勇者として召喚された社畜、王女による魔力供給がないと死ぬブラック環境に配属。『解析』『構築』能力を悪用して王国も正義も神も容赦なく破壊する。   作:筆負野ユウ

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第17話 Life Finds a Way.

ずっと恐竜映画のことを考えていた。

原作小説の方だったかもしれない。

 

遺伝子に細工をされ、特定の必須アミノ酸を合成できない設定。彼らは、管理下でしか生きられないよう細工された生き物だった。

 

けど、たしか、その必須アミノ酸が含まれた豆を食って、野生下でも生き延びるんだ。

 

俺にも“豆”が見つかるだろうか。

 

いや。

 

恐竜たちは確かに、人間による管理という軛を断ち切ったように見えた。

でも考えてみれば、彼らは豆の自生地域から離れて生きてはいけない。

今度は、豆に縛られているのだ。

 

『生命は道を見つける』だったか。

 

言い換えれば、生きるために道に縛られる。

 

元の生活と何ら変わらない。道から弾かれれば、生きてはいけない。あるいは、また別の道に縛られるのか。

 

いや、恐竜の話だけどな。

 

「構えが甘い、セト!」

 

木剣の切っ先が、額すれすれで止まった。

 

相手はカタルギス伯家の令嬢。

ルナの側近にして叙任騎士、ララ。

 

赤髪のショートがよく似合う長身の美人で、剣を握っている時の方が礼服姿よりよほど自然に見える女だ。

 

動きやすさ優先の装備は、露出もそれなり以上に多い。

 

正直、そそる。

生きてるって素晴らしい。

 

「踵が寝てる。右足、もっと外へ。一拍目から重心を意識。腕で振るな、脚で打て」

 

「はい先生」

 

身体強化はかなり控えめにしている。

本気で強化すると力に頼ってしまい、学びが薄くなる。ララの指示だ。

 

言われた通りに動くと、木剣の先で脇腹をコツンと小突かれた。

 

「脇が甘いから腕で振ってしまうんだ。それと……剣先を追わず、相手の胸を見る」

 

「……ほう」

 

あまりジロジロと見るのは憚られる。

 

だが、先生の指示では仕方がない。

たっぷり堪能しよう。

 

胸当ての上部には、豊かな質量に裏付けられた谷間がくっきりと刻まれている。

そこから覗くほくろ。

 

汗が一筋流れ、魅惑空間へと呑み込まれていった。

 

「次に、胸元から意識を広げる。顔や肩も同時に見る」

 

「顔見ると怖いんだけど」

 

嘘だ。

厳しい表情をしていても、美人の顔を見るのに嫌はない。

 

「相手の目線を見るのも重要だぞ。もちろん騙されることもあるから、頼りすぎてはダメだけど」

 

ララは馬鹿っぽく見える。

 

物言いは軽い。

態度も気安い。

良くも悪くも、いろいろと雑だ。

 

だが、剣を教える時は雑ではなかった。

 

骨盤の向き。

肩の落とし方。

足裏の圧の配分。

視線の置き方。

呼吸と踏み込みの噛み合わせ。

 

彼女は感覚派ではない。

自分の身体で覚えたものを、きちんと言葉にできる。優れた師匠だった。

 

「当然、相手も目線でこちらの狙いを察知する。だからこそ、胸から肩、顔、最後には全身へと、意識を広げて見るともなく見るんだ」

 

なるほど。

俺もバハムと戦った時に、観客席を直接見続けたわけではない。開始地点や相手との距離を確認することで、観客席との位置関係を測っていた。

 

こういう考え方は、俺に合っているようで、すとんと腹に落ちる。

 

「はい次。魔法との合わせ技。剣に振り回されずにステップを取りながら、すかさず魔法を撃つ。リズムは常に足で取る」

 

ララは戦闘で魔法を使わない。

純粋な剣士だ。

 

だが、魔法を使う戦いは知っている。魔法を撃つ相手が、どこで足を止め、どこで姿勢を崩すかも見ている。

 

だから、魔法と剣を組み合わせた戦い方の指導もしてくれる。

 

引き出しが多い。

 

剣術はコードじゃない。頭で組めても、体が嘘をつく。

そして、その嘘に自分では気づけない。

だから、彼女の指導には助けられる。

 

一方で、魔法は得意だ。

 

四拍の呼吸に合わせて、瞬時に術式を構築する。

石壁へ向けて小さな火球。

 

はじけた熱量が、灰色の壁を黒く染めた。

 

「威力、昨日より上がってるね」

 

「そうみたいだな」

 

今日になって気づけば、出力は増大していた。

供給量も増えているのを感じる。

 

昨日、真実を知った。

 

かなりショックではあった。

 

惨たらしい死のイメージ。

ルナへの怒り。

逃げられないという理解。

 

その後は部屋へ戻り、考えられることを一通り考えた。

 

ルナをどうするか。

王国とどう付き合うか。

逃げ道はあるのか。

どこまで表情に出さずにいられるか。

 

考えたところで、すぐに答えが出ることではない。

だから、ひとまず寝た。

 

だから、急に出力が増えるような心当たりはない。

 

怒りのパワーで覚醒ってやつだろうか。

だとしたら、俺もいよいよ少年漫画の住人だ。

 

王道展開にしては、発火点がだいぶ陰湿だが。

 

「ますます鍛え甲斐があるわね。頼りにしてるわ」

 

ララはそう言って、屈託なく笑った。

 

風が通り、赤いショートがひらりと揺れる。

 

鍛え甲斐がある。

頼りにしている。

 

それだけだった。

 

少しだけ、呼吸が楽になった。

本当に少しだけだが。

 

ララは木剣を肩に担ぎ、空を見上げる。何か思い出したように、ぽん、と手を打った。

 

「そうだ。あんたに王家の秘宝が下賜されるって噂だよ」

 

「秘宝?」

 

「詳しくは知らない。秘宝だし」

 

なるほど。

秘めたる宝なら、知らないのが道理だ。

 

「普通はありえないからね。ルナ様がいろいろ手配したんでしょう。感謝しなさい」

 

「金目のものかな?」

 

ララは俺の肩をぐいっと抱き寄せた。

 

距離が近い。

かなり近い。

 

口元を耳に寄せて、囁くように言う。

 

「金には代えられないもの、よ」

 

こそばゆい。

 

汗のにおいが香った。

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