昭和十八年八月。
ラバウル基地。
空襲から二か月。
基地は表面上、平静を取り戻していた。
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滑走路は修復された。
格納庫も再建された。
燃料庫も応急修理が終わった。
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一見すると以前と変わらない。
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だが。
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神崎隼人には分かっていた。
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見えない部分が壊れ始めている。
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◇
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飛行場。
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朝の点呼。
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神崎は並んだ搭乗員たちを見回した。
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知らない顔が多い。
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新人。
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新人。
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また新人。
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◇
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去年なら考えられなかった。
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飛行隊の中心はベテランだった。
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中国戦線経験者。
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真珠湾攻撃参加者。
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珊瑚海帰り。
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歴戦の猛者たち。
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だが今は違う。
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若い顔ばかりだった。
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◇
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「神崎さん」
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新人の一人が話しかける。
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「零戦って本当に世界一なんですか?」
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どこかで聞いたような質問だった。
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以前にも誰かが同じことを聞いた。
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森山だったかもしれない。
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◇
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神崎は少し考えて答えた。
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「優れた戦闘機だ」
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「はい!」
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「だが万能じゃない」
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新人は不思議そうな顔をした。
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まだ理解できないのだろう。
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戦場を知らないから。
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◇
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その日の午後。
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訓練飛行。
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新人たちを引き連れて飛ぶ。
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神崎は驚いていた。
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技量差。
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それがあまりにも大きい。
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◇
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昔の新人も未熟だった。
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しかし。
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今の新人は訓練時間そのものが少ない。
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燃料不足。
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教官不足。
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航空機不足。
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全てが影響していた。
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◇
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「もっと旋回を意識しろ!」
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神崎が通信で叫ぶ。
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「はい!」
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返事は元気だ。
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だが機体はふらついている。
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◇
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鬼塚大尉もそれを見ていた。
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着陸後。
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飛行隊本部。
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「厳しいな」
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鬼塚が呟く。
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「ええ」
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神崎も頷く。
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「悪い連中じゃありません」
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「分かっている」
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「だが時間がない」
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◇
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その言葉が全てだった。
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時間がない。
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育てる時間が。
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経験を積ませる時間が。
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◇
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九月。
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空襲はさらに激しくなった。
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敵爆撃機。
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敵戦闘機。
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毎週のように現れる。
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時には毎日のように。
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◇
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迎撃。
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また迎撃。
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さらに迎撃。
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神崎たちは飛び続けた。
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◇
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ある日の戦闘。
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神崎は新人の後ろについていた。
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十八歳。
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名前は伊藤。
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まだ配属一か月。
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◇
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「伊藤、上だ!」
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神崎が叫ぶ。
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だが遅かった。
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ヘルキャットが急降下する。
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機銃掃射。
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伊藤機の尾翼が吹き飛んだ。
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◇
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「うわあああ!」
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通信機越しの叫び。
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零戦が制御を失う。
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回転。
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降下。
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◇
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神崎は追いかけた。
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だが追いつけない。
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どうすることもできない。
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◇
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海面へ落下。
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白い飛沫。
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それだけだった。
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◇
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帰投後。
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飛行隊は静まり返る。
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伊藤は昨日まで生きていた。
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食堂で飯を食っていた。
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笑っていた。
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それが今日はいない。
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◇
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佐伯が煙草をくわえる。
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「最近、多いな」
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「何が」
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神崎は聞き返した。
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「新人の戦死だ」
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◇
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神崎は答えられなかった。
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事実だからだ。
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昔なら数年かけて育てた搭乗員。
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今は数か月で前線に送られる。
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そして。
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消えていく。
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◇
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十月。
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さらに悪い知らせが届く。
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敵の新型爆撃機。
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敵の新しい基地。
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敵の新しい艦隊。
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報告は尽きない。
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◇
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一方のラバウル。
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補給船は減る。
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航空燃料は減る。
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予備部品も減る。
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それでも戦わなければならない。
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◇
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ある夜。
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村田が神崎へ言った。
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「最近、部品が来ません」
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「そんなにか」
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「共食い整備が増えてます」
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◇
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共食い整備。
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飛べなくなった機体から部品を外し、別の機体へ取り付ける。
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苦しい時の手段だった。
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以前なら考えられない。
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◇
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「でも飛ばしますよ」
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村田が笑う。
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「皆さんを飛ばさないといけませんから」
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◇
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神崎も笑った。
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だが胸は重い。
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誰もが限界へ近付いている。
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◇
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十一月。
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ラバウル上空。
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また大編隊接近の報告が入る。
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しかし今回は違った。
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数。
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その数が異常だった。
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百機。
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二百機。
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いや。
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それ以上。
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◇
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作戦室。
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鬼塚大尉は静かに言った。
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「本格的に来るぞ」
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誰も言葉を発しない。
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「今までとは違う」
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その声には緊張が滲んでいた。
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神崎は嫌な予感を覚える。
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戦争の流れが変わる時の空気。
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それを何度も見てきた。
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◇
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そして昭和十八年十一月。
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ラバウルは史上最大規模の空襲を受ける。
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数百機の米軍機。
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艦隊空母から飛来する戦闘機隊。
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大量の爆撃機。
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南海の要塞ラバウルを無力化するための大攻勢。
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神崎たちは、その嵐の中へ飛び込むことになる。
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そして。
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その戦いで。
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鬼塚大尉の運命が大きく動き始める。
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