昭和十八年六月。
ラバウル。
南東方面最大の要塞。
日本海軍が誇る航空基地。
数え切れないほどの航空機。
巨大な港湾。
修理施設。
補給基地。
多くの将兵たちは信じていた。
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ラバウルは落ちない。
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ラバウルは安全だ。
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最前線ではあるが、ここには大勢の味方がいる。
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そんな空気が、まだ残っていた。
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だが。
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戦争はその思い込みを容赦なく砕こうとしていた。
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◇
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ある日の早朝。
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飛行場。
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神崎隼人は村田と話していた。
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「最近、敵機を見る機会が増えたな」
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「偵察機ですよね」
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村田が工具を置く。
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「前はこんな奥まで来ませんでした」
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「そうだな」
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神崎も違和感を覚えていた。
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敵は近付いてきている。
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確実に。
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◇
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その日の昼。
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異変は突然起きた。
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サイレン。
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そして通信兵の怒号。
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「敵大編隊接近!」
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◇
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飛行場全体が凍りつく。
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「大編隊?」
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「何機だ!」
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怒鳴り声が飛ぶ。
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通信兵が叫んだ。
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「百機以上!」
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◇
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一瞬。
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誰も言葉を失った。
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百機。
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今までとは桁が違う。
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◇
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「全戦闘機発進!」
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鬼塚大尉の声が響く。
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搭乗員たちは走った。
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神崎も愛機へ飛び乗る。
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エンジン始動。
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プロペラ回転。
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滑走路へ。
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◇
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次々と零戦が離陸する。
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神崎。
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佐伯。
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鬼塚。
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そして数十機の迎撃機。
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ラバウルの空へ上昇する。
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◇
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高度六千。
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そこで神崎は見た。
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「なんだ……あれ……」
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思わず声が漏れる。
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空が埋まっていた。
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◇
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爆撃機。
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爆撃機。
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爆撃機。
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そして護衛戦闘機。
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延々と続く編隊。
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まるで空そのものが敵になったかのようだった。
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◇
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「これが……米軍か……」
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佐伯の声も震えていた。
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今まで何度も戦ってきた。
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だが。
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こんな規模は初めてだった。
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◇
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「迎撃開始!」
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鬼塚の命令。
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零戦隊が突撃する。
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◇
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神崎は爆撃機編隊へ向かった。
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敵もこちらに気付く。
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護衛戦闘機が飛び出してくる。
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ヘルキャット。
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何機もいる。
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以前より増えていた。
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◇
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空戦開始。
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神崎は一機と交戦する。
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旋回。
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急上昇。
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急降下。
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だが敵も簡単には引っかからない。
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むしろ冷静だ。
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無理な旋回戦を避ける。
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速度を活かす。
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訓練されている。
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◇
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神崎はようやく敵機の背後を取った。
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発砲。
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命中。
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敵機から煙。
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撃墜。
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しかし。
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周囲を見る。
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敵はまだ何十機もいる。
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◇
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その時。
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遠くで黒煙が上がった。
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ラバウルだった。
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爆撃機が突破したのだ。
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◇
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「まずい!」
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神崎が叫ぶ。
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飛行場。
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港湾。
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燃料庫。
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重要施設が並んでいる。
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◇
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次の瞬間。
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爆弾投下。
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地面が揺れる。
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巨大な爆発。
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黒煙。
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炎。
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◇
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神崎は思わず言葉を失った。
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今まで守られてきた基地。
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最強だと思っていた要塞。
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そのラバウルが燃えている。
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◇
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空戦は続く。
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だが。
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敵の数が多すぎる。
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全ては止められない。
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◇
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「被弾!」
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通信。
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誰かの声。
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「助けてくれ!」
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別の声。
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空は完全な混戦になっていた。
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◇
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神崎は必死に戦った。
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一機。
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二機。
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敵を追い払う。
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しかし次々に現れる。
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終わりが見えない。
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◇
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やがて。
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敵編隊は離脱した。
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爆弾を落とし終えたからだ。
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迎撃隊も追撃できない。
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燃料が限界だった。
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◇
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帰投。
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神崎はラバウル上空で息を呑む。
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煙。
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煙。
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煙。
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基地のあちこちから黒煙が上がっている。
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燃料施設。
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倉庫。
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滑走路。
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多くが損傷していた。
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◇
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着陸後。
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飛行場は地獄だった。
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救護班が走る。
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消火班が走る。
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負傷者が運ばれていく。
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破壊された航空機も見える。
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飛ぶ前にやられた機体もあった。
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◇
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村田の姿を探す。
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神崎は走った。
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格納庫。
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整備区画。
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どこにもいない。
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◇
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胸が冷たくなる。
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嫌な予感。
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だが。
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「神崎さん!」
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聞き慣れた声。
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振り返る。
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村田だった。
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煤だらけになっている。
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腕には包帯。
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しかし生きていた。
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◇
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「無事か!」
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「なんとか!」
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二人は思わず笑った。
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その瞬間だけは。
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戦争を忘れられた。
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◇
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しかし。
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被害報告がまとまるにつれ。
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現実が見えてくる。
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航空機損失。
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施設損傷。
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死傷者多数。
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決して小さな被害ではなかった。
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◇
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夜。
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作戦室。
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鬼塚大尉は地図を見つめていた。
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「敵は来られるようになった」
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誰も反論しない。
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事実だった。
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以前のラバウルは遠すぎた。
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だが今は違う。
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敵は届く。
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そしてまた来る。
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◇
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神崎は窓の外を見る。
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まだ煙が上がっている。
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去年。
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ラバウルへ来た時。
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この基地は不沈要塞に見えた。
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だが今は違う。
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敵は確実に近付いている。
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戦争は確実にこちらへ向かってきている。
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◇
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そして数か月後。
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ラバウルはさらに激しい空襲を受けることになる。
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飛行場は穴だらけになり。
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熟練搭乗員は減り続ける。
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補給も細くなる。
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南海の要塞は。
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ゆっくりと。
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しかし確実に。
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孤立への道を歩み始めていた。
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