僕には幼馴染の女の子、ナツミがいた。苗字と漢字は覚えてない。それでも仲がよかったことは覚えている。
ナツミは夏のように活発な子だった。毎日のように祖父の家に遊びに来ては、暑いのにいつも外遊びばかりしていた。
僕は滝のように汗をかいて、家に戻ると毎回ぐったりする。それを見てナツミは楽しそうに笑っていた。本当に幸せな時間だった。
縁側で扇風機を浴びながらパッキンアイスを食べたりもした。ナツミは風鈴の音が好きだという、夏が来たなと感じるし、聴くだけで涼しげな気分になれるらしい。
そうして過ごすうちに、中学に進学する時期になった。僕は受験をして、遠くの中学に受かった。
その影響で、祖父の家の近所から引っ越すことになった。
***
それから数年経った。もうナツミとはしばらく疎遠だ。
僕は高校生になり、目まぐるしく回る毎日に、ナツミのことが頭から消え始めていた。
夏休み直前、祖父の訃報が入った。癌の影響で容態が急変し、そのまま亡くなったらしい。
祖父の家に一時的に戻り、葬式に参加した。人生で初めての葬式だった。実感がわからなくて、どういう表情をしたらいいかわからなかった。葬式が終わり、いつ帰るのか聴くと、夏休みの間はこっちで過ごしていてもいいらしい。
祖父の家を見て回ることにした。
瓦屋根の古びた昔ながらの家屋を見て、その時思い出した。
そう、ナツミのことだ。
その瞬間胸騒ぎがして、縁側に向かう。
そこは当然古くなっていたが、不思議と手入れされていた。パッキンアイスを折り、扇風機をかけ、風鈴を吊り下げた。
あの日の情景が頭に浮かぶ。
外の景色が頭の情景と一致した瞬間、木の夏蔭に人影が見えた。
その木は、よくナツミがかくれんぼで隠れていた場所だった。
それを追って影に入ると、そこにナツミの姿はない。
ただ、古びた手紙が落ちていた。
そこには一言、
「じゃあね。パッキンアイス、また一緒に食べたかったな」
そう書かれていた。
胸騒ぎがして、物置に走る。そこには埃を被ったノート。表紙にはひとつ、「待ってる」と書かれている。
ページを開いて、読む。
「君がいなくなってから一日目、病気が悪化してきた。君だけが生きる支えだったのに」
「君がいなくなってから一ヶ月、もうまともに生活できなくなってきた。」
「君がいなくなってから一年、もう生きたいとも思わなくなった。ごめんね。君のこと、もう待てそうにないや」
ナツミはいつも明るい理由を話していた。
「明日なんて、絶対やって来るかは分からないんだよ?」
その時の僕には意味が分からなかったけど、
今ならわかる。
心が何かを察して、涙が溢れてきた。
僕はそこに方割れのパッキンアイスを置いた。
夏休みの間、祖父とナツミのいない家で、一人分足りないいつかの日を過ごした。
夏休みが終わり、高校が再開された。
夏の暑さもピークを過ぎ、溶けたアイスのような生ぬるい温度だけが残っていた。