魅力至上主義の教室   作:Mr.♟️

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一輪車と放課後

 

僕がこの学校に転校してきてから、あっという間に3ヶ月が経過した。

 

学校生活のペースには完全に慣れたし、隣の席である波瑠加をメインに、たまにクラスの中心にいる桔梗の好感度も無事に稼ぎながら、平穏な日々を過ごせていたはずだった。

 

それなのに。

 

「神代くんは今回も満点でしたね!みなさんも、ぜひ彼を見習ってください」

 

ああ、これはまずい。非常に良くない兆候だ。

 

そもそも、各教科で週一のミニテストをやるなんて言い出した教師は誰なんだ。

 

それに、点数がいいからってわざわざクラス全員の前で名指しで褒めちぎるの、本当にやめてくれないだろうか。

 

僕が転校してきてからというもの、毎週のように今回みたいに全体の前で褒められるものだから、桔梗の表情から日に日に余裕が失われ、心が折れそうになっているのが痛いほどわかる。

 

仕方ないんだ。僕だって、こんな去年既にやり終えたような基礎問題をわざと間違えて、親に無駄な心配をかけるわけにはいかない。

 

はぁ、この授業が終わったら、そろそろ本格的に桔梗のフォローに回った方がいい。

 

そうしないと、深く根に持たれて、最悪の場合、将来の『退学させたいリスト』のトップランカーに僕がノミネートされる危険性すらある。

 

「凪くん、また満点だね」

 

教師の目を盗んで、波瑠加がコソコソと小声で話しかけてくる。授業中だから、声のトーンは控えめだ。

 

「波瑠加も、今回は点数上がったんじゃないの?」

 

僕がちょくちょく勉強を教えてあげるようになってから、彼女も少しずつだけど着実に点数が上がっていたはずだ。

 

まあ、点数と言っても10点満点の一問一答形式という、とても簡単な問題ではあるのだけれど。

 

「うん、今回は8点だったよ......!」

 

嬉しそうに目を輝かせる波瑠加。

 

今はそんな気配を微塵も感じさせないけれど、この素直で無邪気な彼女が、将来はクール系の一匹狼タイプになるなんて......本当に信じ難い。

 

さて、波瑠加の成長を喜ぶのは後にして、今の僕にはやらなければならないことがある。

 

この残り時間で、櫛田さんのプライドを傷つけず、決して見下されていると感じさせないフォローを考えないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン......

 

やがて、授業の終わりを告げるチャイムが校内に鳴り響いた。

 

「はい、今日の授業はここまで。日直さん、号令をお願いします」

 

教師の声に合わせて、クラス全員が立ち上がる。

 

「起立、気をつけ、礼!」

 

「「「ありがとうございました!」」」

 

挨拶を終えるや否や、僕は自分の席に座ることなく、前の方の席にいる桔梗の元へと足早に向かった。

 

「桔梗ちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど......いいかな?」

 

「え、うん。私に出来るか分からないけど、いいよ」

 

声のトーンは明るく装っているが、やっぱり若干メンタルにダメージを負っているのがわかる。

 

いずれ誰の手にも負えない化物メンタルになるとはいえ、今はまだ承認欲求を持て余している純粋な幼い小学生でしかない。

 

「実はさ、昼休みに一輪車を教えてほしいんだ。ほら、桔梗ちゃんがクラスで1番上手いじゃん」

 

勉強という彼女が勝てない土俵から一旦話を逸らし、それ以外のジャンルでなら『私の方が僕を上回っている』と明確に思わせてあげればいい。

 

一輪車なんて、別に将来の人生で使うこともないし、ここで彼女に華を持たせて僕が惨めに転んでみせても何の痛手もない。プライドはとうに捨てている。

 

「いいよ!みんなと一緒にやろう!」

 

僕の提案を聞いた瞬間、彼女の顔にぱあっと明るい表情が戻った。

 

よし。とりあえず、目先に迫っていた見えない危機は、今のところ無事に脱することができたかな。

 

 

 

 

 

 

 

胸を撫で下ろしていると、席に戻ったあとに隣から、不満げに唇を尖らせた可愛らしい声が聞こえてきた。

 

 

「むぅ......一輪車なら、私もできるのに」

 

君じゃ意味がないんだよ.....

 


 

 

昼休み、僕は桔梗たちグループに連れられ体育館にきた。

 

一輪車置き場から引っ張り出してきた自分に合うサイズの一輪車を手に、僕は桔梗とその取り巻きの女子グループに囲まれていた。

 

「それじゃあ、まずは私がお手本見せるね!」

 

桔梗は軽やかな身のこなしでサドルに飛び乗ると、そのままスイスイと校庭の端を走り始めた。

 

前進、後退、さらには小さな円を描くようにくるくると回ってみせる。

 

その動きには一切の無駄がなく、見ているだけで彼女が練習を重ねたかが伝わってくる。

 

女子ってなんでこんなに一輪車が好きなんだろうか。

 

「すごいね桔梗ちゃん!わたしたち、そんなのできないよ〜」

 

「えへへ、ありがとう!でも、凪くんも体育の時すごいじゃない。こないだのドッジボールなんて、誰も神代くんの球取れなかったんだから」

 

そう言いながらも、桔梗の顔には隠しきれない優越感と嬉しさが滲み出ている。

 

僕の『身体能力B』というステイタスは、簡単に無双できてしまう。走れば一番、球技をやれば1人でも勝ててしまう。秀才ってレベルじゃないよ、本当に。話が逸れたね。

 

クラスの中心で誰よりも『特別』でありたい桔梗にとって、面白くない要素の塊だったはずだ。まあ、それでも好感度を稼いでた僕はすごいんだけど。

 

だからこそ、この状況は彼女の承認欲求を満たす最高のスパイスになる。

 

「あれはたまたまだよ。でも、こればっかりは全然乗れる気がしないな......」

 

僕はわざとらしくため息をつき、一輪車のサドルにまたがろうとする。

 

ペダルに足を乗せ、体重をかけた瞬間──ぐらりと大きくバランスを崩し、僕は派手に体育館の床に尻餅をついた。

 

「いったぁ......」

 

「あははっ!凪くん、全然だめじゃん!」

 

「凪くんでも出来ないことってあるんだねー!」

 

周囲にいた女子たちが、僕の無様な姿を見て無邪気に笑う。

 

その中心で、桔梗は『もう、仕方ないなぁ』と言いながら、僕に手を貸して立たせてくれる。

 

「凪くん、一輪車はね、足の力じゃなくてお腹に力を入れて姿勢を真っ直ぐにするのがコツなんだよ。ほら、手貸してあげる」

 

桔梗は僕の前に立ち、両手を差し出してきた。

 

「ありがとう、桔梗ちゃん。厳しい指導をお願いします」

 

僕がその小さな手を握ると、桔梗は満足げに胸を張った。

 

「任せて!私が絶対に今日中に少し乗れるようにしてあげるから!」

 

桔梗に両手を支えられながら、僕は再びサドルにまたがる。

 

正直に言えば、僕の今の身体能力と運動神経をもってすれば、もう既に乗れる自信がある。

 

でも、ここで急激な成長を見せてしまっては、彼女の優越感をへし折ることになる。それだと却ってメンタルを傷つけるだけだ。

 

だから僕は、あえて不器用な生徒を演じ続けた。

 

「あ、わっ!また倒れる!」

 

「だーめ!下見ちゃだめだよ、凪くん!真っ直ぐ前を見て!」

 

「真っ直ぐ、真っ直ぐ......桔梗ちゃんの顔を見ればいい?」

 

「も、もうっ!からかわないでよ、真面目にやって!」

 

頬を赤くしてプクッと膨れる桔梗。しかし、その手は僕を落とすまいとしっかりと握りしめられている。

 

何でもそつなくこなす転校生が、自分の前でだけは無防備に助けを求め、自分の教えに頼り切っている。

 

この構図が、彼女の承認欲求を満たしているのは間違いない。多分。

 

 

 

 

「よし、じゃあ今度は片手だけ離してみるよ。ゆっくりペダルを漕いでみて」

 

「う、うん......わっ、ちょっと待って、離さないで!」

 

「ふふっ、凪くんって意外と怖がりなんだね。大丈夫、私がちゃんと支えてるから」

 

桔梗は完全に保護者のような余裕の表情を見せ、僕をサポートしてくれる。

 

彼女は今、この体育館の中で、いやこの学校の中で一番、自分が特別で輝いていると実感しているはずだ。

 

しばらくそうやって練習を続けていると、少しずつ僕もバランスを取れるようになってきた。

 

もちろん、本当に少しずつ、彼女の教えのおかげだと実感できる絶妙なペースで。

 

「ほら、今3メートルくらい一人で進めたよ!凪くん、すごいすごい!」

 

桔梗が自分のことのように跳ねて喜ぶ。

 

「はぁ、はぁ......全部、桔梗ちゃんのおかげだよ。桔梗ちゃんの教え方が上手いからだね。僕一人じゃ、絶対にここまで出来なかった」

 

息を整えながら、僕は感謝と称賛の言葉を口にする。このくらいでいいかな?

 

「えへへ......まあね!私にかかればこれくらい余裕だよ!またいつでも教えてあげるからね!」

 

体育館の証明を受け輝く彼女の笑顔は、今のところはまだ純度100パーセントの、嘘偽りのない歪んでいない優越感と満足感に満ちていた。

 

将来、彼女がどれほど歪んだ本性を見せるようになるのかは知っている。だけど、承認欲求の満たし方さえ間違えなければ、ハーレムの一員になってくれるはず。

 

絶対に、きっと、多分、そうだといいな。いや、そうじゃない方がいいのか?どこで不満を抱えて爆発するかわからない地雷みたいなものだし。

 

んー........まあ、何かあったら未来の僕が何とかしてくれるか。

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン......

 

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

 

「あ、もうお昼休み終わっちゃうね。戻ろっか」

 

「うん。桔梗ちゃんのお陰ですごく楽しかったよ」

 


 

放課後、トイレに行ってから帰り支度のために教室に戻ると、そこには1人床に体育座りをして、声を殺して涙を零している彼女の姿があった。

 

教室の隅。誰にも見られないように、膝に顔を埋めて震える小さな姿。

 

僕の足音に気づいた彼女──波瑠加は、ハッとしたように顔を上げ、慌てて涙を拭いながら僕からスッと視線を逸らした。

 

強がっているのか、それともこんな惨めな姿を見られたくなかったのか。

 

僕は何も言わず、ただ静かに彼女の隣の床に腰を下ろした。

 

いじめ、とかではないな。

 

このクラスには、小学生特有の性格の不一致から起こる多少の仲間外れはあっても、陰湿ないじめと呼べるほど酷いものは存在しないはずだ。

 

「話したくなるまで待ってるよ」

 

急かすことなく、ただ隣にいることだけを伝えるように柔らかい声で紡ぐ。

 

その言葉を聞いた瞬間、波瑠加の瞳からせき止められていたように、更にポロポロと大粒の涙が流れ始めた。

 

学校でここまでダメージを受けるということは、人間関係であることは間違いなさそうだ。

 

問題は、その相手が誰か。生徒なのか、それとも教師なのか。生徒の場合、男子か女子か、また誰なのかを特定すれば、問題はそこまで面倒なことにはならない。

 

反対に、教師だと少しばかり面倒だ。大人を黙らせるには、相応の準備と立ち回りが必要になるからね。

 

しゃくり上げる音だけが、静かな教室に響く。僕は急かさず、彼女の呼吸が少し落ち着くのを待った。

 

「......少し前から...っ......凪くんが、いないところで、最近ずっと...ぐすっ......デブとか、デカ女とか、ブサイク......とか、たくさん言われた」

 

消え入りそうな声で、彼女はポツリポツリとこぼし始めた。

 

誰に言われたのかと問いかければ、クラスメイトの男子──おそらく、彼女のことが好きであろう男の子とその取り巻きに言われたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、なんて子どもらしくて、愚かなんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

僕に対する嫉妬と、想い人に自分の気持ちが伝わらない苛立ち。素直になれない不器用な感情が相まって、傷つける言葉を選んで攻撃的になってしまったのだろう。

 

「波瑠加ちゃん。嫌なことを言う人の言葉なんて、気にしなくていい。全部無視すればいいんだよ」

 

僕は彼女の震える小さな手を、両手でそっと優しく包み込むように握った。

 

ごめんね、クラスメイトくん。君が意図せず僕にくれたこの最高のパス──遠慮なく貰って、確実にゴールを決めさせてもらうよ。

 

「波瑠加ちゃんは太ってなんかないし、すごく可愛い。身長は少し高いかもしれないけど、すぐに僕が追い抜く。だから、それまでは僕のこと、少しだけ見下ろしていてよ」

 

「な、凪くん......」

 

「それに、僕には分かるよ。波瑠加ちゃんは将来、誰よりも綺麗な女性になる。今君をからかっている男子たちが、絶対に手の届かないくらい高嶺の花になるんだ。だから、彼らの心無い言葉なんて、君の価値をこれっぽっちも下げるものじゃない」

 

自己肯定感を底上げするための優しい言葉。

 

もちろん、これは単なるお世辞じゃない。原作の未来を知っている僕だからこそ言える、確固たる事実に基づいた本心だ。

 

高校生を大人と言ってもいいかは微妙ではあるけど。

 

僕の言葉を聞いた波瑠加は、目を見開き、ポカンとした表情で僕を見つめていた。その瞳から、もう新しい涙は流れていない。

 

「......本当に?」

 

「なれるよ。僕が保証する。僕の目は絶対に間違いないからね。まあ、今も可愛いんだけどね」

 

自信に満ちた笑顔を向けると、波瑠加の頬が夕日とは違う色でほんのりと赤く染まった。

 

「だから、もう一人で泣かないで。もしまたあいつらが波瑠加ちゃんに嫌なことを言ってきたら、いつでも僕の後ろに隠れていい。僕が全部、何百倍にもして言い返してあげるから」

 

流石にしないけど。ちょっと懲らしめるくらいはするけど、子ども相手に大人気ないことはしないよ。

 

「ふふっ......何百倍って、それじゃあ凪くんが怒られちゃうよ」

 

ようやく、彼女の唇から小さな笑みがこぼれた。

 

コンプレックスをえぐられてズタズタになっていた彼女の心は、今、確実に僕という存在によって修復され、満たされている。

 

「波瑠加ちゃんを守って怒られるなら、本望だよ。ほら、もう帰ろっか。一緒に帰ろう」

 

僕は先に立ち上がり、座り込んでいる彼女に向かって手を差し伸べた。

 

波瑠加は少しだけ躊躇った後、はにかむような笑顔を浮かべて、僕の手をしっかりと握り返してきた。

 

「......うん。一緒に帰る」

 

繋いだ手から伝わる温もり。彼女が僕に向ける視線には、もう微塵も隠しきれないほどの絶対的な信頼と、淡い好意が混じっていた。

 

教室から廊下へ、そして下駄箱へと向かう帰り道。

 

夕日を背に受けて僕たちの影が並んで伸びていく。

 

 

 

 

 

 

明日の朝、あの嫉妬深いクラスメイトの男子がどんな顔をするのか少し楽しみだ。

 

僕の隣で堂々と笑う波瑠加を見れば、彼も自分が取り返しのつかない愚かなことをしたことに気がつくことだろう。

 

初恋は叶わないものだって、早めに知れる機会だ。

 

「ねえ、凪くん」

 

「ん?」

 

「私......凪くんが転校してきてくれて、本当に良かった」

 

「僕もだよ、波瑠加ちゃん」

 

夕暮れの通学路に、僕たちの穏やかな声が溶けていく。

 

 

 

 

 

 

それにしても、僕は放課後にトイレから教室に戻るとイベントが発生する体質なんだろうか?

 


 

一輪車をする櫛田さん

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

泣いてる長谷部さん

 

 

【挿絵表示】

 

 

 


 

【ステイタス】

 

知力A(71)

 

記憶力、理解力、器用さ、計算能力等に影響する。

 

身体能力B(29)

 

筋力、体力、瞬発力、持久力、反射神経などのフィジカル全般に影響する。

 

メンタルC(05)

 

状況により、他ステイタスに一時的に影響を及ぼすことがある。

 

運B(90)

 

幸運体質。

 

魅力A(60)

 

異性からの好感度を得やすい。

 

同性からの好感度を得にくい。

 

スキル

 

不屈

 

『逆境時に任意のステイタスを1段階ランクアップさせることができる』

 

※取得条件:精神的or肉体的負荷がかかっている状態で100回逃げずに立ち向かうこと。

 

 

 

 

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