勇者として召喚された社畜、王女による魔力供給がないと死ぬブラック環境に配属。『解析』『構築』能力を悪用して王国も正義も神も容赦なく破壊する。   作:筆負野ユウ

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第55話 人間由来の神もどき

ミラークはしばらく何も言わなかった。

壁に手をついたまま、こちらを見ている。

 

恐怖。驚愕。

それから、理解できないものを理解しようとする目。

 

こいつは、まだ見ている。

自分を殺すかもしれない相手を。

自分の罠を壊した相手を。

 

「まだ続けるか?」

 

俺が問うと、ミラークは小さく息を吐いた。

 

「……いいえ。続けても、私には勝ち目がないようです」

 

「正しい判断だ」

 

「ですが、私には価値があります」

 

「へえ」

 

命乞いの方向が、少し変わった。

 

「あなたは情報を求めている。私には、それを説明できます」

 

ミラークは脚を庇いながら、壁にもたれる。

血の気は引いている。

 

「いまの防衛術式。先ほどのスピリット。あれらは、この館の研究成果の一部です」

 

「研究成果?」

 

「ええ。私は、この研究に関わっています」

 

代官じゃなかったのかよ。

いや、代官であり、研究者でもあるということか。

 

「私を殺せば、あなたは物を見つけることはできるでしょう。ですが、意味までは分からない」

 

「意味?」

 

「何を素材にし、何を作り、何を再現しようとしていたのか。あなたはそれを知りたいはずです」

 

「ずいぶん自信があるな」

 

「あります」

 

ミラークは、そこでほんの少しだけ目を細めた。

恐怖の中に、奇妙な熱が混じる。

 

「価値のある研究ですから」

 

「自慢か?」

 

「命乞いです」

 

「どちらでも同じことだけどな」

 

そう。こいつが研究者だというのであれば、生かす理由が増えた。

これは事実だ。

 

「私は、あなたに敵対する必要がありません」

 

「さっき罠を起動した奴の台詞じゃないな」

 

「身を守ろうとしただけです」

 

「護衛二人は仕事を全うして死んだぞ」

 

「残念です」

 

どうでも良さそうだな。

少なくとも人間としては、碌な奴ではなさそうだ。

 

「私は研究を続けたい」

 

ミラークは続けた。

 

「研究を続けられるのであれば、出資者が誰であるかは重要ではありません」

 

「王太子殿下でも?」

 

「ええ」

 

「節操なしだな」

 

「研究者ですから」

 

そういうものか。

まあ、俺だって仕事は金になればいい。

金の出所なんて気にしない。

 

「奥へ案内しろ」

 

「その前に、脚を」

 

「歩けるんだろ?」

 

「歩けます」

 

「じゃあ歩け」

 

ミラークは顔をしかめた。

それでも抗議はしなかった。

 

「おかしな真似をすれば殺す」

 

「おかしな真似とは?」

 

「俺がおかしいと思うような真似だ」

 

俺はミラークの背後につく。

触れない。だが、いつでも殺せる位置。

 

ミラークは壁のレリーフの奥、さらに奥の私室へ進む。

 

寝台。

椅子。

机。

羊皮紙の束。

 

きれいすぎる。

俺の部屋が散らかってるからそう感じるのか。

だが、さすがに質素で整い過ぎている。

 

なにかを隠すなら、もっと乱雑にするべきだ。

俺も、都合の悪い書類は、整理されていない段ボール箱へ突っ込むタイプだ。

 

とはいえ、ここは私室。

部屋の主の几帳面な性格が出ている。

 

ミラークは机の横の棚へ向かう。

 

「ゆっくり」

 

「分かっています」

 

棚の下段。

 

一冊だけ背表紙のない本。

いや、本に見せかけた板か。

ミラークがそれを押す。

 

壁の奥で、鈍い音がした。

金属が噛み合う音。

 

ミラークが引くと、棚が横へ滑った。隠し扉。

ベタだ。

 

棚の奥には、さらにもう一つの扉。

 

「先に入れ」

 

「ここから先は、あなたが想像しているより不快かもしれません」

 

「親切だな」

 

「研究の価値を理解していただくためです」

 

「不快なものを見せて?」

 

「ええ。それだけの価値があります」

 

駄目だ。こいつ、本当に研究者だ。

 

「開けろ」

 

ミラークが扉へ手を置く。

ちらりと、こちらを見る。

 

「警報は切ってあります」

 

「信じると思うか?」

 

「さあ」

 

「いいから開けろ」

 

扉が開いた。部屋はそれなりに広かった。

館の構造から目星を付けていたが、まあ妥当な広さ。

 

壁一面に、棚。

棚。

棚。

 

石板。

羊皮紙。

透明な筒。

金属の輪。

乾いた何か。

光を封じた小瓶。

 

そして、人を寝かせるためと思われる台。

台の一つには、黒ずんだ拘束具が残っていた。

血はない。

 

床も壁も、思ったより綺麗だ。

だが、それがむしろ不穏だった。

加工場だ。あるいは、工房。

 

「……テクネー」

 

ミラークが言った。

 

「人間由来の魔道具です」

 

「人間由来、ね」

 

ヒトプラセンタくらい軽く言いやがる。

が、この設備を見れば、なにが行われていたかはお察しだ。

 

「人間を加工するのか?」

 

「まあ、そうです」

 

「殺して運び込むの?」

 

拘束具がある時点で、それはないと思ったが、念のために聞く。

 

「生きた人間を使うことは出来ません。生命には干渉を拒絶する機能がありますから。しかし、死ねばすぐに、魂と術式は劣化を始めます。……なので、まあ、殺してすぐですね」

 

『干渉を拒絶』という言葉が妙に引っかかった。

しかし、今は話を進める。

概要把握が先だ。

 

「とにかく、人を殺して、死体を魔道具に変えてるわけね」

 

ミラークは首を振る。

少しだけ、研究者としての不満が混じった声だった。

 

「魂と術式を含めた構成を、目的に応じて再編する。肉体は器であり、それ自体は材料ではありません」

 

「もっと悪い言い方になった気がするな」

 

「正確な言い方です」

 

俺は棚を見る。

 

小さな金属輪。

青い石。

乾いた薄片。

番号札。

 

名前はない。

番号だけ。

分類。

用途。

抽出率。

適合率。

 

人間だったものが、商品棚みたいに並んでいる。

気持ち悪い。心からそう思う。

 

でも、俺は目を逸らさない。

見なかったことにすると、次に俺が材料になる。

 

「お前が作ったのか?」

 

「構成理論の研究はしています」

 

「作ったのかと聞いてる」

 

「加工はできません。実際に再構成ができるのは、カイルス様だけです」

 

カイルス。

――まて、再構成と言ったか?

いや、今はこいつに気持ちよく喋ってもらうターンだ。

 

「お前は理論担当」

 

「そう言って差し支えありません」

 

「じゃあ聖職者は?」

 

ミラークは少しだけ沈黙した。

そして、すぐに答えた。

 

命が惜しいらしい。

研究も惜しいらしい。

 

「素材です」

 

「だろうな」

 

「国教会の聖職者には、生まれつきの術式を持つ者が多い」

 

「生まれつきの術式?」

 

「ええ。一般には、神の御業、天賦の術式とされます」

 

ミラークは棚から一枚の石板を取り出す。

 

「信仰的に優れた者、神に選ばれた者、奇跡を起こす者。そういった人間は、教会へ集まります。結果として、天賦の術式の保有者も教会に偏る」

 

「素材にうってつけってわけか」

 

「ええ」

 

こちらが興味を持って聞いているのが嬉しいのか、ミラークは徐々に饒舌になってくる。

 

「とはいえ、人間の持つ術式の多くは、不完全で意味を成しません。それらを抽出し、構成するのが腕の見せ所というわけです」

 

えぐい話を自慢げに語る。

研究とその成果にしか興味がない。

マッドサイエンティストってやつか。

 

「もちろん、素材となったのは、聖職者だけではありません。それだけでは無意味な術式しか持たぬ者も含め、大勢」

 

ジャンクコードを構成し直して、意味のあるコードを紡ぐのか。

 

しかし、悪びれない。

本当に悪びれない。

 

「で、これで何を作った?」

 

「魔力を込めるだけで発動する魔道具。防衛術式の核。スピリットの安定素体」

 

「防衛術式って、まさか、さっきの罠か。あれは成功なのか?」

 

「……おそらく」

 

「おそらく?」

 

「あなたが消してしまいましたから」

 

恨めしそうな目。そんな目で見るな。

なんか俺が悪いみたいな気になってくる。

気のせいだが。

 

ミラークは奥の台へ向かう。

そこには、布を掛けられた何かがあった。

布の下から、薄く魔力が漏れている。

 

「これを見れば、研究の意味が分かるはずです」

 

「急に営業みたいになったな」

 

「私を殺すより、生かして使った方が有益だと理解していただきたい」

 

「素直だな」

 

「死にたくありませんので」

 

ミラークは布を取った。

そこにあったのは、箱だった。

 

一辺が二十センチほどの立方体。

真鍮のような金属製。

表面にはレリーフが刻まれている。

そして横面には硝子だろうか、透明な窓。

窓の中には、なにやら揺らめく光。

 

俺は、どこかで見たことがある気がした。

 

いや。

 

気がした、じゃない。

 

召喚の祭壇。

俺がこの世界へ呼ばれた場所。

あそこに、似たような模様があった。

 

そして、確か――消えていた金属板。

 

「……テロス」

 

ミラークが言った。

 

「正確には、その模造品です」

 

「本物は?」

 

「ここにはありません」

 

ミラークはすぐ答えた。

 

「カイルス様が所持しています」

 

「祭壇にあった金属板、あれは箱の上面だったというわけか」

 

ミラークの眉が動いた。

 

「……ああ、なるほど。そういうことですな」

 

ミラークは一人で納得すると、勝手に続ける。

 

「この模造品は、テロスの機能を模倣した物です」

 

ミラークの声に、さらに熱が乗る。

さっきまでの怯えや損得ではない。

大好きな趣味の話をする人間の声だ。

 

「異世界から誰かを召喚するようなことは出来ません。ですが、対話と照合、そして祈念増幅に関する機能は再現できつつあります」

 

「祈念増幅?」

 

なんか、嫌な言葉だ。

 

「信仰心、願望、恐怖。そういった精神の向きには、魔力の波形が伴います」

 

「精神にも波形か」

 

「人の思考が読めるわけではありません。ですが、強い信仰は違う。かなり規則的な魔力の揺らぎを伴います」

 

「それをどうする?」

 

「拾い、整え、返す」

 

「返す?」

 

「ええ。信じる者は、より強く信じる。祈る者は、祈りが届いたと感じる。迷う者は、答えを得たと錯覚する」

 

「布教装置か」

 

ミラークは少しだけ考えた。

 

「乱暴な言い方ですが、確かに、そういう使い方になるんでしょうか。聖音派とは別の宗派の信徒でも、教えに共通する部分が多ければ効果はあるはずですし……」

 

使い方まで考えていませんでしたってか。

どこまでも研究者だな。

 

「ん? 聖音派の教えが重要なのか?」

 

「この模造品には、聖音派の教義を学習させています。信仰者に対して、適切な言葉を返す必要がありますから」

 

「神様ロールプレイ用の台本ってわけだ」

 

「……本当に乱暴な言い方をしますね」

 

「違うのか?」

 

「違いませんね」

 

ミラークは少しだけ肩をすくめた。

本当に、少しだけ。

 

返り血まみれで、脚を負傷して、命を握られている人間の仕草ではない。

研究の話になると、こいつは自分を取り戻す。

 

最低だな。

だが、少し分かる。

いや、分かりたくない。

 

「今は低稼働状態です。起こしますね」

 

ミラークが言った。

 

「やめろ」

 

「危険はありません。出力は低い。あなたなら、むしろ面白い反応が得られるかも」

 

そう言うミラークの顔は、これまで見たこともないほど輝いていた。

おもちゃを前にわくわくを抑えきれない子供そのものだ。

 

「俺を実験台にするな」

 

「信心は篤いほうで? ……まさかですよね。 安全ですよ」

 

「それは俺が決める」

 

「では、説明だけに留めます」

 

ミラークはそう言いながら、台座の箱に手を伸ばした。

 

こいつ。

 

「おい」

 

遅かった。

淡い光が強くなった。

 

金属外殻の線に、薄い魔力が走る。

室内の空気が変わった。

 

音はない。

だが、耳の奥に圧が来る。

 

『迷える者よ』

 

声がした。

 

『汝の内なる声に響く音を聞け』

 

うわ。急に変な設定で喋り始めた。

 

「お前な……殺すぞ」

 

「すみません。我慢できませんでした」

 

そう言うミラークの顔は、おもちゃを自慢する子供のそれだ。

こいつを殺すのは、損得抜きで惜しくなってきた。

 

『正しき音は、汝を導く』

 

言葉はどうでもいい。

問題は、その奥だ。

 

魔力の気配。

いや、魔力の波。

 

言葉とは別に、何かがこちらへ触れている。

外側ではない。

内側に。

精神に。

指をかけようとしている。

 

その指を解析。

詳細までは追えない。

複雑だ。

 

さっきの球体とは比べものにならない。

だが、方向は分かる。こちらの中にある何かを拾おうとしている。

 

拾い、整え、増幅し、返そうとしているということか。

信仰心があれば、たぶん気持ちいいのだろう。

 

神の声を聞いた。

祈りが届いた。

自分は選ばれた。

 

そう思えるのかもしれない。

残念ながら、俺にはない。

 

増幅する信仰心が、そもそもない。

だから、気持ち悪いだけだ。

 

「止めろ」

 

怒気を込めて、強く言った。

 

ミラークが台座の箱に触れる。

光が弱まり、室内の圧が消えた。

 

たった数秒。

だが、数秒で充分だった。

 

「……どうでしたか?」

 

ミラークが訊く。

悪びれるどころか、少し期待している。

 

死ねばいいのに。

いや、まだ死なせない。

 

「気持ち悪い」

 

「それだけですか?」

 

「俺にはな」

 

ミラークの目が細くなる。

 

「なるほど。信仰心が乏しい」

 

「乏しいんじゃない。ないんだよ」

 

「だから増幅効果が発生しなかった」

 

「だから気持ち悪さだけが残った」

 

「興味深い」

 

「殺すぞ」

 

「失礼しました」

 

本当に失礼だ。

 

「でも、信者相手なら効くんだろうな」

 

「ええ。非常に」

 

ミラークは、誇らしさを隠すことなく言った。

 

「神の声を聞いた、と感じる者も多いでしょう」

 

神の声。

その言葉で、ふと思い出す。

 

あの修道騎士くずれ。

アンなんとか。そして、その兄。

あいつら、神に会ったとかなんとか言っていたな。

 

俺はミラークを見る。

 

「それ、国教会か騎士修道会にも流してるのか?」

 

「……何の話です?」

 

「あのときの修道騎士くずれが、神に会ったとか言ってた。そいつがこの館を襲った。お前らの仕込みじゃないのか」

 

ミラークは、心底分からないという顔をした。

演技ではない。少なくとも、そう見える。

 

「あり得ません。作ったのはこれ一つです。それに、私やカイルス様が、騎士修道会の者を唆してこの館を襲わせる意味が分かりません」

 

「まあ、そりゃそうか」

 

意味が分からない。

確かに。

 

「……しかし……」

 

ミラークは考え込む。

考え込むな。お前が考え始めると、話が長くなりそうだ。

 

「本物のテロスには、神兵を作り出す力があるとか。あのときの白鎧がそれであるなら何らかの関連は……」

 

アンなんとかも、あれを神兵と呼んでいた。

符合はする。

 

「それに、彼らがテロスと接触したかはともかく、テロスという存在が神として認識されることは、確かにあり得ます」

 

「模造品じゃなく、本物なら、なおさら?」

 

「ええ」

 

「じゃあ本物が、あいつに接触した可能性は?」

 

「私は本物を管理していません」

 

「カイルスか」

 

「カイルス様なら、可能かもしれませんが……」

 

ミラークはそこまで言って、少し黙った。

言いすぎたと思ったのか。

 

いや、研究者として、分からないことに引っかかったのかも。

 

「しかし、やはり変ですよ」

 

「まあ、自分のとこの施設だしな」

 

「それもですが、カイルス様が聖音派を使うことがですよ。あの方は、彼らを危険視しています」

 

「危険視?」

 

「ええ。信仰集団として、ではありません。もっと構造的な……」

 

その時だった。

 

少しの衝撃。

遅れて入ってくる、僅かな熱気。

通路の方から、乾いた音が連続して響く。

 

俺は反射的に振り返った。

開けっ放しの出入り口から顔を出して確認する。

館に火球が直撃したようだ。

 

エリサだ。

急ぎ撤退せよの合図。

文字通り火球の事態。

いや、火急の事態。

 

くだらないことを考えている場合じゃない。

まだ確認したいことが山ほどある。

 

テクネー。

本物のテロス。

聖音派教会。

神兵。

カイルス。

 

だが、何か起こったのだろう。

まずいことが。

 

急ぎ物品を回収し、ミラークを連れて離脱しなければならない。

俺は台座の周囲を見る。

 

持ち運べそうな物品。

資料。

全部は無理だ。

 

テクネーの試作品かガラクタかの区別がつかない。

優先順位。

軽いもの。

情報量が多そうなもの。

証拠になるもの。

 

王太子に見せられるもの。

いや、見せていいもの。

 

考えろ。

 

「ミラーク」

 

「はい」

 

「持ち出すならどれだ」

 

ミラークは一瞬だけ目を輝かせた。

本当に救いようがない。

 

「右の棚、書類全部。左の棚、二段目のも。模造テロスの対話記録です。ああ、あと模造テロス本体ですね。他の試作品も一通り。あと適合率表が……」

 

多い。きりがない。

が、検討している時間が惜しい。

 

「俺は書類を袋に突っ込む。お前はそれ以外を選別しろ」

 

「あ、左の箱は触らない方がいいですよ。固定が外れると中身が崩れます」

 

「中身って何だ」

 

「元、人です」

 

触らないでおこう。

 

俺は皮袋を掴み、資料を詰める。

 

ミラークにも持たせる。

 

「急げ」

 

「……私は、あなたに協力できます」

 

「もうしてるだろ」

 

「研究のことだけではありません。例えば……カイルス様は、あなたを殺すつもりがないように思えます」

 

その言葉に、手が止まった。

 

「なぜそう思う?」

 

ミラークは息を吸う。

言っていいことか、悪いことか、判断している。

あるいは、研究者として、正確な言い方を探している。

 

いや、違うかな。

自分の価値を少しでも釣り上げようとしているのか。

 

「最初の襲撃から、カイルス様のあなたへの対応は妙です。あなたを排除するには、いくつも機会があったはずです。ですが、あの方は……」

 

そこで、声がした。

 

「お喋りが過ぎるな」

 

静かな声だった。

 

低い。

怒鳴ってはいない。

だが、部屋の温度が一段下がった。

 

俺は反射的にミラークの襟を掴み、自分の前へ引き寄せる。

視線を入口へ向ける。

 

いつの間に、とは言わない。

ミラークと資料に気を取られた。

そして、相手がその隙に近づいた。

それだけの話だ。

 

扉の向こうに、男が立っていた。

 

見た目は三十代後半から四十歳ほど。

 

若いとは言わない。

だが、老いてもいない。

 

整った顔立ち。

落ち着いた目。

旅装に近い軽装。

右手には剣。

 

――カイルス。

 

彼は、俺ではなく、まずミラークを見た。

 

「残念だ」

 

俺はミラークの首元に実物の剣を添える。

人質だ。効果があるかは分からない。

だが、やらないよりは、ましだ。

 

カイルスは、ゆっくりとこちらを見る。

その視線は、真っ直ぐだった。

 

「久しぶりだな、セト」

 

俺はミラークを盾にしたまま、笑ってやった。

 

「戦友の誼で、いろいろ教えてもらってたところだ」

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