昭和十八年十二月。
ラバウル。
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かつて「南海の要塞」と呼ばれた基地は、もはや見る影もなかった。
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飛行場だった場所には無数の爆弾穴。
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崩れた格納庫。
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焼け焦げた機体の残骸。
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ねじ曲がったプロペラ。
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黒く焼けた零戦の骨組み。
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かつて何百機もの航空機が並んでいた場所は、巨大な墓場になっていた。
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◇
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神崎隼人はその光景を黙って見つめていた。
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風が吹く。
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焼け跡から灰が舞う。
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◇
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一年前。
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ここへ来た時。
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ラバウルは希望だった。
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無敵の航空基地だった。
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零戦が何十機も飛び立ち。
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爆撃機が敵を叩き。
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搭乗員たちは勝利を信じていた。
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◇
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今は違う。
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飛べる機体は十数機。
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それも傷だらけ。
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補修に補修を重ねた機体ばかりだった。
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◇
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航空隊は翼を失った。
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それが現実だった。
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◇
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食堂。
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以前は満席だった。
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今は空席ばかり。
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戦死。
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負傷。
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行方不明。
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理由はいくらでもある。
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だが戻ってこない。
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◇
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佐伯が静かに飯を食っている。
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以前のような冗談は減った。
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誰もが疲れていた。
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◇
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「なあ神崎」
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「なんだ」
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「覚えてるか」
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「何を」
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「森山」
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◇
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神崎の箸が止まる。
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十九歳だった新人。
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海へ消えた若者。
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◇
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「ああ」
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「俺さ」
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佐伯は苦笑した。
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「最近あいつの年齢を追い越した気がするんだよ」
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◇
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神崎は何も言えなかった。
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森山は永遠に十九歳のままだ。
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そして自分たちだけが歳を取る。
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◇
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外では工兵たちが陣地構築を進めていた。
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もう航空基地ではない。
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要塞だった。
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歩兵の要塞。
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ジャングルの要塞。
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◇
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敵軍は海岸地帯を確保していた。
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しかし内陸へ進むたびに苦戦している。
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日本軍は山へ入った。
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洞窟へ入った。
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地下陣地へ入った。
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徹底抗戦だった。
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◇
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その夜。
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地下司令部。
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鬼塚大尉が松葉杖をついて入ってくる。
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まだ本調子ではない。
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だが生きていた。
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◇
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地図を見る。
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赤い印。
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敵占領地域。
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日に日に増えている。
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◇
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「どうですか」
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神崎が聞く。
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鬼塚はしばらく答えなかった。
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◇
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「負け戦だな」
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◇
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静かな声だった。
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誰も反論しない。
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できなかった。
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◇
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「だが終わってはいない」
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鬼塚は続けた。
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「終わるのは俺たちが死んだ時だ」
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◇
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その言葉に何人かが笑った。
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苦笑だった。
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だが少しだけ空気が軽くなる。
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◇
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会議終了後。
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神崎は飛行場跡へ向かった。
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そこには一機の零戦があった。
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自分の愛機。
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◇
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補修跡だらけ。
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塗装は剥げている。
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機関砲も弾薬不足。
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予備部品もない。
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もし壊れたら終わり。
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それでも飛べる。
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まだ。
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◇
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村田が現れる。
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以前より痩せていた。
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整備兵たちも消耗している。
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◇
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「まだ飛ばせますよ」
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村田が言う。
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「本当か」
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「多分」
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◇
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二人とも笑った。
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"多分"しか言えないのが現状だった。
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◇
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ラバウルは孤立していた。
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補給船は来ない。
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航空機も来ない。
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新人も来ない。
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◇
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来るのは敵だけだった。
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毎日のように。
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空から。
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海から。
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◇
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しかし不思議なことに。
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神崎は恐怖を感じなくなっていた。
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絶望も。
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怒りも。
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その多くを使い果たしてしまった。
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◇
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残っているのは。
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ただ飛ぶこと。
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仲間を守ること。
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それだけだった。
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◇
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夜。
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ジャングルの向こうで砲声が響く。
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上陸した敵軍が前進している。
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少しずつ。
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確実に。
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◇
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かつてのラバウル航空隊。
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その栄光はもうない。
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零戦の大編隊もない。
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勝利の報告もない。
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新聞が称える英雄もいない。
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◇
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残されたのは。
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傷ついた十数機。
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疲れ切った搭乗員。
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そして帰る場所を失った男たちだけだった。
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◇
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だが。
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その男たちはまだ諦めていなかった。
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空がある限り。
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翼がある限り。
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戦い続ける。
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◇
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そして昭和十九年。
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神崎たちは新たな選択を迫られる。
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このままラバウルに残るか。
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それとも最後の航空機で脱出し、本土防衛へ向かうか。
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帝国海軍の残された翼は、運命の分岐点へ近づいていた。
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