ラバウルの鷹   作:UMC OGASOU

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第十話 昭和十八年

 

 

 昭和十八年一月。

 

 ラバウル基地。

 

 新しい年を迎えた。

 

 だが、祝賀ムードなどどこにもなかった。

 

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 飛行場には相変わらず零戦が並んでいる。

 

 整備兵たちは休みなく働き続けている。

 

 搭乗員たちも毎日のように出撃している。

 

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 戦争は正月だからといって止まってはくれない。

 

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 神崎隼人は宿舎の前で空を見上げた。

 

 青空だった。

 

 去年ラバウルへ来た時と同じ空。

 

 だが自分は変わった。

 

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 森山が死んだ。

 

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 何人もの仲間が消えた。

 

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 そして自分自身も、以前ほど無邪気に勝利を信じてはいなかった。

 

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 朝の点呼。

 

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 鬼塚大尉が搭乗員たちの前に立つ。

 

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「まず報告だ」

 

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 全員が注目する。

 

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「ガダルカナル方面の戦況が変化している」

 

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 部屋が静かになる。

 

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「詳細は機密だ」

 

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「だが今後の作戦内容は変わる」

 

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 神崎は察した。

 

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 何かが起きている。

 

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 かなり大きな何かが。

 

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 数日後。

 

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 その答えは知らされることになる。

 

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 ガダルカナル撤収。

 

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 正式な言葉ではなかった。

 

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 だが現場の人間には十分だった。

 

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 つまり。

 

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 島を放棄する。

 

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 そういうことだった。

 

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 宿舎。

 

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 誰も口を開かない。

 

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 あれだけ戦った島。

 

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 あれだけ仲間が死んだ島。

 

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 そのガダルカナルを失う。

 

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 現実感がなかった。

 

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「結局……」

 

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 佐伯が呟く。

 

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「負けたのか」

 

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 神崎は返事ができなかった。

 

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 二月。

 

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 撤収作戦開始。

 

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 神崎たちは護衛任務に投入された。

 

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 敵に悟られず、できるだけ多くの将兵を救い出す。

 

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 それが目的だった。

 

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 夜の海。

 

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 駆逐艦隊が疾走する。

 

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 いわゆる東京急行。

 

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 だが今度は補給ではない。

 

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 撤退だ。

 

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 上空警戒中。

 

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 神崎は海を見下ろしていた。

 

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 駆逐艦の甲板には大勢の兵士が乗っている。

 

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 疲れ切った兵士たち。

 

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 痩せた兵士たち。

 

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 神崎にはその姿がはっきり見えた。

 

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 戦ってきたのだ。

 

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 飢えながら。

 

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 病気と戦いながら。

 

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 砲撃に耐えながら。

 

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 そして今、ようやく帰れる。

 

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 撤収作戦は成功した。

 

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 多くの将兵が救われた。

 

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 だが。

 

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 誰も喜ばなかった。

 

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 なぜなら。

 

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 ガダルカナルを失った事実は変わらないからだ。

 

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 三月。

 

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 ラバウルへ続々と新しい搭乗員が到着する。

 

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 若い。

 

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 本当に若い。

 

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 十八歳。

 

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 十九歳。

 

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 二十歳。

 

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 神崎たちが去年見た森山と同じような顔をしている。

 

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「よろしくお願いします!」

 

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 元気よく敬礼する新人たち。

 

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 しかし。

 

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 神崎は知っていた。

 

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 彼らはまだ知らないのだ。

 

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 戦場がどんな場所なのか。

 

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 その日の夕方。

 

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 神崎は新人教育を命じられた。

 

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「俺がですか?」

 

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「そうだ」

 

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 鬼塚が頷く。

 

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「もう十分古参だ」

 

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 その言葉に神崎は驚いた。

 

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 自分が古参。

 

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 そんな感覚はなかった。

 

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 だが周囲を見る。

 

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 赴任当時にいた顔ぶれ。

 

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 半分近くいなくなっていた。

 

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 戦死。

 

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 負傷。

 

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 転属。

 

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 理由は様々だ。

 

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 しかし結果は同じ。

 

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 消えていった。

 

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 訓練飛行。

 

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 新人たちは必死だった。

 

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 神崎はその様子を見守る。

 

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 そして思う。

 

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 去年の自分も同じだった。

 

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 希望に満ちていた。

 

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 恐怖よりも期待が大きかった。

 

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 飛行後。

 

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 一人の新人が神崎へ尋ねる。

 

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「神崎さん」

 

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「なんだ」

 

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「ラバウルって本当に最強なんですか?」

 

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 無邪気な質問だった。

 

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 神崎は少し考える。

 

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 去年なら即答していただろう。

 

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 だが今は違う。

 

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「強いよ」

 

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 神崎は答えた。

 

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「今でもな」

 

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「ですよね!」

 

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 新人は笑った。

 

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 神崎はその背中を見送る。

 

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 そして心の中で続けた。

 

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 ――でも無敵じゃない。

 

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 四月。

 

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 ラバウルにはさらに航空戦力が集まってきた。

 

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 基地は拡張される。

 

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 飛行場も増える。

 

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 航空機も増える。

 

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 一見すると戦力は強化されているように見えた。

 

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 実際、昭和十八年前半のラバウルは南東方面最大の航空拠点だった。

 

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 多くの搭乗員が集まる。

 

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 多くの機体が並ぶ。

 

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 誰が見ても強大だった。

 

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 しかし。

 

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 鬼塚や元空母搭乗員たちは知っていた。

 

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 数だけでは測れないものがある。

 

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 経験。

 

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 技量。

 

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 生還してきた時間。

 

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 それらは失われ続けている。

 

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 ある夜。

 

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 元空母航空隊の搭乗員が呟いた。

 

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「敵は増えてる」

 

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 誰も否定しない。

 

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「俺たちは減ってる」

 

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 それも事実だった。

 

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 その頃。

 

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 遥か南方では米軍の反攻が着実に進んでいた。

 

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 新しい飛行場。

 

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 新しい艦隊。

 

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 新しい航空機。

 

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 そして新しい搭乗員。

 

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 戦争の天秤は少しずつ傾いている。

 

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 だがラバウルの将兵たちはまだ戦う。

 

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 飛ぶ。

 

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 守る。

 

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 生きる。

 

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 そして五月。

 

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 神崎たちはついに耳にする。

 

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 敵に新型戦闘機が本格配備されたという報告を。

 

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 高速。

 

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 重武装。

 

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 高性能。

 

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 その名は。

 

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 **F6F ヘルキャット。**

 

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 まだ誰も知らない。

 

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 この戦闘機が。

 

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 後に日本海軍航空隊へ壊滅的な打撃を与える存在になることを。

 

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 そしてラバウルの空そのものを変えてしまうことを。

 

 

 

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