部活選びと道場
中学校初日。僕の視線の先には、このクラスの中心になるであろう一人の少女がいた。
一之瀬帆波だ。
彼女の頭上には、昨日新たに獲得したスキル『慧眼』によって可視化された、半透明のステイタス画面が静かに浮かび上がっている。
【好感度:35】
【身長:155cm】
【スリーサイズ:B88(F)/W54/H81】
【状態:緊張・期待】
なるほど、これが『慧眼』の力か。
クラスの他の女子たちに視線を向けてみると、僕に対する好感度の平均はだいたい50~70の間で推移している。
『魅力S』のステイタスは伊達ではなく、まだ話したことがない相手でさえこの好感度だ。一目惚れってことなんだろうか?
その中で一之瀬の好感度は『35』と、他の女子に比べると少し低く表示されている。
いや、初対面の相手に対する数字としては充分に高い方ではある。一之瀬のように、元々本人が持つ魅力が高い相手だとこのくらいなのか。
ネームドの原作キャラクターの初期値は、だいたいこのくらいだと思っておいた方がいいだろう。
いや、フレンドリーでコミュ力の高い一之瀬でこの数字なのだとしたら、他の警戒心の強いキャラクターはもっと低くスタートすることになるのか?
「神代くん?」
僕が少し考え込んでいると、一之瀬が不思議そうに首を傾げて覗き込んできた。
「ごめん、少し考え事をしてた。そういえば、一之瀬さんは部活何に入るの?」
中学校の部活は強制入部制だ。出来ればここで一之瀬と同じ部活に入って、自然な接点と共有する時間を作れたら嬉しい。
まあ、同じクラスになった時点で既に接点はあるから無理に合わせる必要はない。一之瀬が入部する部活が僕に合わなそうなら、大人しく諦めて別の部に入るつもりだ。
「私はね、手芸部に入るつもりだよ。神代くんは何部に入るの?」
あー、やっぱりそうなるか。
原作で語られていた彼女の家庭事情を考えれば、遠征費や高額な用具代などのお金があまりかからない、文化系の部活に入るのは予想できた。
手芸部か、残念だ。
「僕はまだ決めてないんだ。でも、運動部に入ろうかなって思ってるよ」
身体能力のステイタスを効率よく上げるには、やっぱり運動部が一番だ。
まあ、部活の他にも、学校外の道場かジムに通って何かしらの格闘技を始めようとも思っているけど。
これから先の未来──理不尽な暴力やトラブルから身を守るための『自衛』の手段として、力は必ず必要になる。
「そうなんだ!神代くん、スポーツ得意なの?」
一之瀬はパァッと表情を明るくして、興味津々といった様子で身を乗り出してきた。
「得意っていうか、体を動かすのは好きかな。一之瀬さんは手芸が得意なの?」
「得意ってほどじゃないんだけど、昔からチクチク縫ったりするのは好きだったから。でも、本当は少しだけ運動部にも興味あったんだよね」
「へえ、意外だね。何のスポーツ?」
「うーん、走るのは好きだから陸上とか?でも、体力にあまり自信がなくて」
えへへ、と少し照れたように笑う一之瀬。
一之瀬と今後関わっていく上で気をつけるべきなのは、例の万引き事件だ。出来れば、あの事件が起きないようにしてあげたい。
【好感度:60】
──一之瀬帆波、チョロすぎる。君は絶対にホストとか悪い男にハマったらダメなタイプだ。
入学からまだたったの1ヶ月。事あるごとに『今日も可愛いね』『その髪型似合ってるよ』と褒め続けていたら、彼女の好感度がぐんぐんと上昇していった。
世の中の同年代の男子が奥手で草食系ばかりで、ストレートな愛情表現に慣れていないからこそ、効果的なんだろう。
「あー、神代くん、またうちの部にいるの?」
「毎日手芸部に顔を出してたら、もうほとんどうちの部員みたいなものじゃない」
「運動部のエースがここで油売ってて、部活行かないと怒られるよ?」
家庭科室の扉に寄りかかっている僕に、手芸部の先輩たちがクスクスと笑いながら絡んできた。
手芸部はその殆どが女子生徒で構成されているため、僕が邪険に扱われることはない。むしろ、後輩のイケメンが毎日顔を出してくれることを楽しんでくれている節がある。
もちろん、その影響で数少ない手芸部男子や、他の運動部の男子からは猛烈に嫉妬されて嫌われている。
「ああ、大丈夫ですよ。今日は部活に行く予定ないんで」
先輩たちに向かって爽やかに微笑み返した。
中学校に入学して、僕が数ある運動部の中から入部先に選んだのはバスケ部だった。
それも、僕を合わせてようやくギリギリ5人揃うという、廃部寸前の弱小チームだ。
ん?バスケ部を選んだ理由は簡単なことだ。僕は部活をしながら道場に通う。必然的に部活を休む時がある。それを承諾してくれたのがバスケ部だった。
『部活に来れない日があってもいい。試合の時だけ参加してくれれば最悪いいから、とにかく名前だけでも貸して入部してほしい』と、先輩から涙ながらに必死に説得されたからだ。
そして、今日が僕がこれから通うことになっている道場での稽古初日だった。
部活の方にはあらかじめ休むことをちゃんと伝えてある。
まあ、普段から部活に行く前の数分間は、こうして帆波の顔を見るために手芸部に立ち寄っているんだけどさ。
「あ、前に話してた空手道場?通うところ決まったんだ!」
ミシンに向かっていた帆波が、僕の言葉を聞いてパァッと顔を輝かせて振り向いた。
「そうそう。お父さんの知り合いがやってる空手道場に通うことになったんだ。じゃあ、初日から遅刻はさすがに不味いし、そろそろ出ないと遅れるから行くね。また明日、帆波」
「うん、また明日ね、凪くん〜〜〜〜〜!」
一之瀬がぶんぶんと大きく手を振ってくれるのを見届けて、僕は家庭科室を後にしようと背を向ける。
「いいなー、帆波には毎日部活まで付き添ってくれる彼氏がいて」
「ずるい!私たちのクラスにはあんなイケメンいないのに!どーしてー!胸か!やっぱりその大きい胸のおかげなのか!?」
「にゃっ、そ、そんなんじゃないですっ!その、凪くんとはまだそういう関係ではないというか.......!」
(そ、それに、凪くんのお家は私と違って裕福だし......きっと、付き合うなんて許してもらえない.....)
「君と、友達になりたい」
初めて見る、おそらく同年代と思わしき彼は、空手道場の重たい引き戸の前で私とバッチリ目が合うや否や、突然そんな突拍子もないことを言ってきた。
......一体、誰なのかしら?
私が戸惑いと警戒の入り混じった視線を向けていると、彼はふんわりとした笑みを浮かべた。
「あ、ごめん。先に自己紹介だったね。僕は神代凪。今日からこの道場に通うんだ。君の名前は?」
男子特有のガサツさは微塵も感じられない、どこか大人びた余裕と、育ちの良さが滲み出ている。
「──堀北鈴音よ」
気がつけば、私は無意識のうちに自分の名前を口にしていた。
いつもなら、馴れ馴れしく話しかけてくる同年代の男子の自己紹介なんて、無視して通り過ぎるのに。
わざわざ面倒な他人と関わる必要なんて、私にはこれっぽっちもないのだから。
「そっか、鈴音ちゃんか。すごく綺麗で良い名前だね。それじゃあ改めて──僕と、友達になろう」
彼は私の名前を褒めると、再び真っ直ぐに私の目を見て、当然のように提案してきた。
「......嫌よ」
私は即座に、冷たく突き放すように言った。
友人なんて、私には一切不要よ。
私はここに、他の子たちのように遊び半分で来たり、仲良しごっこをしに来ているわけではないもの。
ただひたすらに強く、完璧な存在である兄さんに追いつくために、その背中に少しでも近づくために、私はこの道場の厳しい稽古に通っているのだから。
「──えっ?」
ピシャリと撥ね付けた私の言葉を聞いた瞬間、彼の表情から先ほどの余裕のある笑みがスッと消え去った。
道場に入るために、彼が先に扉を開けて中に入るのを待っていると、彼は──あろうことか、大粒の涙をボロボロと流し始めたのだ。
「......えっ?」
理解の追いつかない状況に呆然と声を漏らしてしまった。
えっ、嘘でしょ?
どこかを打ったり転んだりしたわけでもない。
ただ私が一言断っただけで、彼の透き通るような綺麗な瞳から、声も漏らさずに音もなく涙が次々と零れ落ちている。
「友達......に、なってくれないの......?」
傷ついた子犬のような、悲痛で震える声。
わた、しは......なんて答えればいいの......。
ただ友達になるのを断っただけで、ここまで見事なまでに泣かれるなんて....
これじゃあ、まるで私が何の罪もない彼を一方的にいじめている悪者みたいじゃない。
どうすればいいのかわからず、私が完全にフリーズして彼に対してどう答えればいいか迷っていると、道場の奥から聞き慣れた足音が近づいてきた。
「──入口で何をしてい......る?」
「兄さん......」
私の声に反応して現れたのは、真っ白な道着に着替えた兄さんだった。
兄さんは入口で立ち尽くす私と、その前で顔を濡らして泣いている見知らぬ少年の姿を見て、訝しげに眉をひそめた。
「友達になるのを断られて、悲しくなって勝手に僕が泣いただけです。今日からここに通う、神代凪です。よろしくお願いします」
彼はごしごしと袖で乱暴に涙を拭いながら、先ほどの涙を流している姿が嘘のように、平然とハッキリした口調で兄さんに自己紹介をしている。
どうして、この異常な状況で、しかも兄さんのような威圧感のある人を前にして、そんな平常心でいられるのかしら。
「......堀北学だ。そうか、館長が話をしていた期待の新人はお前だったのか」
「期待に応えれるよう励みます。ご指導ご鞭撻よろしくお願いします」
兄さんの鋭い眼光を真っ直ぐに受け止めながら、彼は深々と頭を下げた。
......本当に、何なのかしらこの人は。
初対面でいきなり『君と、友達になりたい』なんて平然と言ってきて、それを断っただけでボロボロと泣いていたのに、兄さんが来た途端に信じられないくらい切り替えが早い。
それに、兄さんも。普段ならこんな得体の知れない相手に、こんなに興味を示すようなことはしないはずなのに。
「ああ、期待している」
兄さんは短くそう答えると、彼の肩を軽く叩き、私を一瞥してから道場の奥へと戻っていった。
取り残された私と彼。
「......お兄さん、かっこいい人だね。鈴音ちゃんが憧れるのもわかるよ」
彼は微かに残る涙の痕を拭いながら、兄さんの背中を見送ってそう言った。
「......勝手に私の心情を決めつけないで。それに、気安く下の名前で呼ばないでちょうだい。私はあなたと友達になった覚えはないわ」
「そっか。残念だけど、まあいいや」
彼は少しも怯む様子もなく、再びあのふんわりとした笑みを浮かべた。
「でも、同じ道場に通う以上、稽古で組手とかすることもあるよね?その時は遠慮しないから、よろしくね。堀北さん」
「......望むところよ。泣かされたからって、後で文句を言わないことね」
「あはは、気を付けるよ」
彼はそう言って、私の横を通り抜けて道場の中へと足を踏み入れた。
神代凪。
一体どういうつもりで私に近づいてきたのかはわからないけれど......あなたなんかに構っている暇はないわ。
私は彼が消えた扉の先を見つめながら、兄さんに追いつくために努力しようと、決意を改めてした。
(まさか、同じ道場に堀北兄妹がいるなんて。幸運だ)
堀北さんを落とすには、友人になれば一気に距離を縮めることができるはず。好感度も【15】から落ちてないし、問題ない。
彼女の関心を得るには──堀北学と関わるのが手っ取り早いか。
神代くん
堀北さん
部室でリラックス一之瀬さん
■慧眼の好感度段階
【+81〜+100】愛情・心酔
誰よりも深く愛している状態。
【+51〜+80】親友・恋慕
恋慕。一緒にいることを望み、相手のことを意識・考えた行動を起こしやすい。
【+21〜+50】好意的・親しい
友人としての好意。会話が弾み、頼み事にも快く応じてくれやすい。
【+1〜+20】少し気になる
悪い印象は抱いていない。挨拶や軽い世間話をする程度の良好な知人。
【0】無関心・初対面
感情のフラットな状態。事務的な対応で、特別気にかけてはいない。
【-1〜-20】やや苦手
少し嫌な印象を抱いている。自分から積極的に話しかけようとはしない。
【-21〜-50】嫌悪・反発
明確な嫌悪感。意見に反対したり、冷たい態度をとったり、非協力的な状態。
【-51〜-80】憎悪・敵対
強い怒りや憎しみ。明確な敵として認識し、相手を陥れようとする場合もある。
【-81〜-100】殺意・絶対的拒絶
取り返しのつかない関係。顔を見るだけで激しい嫌悪感、または存在そのものを消し去りたいと願う状態。
この時期の鈴音ぇは、ショートカットな気がする。まだ伸ばし始めてないのでは....
中学は.....?
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一之瀬さんと一緒
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軽井沢さんと一緒
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山村さんと一緒
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椎名さんと一緒
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松下さんと一緒
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小野寺さんと一緒