父さんが帰ってこなくなったのは、5年前だった。
なんでも研究の途中で事件が起きて、しばらく帰れないんだとか。それでも母さんと僕は父さんを信じていたし、愛していた。お金も振り込まれていたし、電話だってしていた。
けれど少し前。ニュースである男が逮捕されたという報道が流れた。男はフレア団の研究員で、逃亡し潜伏していたところを確保されたのだとか。
その男は、父さんだった。
フレア団。カロスに住む人なら皆が知っている悪の組織。5年前に最終兵器なるものを使ってカロスを滅ぼそうとした。その他にもあらゆる犯罪に手を染めていたらしく、毎日フレア団絡みのニュースや逮捕者がテレビで流れてきていた。
僕らが住んでいたのはカロスの田舎。だから情報が出回るのは早いもので、僕らはあっという間に村から孤立した。生活もままならず、買い物をしようにも相手にされない。僕は唯一の友人・アラタから食べ物をもらって、なんとか食い繋いでいた。
でもどうやら、母さんはもう限界だったようだ。
「……どうしようね、これ」
僕の目の前には、
「……キョウヤ」
親友・アラタは言葉にならないようで、ただただ僕の方を見ていた。
「とりあえず下ろそう」
母さんを天井から下ろすと、ぐにゃりと体が折れ曲がった。とりあえず臭いので、謎の液体を雑巾で拭いた。母さんの顔は、頬がこけて真っ白だった。。少し前までは、村でも話題の美人だったのに。
母さんはただでさえ父さんがいない中1人で僕を養っていたのに、信じていた父さんがフレア団の研究者だったと知って限界になったのだろう。おまけに村八分。だからって僕を置いていくことないだろうに。
とりあえず、母さんは布団で寝かせた。顔は見るに堪えなかったので、お気に入りのハンカチをかけた。
「……キョウヤ、大丈夫か?」
「大丈夫ではないかな、これからどうしよう」
「……やけに冷静だな」
「人間、こんな場面に会うと一周回って冷静になるものだよ」
「……でも本当、どうしような。村のやつら、きっとこのこと知っても知らん顔するぜ」
「じゃあ、庭に埋めよう。母さんは園芸が好きだったから」
「それってどうなんだ、法律とか」
「今更でしょ、警察が動くなら母さんは生きてた」
「それもそうか」
アラタと一緒に、庭の土を掘る。園芸が好きとは言ったけど、ここしばらく世話をしてないもんだから雑草は生え放題だった。人ひとり入るスペースをようやく掘って、2人で母さんを埋めた。母さんが大事にしていた、結婚指輪も一緒に埋めた。
「お疲れ」
「ありがと。でもこれからどうしようか」
「どうするもこうするもないだろ。もうお前のお母さんはいないんだから、ここにいる理由ないだろ」
「アラタがいるだろ」
「バカ言え、俺がお前をここに縛りつけるなんてまっぴらだ。金ならあるんだから、カロスの外にでもどこにでも行けばいい」
そうだ、金ならある。父さんが送り続けてきたお金と、母さんが稼いだお金。十分な額だ。これで安いアパートなりなんなり借りて、仕事を探せばいい。そもそもこの村にだって、思い入れがあるわけじゃない。ただ母さんが父さんの故郷であるこの村にこだわっていただけ。もちろん親友は大切だけど。
「そういうことなら早くしよう」
「手伝う」
家にある1番大きなバッグに荷物を詰め込んで、銀行でお金を下ろした。ひとまず10万円。それから最低限身なりを整えて、バス停に向かった。田舎のバスはすぐになくなるから、急がないといけない。
「それじゃあ、俺はここまでだな」
「ありがとう、アラタ」
「おう、またなんかあったら連絡する」
アラタとグータッチを交わす。バスに揺られながら、やがて駅に着いた。別にどこでもいい。どこにだって行ける。でも、ふと掲示板が目に留まった。
ミアレシティ行き
ただそれだけ。それだけなのに、どうしようもなく惹かれた。ミアレシティ。カロス地方で1番大きな都市。正直身寄りのない若者が行くには都会すぎる気もするけれど。
僕は、ミアレシティ行きの電車に乗り込んだ。
キョウヤ
父親がフレア団の研究者だった。村八分と母の死でだいぶ荒んでる。お金ならある。
アラタ
キョウヤの親友。唯一キョウヤを村八分せず、一緒に遊んだりしていた。