世間一般的な学生たち全員に平等に訪れる、憂鬱なイベントがある。そう、それは定期テストだ。
赤点を取れば面倒な補習を受けることになり、テスト2週間前になると原則として部活動停止期間に入る。
この学校も例外ではなく、まさにその期間に突入したところだった。
教室の空気がどこかどんよりと重くなり、休み時間になってもノートを開いて溜め息をつく生徒が増えてくる。
まあ、赤点も部活停止も僕には全く関係のない話だ。中学校のテストなんて目を瞑っていても解けるような代物でしかない。
部活が休みになった分、この期間中は空手道場に通い詰めることができる。
いくら他人と関わりたくない堀北さんといえど、初対面であれだけインパクトを与えた僕のことを知らないフリはできないはず。
道場での当面の行動方針は、ステイタス上げと彼女の目標である堀北学──堀北兄の方と接点を作っていくことだ。
そうしたら、堀北さんから僕に近づいてくるだろうからね。多分。きっと。
それとは別に、せっかくのテスト期間を道場だけに時間を割くのは勿体ない。今しか出来ないこともあるのに。
「よかったらさ、帆波の家で僕と勉強会しない?」
放課後。テスト範囲のプリントとにらめっこしていた帆波に、僕はごく自然なトーンでそう持ちかけた。
もちろん、帆波の好感度上げも忘れてはいない。正直なところ、現状でも彼女の僕に対する好感度は割と充分な数値に達している。
でも、だからといってアプローチをやめて放置していい理由にはならない。
『慧眼』が示す好感度はあくまで僕の行動を決めるための参考に過ぎない。この世界はゲームじゃないんだ。好感度稼いだから放置なんてしていいはずがない。
ハーレムを作ろうとしている僕が言っても説得力はないかもしれないけどね。
「──私の家かぁ、んー......」
僕の誘いを聞いた帆波は、困ったように眉を下げてプリントに視線を落とした。
分かる。通常であれば、好意を寄せている相手からのこんな都合のいい誘い、断る理由なんてないはずだ。
でも、帆波の場合は少しばかり事情が違う。
家に知り合いを招待したくない。彼女の躊躇いは、それに尽きるだろう。
どれだけ家族のことが好きであろうとも、お世辞にも裕福で綺麗とは言えない家に住んでいるという事実は変わらない。
多感な中学生の女の子にとって、気になる男子に自分の生活のリアルな部分を見せるのは、相当な勇気がいるはずだ。
僕も前世で小さい頃、隙間風が吹き込むようなボロ家で暮らしていた時期があるから、その気持ちはよく分かるよ。
まあ、当時の僕には家に招きたいような友人なんて一人もいなかったけどね。
だから、彼女が適当な理由をつけて断ってきたら、すかさず『じゃあ近くの図書館に行こうか』と優しくフォローしてあげるつもりだ。
数秒の沈黙の後、帆波はゆっくりと顔を上げた。
「あんまり綺麗じゃないけど、それでも良かったらいいよ」
少しだけ頬を赤く染め、不安そうに揺れる瞳で僕を見つめ返してくる。
へぇ、意外だ。てっきり、断られるかと思っていたのに。
隠すことよりも、僕と一緒に過ごす時間を選んでくれたということか。
あるいは、僕になら見られてもいいと、そこまでの信頼を寄せてくれているのか。
どちらにせよ、彼女のその小さな勇気を讃えてあげるべきだ。
「ありがとう。帆波の家に行けるの、すごく楽しみだよ」
「そ、そんなに期待しないでね........本当に」
──帆波、君はどうなっているんだ。
彼女の頭の上に浮かんでいる好感度の数値を眺めながら、僕は心の中で盛大にツッコミを入れていた。
【好感度:75】
上がり幅が異常だ。チョロすぎるにも程がある。
ここに着くまでの間、帆波は不安げな視線を僕にチラチラと向けていた。
案内されたのは、外壁の塗装が所々剥がれかけた、お世辞にも立派とは言えない古いアパート。
彼女が気にしているのは間違いなくこの家のことだろう。多感な中学生の女の子が、好意を寄せる男子に見せるには少し勇気がいるはずだ。
だから僕は、いつもと全く変わらない自然な態度で接した。このくらいは余裕だよ。
『お邪魔します。僕が帆波に招待された初めてのクラスメイトかな』
ただそれだけ。家に入った瞬間に見せた僕のその変わらない対応だけで、彼女の好感度はスッと【70】に上がったのだ。
そして、靴を脱いで上がった先。
家の中に入ってから初めて姉が男友達を連れてきたことに興奮気味の、小さくて可愛らしい妹が出迎えてくれた。
僕はしゃがみ込んで、彼女と同じ目線に合わせて優しく挨拶を交わした。少しだけ頭を撫でてあげると、妹は頬を赤くして帆波の背中に隠れてしまったけど。
「お姉ちゃんの彼氏かっこいい......」
「にゃっ!?か、彼氏じゃないょ」
顔を真っ赤にして、噛み噛みになりながら妹をたしなめる帆波。
そのやり取りを微笑ましく見守っていた直後──好感度がさらに跳ね上がり、【75】に到達したのだ。
チョロすぎる。本当にチョロすぎる。君は絶対にホストや悪い男に引っかかる。むしろ、僕がこの世界にいて良かったね。
まあでも、色々言ったけど、彼女の気持ちは理解できる。
家を見た瞬間、あからさまに気を遣われたり、態度が変わるような人間じゃないと確信したから好感度が上がったんだろう。
実際、前世では実家が太くなかったり住んでいる場所が貧相だったりするだけで、差別をしてくる人間はごまんと存在した。
だからこそ、帆波の小さな勇気を絶対に笑ったりはしない。
「帆波、制服から着替えたら?着替え中、僕は居間で待ってるから」
荷物を下ろしながら、僕はそう提案した。理由は単純だ。帆波の私服が見たいから。
ちなみに、今僕たちがいるのは、折りたたみ式のテーブルが部屋の中央に置かれている子供部屋だ。
間取りを見る限り、この家には風呂とトイレを抜かして、居間とこの子供部屋しかないのだろう。
「う、うん」
妹と戯れていた帆波は僕の言葉に反応して、ゆらゆらと妹を揺らしていた手をピタッと止めた。
「ごめんね、気を使わせちゃって......それじゃあ、少しだけ居間で待っててくれる?」
「もちろん。ゆっくりでいいよ」
僕は子供部屋を出て、隣の居間へと移動した。
居間には年季の入った小さなちゃぶ台と、少し色褪せた座布団がいくつか並べられていた。
見渡すと、家族の写真や、妹が描いたであろう可愛らしい絵が飾られている。
決してお金持ちの家ではないけれど、隅々まで綺麗に掃除が行き届いていて、この空間には家族の温かい愛情がしっかりと根付いているのが伝わってくる。
居心地は悪くない。むしろ、少し落ち着くくらいだ。
座布団に座って待つこと数分。ふすまがスッと開き、着替えを終えた帆波が居間に入ってきた。
「お、お待たせ......変、じゃないかな?」
もじもじとしながら僕の前に立つ彼女は、淡いピンク色のゆったりとしたニットに、動きやすそうなデニムのスカートを合わせていた。
高価なブランド物ではない。おそらく何度も着古しているであろう服だけど、彼女の柔らかい雰囲気と抜群のプロポーションのせいで、そこらの高級服よりも魅力的に見える。
「すごく似合ってるよ。制服姿も好きだけど、私服の帆波はもっと可愛いね」
「っ......!あ、ありがとう......」
ストレートに褒めると、帆波は耳の先まで真っ赤にして俯いてしまった。
僕の『慧眼』には、彼女の頭上に浮かぶ好感度がさらに微増していくのがハッキリと見える。
「それじゃあ、勉強会始めよっか」
僕がちゃぶ台をポンポンと叩くと、帆波は少し緊張した面持ちで僕のすぐ隣に座布団を敷いて座った。
対面ではなく、隣同士。距離感がバグっているというか、彼女のパーソナルスペースに完全に僕が入り込んでいる状態だ。
ノートや教科書を広げると、彼女の肩が僕の腕に触れるか触れないかのギリギリの距離になる。
シャンプーなのか石鹸なのか、帆波からふわりと甘くて清潔な香りが漂ってきた。うん、いい香りだ。
「ね、ねえ凪くん。ここの数式なんだけど......どうやって解けばいいのか分からなくて」
上目遣いで僕を覗き込んでくる帆波。
その無防備すぎる表情と、ちゃぶ台に乗せられた際に強調される彼女の豊かな胸元が視界に入り、一瞬だけ思考が停止しそうになる。
「......ここはね、この公式を当てはめて、こっちの項を移動させるんだよ」
「あ、なるほど!そっか、こうすればいいんだ......凪くん、教え方すごく上手だね!」
パァッと顔を輝かせて僕を見つめてくる帆波。ああ、自分の美貌を理解してないのか、それとも純粋に無防備なのか。君はもう少し色々気をつけた方がいい。
「帆波が素直で賢いからだよ。ほら、次の問題も一緒にやってみようか」
「うんっ!」
【好感度:77】
........帆波でこの好感度だと、小学校時代に関わったメンバーの好感度はどうなるんだろうか。
いや、気にしないでおこう。うん、高校に入学した僕が、ハーレムの夢を叶えてくれるはず。うんうん。
──どうしよう、心臓の音がうるさくて、凪くんに聞こえちゃいそう。
帰り道、私は何度も不安げな視線を彼の横顔に向けていた。
案内するのは、外壁の塗装が所々剥がれかけた、お世辞にも立派とは言えない古いアパート。
うちが決して裕福ではないことが、見ればすぐにわかってしまう。好きな男の子を自分の家に招待できるなんて、嬉しいけど.....
もし家を見て、彼に引かれてしまったらどうしよう。態度が変わってしまったらどうしよう。
そんな不安が渦巻いて、足取りは自然と重くなっていた。
だけど、私のそんなちっぽけな不安は、彼の一言であっさりと吹き飛んだ。
『お邪魔します。僕が帆波に招待された初めてのクラスメイトかな』
いつもの、学校にいる時と全く変わらない笑顔。
嫌な顔一つせず、むしろ嬉しそうに微笑んでくれた凪くんのその態度に、私はホッと胸をなでおろした。
それと同時に、彼に対する好きという気持ちが、また少しだけ膨らんでいくのを感じる。
靴を脱いで上がった先では、私の妹が出迎えてくれた。
少し興奮気味の妹を、凪くんは嫌がったりめんどくさがるどころか、しゃがみ込んで妹と同じ目線になり、優しく挨拶をしてくれた。
少しだけ頭を撫でてもらった妹は、顔を真っ赤にして私の背中に隠れてしまう。妹も普段は色々我慢してるから、こういう年相応な態度を見れて嬉しい。
「お姉ちゃんの彼氏かっこいい......」
「にゃっ!?か、彼氏じゃないょ」
そんなことを考えてると、とんでもない爆弾発言に、私は顔から火が出そうなくらい真っ赤になって、思わず噛みながら妹をたしなめた。
凪くんはそんな私たちのやり取りを、ただ微笑ましく見守ってくれている。
かっこよくて、優しくて、包容力があって......本当に、凪くんはずるい。
「帆波、制服から着替えたら?着替え中、僕は居間で待ってるから」
た子供部屋で荷物を下ろした後、凪くんがふとそう提案してくれた。
「う、うん」
「ごめんね、気を使わせちゃって......それじゃあ、少しだけ居間で待っててくれる?」
「もちろん。ゆっくりでいいよ」
凪くんはそう言って、隣の居間へと移動してくれた。彼のそういうさりげない気遣いや優しさに、また胸がキュッとなる。
タンスを開けて、私はどれを着るか必死に悩んだ。少しでも凪くんに可愛いって思ってもらいたくて。
悩んだ末に選んだのは、淡いピンク色のゆったりとしたニットに、動きやすそうなデニムのスカートだった。
着替えを終えて、私はスッとふすまを開けた。
年季の入ったちゃぶ台の前に座っている凪くんが、こちらを振り向く。
「お、お待たせ......変、じゃないかな?」
もじもじとしながら尋ねると、彼は少し目を細めて優しく微笑んでくれた。
「すごく似合ってるよ。制服姿も好きだけど、私服の帆波はもっと可愛いね」
「っ......!あ、ありがとう......」
反則だ。凪くんはいっつもそうだ。回りくどい時もあるけど、基本時にストレートに褒めてくれる。
耳の先まで真っ赤になっていくのが自分でもわかって、私はたまらず俯いてしまった。
「それじゃあ、勉強会始めよっか」
凪くんがちゃぶ台をポンポンと叩く。
私は少し緊張しながら、彼のすぐ隣に座布団を敷いて座った。自分の家のはずなのに、おかしいよね。
ノートや教科書を広げると、彼の腕と私の肩が触れるか触れないかのギリギリの距離。
凪くんの体温が伝わってきそうで、それにプラスして漂う爽やかな香りに包まれて、頭がどうにかなってしまいそうだった。
「ね、ねえ凪くん。ここの数式なんだけど......どうやって解けばいいのか分からなくて」
少しでもごまかしたくて、私は彼の顔を覗き込みながら質問した。
凪くんは一瞬だけピタッと動きを止めたけれど、すぐにいつもの真剣な表情に戻ってノートを指差す。
「......ここはね、この公式を当てはめて、こっちの項を移動させるんだよ」
「あ、なるほど!そっか、こうすればいいんだ......凪くん、教え方すごく上手だね!」
解けたのが嬉しくて、私は嬉しくなって彼を見つめた。
「帆波が素直で賢いからだよ。ほら、次の問題も一緒にやってみようか」
「うんっ!」
彼の声を聞くたびに、隣で彼の熱を感じるたびに、私の心はどんどん彼で満たされていく。
──凪くんのことが、好き。
この時間が、ずっとずっと続けばいいのに。
私はノートに向かいながら、誰にも聞こえないようにそっと心の中で呟いた。
「──へー、一之瀬さんの家って、こんなんだったんだ。にしてもムカつく、調子に乗って凪くん誘惑して......」
(.....これは、罰なんだから。凪くんを奪おうとするあんたが悪いのよ)
『今、衝撃的なシーン目撃したんだけど、、、、、帆波ちゃん、かなり歳上のおじさんとキスしてたんだけど......』
『ヤバくない?手が震えて、写真撮ろうと思ったけど撮れなかった。これって......』
一之瀬さん
中学は.....?
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一之瀬さんと一緒
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軽井沢さんと一緒
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山村さんと一緒
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椎名さんと一緒
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松下さんと一緒
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小野寺さんと一緒