チート能力なんていらなかった……   作:AteRa

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第一話

 才能とは努力の上に成り立つものである。

 よって、努力なき才能なぞ、あり得ない。

 

 

 

 

 異世界に転生したからと言って、皆が皆楽しめるわけではない。俺は実際に異世界に転生したことによってそのことを実感させられてしまっていた。

 

 無人島に持っていくなら何がいいか、という問いと同じく、異世界に転生して何かを得られるなら何がいいか、という問いは、誰しもが妄想したことがあると思う。例えばチートスキルだったり、モテモテになれそうな格好いい見た目だったり、そんなものを人は考えると思うのだが、今俺が一番欲しいのは何を言おう他人と円滑に人間関係を築ける最低限のコミュニケーション能力だった。

 

 父が帰ってきた。ウチはエンビス帝国の辺境の村にある小さな農家で、父は基本的に畑仕事をしているか、畑仕事がないときは大抵村周辺の見回りの仕事をしている。今日は畑仕事がなかったので、見回りから帰ってきたのだろう。手には小さな兎の死体が握られており、その表情は獲物を手に入れられてとても嬉しそうだった。

 

「おい、ユウェル! ユウェルも食べるよな!」

「アッ……スゥ……ウッス……、」

 

 井戸から水を汲んできていた俺は、父の言葉に目線も合わせられず、小さな声で早口で答える。父ももうこんな俺に慣れたのか、そんなコミュ障丸出しの俺に「おう」と短く言って家の中へと入っていってしまった。

 

 死にたい死にたい死にたい死にたい! 何で俺はこんなにも人とまともに話せないんだ……。ウウッ、俺だってせっかく異世界に転生したんだからモテモテハーレム激楽しい無双生活を送りたかった!

 

 でも現実はそんなに甘くない。他人とは目を見て話せないし、何か話そうとすると絶対にドモってしまうし、そもそも女の子と何を話せば良いのかすらも分からない。それにこの世界には娯楽なんて有りもせず、俺はひたすら家で引きこもってダラダラ過ごすくらいしかすることがない。遺伝のおかげか、運動してないにも関わらず体力はあったので、魔物が襲ってきた時は何度か駆り出されたけど、その時ですら俺はまともに他の人と連携が取れなかった。だから一人行動して適当に孤立してそうな大きな魔物をフルボッコにしておいた。剣の切れ味が良くて助かったぜ。

 

 しかしまあ……これでは冒険者にナってパーティーを組むなんて夢のまた夢だ。勇者様ご一行の夢も諦めるしかないだろう。ちなみに倒した魔物の魔石は適当なネズミ顔の行商に売りました。20ゴールドだったけど、今思えば絶対に安く買い叩かれてたよな、あれ。20ゴールドと言えば俺みたいな貧農が一年は暮らせる金額だったが、あの魔石、もうちょっと値が張っても良いくらい大きかったからな。くそが。騙された。ちくしょう。

 

 それに俺の元来の怠惰な性格も足を引っ張っている。努力するのには才能が必要と言うが、それを言うなら俺は間違いなく無能の類いだ。努力が出来ない、頑張ることが出来ない。疲れることが俺は嫌いだ。畑仕事も嫌いだし、狩りに行くのも嫌いだった。流石に頑張ってる父に申し訳ないという気持ちだけで多少の手伝いはしているが、本当なら全てを放り投げて家の中で引きこもっていたい。

 

 そんな現代日本で培ってきた駄目人間ぷりを引きずったまま異世界に転生した俺が、モテモテハーレム激楽しい無双最強成り上がり生活を送れるはずもなく。ダラダラと前世と同じような非モテ独身ヒキニートにまっしぐらに向かって行っていた。これが自然の摂理か。輪廻は繰り返す。繰り返さないで欲しかった……。

 

 と、そんなことを思っていたら、何故か突然やってきた豪華な馬車から出てきた巨漢騎士三人に囲まれ、「今日から貴方は帝立剣魔学園に入学していただきます」とわけの分からないことを言われ、そのままどこか嬉しそうな両親に見送られて帝都まで拉致られてしまった。ああ、愛しのマイホームよ……あのペラペラでザラザラの寝床に入ってないと俺は落ち着かないって言うのに……。

 

 そしてなんやかんやあり、俺は帝立剣魔学園に入学することになった。寮の部屋のベッドはそれなりにフカフカで引きこもり甲斐がありそうだったから、まあ良しとするか。

 

 

   ***

 

 

 学校の入学式で何が一番辛いかって、絶対に自己紹介の時間だろう。これだけは異論は認めん。そもそも趣味って何、特技って何、そんなものがあるならとっくに友達も出来てるし、だからと言ってここで適当なことを言ったら滑ったような空気になって一瞬にしてカーストから滑落して行くんでしょ? 俺は知ってるんだ。だって何度も失敗してきたからね。俺は失敗から学ぶ男だ。

 

「えー、次。ユウェルさん。自己紹介をお願いします」

 

 美人な女教師にそう言われた。ちなみに美人な女教師だからって変なことを期待してはいけない。ああいうのは既に彼氏とか夫とかいるし、もし万が一生徒との間に恋愛感情が生まれたとしても、そもそも俺たちの中から俺を選ぶなんて酔狂なことは絶対にしない。だから絶対にあの美人な女教師に恋なんてしてはいけないんだ。でも可愛い。胸も大きいしくびれも細いし最高かよ。普通にすき。ってか、名前何だったっけ?

 

「ユウェルさん。自己紹介、お願いします」

 

 女教師にもう一度呼びかけられ、周囲の視線が一気に俺に集まる。ヒェ……やめてくれ、死んでしまいます。俺は生まれたての子鹿のように震える足で立ち上がり、視線をどこに向けて良いか分からずキョロキョロとしながら話し始める。

 

「アッ……エト……お、俺、ユウェル、って言います。アッ、アノ……特技は、エト、何でしょうか……スゥ……トッ、特にありません。趣味ですね……ソウデスネ……ベッドでゴロゴロすること、でしょうか……アッ、ハイ……以上です……」

 

 アア、誰でも良いから俺を殺してくれ。シニタイ……シニタイ……。

 

「ええと……あっ、ありがとうございました。では次は――」

 

 女教師は苦笑いを浮かべながら次の人へと自己紹介を促していく。フラグがへし折れる音が聞こえた。まあ幻聴かもしれないけど。だってそもそもフラグなんて立ってないからね。窓を見る。そこに映るのは青い空ではなく、冴えず目立たずパッとしない自分の容姿だった。シニタイ。

 

 とまあ、そんなわけで、無事(?)自己紹介を乗り越えた俺だったが、実はこの後に更なる試練が待ち受けていた。

 

「はい、それでは次は決闘形式でオリエンテーションを行おうと思います」

 

 ワッツ!? オッ、オリエンテーション!? オッ、オッ、オリエンテーション!? そんな概念、この世界にもあるんだ。ってか、自己紹介に次いで二番目に苦手な行事きちゃ! 無理無理、オリエンテーションとか絶対に無理! だってアレだろ? ペアを作って一緒に何かやりましょう系ってことでしょ! で、次々とペアが決まっていく中、結局最後には俺一人が残されて、最終的にどこか憐れみの表情を向けてくる教師とやることになるアレでしょ! 嫌や! 絶対に無理や! 泣きたい……。

 

 ……って、いや待てよ。俺が一人残ることは確定しているから、ということはつまりあの美人な女教師と一緒にオリエンテーションを楽しめるってことか? 運が良ければそこから甘酸っぱい感情が生まれ、美人教師と冴えない男子生徒との禁断の恋が始ま……らない、始まるわけがない。憐れみの目で見られ、情けと同情の気遣いに心を痛め、どこか気まずい空気のままクッソつまらないオリエンテーションをやるハメになるだけだ。俺は知ってるんだ。そんな夢みたいなことが起こるわけないって。現実はそこまで甘くないって。

 

「ねえ」

 

 内面でそんな阿鼻叫喚を繰り広げていたら、声を掛けられた。声のしたほうを見ると、如何にも上品そうな立ち振る舞いをしている美少女が立っていた。キリッとした見た目の、黒髪ポニーテールの少女だった。

 

「エッ、アッ、ハッ、ハイ……。ナ、ナナナナナ、ナンデショウカ……」

「貴方。私と組まない?」

「エッ!? ボ、ボクとですか!?」

 

 思わず僕って言っちゃった。恥ずかしい。

 

「そう。貴方と組みたいの」

 

 エッ、ナンデ? ドウシテ……? 意味が分からないよ! ……いやちょっと待てよ。これってもしかして俺のこと好きってことなのでは? 好きじゃなきゃこ、声なんてかけて来ないよな……? わざわざ俺と組みたがるってことは要するに俺に一目惚れしちゃったってことなのでh――そこでふと窓ガラスに映った自分が視界に入る。ウン、ないな。

 

「ド、ドウシテでしょうか……?」

「どうしてって……そんなの決まってるじゃない。貴方が平民出身の唯一の生徒で、あの亜竜を一人で仕留めたという噂の持ち主だからよ」

 

 エッ、ナンデ、ナンデ親の敵を見るような目で睨まれてるの……?

 俺、貴女に何かしましたか……?

 ヤメテ、怖いから、そんな目で俺を見ないで……。

 

 ってかさ。

 そもそも亜竜ってなんだよ。

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