昭和十七年十一月。
ラバウル基地。
森山が戦死してから二週間が過ぎていた。
飛行隊は相変わらず出撃を繰り返している。
敵が来る。
迎撃する。
帰る。
また飛ぶ。
戦争は、誰か一人が死んだからといって止まったりはしない。
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しかし神崎には分かっていた。
何かが変わり始めている。
森山の死だけではない。
もっと大きな何かだ。
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その日の朝。
作戦室では地図を前に搭乗員たちが集まっていた。
鬼塚大尉が腕を組む。
「敵航空戦力の増強が確認された」
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ざわめきが起きる。
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「新型機か」
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誰かが呟いた。
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鬼塚は頷く。
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「詳細は不明だ」
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「だが今までの敵とは少し違うらしい」
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神崎は顔をしかめた。
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戦争が始まってから、日本軍搭乗員たちは何度も新しい敵と戦ってきた。
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しかし。
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最近は嫌な話ばかり聞く。
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敵機の性能向上。
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敵搭乗員の練度向上。
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敵艦隊の増加。
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どれも良い話ではない。
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◇
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数日後。
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神崎たちはガダルカナル方面への護衛任務に出撃した。
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天候は快晴。
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雲が少ない。
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空戦には最悪の条件だった。
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隠れる場所がない。
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見つかれば正面から戦うしかない。
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◇
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「敵機!」
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見張りが叫ぶ。
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神崎は反射的に空を見上げた。
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遠く。
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高空。
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複数の機影。
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こちらへ向かってくる。
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だが。
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「何だあれは」
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佐伯の声。
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神崎も違和感を覚えた。
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形が違う。
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今まで戦ってきた機体とは。
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機首が長い。
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大きい。
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そして。
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速そうだった。
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◇
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「全機警戒!」
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鬼塚の声。
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敵機が急降下してくる。
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速い。
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明らかに速い。
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「くっ!」
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神崎は反射的に旋回した。
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敵機が一瞬で横を通り過ぎる。
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その速度に驚いた。
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今までの敵機なら、もっと旋回戦になった。
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だが違う。
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敵は高速で突っ込み、高速で離脱していく。
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そしてまた上昇する。
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◇
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「神崎!」
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鬼塚の声。
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「追うな!」
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神崎は我に返る。
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危なかった。
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いつもの癖で追いかけるところだった。
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だが相手は違う。
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速度がある。
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無理に追えばこちらが不利になる。
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◇
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空戦は混乱した。
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敵機は一撃離脱を繰り返す。
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近づけば速い。
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離れればもっと速い。
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まるで捕まらない。
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「なんだこいつら……」
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佐伯が悪態をつく。
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神崎も同じ気持ちだった。
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今までの敵とは戦い方そのものが違う。
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◇
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だが。
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零戦もまだ強かった。
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一機の敵が旋回戦へ持ち込まれた。
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神崎はそこを逃さない。
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旋回。
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さらに旋回。
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零戦が得意とする戦いだ。
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徐々に背後へ回る。
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「取った!」
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発砲。
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命中。
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敵機の翼から煙。
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さらに追撃。
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敵機は降下しながら逃げていく。
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撃墜までは確認できなかった。
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だが手応えはあった。
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◇
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戦闘終了後。
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飛行隊は帰投した。
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損害は軽微。
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しかし誰の顔も晴れなかった。
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◇
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作戦室。
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鬼塚が黒板の前に立つ。
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「今日の敵機について分かったことがある」
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全員が注目する。
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「米軍の新鋭戦闘機らしい」
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ざわめき。
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「名前はまだ確定していない」
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「だが速度性能が高い」
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「今後増える可能性がある」
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◇
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会議後。
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神崎と佐伯は飛行場を歩いていた。
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「嫌な感じだな」
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佐伯が言う。
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「ああ」
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神崎も頷く。
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「強かった」
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「今までの敵よりな」
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◇
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その時だった。
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格納庫の向こうで騒ぎが起きる。
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「輸送機だ!」
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「本土からか?」
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皆が空を見る。
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一機の大型輸送機が着陸してきた。
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飛行場に止まる。
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扉が開く。
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中から降りてきた男たちを見て、神崎は思わず目を見開いた。
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空母航空隊の搭乗員だった。
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いや。
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正確には。
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元・空母航空隊だった。
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◇
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彼らは疲れ切っていた。
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制服も汚れている。
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表情も暗い。
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だがその目だけは鋭かった。
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歴戦の搭乗員たち。
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空母を失い。
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仲間を失い。
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それでも生き残った者たちだった。
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◇
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その中の一人が神崎たちを見る。
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「ラバウル航空隊か」
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「はい」
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神崎が答える。
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男は苦笑した。
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「羨ましいな」
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「え?」
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「まだ大勢仲間がいる」
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その言葉に神崎は返事ができなかった。
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◇
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夜。
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歓迎会が開かれた。
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だが宴会というより報告会に近かった。
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そこで神崎たちは初めて聞く。
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ミッドウェー海戦の詳細を。
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炎上する空母。
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次々と失われる飛行甲板。
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帰る場所を失った搭乗員たち。
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そして。
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失われたベテランたち。
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部屋は静まり返った。
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◇
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元空母搭乗員の一人が言った。
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「戦争は変わった」
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誰も反論しない。
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「俺たちはまだ戦える」
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男は続ける。
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「だが敵も強くなる」
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「これからが本当の勝負だ」
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◇
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その夜。
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神崎はなかなか眠れなかった。
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窓の外には南国の星空。
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ラバウルの夜は静かだった。
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しかしその静けさの向こうで。
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戦争は確実に大きくなっている。
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そして翌月。
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ガダルカナルを巡る戦いは決定的な局面へ向かう。
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神崎たちもまた、その激流へ飲み込まれていくことになる。
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戦争はまだ始まったばかりだった。