「さっきは庇ってくれてありがとうございます!」
リハーサルを終えたツキナは火宮に言った。時刻は正午。火宮は四角いメガネをくいっと上げる。
「…次はもう庇えないからな」
「えへへ〜。優しい」
ツキナが火宮の腕をツンツンとちょっかいを出す。
「炎上するからやめて」
火宮がツキナの両手を片手で押さえ込んでスマホを見る。愛用のスケジュール管理アプリを見ているのだとすぐにわかった。
「こっから1時間休憩。腹減ったろ。なんか食べたいもんとかあるか?」
「お寿司!」
火宮は小さく頷いて歩き始めた。
「次の予定はテレビ番組のインタビュー。生放送だからやらかすんじゃねえぞ?ツアー内容のネタバレとか絶対すんなよ?」
「わかってるって!秘密にするのは得意だよ!」
2人は裏口から外の駐車場へ向かいながら話す。月奈は火宮のことを親のように信頼していた。
本当の親は離婚してバラバラになった。2人ともどこに行ったかなんて見当もつかない。月奈はたった1人、残された。17歳のときだっただろうか。そのまま大学にも行けず、あちこちでバイトをして生きていた。そんな時に、その生まれ持った美貌が評価される日がやってきたのだ。偶然出会ったJUMPUPエンターテイメントの社長にスカウトされた。初めのうちは他にやりたいことも何もなく、ただただ流されるままアイドルとして活動をしていた。その活動を続けるうちに、達成感を見出すようになっていったのだった。
「いただきまぁーす!」
ローカルテレビ局のすぐ近くの寿司屋。ツキナは大好きないくら寿司を目の前にすっかりテンションが上がっていた。
「今は『月奈』でいいんだよ…!」
火宮が焦った声で注意した。
「あっ。すっかり仕事モードになってましたぁ…えへへ」
いくらを口に放り込みながら笑う月奈。火宮はやれやれと頭を振った。月奈は髪を下ろし、ごく普通なジャケットを羽織った服装だ。本人はやたらサングラスをしたがったが(スターっぽくてかっこいいじゃん!)かえって怪しいので却下された。堂々としている方が逆に目立たないものだ。
「ふぅ…思いの外ここに来るまでに時間かかったな。あと20分で食べ切ってくれ」
「えぇぇ!?撮影開始一時半でしょぉ!?」
火宮の腕時計を高速ツンツンしながら言う月奈。現在の時刻はまだ12時半である。
「声がでかいって…!迷惑だろ…!お前は事前準備とかありえないくらいやんないから、それくらい余裕あった方がちょうどいいんだよ!」
それを聞いて一瞬で無表情になる月奈。一応思考を巡らせている顔である。
「…私が時間守らなかったことなんてある!?」
「今日の朝の話だろ!!」
きっかり20分後、2人は寿司屋を出た。