美少女にTS転生したおっさんは、闇深サイバーパンク世界を救えるか   作:霧夢龍人

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ジジイ×美少女=???

 

 

 

 

宇宙暦五六八〇年。

 

人類は、神を超える科学力を手にした。

 

恒星間航行。

惑星改造。

人工生命。

かつて神の御業と呼ばれたものは、今や人類の技術によって再現されている。異星人との惑星間取り引きも盛んとなり、豊かになった生活とは裏腹に蜚蠊のような速度で急速に増えていく人口。

 

増えすぎた人口を均一に保つため、人類推進委員会はある制度を制定する。

 

死亡した人間の魂を回収し、新たな肉体へ移植する技術──魂転生管理機構、通称『SRシステム』により、人々は死ななくなった。正確には、死んだとしても新たな肉体を経て再び“生きる”ことが出来るのだ。

 

即ち、死の克服。

 

記憶や人格は抹消されるが、永遠の命を得た人々は子を残す必要性を失い、やがて過剰に余った魂の活用方法を模索し始める。

 

その結果誕生したのが、機械に魂を宿すという神をも恐れぬ発想だ。

 

天上機兵(ゼニス・マキナ)

 

“天上とは、妄想の神々などではない。我々人類である”。

 

そんな傲慢な思想の元生み出された機兵によって争いが引き起こされたのは、むしろ当然のことだった。

 

そして、その争いに巻き込まれるのは何も軍人だけじゃない。犯罪者や債務者、身寄りのない孤児。社会から不要と判断された者たちは、戦場へ送られる新たな資源として扱われた。

 

人類推進委員会は彼らを「再生可能人材(リサイクラー)」と呼んだ。

 

死んでも構わない。

どうせ魂は回収され、別の肉体で再利用されるのだから。

 

それが、この時代の常識だった。

 

 

 

 

「管理番号19Yー1E……釈放だ」

 

クソッタレな刑務官サマの声で、俺はゆっくりと目を開いた。ちょうど冷たい床のひんやりとした感触にも慣れてきた頃だが、くっせぇ囚人共の臭いは未だに鼻につく。

 

パンの窃盗で、禁固刑五十年。

 

我ながら馬鹿な話だ。だが、俺みたいな泥を啜るネズミでも腹は減る。人口が増えすぎて就職先も見つからん上に、最低限の配給すらも絶たれちまった。他国との戦争で、ネズミにくれてやる餌はないらしい。

 

死んだところで生き返るんだからいいかもしれんが、余りにも命が安すぎる。国お抱えの『天上機兵(ゼニス・マキナ)』のパイロットにでもなれば話は違うんだろうけどよ。

 

人の魂を使い回す時代なんだ、俺みたいなやつは消耗品の弾丸と大差ねぇ。

 

「おい、動け。聞こえないのか」

 

「悪ぃな。ここでの食事が美味すぎて、体が出たくないって言ってんだわ」

 

「ふざけたことを抜かすな、犯罪者が。さっさと檻から出るんだ」

 

そんな地獄と比べたら、ここでの生活は天国だ。

 

飯は出てくるし、寝床もある。少なくとも、明日の食い扶持を心配して路地裏を這い回る必要はない。殴り合いは日常茶飯事だが、外よりはよほど人間らしい生活だった。

 

「おいおい、そんな焦んなよ……で、なんで釈放なんだ?まだ満期じゃねぇだろ」

 

冷たい床を寝床にしながら、刑務官サマに尋ねる。

 

禁錮五十年。

だが、計算が違ってなけりゃまだ三十年くらいしかたってないはずだ。

 

俺みてぇに歳とったジジイじゃ、外に出ても生き残れねぇ。飯にはありつけんだろうし、働けるとも思えねぇ。死ぬのはいいが、記憶も人格も消去されるんじゃ意味がない。

 

だから長ければ長いほど俺はこの鋼鉄の天国にしがみつけるはずなんだが……どうやら状況が変わったらしい。

 

クソッタレな刑務官サマは鼻を鳴らして、無理やり俺を立ち上がらせた。

 

「お前に拒否権はない」

 

「あ?……っ、な!?」

 

嫌な予感がした次の瞬間──首筋に冷たいナニかが突き刺さった。

 

「ガアァァァァッッッ!?!?」

 

喉が裂けちまいそうな絶叫が、薄暗い通路に懇懇と響き渡る。

 

身体の内側から臓腑を食い破られるような、四肢を力任せに無理矢理引きちぎられるような、脳が処理しきれねぇ痛みが全身を駆け巡った。

 

「な、なにをっ、しやがったァァ!?」

 

「簡単な話だ。お前の刑期は本日を以て終了になる。だが──」

 

刑務官サマは俺の襟首を掴み、冷たい眼差しを向けてくる。その目に浮かんでいたのは怒りでも侮蔑でもない。

 

ただの無関心。

道端の石ころでも眺めるような視線だった。

 

「お前のように釈放しても働けない穀潰しを生かしておくほど、世界は甘くない。来世はいい人生をおくれるといいなぁ?」

 

「やめろ!!!俺はまだ、まだ生きたいんだ!!!こんなクソッタレな世界でも、まだ生きたいんだよ!!!」

 

「生に縋るな見苦しい、お前は死んでもどうせ生きるんだ。ま、記憶も人格もなくなるけどな」

 

いやだ、嫌に決まってる。

こんな底辺みてぇな人生でも、俺は俺という人間を作る生き方だったんだ。

 

腹を空かせて路地裏を這い回った日々も、パンを盗んで捕まった情けねぇ過去も、雨風を凌ぐためにゴミ捨て場へ潜り込んだ夜も、全部ひっくるめて俺なんだ。

 

それを消されてたまるわけねぇだろ。

 

「……っ、くそ……いしき、が……」

 

だが俺の意志とは反して、視界は徐々に暗くなってくる。刑務官の顔がぼやけ、壁も床も何もかもが歪み、輪郭を失っていく。

 

悔しくてムカついて必死に刑務官に手を伸ばしても、その先にアイツはいない。俺が死ぬのを見届けようとも思わないんだろうな。

 

本当に最後までクソみたいな奴だ。俺も、刑務官も、その他全ての人間もだ。

 

「……く、そったれ……」

 

指先から力が抜け、膝が崩れ落ちて冷たい床へと身体が倒れ込んだ。

 

鉄の匂いと油の匂い。囚人たちの怒号とうるせぇいびき。五十年近く嗅ぎ続けたこの臭いも、今はどこか懐かしく感じる。

 

死にたくない。

生きたい。

 

どれだけ惨めでもいい。

どれだけ泥水を啜ろうと構わない。

 

俺は俺として生きていたかった。

 

それなのに。

 

『人格消去処理を開始します』

 

どこからともなく無機質な声が響く。

 

『対象個体、管理番号19S-1E』

 

『魂転送準備完了』

 

『SRシステム接続』

 

やめろ。

 

『記憶領域の分離を開始』

 

やめてくれ。

 

『人格情報の削除を開始』

 

やめろ──!!

 

「俺を……消すなァァァァァァァァッ!!」

 

その言葉を最期に、俺の意識は闇へと沈んだ。

 

 

 

 

 

 

───☆

 

 

 

 

 

眩しい。

最初に感じたのは、まぶた越しから灯される電子源灯の明るさだ。

 

「………ぁ?」

 

目を開けば、見知らぬ天井が視界いっぱいに広がっていた。

 

白い。いや、白というより銀色に近い。天井一面に走る発光ラインが規則正しく明滅し、まるで生き物の呼吸みたいに光を強めたり弱めたりしている。

 

俺はしばらく瞬きを繰り返した。

 

当たり前だ。

流石に理解が追いつかねぇよこんなこと。

 

俺が最後に覚えているのは刑務所だ。冷たい床と、鉄格子に阻まれた牢屋の中で、薄笑いを浮かべた刑務官サマから何かを打ち込まれた記憶。

 

そして──。

 

「俺を……消すな」

 

なんでか全部覚えてる。

パンを盗んだことも、五十年の刑務所生活も、最後に感じた恐怖すらも何一つ失われちゃいねぇ。

 

前世の記憶じゃ体験したことない極上のベッドの感触が、床で寝るのに慣れた泥ネズミの俺にとっちゃ現実味がなさすぎて吐き気がする。

 

というか、だ。

 

「ど、どうなってんだこりゃあ。なんで俺は全部覚えてんだ。刑務官サマに殺されて、『SRシステム』で転生した……はずだ」

 

当然の疑問に頭を抱えたくなるが、学がないもんだからどうしようもねぇ。こういうのは惑星住みのエリート学者が考えるようなやつだろうからな。

 

ともかく今は、記憶を持ったまま生まれ変われたことを喜ぶべきだ。

 

今の居場所は分からんが、少なくとも俺の生きていた地方の人造惑星みてぇな窮屈さは感じない。極上のベッドと言い真っ白な部屋と言い、ジジイには不相応なシロモノだけどな。

 

──ところで、だ。

 

妙に身体が細い気がする。

ついでに、肩から流れる真っ白な髪が鬱陶しい。

 

『SRシステム』は、魂が入ってない肉体()にランダムで生まれ変わるらしいが、今のこの身体は慣れ親しんだジジイの身体とは違いすぎる。股をまさぐってみれば……やっぱり、無ぇ。

 

今の時代、生殖は人間の三大欲求から外される程度の扱いでしかないが、それでも愛棒がいなくなっちまった悲しみは計り知れん。

 

ま、生きてるだけ儲けもんだがな。

 

「気になる顔は……嘘だろおい、こんな上等な身体が余ってるっていうのかよ」

 

ベッドの近くに配置されているテーブル。

その上に置かれた小さな鏡を手に取って顔を移せば、泥ネズミの俺じゃ見るだけで死刑になっちまいそうなほど極上の別嬪がいた。

 

白色の髪にキツそうなツリ目、泥だけの前世の肌とは売って変わった真っ白な肌。瞳の色は青色で、俺自身も吸い込まれそうな澄み切った色をしてやがる。

 

胸は普通で、臀はなかなかデカめだ。

歳の頃は見た目判断になるが、大体十五ぐらいか?俺が入るには些か若すぎる気もするが、この身体の持ち主も何らかの形で死んだんだろうな。

 

ご愁傷さまなこって。

 

生憎とこの身体の死亡理由を知りたくもねぇし、俺はまた死ぬのはごめんだからな。もし死ぬとしても、あんな死に様は二度としたくない。

 

「ったく、別嬪なのに勿体ねぇな」

 

鏡を見てそうボヤきながら、窓ガラスから外の景色をチラッと眺める。人造惑星と違った青い空は、夜しか知らねぇ俺にとっちゃかなり新鮮だ。となると、ここは自然の惑星ってことになる。

 

エリートサマしか許されてない自然惑星に生まれ変わった時点でかなり当たりだ。

 

他に情報が得られるものがないかと辺りを見回してみたら、今度は制服らしきものが目に入る。胸元には一年生であることを示す記号と、首席と書かれたバッジが取り付けられていた。

 

となるとアレか、首席なのを妬まれて命を狙われたクチか?

 

はーやだやだ。これだから命を軽く見てるクソどもは困るんだよ。

人格も記憶も消えるっていうのに、容易く殺そうとするガキがいる時点で俺の転生元の学校もロクなもんじゃなさそうだな。

 

テーブルの上に置かれた幾つかの紙には、新入生代表挨拶みてぇな文章が書かれてるから、きっとこっから入学するって感じか?入る前に死ぬって可哀想だなおい。

 

ほんで、学園名は──お?

 

「マキナ学園……?」

 

チンピラ粉いの俺でも聞いたことがある。宇宙間最大を謳うゼニスパイロットの養成所兼、学園として機能するエリート量産機関だ。

 

こうして口に出してみても実感が薄い。犯罪者崩れのジジイが、首席扱いで学園に放り込まれる?

 

どう考えてもおかしい。偶然にしちゃ出来すぎている。

 

となると、俺が鏡で見た“この身体”は、ただの転生体じゃない可能性があるな。SRシステムは基本ランダム配置のはずだ。だが「首席枠の肉体」なんてものが偶然余るか?

 

「……ハッ、まぁいい。俺は考えるのが苦手なんだ。どっかの訳の分からん馬の骨に転生するより、ゼニスパイロットとしてやってく方が老後苦労しなさそうだしな」

 

ジジイになった時に後悔はしたくねぇ。

泥ネズミには眩しすぎる世界だが、牢獄ん中で刑務官に殺されるよりもゼニスに乗って死んだ方が百倍マシだ。

 

釈放にしちゃだいぶ大掛かりだが、働ける身体になったんだ。存分に若い体に鞭打ってお国に奉仕してやるよ。

 

ゴミ箱を漁るのも、喧嘩でボコボコにされんのも今日で終いだ。俺の目的はただ一つ──老後まで困らねぇ金を作ること。そのためには、国お抱えのエースパイロットになればいい。

 

勿論、やり方は問わねぇけどな。

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