に嬉しいよ。桔梗は本当にいい子だね」
「......ふぁえっ?......ふぁーれむ?」
全身の力が抜け切り、ソファにへたり込んだままの私は、焦点の定まらない目で彼を見上げる。
酸素が足りない頭はポワポワとしていて、さっき自分が何を言われて、何に頷いたのか、全く理解できていない。
ただ、口元に残る彼の熱と、全身を包む圧倒的な幸福感だけが、私を満たしていた。
まだ、誰かとキスをするつもりはなかったんだけど──まあ、このくらいはいいか。
完全に腰を抜かした桔梗をベッドに運び、放心状態で蕩けた顔をしている彼女を見下ろしながら、僕は心の中で小さく息を吐いた。
流石にあの状況で、服を脱ぎ捨ててまで覚悟を決めた女の子を放置するのは男として不自然すぎるし、拒めば彼女のプライドを粉々に砕いてしまうことになった。
それに、僕からしても桔梗の行動は決して悪いものじゃなかった。
長時間のキスの中で、意識が朦朧としている彼女から、僕がハーレムを作ることを容認する確かな『言質』を取ることができたのだから。
桔梗の承認欲求の強さを考えれば、正直なところ、僕が他の女子にうつつを抜かすことを1位、2位を争うくらい否定し、妨害してくるだろうと警戒していた。
だからこそ、彼女の理性が完全に吹き飛び、僕への依存心が頂点に達したあの瞬間を狙って情報をすり込み、同意を引き出したんだ。
後になって彼女が正気を取り戻し、『そんなの聞いてない!』と抗議してきたとしても、すでに時遅し。
『あの時、全部受け入れるって約束してくれたじゃないか。桔梗は僕に嘘をついたの?』と、悲しそうな顔で責め立てれば、僕を失うことを何よりも恐れる彼女は強く反論できない。
まあ、それでも食い下がるなら冷たく突き放せばいい。
普段僕に優しくされてる分、突き放されるのはだいぶ堪えるだろう。これは、桔梗に問わず他の子たちもね。
優しさと厳しさのギャップを生むために優しくしてる側面もあるし。ん?ああ、元々優しくしたいタイプではあるよ。
とにかく、図らずも僕のハーレム構築における最大の障壁の一つを、思ったよりも楽に取り除くことができた。
却って、今日ここでこういう展開になって本当に良かったと思う。
「遅刻しないように学校に行くんだよ」
僕はとびきり優しく、甘い笑みを浮かべながら、まだ夢心地でポワポワしている彼女の頭をそっと撫でた。
この時間だと他の生徒と鉢合わせする可能性もあるけど──まあ、なんとかなるか。
寝巻き堀北さん
フレンチトースト堀北さん
ポアポア櫛田さん
飛んでる櫛田さん
とうとう朝食だけで1話が終わった。
いつになったら1ヶ月経つんだろうか。
Bクラス or Cクラス
-
Bクラス
-
Cクラス