魅力至上主義の教室   作:Mr.♟️

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林間合宿と夕食

 

─────

 

坂柳さんへ

 

君からの手紙、昨日ポストに届いていたよ。

 

坂柳さんからの手紙が楽しみで、封を切る時の高揚感は手紙のやり取りを始めてから1年以上経った今でも全く変わらない。

 

さて、まずは止まっていた盤上の続きからだね。

 

君が前回仕掛けてきたクイーンの動かし方、本当に見事だった。

 

あそこでその手を打たれると、僕の陣形はかなり苦しくなる。

 

手紙が届くまでの間、何十通りも頭の中でシミュレーションしていたはずなのに、君のその鋭い一手を完全に読み切ることができなかった自分が悔しいよ。

 

でも、僕もこのまま黙って押し切られるつもりはない。

 

僕の次の一手は『ナイトをd5へ』だ。

 

これで少しは盤面が複雑になったんじゃないかな?

 

君がこの手紙を読みながら、どんな表情を浮かべて僕の意図を探っているのか想像するだけで楽しくなってくるよ。

 

 

 

それで、そっちの小学校生活はどう?

 

5年生になっても相変わらず、周りのレベルが低くて退屈だとため息をついていないかな?僕の方は、騒がしくも穏やかな日々を送っているよ。

 

もちろん、坂柳さんが嫉妬してしまうといけないから、他のクラスメイトのことはあまり書かないでおくという約束はちゃんと守ってあげるから安心して。

 

実は来週から、学校の行事で林間合宿に行くことになっているんだ。

 

山奥の施設に泊まって、班のみんなでカレーを作ったり、夜にキャンプファイヤーをしたりする予定なんだ。

 

だから、ごめん。次の返事はいつもより少しだけ遅くなってしまうかもしれない。

 

でもその分、合宿で起きた出来事や、山の上から見えた綺麗な景色をたくさん手紙に書いて送るから、気長に待っていてほしい。

 

それじゃあ、また。

 

君からの待ち遠しい手紙と、僕の予想を軽々と超えてくるであろう次の一手を楽しみにしているよ。

 

神代凪より

 

 

─────

 

この手紙形式のチェスで僕が勝てた試しはない。きっと彼女は、ステイタスで表すなら『Sランク』の規格外の天才なんだろう。

 

 

はぁ、彼女が天才だってことは知ってたけど、負けっぱなしは悔しい。学力ステイタスは上がりにくくて困るんだよね。

 

前は坂柳さんが一緒にいたから、彼女と高め合うことができたけど、今の学校だと難しいし.....

 

まあ、出来ないことを考えても仕方ない。今はとりあえず、来週に迫っている林間合宿を楽しもうか。

 

 

 


 

僕たちは今、森の中にいる。

 

遠くで聞こえる野鳥のさえずりと、ザクザクと落ち葉を踏み締める足音だけが、静かな自然の中に心地よく響いていた。

 

「──自然が綺麗だねっ!」

 

桔梗が振り向きざまに、満面の笑みを浮かべてそう言った。

 

「うん、そうだね。綺麗なものには、つい視線を奪われるよ」

 

こっちを見ている桔梗の綺麗な瞳を真っ直ぐに見つめながら、僕は肯定した。

 

今はハイキングの真っ最中だ。

 

これから2泊3日の林間合宿で宿泊する目的地、山の中腹にあるコテージ群を目指して、長い山道を歩いている。

 

「も、もう、凪くんってば......!」

 

彼女は照れているのを誤魔化すように、僕の肩をポンっと軽く叩いてきた。計算されたあざといボディタッチだけど、可愛いから許せる。

 

僕が彼女に言葉を返す前に、背後から不満そうな声がそれを遮った。

 

「そんなことばっかり言ってると、先生にチクるよ」

 

波瑠加だ。僕が桔梗を褒めたのが気に食わなかったのか、不満気なオーラが全身から溢れ出ている。

 

ちなみに、僕たちの班は本来4人1組なんだけど、もう1人の男子が不運にも直前に風邪で休んでしまったため、結果的に僕と女子2人という3人の班になっている。

 

可哀想だけど、僕からしたらありがたい。

 

「ううん、私は全然嫌じゃないから気にしないで。ね、波瑠加ちゃん」

 

桔梗が笑みを浮かべながら、チクリと牽制を入れる。

 

「いや、遠慮しなくていいよ。桔梗ちゃんはいい人だから、嫌なことも嫌って言えないよね」

 

波瑠加も負けじと、冷ややかな視線で切り返す。

 

女子は本当に成長が早い。まだ小学5年生だというのに、この歳で男を取り合ってバチバチと火花を散らすなんて。

 

将来、悪い男に騙されないように気をつけてほしいものだ。もちろん、僕を除いてね。

 

「それだと、僕は波瑠加の事も褒めたらダメなんだ......うん、わかったよ」

 

少しだけ寂しそうな顔を作って、波瑠加に揺さぶりをかける。

 

「えっ、いや............そんなこと言ってないもん」

 

途端に波瑠加の表情が崩れ、慌てたように言葉を濁した。

 

「だよね。それなら、助かったよ。波瑠加と一緒にいると、どうしても褒め言葉がでちゃうからさ」

 

「なーくん......うん。でも、私だけにしておきなよ」

 

最近の波瑠加は、原作の姿に徐々に近づいている気がする。僕のこともあだ名で呼ぶようになったし、成長するにつれて、我を確立させている気がする。

 

 

 

 

 

 

 

歩き進めていくと、山道は徐々に勾配がきつくなり、足元には木の根やゴツゴツとした岩が目立ち始めた。

 

普段から整っているアスファルトしか歩いていない小学生にとって、着替えなどが詰まったリュックを背負っての山登りは相当な体力を削られる。

 

『身体能力B』のステイタスを持つ僕にとっては、ほんの少し息が上がる程度の軽い運動でしかないけれど、2人はなかなか堪えているみたいだ。

 

「......少し、足が痛くなってきちゃったかも」

 

桔梗が少し疲れたような顔で立ち止まった。

 

「大丈夫?荷物、少し持とうか?」

 

僕が提案すると、彼女はふるふると首を横に振る。

 

「ううん、自分の荷物だもん。頑張るよ。でも......ここ、段差が高くて登りにくいから、少しだけ手、引いてくれないかな?」

 

上目遣いで僕を見つめてくる。女子ってすごいね、これを計算してできるんだから。

 

「もちろん。ほら、気をつけてね」

 

右手を差し出し、彼女の小さな手を引いて険しい段差を登らせてあげる。

 

「えへへ、ありがとう。凪くんの手、大きくて安心するなぁ」

 

「桔梗ちゃんを守るために大きくなったのかな?」

 

そんな甘いやり取りをしていると、背後から冷ややかな視線が僕の背中を貫いた。

 

「......なーくん。私もそこ、登りにくいんだけど」

 

振り返ると、波瑠加がムスッとした表情で僕に向かって左手を突き出していた。

 

「あはは、ごめんごめん。ほら、おいで」

 

僕は空いている左手を差し出し、波瑠加の手もしっかりと握りしめて引き上げる。

 

「......うん。ありがと」

 

僕の手に引き上げられた波瑠加は、少しだけ顔を赤くして視線を逸らした。

 

両手に花、とはまさにこのことだ。

 

右には、クラスのアイドル的存在であり人気者の桔梗。左には、美しき一匹狼である波瑠加。

 

2人の少女の手を引きながら険しい山道を進むこの状況は、端から見ればこの上なく羨ましい光景だろう。

 

実際、後ろを歩いている別の班の男子たちからの『なんであいつだけ』という強烈な怨念めいた視線が僕の背中にバシバシと突き刺さってくるのを感じる。

 

おかげで、歩いているだけでメンタルのステイタスがチクチクと刺激されていく。本当にありがたい環境だ。

 

 

 

 

 

「それにしても、結構歩いたね。そろそろ着く頃だと思うんだけど」

 

僕がそう言って視線を前に向けた時だった。

 

鬱蒼と茂っていた木々の隙間から、眩しい光が差し込んでくる。足元の土の感触が変わり、視界が一気に開けた。

 

「あ......!」

 

桔梗が嬉しそうな声を上げた。

 

「見えたよ、なーくん!」

 

波瑠加も、疲れを忘れたように目を輝かせて前方を指差す。

 

森を抜けた先に広がっていたのは、なだらかな斜面に点在する、木造の美しいコテージ群だった。

 

大自然の緑の中に溶け込むような温かみのある外観と、大きく深呼吸したくなるような澄んだ空気が僕たちを出迎えてくれる。

 

これから2泊3日、ここを拠点にしてカレー作りやキャンプファイヤーをするのか。

 

「着いたね。二人とも、よく頑張ったよ」

 

「うんっ!早く荷物置いて、みんなのところに行こっ!」

 

「なーくんが手引いてくれたから、最後まで歩けた」

 

 

両手で引いていた2人の手をそっと離して、僕たちはそれぞれのコテージへと向かった。男子と女子でコテージが違うからね。

 


 

林間合宿の初日の夕食といえば、定番中の定番であるカレー作りと飯ごう炊飯だ。

 

かまどから立ち上る煙の匂いと、あちこちから聞こえてくる同級生たちの騒がしい声が、いかにも学校行事という非日常感を演出している。

 

「それじゃあ、役割分担しよっか。うちは3人しかいないから、ちょっと大変かもしれないけど頑張ろうね!」

 

桔梗が率先してリーダーシップを取るように声を上げた。

 

クラスの中心人物である彼女は、こういう場面での立ち回りが本当に上手い。まあ、僕たちは3人っていう少ない班だけど。

 

「私はどっちでもいいよ。なーくんはどうする?」

 

波瑠加が僕に視線を向ける。本来4人の班が3人になっている分、1人あたりの負担は確実に増える。

 

ここは男である僕が、一番面倒で体力と技術を使うポジションを引き受けるのがセオリーだろう。

 

「火起こしと、飯ごうでの炊飯は僕がやるよ。2人は野菜のカットと、お肉を炒めたりするのをお願いしていいかな?」

 

「うん、わかった!美味しいカレー、作ってあげるからね!」

 

「私も、包丁くらいは使えるから。なーくん、火傷しないように気をつけて」

 

それぞれの役割が決まり、僕たちは早速作業に取り掛かった。

 

僕の『身体能力B』と『知力A』のステイタスは、こういうアウトドアな場面でも効果を発揮してくれる。

 

軍手をはめ、薪を適切なサイズに素早く割り、新聞紙と小枝を使ってスムーズに火を起こす。これは知力に付随する器用さのお陰だ。

 

それに加えて身体能力の恩恵もあり、あっという間に手際よくかまどに火を定着させることができた。

 

「なーくん、火起こすの早いね。なんか、すごく慣れてる感じがする」

 

「そうかな?初めてやったんだけど」

 

火の番をしながら後ろを振り返ると、桔梗と波瑠加がまな板に向かって野菜を切っているところだった。

 

「ふふん、見て見て凪くん!私、じゃがいもの皮剥きすっごく得意なんだよ!」

 

桔梗がピーラーを使わず、包丁だけで器用にじゃがいもの皮をスルスルと剥いていく。

 

お、おお。シンプルにすごい。手先が器用だ。なにより、他のクラスメイトよりも僕に自慢しに来たところがいい。

 

彼女の中のTearで僕が上位にいることが分かるからね。

 

「本当だ、すごいね。手際がいいし、皮も薄く綺麗に剥けてる。桔梗は良いお嫁さんになるだろうね」

 

「お、お嫁さん......っ!も、もうっ、凪くんたら急に変なこと言わないでよ!」

 

顔を真っ赤にして照れる桔梗。いつかは承認欲求の塊になる彼女も、今はまだそれを自覚してないからか本心からの反応に見える。

 

そんなことを考えてると、その隣で玉ねぎを切っていた波瑠加の包丁が、トントン、から、ダンッ!ダンッ!と少しだけ乱暴な音に変わった。

 

「......なーくん。火、弱くなってきてない?ちゃんと見てないと美味しいご飯炊けないよ」

 

ジトッとした冷ややかな視線が僕を射抜く。明らかに面白くないといったオーラが漂っていた。

 

嫉妬してくれるのは可愛いけど、機嫌を損ねられては困る。僕は立ち上がって、波瑠加の隣へと歩み寄った。

 

「ごめんごめん。あ、ちょっと目が赤いよ。玉ねぎが目に染みた?」

 

「えっ......う、うん。少しだけ」

 

持っていた清潔なハンカチを取り出し、波瑠加の目尻に浮かんでいた涙をそっと優しく拭ってあげた。

 

「ほら、無理しないで。焦らずにゆっくりでいいからね」

 

至近距離で優しくハンカチを当てられた波瑠加は、瞬きをパチパチと繰り返した後、耳まで真っ赤にしてコクリと頷いた。

 

「......うん。ありがと、なーくん」

 

消え入りそうな声で呟き、涙が完全に止まってから再度カットを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よし、これで2人のフォローと好感度稼ぎは完璧だ。多分。

 

野菜のカットが終わり、鍋で具材を炒めて煮込んでいる間、僕はかまどに付きっきりで飯ごうの様子を見ていた。

 

野外炊飯において、一番失敗しやすいのがこの飯ごう炊飯らしい。

 

火加減を間違えれば芯が残ったり、底が焦げ付いて真っ黒になったりしてしまう。

 

飯ごうの蓋から吹きこぼれる白い汁の量と、微かに聞こえてくるグツグツという音。そして、お米の炊ける甘い匂い。

 

五感を研ぎ澄まして、絶好のタイミングを見計らう。

 

「よし、今だ」

 

かまどからサッと飯ごうを下ろす。そして、蓋をしっかりと押さえたまま、ひっくり返して蒸らしの工程に入った。

 

この一手間が、ふっくらとした美味しいお米を炊くための絶対条件らしい。僕も詳しくは知らない。あんまりアウトドアに興味がなくてね。

 

「なーくん、お米もう炊けたの?」

 

「うん、あとは蒸らすだけだよ。カレーの方はどう?」

 

「こっちもバッチリ!ルーも溶けたし、すごくいい匂いがするよ!」

 

桔梗がお玉で鍋をかき混ぜながら、自信満々にウインクをしてきた。

 

周りの班からは『焦げた!』だの『水っぽい!』だの悲鳴が上がっている中、僕たちの班は驚くほど順調に調理を終えることができた。

 

僕たちの他にも上手くいってる班があったみたいだけど、失敗してる班を煽って教師に怒られてた。

 

10分後。ひっくり返していた飯ごうの蓋を開けると、そこにはふっくらと艶やかに炊き上がった白米がぎっしりと詰まっていた。

 

「わぁ......!お米がキラキラしてる!凪くん、すごいっ!」

 

「なーくん、天才かも」

 

2人の瞳が尊敬の色を帯びて輝く。

 

お皿に完璧な白米を盛り付け、その上から桔梗と波瑠加が作ったカレーをたっぷりと掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

班ごとにまとまって長机に並んで座り、僕たちは手を合わせた。

 

「「「いただきます!」」」

 

まずはスプーンでカレーとご飯をすくい、一口食べる。

 

屋外で食べるというスパイスを差し引いても、野菜の甘みがしっかりと溶け込んでいて美味しい。

 

「すごく美味しいよ。2人が丁寧に作ってくれたおかげだね」

 

僕が褒めると、2人は顔を見合わせて嬉しそうに笑った。

 

「えへへ......凪くんがいっぱい食べてくれると嬉しいな」

 

「なーくん、私のじゃがいもも食べて。私が切ったやつだから」

 

桔梗が僕の皿にスプーンでお肉を乗せてくると、対抗するように波瑠加も大きなじゃがいもを乗せてくる。

 

さらにエスカレートしたのか、桔梗が自分のスプーンでカレーをすくい、僕の口元へと運んできた。

 

「はい、凪くん。あーんして?」

 

「えっ」

 

「ちょ、桔梗ちゃん!それ間接キスになるじゃん!」

 

波瑠加が慌てて止めるのも聞かず、桔梗は小悪魔的な笑みを浮かべてスプーンを押し付けてくる。

 

断る理由もない僕は、大人しくそのスプーンを口に含んだ。

 

「ん、美味しい」

 

「ふふっ、良かったぁ」

 

満足げに微笑む桔梗の横で、波瑠加が悔しそうに唇を噛んでいる。

 

そして次の瞬間、波瑠加も自分のスプーンにたっぷりとカレーをすくい、僕の顔の前に突き出してきた。

 

「......なーくん、私の、も。あーん」

 

顔を林檎のように真っ赤にしながら、必死に勇気を振り絞った波瑠加の不器用な『あーん』。

 

これを断るなんて、男として絶対にあり得ない。

 

僕は嬉々として波瑠加のカレーも口に含んだ。

 

「うん、2人から食べさせてもらったからか、自分で食べるよりも百倍美味しいよ」

 

右から桔梗、左から波瑠加。

 

美味しいカレーを食べながら、将来有望な美少女2人から手厚いおもてなしを受ける。

 

ふと周りを見渡せば、真っ黒に焦げたご飯とシャバシャバのカレーを不味そうに食べている男子たちが、僕たちのテーブルを血走った目で睨みつけていた。

 

彼らの嫉妬の視線が突き刺さるたびに、僕のメンタルはさらに強固に鍛えられていく。ありがたい。いつもありがとう。

 


 

櫛田さん

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

長谷部さん

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 




次回

林間合宿終了。天使の呼び出し。

中学は.....?

  • 一之瀬さんと一緒
  • 軽井沢さんと一緒
  • 山村さんと一緒
  • 椎名さんと一緒
  • 松下さんと一緒
  • 小野寺さんと一緒
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