「どうも!!小悪魔アイドルツキナです!!」
ツキナが高らかに宣言した。ファンたちは熱い声援を送っている。ステージの下の観客たちは全員波のように盛り上がり、手を挙げる者もいる。
(なんて光景…!)
その瞬間、スピーカーから聴き馴染みのあるフレーズが流れ始めた。それは彼女のデビュー曲、『DEVILHERAT』だ。広い会場に響き渡るイントロは、いつもと全く違って聞こえた。
『黒い翼広げて 長い尾で刻む鼓動のリズム』
ツキナは音に合わせて歌い始めた。何度も何度も歌ってきた曲だ、何も考えずとも歌詞は出てくる。ふと感じた、こんなんでいいのか?と。正確に一音一音を歌っていくだけなら、それは音源と変わらないのでは、と…。
それでも観客たちは大いに盛り上がっている。全身でリズムを取り、音楽に浸っている。
『この胸に秘めた想い 今日こそあなたに言わなきゃ』
(何かを変えなきゃ…気持ちは伝わらない)
ツキナは心の中で感じる。このまま機械的に歌い続けても、ただの(可愛い)CDと変わらない。あと数小節でサビが始まる。
「イタズラっぽい感じがいいよねぇ」
ふとツキナの耳に観客の声が入ってきた。爆音の音楽が鳴り響き、全員が興奮の真っ只中にいる状態で、どうして聞こえたのかは自分でもわからなかった。イタズラっぽい感じ。
「アドリブってわかるな?ある程度の宣伝文句さえ添えれば、あとは言いたいことを言えばいい」
昨日の火宮の言葉が脳内に響いた。ひょっとしてライブでも気持ちさえ伝われば、練習の通り完璧にこなす必要はないんじゃないかな…?
ツキナはその場でくるんと回転した。リハーサルではやっていない完全なアドリブである。激しい回転に対応していないであろう構造のスカートがひゅるんと翻り、銀色のチェーンがシャララと音を立てた。観客たちはツキナの予想外の激しい動きに歓声を上げた。明らかに歌唱用な衣装と、そこから繰り出される激しいダンス。そのギャップが、彼女の小悪魔キャラと合致した瞬間だった。
「カワイイ!」
リョウタが反射的に叫んだ。彼の本能がそう判断したかのように、口をついて言葉が飛び出た。それを聞いたツキナはニヤリと笑う。当然だよ、私ダンススキルがアピールポイントだもん!音楽がサビに突入した。
『I am Little Devil. あなたの夢を 私色に染めてあげる 怖がらなくていいから』
ツキナは思いついたフリを全て試した。両手でハートを作ったり、腰についた作り物の翼を手でひらひらさせたり。その度に観客は興奮の声を上げた。
そうして2時間はあっという間に過ぎ去った。