昭和十九年一月。
ラバウル。
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南海の要塞。
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かつてそう呼ばれた基地は、今では巨大な孤島になっていた。
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敵軍に包囲され。
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海上交通は遮断され。
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航空補給もほぼ不可能。
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完全な孤立状態だった。
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◇
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朝。
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神崎隼人は食堂に向かった。
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いや。
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食堂と呼ぶにはあまりにも寂しかった。
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◇
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朝食。
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小さな飯碗。
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中身は少量の米。
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そして薄い汁。
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◇
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それだけだった。
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去年なら考えられない量である。
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◇
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佐伯が飯碗を見つめる。
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「昔ならおやつにもならん量だな」
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誰も笑わない。
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事実だからだ。
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◇
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補給は来ない。
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備蓄も尽き始めている。
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戦争だけでなく。
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飢えとも戦わなければならなくなっていた。
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◇
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その日の会議。
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地下司令部。
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司令官が言った。
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「農地を作る」
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◇
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一瞬。
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誰も意味が分からなかった。
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◇
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「農地だ」
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司令官は繰り返した。
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「ジャングルを切り開く」
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「芋を植える」
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「野菜も育てる」
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◇
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沈黙。
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そして。
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誰かが吹き出した。
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◇
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搭乗員が農業。
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整備兵が農業。
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海軍将兵が農業。
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あまりにも場違いだった。
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◇
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だが。
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笑っている者はいなくなった。
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すぐに気付いたからだ。
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必要なのだと。
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◇
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翌日。
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神崎は鍬を持っていた。
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◇
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「何でこうなった」
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思わず呟く。
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◇
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村田が隣で木の根と格闘している。
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「零戦の整備より大変です」
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◇
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神崎は笑った。
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久しぶりに自然な笑いだった。
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◇
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ジャングルは甘くなかった。
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木を切る。
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根を掘る。
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石をどかす。
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炎天下。
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汗だく。
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◇
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搭乗員たちは飛ぶより疲れていた。
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◇
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数日後。
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ようやく小さな畑が完成した。
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◇
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サツマイモ。
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カボチャ。
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野菜。
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手に入る種は何でも植えた。
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◇
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「これで何とかなるのか」
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神崎が聞く。
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◇
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村田は肩をすくめる。
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「ならないよりマシです」
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◇
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それが現実だった。
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◇
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一方で。
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飛行隊も消えてはいなかった。
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残存機十数機。
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そのうち飛行可能なのはさらに少ない。
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燃料不足。
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部品不足。
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弾薬不足。
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全て不足。
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◇
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だから出撃は慎重になった。
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敵が来た時だけ。
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本当に必要な時だけ。
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神崎の愛機も限界が近かった。
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機体全体に補修跡。
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エンジンも消耗している。
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「あと何回飛べる?」
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神崎が聞く。
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◇
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村田は少し考えた。
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「正直に言いますか」
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「言え」
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「分かりません」
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二人は苦笑する。
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最近はそんな答えばかりだった。
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◇
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二月。
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畑に芽が出始めた。
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◇
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小さな緑。
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それだけなのに。
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皆が集まった。
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◇
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「出たぞ」
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「本当だ」
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「生えてる」
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まるで新型戦闘機でも届いたかのような騒ぎだった。
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◇
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神崎は不思議な気持ちになった。
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去年なら考えもしなかった。
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敵空母を撃沈した時より。
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今の方が嬉しい。
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◇
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生きるためだからだ。
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◇
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夜。
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焚火の周り。
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搭乗員たちが座っている。
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◇
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佐伯が呟く。
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「昔はさ」
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「うん」
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「空母を沈める話してたよな」
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◇
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神崎は頷く。
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◇
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「今は芋の育ち具合の話ばかりだ」
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◇
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全員が笑った。
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久しぶりだった。
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本当に久しぶりだった。
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◇
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しかし。
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その笑いの裏で。
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敵軍は着実に前進していた。
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海岸部を固め。
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飛行場を建設し。
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包囲網を狭めている。
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◇
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ラバウル守備隊は持ちこたえていた。
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だが余裕はない。
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◇
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鬼塚大尉は地図を見つめながら呟く。
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「時間の問題かもしれんな」
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◇
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神崎は何も言わない。
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ただ外を見る。
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◇
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畑では小さな芽が風に揺れていた。
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戦争の中で。
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死と破壊に囲まれた島で。
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それでも命は育っている。
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◇
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そしてその頃。
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ラバウル残存航空隊へ極秘命令が届こうとしていた。
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残された零戦を使った、ある大胆な作戦。
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それは。
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ラバウル航空隊最後の大規模出撃となるかもしれなかった。
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