一話完結型小説【季】   作:heppoko427

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夏蔭に隠れて

 僕には幼馴染の女の子、ナツミがいた。苗字と漢字は覚えてない。それでも仲がよかったことは覚えている。

 ナツミは夏のように活発な子だった。毎日のように祖父の家に遊びに来ては、暑いのにいつも外遊びばかりしていた。

 僕は滝のように汗をかいて、家に戻ると毎回ぐったりする。それを見てナツミは楽しそうに笑っていた。本当に幸せな時間だった。

 縁側で扇風機を浴びながらパッキンアイスを食べたりもした。ナツミは風鈴の音が好きだという、夏が来たなと感じるし、聴くだけで涼しげな気分になれるらしい。

 そうして過ごすうちに、中学に進学する時期になった。僕は受験をして、遠くの中学に受かった。

 その影響で、祖父の家の近所から引っ越すことになった。

 

***

 

 それから数年経った。もうナツミとはしばらく疎遠だ。

 僕は高校生になり、目まぐるしく回る毎日に、ナツミのことが頭から消え始めていた。

 夏休み直前、祖父の訃報が入った。癌の影響で容態が急変し、そのまま亡くなったらしい。

 祖父の家に一時的に戻り、葬式に参加した。人生で初めての葬式だった。実感がわからなくて、どういう表情をしたらいいかわからなかった。葬式が終わり、いつ帰るのか聴くと、夏休みの間はこっちで過ごしていてもいいらしい。

 祖父の家を見て回ることにした。

 瓦屋根の古びた昔ながらの家屋を見て、その時思い出した。

 そう、ナツミのことだ。

 その瞬間胸騒ぎがして、縁側に向かう。

 そこは当然古くなっていたが、不思議と手入れされていた。パッキンアイスを折り、扇風機をかけ、風鈴を吊り下げた。

 あの日の情景が頭に浮かぶ。

 外の景色が頭の情景と一致した瞬間、木の夏蔭に人影が見えた。

 その木は、よくナツミがかくれんぼで隠れていた場所だった。

 それを追って影に入ると、そこにナツミの姿はない。

 ただ、古びた手紙が落ちていた。

 そこには一言、

 

「じゃあね。パッキンアイス、また一緒に食べたかったな」

 

 そう書かれていた。

 胸騒ぎがして、物置に走る。そこには埃を被ったノート。表紙にはひとつ、「待ってる」と書かれている。

 ページを開いて、読む。

 

 

「君がいなくなってから一日目、病気が悪化してきた。君だけが生きる支えだったのに」

 

「君がいなくなってから一ヶ月、もうまともに生活できなくなってきた。」

 

「君がいなくなってから一年、もう生きたいとも思わなくなった。ごめんね。君のこと、もう待てそうにないや」

 

 

 ナツミはいつも明るい理由を話していた。

 

「明日なんて、絶対やって来るかは分からないんだよ?」

 

 その時の僕には意味が分からなかったけど、

 

 今ならわかる。

 

 心が何かを察して、涙が溢れてきた。

 僕はそこに方割れのパッキンアイスを置いた。

 夏休みの間、祖父とナツミのいない家で、一人分足りないいつかの日を過ごした。

 

 夏休みが終わり、高校が再開された。

 夏の暑さもピークを過ぎ、溶けたアイスのような生ぬるい温度だけが残っていた。

 

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