ラバウルの鷹   作:UMC OGASOU

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第九話 鉄底海峡

 

 

 昭和十七年十一月下旬。

 

 ラバウル基地。

 

 夜明け前。

 

 飛行場は慌ただしかった。

 

 整備兵たちが走り回り、通信兵が次々と命令を伝えている。

 

 いつもの出撃前とは違う。

 

 何か大きな作戦が動いている。

 

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 神崎隼人が作戦室へ入ると、すでに飛行隊の主力が集まっていた。

 

 鬼塚大尉の表情は険しい。

 

 その横には見慣れない参謀までいる。

 

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「全員揃ったな」

 

 鬼塚が口を開く。

 

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 壁の地図にはガダルカナル島。

 

 そして周辺海域。

 

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「昨夜、我が艦隊が敵艦隊と交戦した」

 

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 誰も口を挟まない。

 

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「現在、周辺海域は大混戦状態にある」

 

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 神崎は息を呑んだ。

 

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 また海戦か。

 

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 しかし今回は規模が違うらしい。

 

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「我々は上空援護および索敵を担当する」

 

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「敵空母ですか?」

 

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 誰かが尋ねた。

 

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「分からん」

 

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 鬼塚は首を振った。

 

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「戦艦かもしれん」

 

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「巡洋艦かもしれん」

 

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「何が出てくるか誰にも分からん」

 

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 部屋が静まり返る。

 

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 出撃。

 

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 二十数機の零戦がラバウルを飛び立つ。

 

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 神崎の愛機は相変わらず補修跡だらけだった。

 

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 だが飛ぶ。

 

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 まだ飛べる。

 

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 村田たち整備兵が必死に支えているからだ。

 

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 神崎は操縦席の中で呟く。

 

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「帰ったら礼を言わないとな」

 

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 数時間後。

 

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 ソロモン諸島上空。

 

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 雲が多い。

 

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 海は荒れていた。

 

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「敵艦発見!」

 

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 通信が響く。

 

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 神崎は海面を見る。

 

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 小さな影。

 

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 だが近づくにつれ、その正体が見えてくる。

 

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 駆逐艦。

 

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 巡洋艦。

 

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 そして。

 

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 海面に漂う黒煙。

 

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 戦いの痕跡だった。

 

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 燃えている艦。

 

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 転覆しかけている艦。

 

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 海上には破片が散乱している。

 

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 神崎は思わず息を止めた。

 

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 昨日まで戦っていた人々がいる。

 

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 今はもういないかもしれない。

 

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「敵機接近!」

 

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 その時だった。

 

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 高空から敵機が現れる。

 

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 今まで何度も戦ってきた機体。

 

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 だが数が多い。

 

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 二十機以上。

 

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 三十機近いかもしれない。

 

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「迎撃!」

 

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 鬼塚の声。

 

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 零戦隊が散開する。

 

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 神崎も上昇した。

 

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 空が再び戦場になる。

 

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 敵機との交差。

 

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 機銃弾。

 

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 曳光弾。

 

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 雲の中を突き抜ける。

 

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 神崎は敵戦闘機を追った。

 

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 相手も熟練者だ。

 

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 簡単には背後を取らせない。

 

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 旋回。

 

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 降下。

 

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 上昇。

 

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 互いに限界近くまで機体を振り回す。

 

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 だが。

 

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 神崎は違和感を覚えていた。

 

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 以前より敵が上手い。

 

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 確実に。

 

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 開戦当初のような未熟さがない。

 

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 経験を積んでいる。

 

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 こちらと同じように。

 

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「神崎!」

 

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 佐伯の声。

 

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 敵機が一機、佐伯機へ向かっていた。

 

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 神崎は急旋回する。

 

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 援護。

 

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 射撃。

 

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 敵機が回避する。

 

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 その隙に佐伯が離脱した。

 

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「借りは三回目だぞ!」

 

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「そのうち請求する!」

 

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 短いやり取り。

 

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 しかし二人とも笑ってはいなかった。

 

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 余裕がなくなってきている。

 

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 空戦終了後。

 

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 飛行隊は帰投した。

 

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 だが飛行場へ戻る途中。

 

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 神崎は編隊を見回して気付く。

 

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 一機足りない。

 

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 二機。

 

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 いや。

 

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 三機。

 

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 ラバウル帰還。

 

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 整備兵たちが待っている。

 

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 だが。

 

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 戻らない機体があることに皆気付いていた。

 

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 誰も何も言わない。

 

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 夕方。

 

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 司令部から戦果報告が発表された。

 

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 敵艦撃沈。

 

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 敵機撃墜。

 

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 数字だけ見れば勝利だった。

 

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 だが。

 

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 神崎たちは喜べなかった。

 

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 失った仲間の顔が浮かぶからだ。

 

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 夜。

 

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 宿舎。

 

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 元空母航空隊の搭乗員がぽつりと言った。

 

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「この海域にはな」

 

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 全員が顔を上げる。

 

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「沈んだ船が山ほどある」

 

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「……」

 

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「だから米軍はこう呼び始めたらしい」

 

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 男は静かに続ける。

 

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「鉄底海峡」

 

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 誰も喋らなかった。

 

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 海底に沈んだ無数の艦艇。

 

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 日本艦。

 

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 米艦。

 

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 区別なく沈んでいる。

 

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 それほど激しい戦いが続いている。

 

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 神崎は窓の外を見る。

 

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 遠くにラバウル湾の灯火が見える。

 

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 開戦からまだ一年も経っていない。

 

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 だが。

 

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 まるで何年も戦っている気がした。

 

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 その頃。

 

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 ガダルカナルではさらに状況が悪化していた。

 

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 補給不足。

 

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 食糧不足。

 

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 弾薬不足。

 

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 前線の将兵たちは飢えながら戦っている。

 

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 そして海軍もまた消耗していた。

 

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 艦艇。

 

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 航空機。

 

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 搭乗員。

 

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 何もかもが削られている。

 

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 数日後。

 

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 ラバウルへ新たな報告が届く。

 

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 ガダルカナル維持は困難。

 

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 そんな言葉が司令部内で囁かれ始めていた。

 

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 もちろん一般の搭乗員には知らされない。

 

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 だが古参たちは感じていた。

 

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 潮目が変わりつつあることを。

 

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 鬼塚大尉は飛行場で夕焼けを見つめていた。

 

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 隣には神崎。

 

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「隊長」

 

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「なんだ」

 

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「勝てますか」

 

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 神崎は初めてその質問を口にした。

 

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 鬼塚はすぐには答えなかった。

 

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 長い沈黙。

 

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 やがて静かに言う。

 

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「分からん」

 

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 神崎は驚かなかった。

 

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 鬼塚が嘘を言わない人間だと知っていたからだ。

 

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「だがな」

 

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 鬼塚は続ける。

 

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「明日も飛ぶ」

 

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「……はい」

 

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「その次の日も飛ぶ」

 

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「はい」

 

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「それが俺たちの仕事だ」

 

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 夕日が滑走路を赤く染める。

 

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 ラバウルはまだ健在だった。

 

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 零戦もまだ飛ぶ。

 

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 だが歴史は静かに進んでいる。

 

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 そして昭和十八年。

 

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 神崎たちは新たな時代へ足を踏み入れる。

 

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 ラバウルが最も輝き。

 

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 そして最も血を流す時代へ。

 

 

 

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