勇者として召喚された社畜、王女による魔力供給がないと死ぬブラック環境に配属。『解析』『構築』能力を悪用して王国も正義も神も容赦なく破壊する。   作:筆負野ユウ

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第三章
幕間 騎士とお姫様の恋物語


身分の低い若者が王宮に召し出され、王の前で親衛隊長と試合い、その武勇を認められて王女の騎士に取り立てられる。

 

これは、ビュザンティア王国末期前後の説話群にしばしば見られる筋立てである。

 

出自不明の若者。

美しい王女。

忠義深き親衛隊長。

王の御前での試合。

そして、武勇による身分上昇。

 

多少の差異はあれど、基本的に若者は王女と結ばれることとなる。

 

いかにも騎士物語らしい構成であり、混乱期における英雄待望論の発露とする見方が一般的である。

 

ところが、この説話の一変種において、余所者の名は「セト」とされている。

 

もちろん、これをそのまま後の皇帝セトの事績と見ることは難しい。

 

後年のセトは、王家への忠義によって名を成した人物ではない。王女ルナとの関係も、説話に描かれるほど単純なものではなかった。

 

そもそも、この種の余所者騎士譚は各地に類話が存在しており、特定の実在人物へ安易に結びつけるべきではない。

 

では、なぜこの説話はセトと結びついたのか。

 

帝国成立後の建国神話が、皇帝にふさわしい初期武勇譚を求めたからだとする説がある。

 

一方で、旧王国側の反帝国的な語りが、本来の騎士譚を歪め、セトの名を混ぜ込んだのだとする見方もある。

 

また、ルナの信奉者たちが、王女が異邦の英雄を導いたという構図を好んだ可能性も否定できない。

 

いずれにせよ、断定は避けるべきであろう。

 

ただし、ひとつだけ興味深い点がある。

 

セトという人物は、後世においてしばしば、彼自身が嫌ったはずの物語形式に回収されている。

 

史実が物語を生むのではない。

多くの場合、物語の型が、史実を飲み込むのである。

 

神話。

騎士譚。

聖女伝説。

建国叙事詩。

 

彼は血統を疑い、神意を疑い、善意の物語を疑った。

 

にもかかわらず、世間は彼を、血統と神意と善意の物語の中に置きたがった。

 

騎士譚に残る「セト」の名は、史実の証拠というより、むしろその矛盾を示す痕跡なのかもしれない。

 

なお、民間においては、この御前試合の場において、セトが王女のために剣を捧げたとする歌も残されている。

 

セトが王女ルナに騎士として仕えたこと自体は、史実と見られている。

だが、その歌が成立した時期は百年以上後の時代と見られ、史料的価値は高くない。

 

むしろ重要なのは、そうした歌が広く受け入れられたという事実である。

 

人々は、セトを理解したかったのではない。

理解できる形へ、作り替えたかったのだ。

 

――ヘロセン「セトの帝国」 第二章「王宮試合異聞」より

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