ラバウルの鷹   作:UMC OGASOU

20 / 20
第二十話 夜の飛行場襲撃

 

 

 昭和十九年六月。

 

 ラバウル内陸部。

 

---

 

 雨季だった。

 

---

 

 昼も夜も雨が降る。

 

---

 

 ジャングルは泥沼になっていた。

 

---

 

 湿気で銃は錆びる。

 

---

 

 服は乾かない。

 

---

 

 傷は化膿する。

 

---

 

 

---

 

 それでも戦いは続いていた。

 

---

 

 敵補給路への襲撃。

 

---

 

 偵察。

 

---

 

 待ち伏せ。

 

---

 

 小規模な戦闘が毎日のように繰り返される。

 

---

 

 

---

 

 そんなある日。

 

---

 

 鬼塚が神崎を呼んだ。

 

---

 

 

---

 

 地下壕。

 

---

 

 簡素な机。

 

---

 

 地図が広げられている。

 

---

 

 

---

 

「面白い情報が入った」

 

---

 

 鬼塚が言う。

 

---

 

 

---

 

「敵飛行場だ」

 

---

 

 

---

 

 神崎の目が細くなる。

 

---

 

 

---

 

 敵軍は海岸近くに飛行場を建設していた。

 

---

 

 ラバウル攻略の拠点。

 

---

 

 航空支援基地。

 

---

 

 

---

 

「規模は?」

 

---

 

「かなり大きい」

 

---

 

「警備は?」

 

---

 

「厳重だ」

 

---

 

 

---

 

 しばらく沈黙。

 

---

 

 

---

 

 そして鬼塚は笑った。

 

---

 

「だから襲う」

 

---

 

 

---

 

 神崎も思わず笑う。

 

---

 

 航空隊らしい発想だった。

 

---

 

 

---

 

 数日後。

 

---

 

 襲撃部隊編成。

 

---

 

 総勢二十七名。

 

---

 

 元搭乗員。

 

---

 

 整備兵。

 

---

 

 歩兵。

 

---

 

 混成部隊だった。

 

---

 

 

---

 

 村田も参加する。

 

---

 

「整備兵だろ、お前」

 

---

 

 神崎が言う。

 

---

 

 

---

 

「昔、喧嘩は強かったんです」

 

---

 

 

---

 

 誰も信じなかった。

 

---

 

 

---

 

 夜。

 

---

 

 出発。

 

---

 

 月明かりもない。

 

---

 

 真っ暗なジャングル。

 

---

 

 

---

 

 部隊は無言で進む。

 

---

 

 足音を消す。

 

---

 

 話さない。

 

---

 

 煙草も吸わない。

 

---

 

 

---

 

 三日後。

 

---

 

 敵飛行場近くへ到達。

 

---

 

 

---

 

 神崎は双眼鏡を覗いた。

 

---

 

 飛行場。

 

---

 

 滑走路。

 

---

 

 格納庫。

 

---

 

 駐機場。

 

---

 

 

---

 

 そして。

 

---

 

 ずらりと並ぶ敵機。

 

---

 

 ヘルキャット。

 

---

 

 輸送機。

 

---

 

 爆撃機。

 

---

 

 

---

 

 一年前なら。

 

---

 

 零戦で攻撃していただろう。

 

---

 

 

---

 

 だが今は違う。

 

---

 

 徒歩で来ている。

 

---

 

 

---

 

「変な気分だな」

 

---

 

 佐伯が呟く。

 

---

 

 

---

 

「本当にな」

 

---

 

 

---

 

 夜更け。

 

---

 

 襲撃開始。

 

---

 

 

---

 

 部隊は二手に分かれる。

 

---

 

 神崎隊。

 

---

 

 鬼塚隊。

 

---

 

 

---

 

 神崎たちは有刺鉄線へ近付く。

 

---

 

 慎重に切断。

 

---

 

 音を立てない。

 

---

 

 

---

 

 警戒兵が通過する。

 

---

 

 全員息を止める。

 

---

 

 

---

 

 やがて。

 

---

 

 侵入成功。

 

---

 

 

---

 

 駐機場。

 

---

 

 敵機が並んでいる。

 

---

 

 

---

 

 神崎は一瞬立ち止まった。

 

---

 

 飛行機だった。

 

---

 

 敵機ではある。

 

---

 

 だが。

 

---

 

 同じ空を飛ぶ機械だった。

 

---

 

 

---

 

 昔なら空中で戦った相手。

 

---

 

 今は地上に並んでいる。

 

---

 

 

---

 

「神崎さん」

 

---

 

 村田が小声で呼ぶ。

 

---

 

 

---

 

 我に返る。

 

---

 

 

---

 

 爆薬設置。

 

---

 

 次々に。

 

---

 

 主翼。

 

---

 

 燃料タンク付近。

 

---

 

 格納庫。

 

---

 

 

---

 

 時間はない。

 

---

 

 

---

 

 全員が離脱を始める。

 

---

 

 

---

 

 その時。

 

---

 

 警報。

 

---

 

 

---

 

「誰だ!」

 

---

 

 敵兵の声。

 

---

 

 

---

 

 見つかった。

 

---

 

 

---

 

「走れ!」

 

---

 

 神崎が叫ぶ。

 

---

 

 

---

 

 銃声。

 

---

 

 探照灯。

 

---

 

 怒号。

 

---

 

 

---

 

 そして。

 

---

 

 爆発。

 

---

 

 

---

 

 最初の機体が炎上する。

 

---

 

 

---

 

 続いて二機。

 

---

 

 三機。

 

---

 

 

---

 

 格納庫も爆発。

 

---

 

 火柱が夜空を照らした。

 

---

 

 

---

 

 敵飛行場が混乱に包まれる。

 

---

 

 

---

 

 部隊は全力で撤退した。

 

---

 

 ジャングルへ飛び込む。

 

---

 

 

---

 

 敵兵が追ってくる。

 

---

 

 だが夜のジャングルは日本軍の方が慣れていた。

 

---

 

 

---

 

 十分。

 

---

 

 二十分。

 

---

 

 一時間。

 

---

 

 ようやく追撃を振り切る。

 

---

 

 

---

 

 全員疲れ切っていた。

 

---

 

 

---

 

 鬼塚が人数確認を始める。

 

---

 

 一人。

 

---

 

 二人。

 

---

 

 三人。

 

---

 

 

---

 

 そして。

 

---

 

 全員いる。

 

---

 

 

---

 

 誰も欠けていなかった。

 

---

 

 

---

 

 珍しいことだった。

 

---

 

 最近の戦いでは。

 

---

 

 誰かが帰らないことの方が多かった。

 

---

 

 

---

 

 神崎たちは静かに座り込む。

 

---

 

 遠くで炎が見えた。

 

---

 

 敵飛行場だ。

 

---

 

 

---

 

 鬼塚が小さく笑う。

 

---

 

「久しぶりの戦果だな」

 

---

 

 

---

 

 誰も大声では喜ばない。

 

---

 

 だが皆の顔には満足そうな表情が浮かんでいた。

 

---

 

 

---

 

 空は失った。

 

---

 

 基地も失った。

 

---

 

 仲間も多く失った。

 

---

 

 

---

 

 それでも。

 

---

 

 まだ戦える。

 

---

 

 まだ抵抗できる。

 

---

 

 

---

 

 ラバウル航空隊。

 

---

 

 その名はほとんど残っていない。

 

---

 

 だが男たちは生きていた。

 

---

 

 そして戦っていた。

 

---

 

 

---

 

 しかし昭和十九年後半。

 

---

 

 彼らはさらに衝撃的な知らせを耳にする。

 

---

 

 日本本土近海でも戦局が悪化。

 

---

 

 連合艦隊は後退を続け。

 

---

 

 かつて無敵と呼ばれた帝国海軍は、徐々にその力を失いつつあった。

 

---

 

 遠く離れた孤島ラバウルにも、その影が忍び寄ろうとしていた。

 

---

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。