放課後の喧騒が満ちる廊下で、私は静かに歩みを止めた。
しっかりと握りしめた杖の先が、硬い床を打つ。その小さな音は周囲の生徒たちのざわめきに容易く掻き消されていく。
向かう先は1年Bクラスの教室前。目的の人物が現れるのを、私はただ静かに待っていた。
やがて彼が教室の扉から姿を現した瞬間、周囲の空気が明らかに変わるのを肌で感じた。廊下を行き交う生徒たち──特に女子生徒たちの視線が、見えない引力に引かれるように彼へと集中する。
神代凪。
彼がそこに存在しているというだけで、この学校の風景は彼を中心とした舞台へと変貌してしまう。
誰もがその見惚れるような美貌に息を呑み、彼の一挙手一投足に無意識のうちに視線を奪われるのだ。
「坂柳さんから一緒に帰ろうって誘ってくれて嬉しいよ」
私を見つけた彼は、周囲の熱を帯びた視線など全く意に介さない様子で、柔らかい微笑みを浮かべて近づいてきた。
その言葉と表情を向けられた瞬間、私の胸の奥で甘く痺れるような熱が広がっていく。
「ええ。少し、あなたとお話ししたいことがありましたので」
私はその心地よい感情を悟られないように、あくまで自然に微笑みを返した。
「そっか。じゃあ、帰ろうか」
彼は自然な動作で私の隣に並び、足の不自由な私に負担をかけないよう、極めてゆっくりとしたペースで歩き始めた。
そのさりげない気遣いが、また周囲の女子生徒たちの嫉妬と羨望の入り混じった溜息を誘発する。
私は最近の彼の行動に、少なからず苛立ちを覚えていた。
彼が有能であり、誰よりも注目される人間であることは理解している。彼のような存在が、ただ大人しく平凡な学生生活を送るはずがないことも。
だが、それにしても──彼は最近、あまりにも無防備に、そして意図的に、有象無象の女性たちと親しくしすぎている。
私が把握しているだけでも、Aクラスの一之瀬さんや、Dクラスの櫛田さん、長谷部さん、Bクラスの女子から2年生の先輩に至るまで。
彼は彼女たちを邪険にすることなく、その圧倒的な魅力と甘い言葉で翻弄し、自らの懐へと招き入れているように見える。
それは、私にとって非常に不愉快な光景だった。
彼のような天才の隣に立つ資格があるのは、この世で唯一、私だけだという絶対の確信がある。
それなのに、彼自身が自らの価値を下げるように、愚かな女性たちに愛想を振りまいている。
その事実が、私の心を重く濁らせていくのだ。
「どうかした?そんなに見つめられると、流石の僕でも照れてしまうんだけど」
不意に彼が視線をこちらに向け、悪戯っぽく微笑んだ。
「......いいえ。ただ、相変わらずあなたは目立つ人だと、再確認していただけです」
「それはどうも。でも、僕から見える世界では君が一番目立っているよ。坂柳さん」
息を吐くように紡がれる、甘く気障な台詞。並の女子であれば、この一言だけで顔を真っ赤にして堕ちてしまうだろう。
実際、私の心臓も一つ大きく跳ねた。彼の言葉はただの世辞ではなく、不思議と真実味を帯びて心の奥底に浸透してくるから恐ろしい。
でも、私は決して流されない。
「お上手ですね。ですが、その言葉を他の女性たちにも同じように囁いているのではないかと、私は少し疑念を抱いております」
「まさか。そんな器用な真似、僕にはできないよ」
彼は軽く肩を竦めて笑った。嘘だ。彼は間違いなく、他の女性たちにも同じように、あるいはそれ以上に甘い言葉を紡いでいる。
その事実を突き止め、彼の真意を問いただすために、私は今日彼を誘ったのだから。
私たちはケヤキモールを抜け、夕日に染まる並木道を通り、学生寮へと足を踏み入れた。
向かうのは、私の部屋ではない。神代くんの部屋だ。
「さあ、入って。散らかってないとは思うけど」
彼がカードキーをかざしてドアを開けると、微かに彼のものと同じ、清廉で甘い香りが鼻腔をくすぐった。
彼の部屋に入る。その事実に、私の胸の奥で微かな緊張が走る。
以前、彼とチェスで対局し、私が敗北を喫したあの日の記憶が鮮明に蘇ってきたからだ。
『──君の胸に1分間触れたい』
彼が私に突きつけた、常軌を逸した罰ゲームの要求。
あの時、私はあまりの衝撃と羞恥に思考を停止させ、『心の準備ができたら私から部屋に行く』と逃げるように約束してしまった。
もちろん、今日この部屋を訪れたのはその約束を果たすためではない。まだ私には、そのような淫らな行為を受け入れるだけの心の準備が整っていない。
彼はそれを理解しているようで、私に無理を強いるような素振りは一切見せず、ただ自然に私を部屋の中央にあるソファーへと促した。
「紅茶でいいかな?」
「ええ、ありがとうございます」
私はソファーに浅く腰掛け、杖を脇に立てかけながら彼の背中を見つめた。
キッチンでお湯を沸かし、手際よくティーカップを温める彼の所作には、一切の無駄がない。洗練された身のこなしは、この上なく美しい。
やがて、芳醇な香りを漂わせる紅茶が私の前に置かれた。彼も私の向かいのソファーに腰を下ろし、静かに私の言葉を待っている。
私はカップの縁にそっと口をつけ、心を落ち着かせてから、ゆっくりと口を開いた。
「......神代くん。本題に入らせていただきます」
「うん、どうしたの?」
彼は無垢な子供のように首を傾げてみせる。そんな彼に、私は冷徹な声色で告げた。
「私にあのようなことを求めておいて、別の女性と毎日楽しそうに過ごしているのですね」
静寂に包まれた部屋に、私の刺々しい言葉が冷たく響き渡る。
私の意図を即座に理解したのだろう。彼の目が微かに見開かれ、そしてすぐに困ったような、それでいてどこか嬉しそうな微笑みへと変わった。
「もしかして、坂柳さん......嫉妬してくれてるのかな?」
「嫉妬、とは少し違いますね。私はただ、不快なのです。あなたの価値を理解できない有象無象の愚かな方たちが、あなたの周りを飛び回っている光景が」
私は隠すことなく、本音を吐き出した。今この場に駆け引きはいらない。
「彼女たちは、あなたの本当の能力も、孤独も──何も理解していません。ただ、あなたのその見目麗しい容姿に惹きつけられているだけの羽虫です」
「手厳しいな。でも、僕にとってはただのクラスメイトや、部活の知り合いだよ。学校生活を円滑に進めるための、ほんの少しの処世術さ」
彼は苦笑しながら、言葉を濁すように紅茶を口に含んだ。
「処世術?......あなたが彼女たちに優しく接しているのは、彼女たちを駒として利用するため、あるいは、ご自身の支配下に置くためでしょう?」
私の指摘に、神代くんの動きがピタリと止まった。
「......流石だね。君には隠し事ができないな」
彼は観念したように息を吐き、カップをテーブルに置いた。そして、真剣な眼差しで私を真っ直ぐに見据えてきた。
「確かに、僕は彼女たちを利用しようとしている。この学校で僕が理想とする環境を作り上げるためには必要なことだからね。でも──」
彼は立ち上がり、私の座るソファーのすぐ隣へと移動してくる。
至近距離から放たれる彼の体温と香りに、私の心臓の鼓動が早くなる。
「僕が特別だと思っているのは、君だけだよ──有栖」
名前で呼ばれた瞬間、背筋に電流が走ったような感覚に襲われた。
彼の手が伸びてきて、私の銀色の髪をそっと撫でる。その指先の優しい感触と、耳元で囁かれる甘い声。
「君は僕と同じ盤上で、僕の隣に並び立つことのできる唯一のクイーンだ。僕の本当の心を見透かしてくれるのは、君だけだから」
彼の言葉は甘い毒のようだ。私の最も欲しい言葉を、的確に投げかけてくる。
唯一のクイーン。隣に並び立つ存在。
その言葉を紡ぐ彼の瞳には、嘘偽りのない真実の熱が宿っているように見えた。あるいは、それすらも彼が作り上げた完璧な虚像なのかもしれない。
だが、それでも構わないと思わせるほどの底知れぬ魅力が、彼にはあった。
私は嬉しかった。彼の口から直接、私が特別であるという言葉を聞けたことが、何よりも誇らしかった。
だが......ここで流されて、顔を赤らめて彼の胸に飛び込むような真似は、絶対にしない。
私は彼に服従するだけの愚かな女ではない。彼と対等に渡り合い、彼を支配することすら望む、クイーンなのだから。
「......その言葉、嬉しく思います。ですが、私をその程度の甘言で誤魔化せると思わないでください」
私は彼の手に自分の手を重ね、ゆっくりと、だが力強く押し返した。
神代くんは少し驚いたような顔をして、私を見つめ返した。
「神代くん。あなたが盤上で駒を動かすことを否定はしません。ですが......私には、あなたが他の女性に優しく微笑みかけ、ただ言葉を囁くことすら、耐え難いのです」
私は彼の目を真っ直ぐに射抜く。
「あなたに釣り合うのは、私だけです。あなたの全てを受け止め、理解できるのは私しかいません。それなのに、あなたが他の女性と親しく振る舞うことは、私に対する侮辱にも等しい行為です」
自分でも驚くほど、傲慢で独占欲に塗れた言葉だった。
だが、これが私の本心だ。彼という存在を、私は誰とも共有したくない。
「私にあのような......破廉恥な罰ゲームを要求しておきながら、他の女性にも同じような熱を向けているのだとしたら、私はあなたを軽蔑します」
前回のチェスでの敗北。そして、彼が求めた『胸に触れる』という罰。
あのような要求は、私という存在を完全に彼の色に染め上げようとする、強烈な支配欲の表れだと思っていた。
だからこそ、私はあれほどまでに動揺し、同時に、彼にそこまで求められることに歪な喜びを感じてしまったのだ。
それなのに、彼が他の女にも同じようなことをしているのだとしたら、私の抱いたあの感情はひどく惨めなものになってしまう。
私の強い言葉を受け止めた神代くんは、怒るでもなく、引くでもなく、ただ静かに私を見つめていた。
その瞳の奥には、私が放った独占欲を、面白がるような、愛おしむような、複雑な光が揺らめいている。
やがて、彼が口を開いた。
その口から発せられたのは、先ほどの甘く優しい声色とは完全に反する、冷酷な真実だった。
「──そうか、それなら軽蔑されてしまうね。僕は他の女性に、君にはしていないことをした」
「......え?」
私の思考が、真っ白に染まった。
優しい嘘で満たされて満足すればよかったのに。
僕の囁く心地よい言葉にだけ耳を傾け、自分が一番特別な存在なのだという優越感に浸っていれば、傷つく必要となかっただろうに。
ここまで踏み込み、僕の真意を問い詰めてしまうなんて。
賢いがゆえの、あまりにも致命的なミスだ。
彼女はまだ後の方でハーレムに加わってもらう予定だった。彼女の自尊心は他のヒロインたちと比べても群を抜いて高く、慎重に外堀を埋めていく必要があると考えていたからだ。
あまり傷つけたくもなかったからね。
でも、彼女が自ら退路を断って死地へと踏み込んできたのなら、話は別だ。
予定を変えよう。今この瞬間、この密室で、彼女のちっぽけなプライドを傷つけ、首輪をつけよう。
「どうしたの、驚いて?僕は君の言葉通り、他の女性たちに同じように甘い言葉を囁き、そして......君にはまだしていないことをしていると肯定しただけだよ」
冷水を浴びせるような僕の言葉に、坂柳さんの紫色の瞳が、かつてないほど激しく揺れ動いた。
ピンと張っていた彼女の背筋が微かに震え、ソファーの肘掛けを掴む細い指先が、血の気を失っている。
『......私にあのような......破廉恥な罰ゲームを要求しておきながら、他の女性にも同じような熱を向けているのだとしたら、私はあなたを軽蔑します』
先ほど、彼女自身が僕に向けて放った、傲慢で強がりな刃。
──軽蔑?
僕はソファーに座ったまま彼女を見下ろし、内心でひっそりと嘲笑った。
僕を軽蔑したところで、君が僕から離れることなど絶対にできないのに。一体何を怖がる必要があるのだろうか。
だって僕は、孤独な天才である君にとって、この世界で初めて見つけた『理解者』であり、唯一対等な盤上に立つことができる『初めての友達』なのだから。
周囲の人間を有象無象の羽虫として見下し、中学では退屈な日々を送ってきた彼女が、一度でも僕という温もりを知ってしまった以上、孤独の世界に戻れるはずがないのだ。
まあそれでも、原作よりは人の気持ちを考えることができているけどさ。今回は僕に関わった女性だから言葉が強いのもあるだろう。
沈黙が、重く冷たく部屋を支配する。
数秒前まで微かに漂っていた紅茶の香りと甘い空気は完全に霧散し、息苦しいほどの静寂が僕たちの間に流れていた。
「......それは」
坂柳さんの口から、ひどく掠れた声が漏れた。
彼女の優秀な頭脳は今、かつてないほどの処理速度で僕の言葉の真意を解析し、同時に自身の内側で暴走を始めた感情の渦を必死に抑え込もうとしているのだろう。
「それは......私を試すための、悪質な冗談ですか?」
震える声を必死に押し殺し、彼女は何とか冷静さを取り繕ってそう問いかけてきた。
クイーンとしての矜持。自分だけが神代凪にとって特別な存在であり、他の女たちとは違うのだという前提が崩れ去ることを、彼女の心が強烈に拒絶しているのだ。
ああ、可愛らしい。とても可愛らしいよ、坂柳有栖。
僕はそのひび割れた仮面を、言葉というハンマーで容赦無く叩き割る。
「冗談?どうして僕が、君に対してそんな下らない嘘を吐く必要があるのかな。僕はただ、君が求めた真実を伝えただけだよ。僕は君にはしていないような、もっとずっと深くて濃密な行為をしている。そしてこれからも、彼女たちを愛し続ける」
「......っ」
「当然だろう?僕は1人の女の子を選ぶつもりなんて最初からないんだ。僕の理想のハーレムを築くために、優秀で美しい女性を手中に収める。当然、心身共にね」
坂柳さんの顔から、サッと血の気が引いていくのがわかった。
彼女の瞳に浮かんでいたのは、紛れもない『絶望』と『焦燥』、そして激しい『嫉妬』だった。
自分だけが特別な存在であり、互いの孤独を癒せる唯一の理解者だと思い込んでいた。それなのに、現実は全く違った。
僕はすでに他の女性たちとも心と身体で深く繋がっている。いや、身体は繋がってはいない、
「そんな......そんなこと、私が許すとでも思っているのですか!」
彼女は突如として声を荒げた。普段の冷静沈着で余裕に満ちた彼女からは想像もつかないほど、感情的でヒステリックな叫びだった。
待って。声を荒らげるのはやめよう。君の身体に良くないからね。倒れたりしたらダメだよ。
「あなたは天才です。有象無象の女たちと戯れるなど、あなたの価値を貶めるだけの愚かな行為です。私という存在がいながら、なぜ......!なぜ、そんな無駄なことをするのですか!」
「無駄かどうかを決めるのは僕だ。それに、君が許すか許さないか──君に決定権はない」
倒れそうな雰囲気はなかったので冷淡に告げ、僕はゆっくりとソファーから立ち上がった。
「君が僕の隣に並び立つことを望み、僕の全てを独占したいと願うのは君の自由だ。でも、僕に君だけを選べと強要するなら話は変わってくる」
僕は彼女に冷たい視線を一度だけ投げかけ、そのまま背を向けて玄関の方へと歩き出した。
「......待って。どこへ行くのですか」
「君が帰るためのドアを開けに行くんだよ」
振り返らずに、歩みを止めずに答える。
「先ほど君は言ったよね。僕が他の女性に熱を向けているなら、僕を軽蔑すると。なら、これ以上君が僕の部屋にいる理由はないはずだ。君のプライドを守るためにも、今すぐここから出ていくべきだ」
ガチャリ、と玄関のドアの鍵を開ける音を、静かな部屋の中に意図的に大きく響かせる。
それは、彼女にとって『神代凪との完全な決別』を意味する、残酷な死刑宣告の音だった。
「さあ、お帰り。明日からはお互いに干渉しない。君は1人ぼっちで退屈なチェスでも続けていればいい」
冷たく、無慈悲な言葉のナイフ。
僕は彼女の心の最も柔らかい部分に、致命的な一撃を深々と突き刺した。
天才ゆえに孤独だった彼女は、僕という対等な存在を見つけたことで、無意識のうちに僕に依存している。
その僕から『必要ない』『1人ぼっちに戻れ』と切り捨てられる恐怖は、彼女にとって自らの存在意義を否定されるほどの苦痛のはずだ。
あーあ、坂柳さんには優しくしたかったから時間をかけて落としたかったのに。
背後から、カタッ、と杖が床に滑り落ちる鈍い音が響いた。
「......っ、待って......ください」
振り返ると、坂柳さんはソファーから立ち上がろうとしてバランスを崩し、フローリングの上に力なくへたり込んでいた。
不自由な彼女が、杖を手放してまで僕を衝動的に追いかけようとした証拠だ。ドアを閉める。
普段の毅然とした美しい姿は見る影もなく、彼女の瞳からは大粒の涙がポロポロととめどなくこぼれ落ちている。
「嫌......です。帰らない......」
細い両腕で自身の身体をきつく抱きしめながら、彼女は縋るような、悲痛な声で紡いだ。
「私を......私を1人にしないでください......っ。あなたと会う前の──あの退屈な世界に、私を1人で置き去りにする気ですか......!」
傲慢なクイーンの仮面が完全に砕け散り、そこには僕に見捨てられることを何よりも恐れ、泣きじゃくる1人の無力な少女の姿があった。
僕はゆっくりと彼女の元へ歩み寄り、床に這いつくばるような姿勢の彼女を、ひどく冷酷な目で見下ろした。
「僕が君を1人にするんじゃない。君が僕を拒絶したんだよ。僕のハーレムを受け入れられない君に、僕の隣にいる資格はない」
「......受け入れます」
震える声で、彼女は一瞬の躊躇いもなく即答した。
「あなたが他の女を侍らせることも、私以外の女に触れることも......すべて、黙認します。ですから......お願いです、私を、切り捨てないで......!」
「言葉だけならなんとでも言える。君のようなプライドの高い人間が、本心からそれを受け入れられるとは思えないな」
突き放すように言うと、坂柳さんはギリッと血が滲むほど唇を噛み締め、何かを決意したような、覚悟を秘めた目で僕を見上げた。
そして、震える指先で、自身の制服のブラウスの第1ボタンへと手をかけた。
「な、なら......証明します。私が、あなたのすべてを受け入れるということを」
1つ、また1つと、小さなボタンが外されていく。
「有栖?」
わざと不思議そうな声を出す僕に対し、彼女は顔を真っ赤に染め、涙を流しながらも、必死に僕の目を逸らさずに言った。
「......チェスの、罰ゲームです」
「罰ゲーム?ああ、君の胸に触れるというあれか。心の準備ができるまで待ってほしいと言っていたはずだけど?」
「はい......まだ、心の準備なんてできていません......でも、あなたがこれで私を信じて繋ぎ止めてくれるなら......今、ここで、私を好きにしてください」
それは、誇り高き天才少女が、自らの尊厳をすべて捨て去り、僕に全てを捧げた瞬間だった。
「──有栖。無理をしなくていい。少し、意地悪をしすぎてしまったね」
彼女の震える身体を優しく包み込むように抱きしめ、行動を止める。
「僕も怖かったんだ。君だけは、他の誰を失っても君にだけは離れて欲しくなかったから」
ブラウスを脱ぐのをなんとしても僕は止めないといけない。
肉体関係を持つのは妊娠しても卒業までバレない高3の後半を予定しているんだから。
今は万が一、妊娠でもさせたらシャレにならない。
「で....ですが、それだと証明が.....」
「そんなもの必要ない。君の言葉を僕は信じてる。それ以上に証明する必要なんてないよ。それに、君との初めては──誰もが羨むような特別なものにしてあげたいから」
「か、神代...くん」
僕の腕の中で、彼女は安堵と羞恥が入り混じったような表情を浮かべた。
「......今日は、この部屋に泊まってもいいですか?」
上目遣いで不安そうにそう問いかけてくる彼女を──僕が拒むことなど出来るはずがなかった。
時間が経てばいつもの調子に戻るだろうけど、今の弱ってる有栖も可愛いなぁ。
次回も坂柳さんで、次々回は坂柳さんR-18。
R-18はそれ用で作品を1本作ります。そっちは読まなくても本作は話が繋がるようにはするのでご心配なく。
以下、読まなくても全く問題ないです。
冷静に考えるんだ。
小学校の時点で自分と対等で甘々な幼なじみができ、楽しくなかった世界が華やいで見えた。
それなのに、あまりにも唐突にその彼は居なくなり、色付いた世界はまた色を失ってしまう。そこで気づく。やはり、彼は自分にとって特別な存在だったと。
そして彼も自分と同じ気持ちであるはずだと。自分と同じで世界から色を失ったはずだと。
だが、再開した彼は昔と変わらず華やかな世界を見ているように見えてしまい、あまつさえ自分以外の女性と仲良くしている。
入学してから心中穏やかな時間は少なかった。
それを辞めさせ、自分のものにするため──初恋を叶えるために仕掛けたというのに返ってきた答えはハーレムという馬鹿げた話。
更には自分が唯一選ばれた女性になるどころか、ハーレムからも除外されそうな始末。
そんな中、以前にかせられた罰ゲームを思い出し、それを口実として利用してでも、自分の身体を差し出してでも近くにいたいと思う。
誇り高く貞操観念もしっかりとしている彼女が、自分の尊厳さえ放棄するような行為。
ああ、素晴らしい。これだから天才が堕ちる瞬間は好きなんだ。
Bクラス or Cクラス
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Bクラス
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Cクラス