ヤチヨ「ヤッチョがハッピーエンドに連れてっちゃうよー!」 作:片倉の推しの子Bです
を読んで頂きありがとうございます。
もともと前作しか書くつもりはなかったのですが、頭の中に住み始めたかぐやがハッピーエンドにしたいなあ⋯?と言い始めて夜しか眠れなくなったので書きました。
蛇足ー!ではありますがこちらも読んで頂けると感アラです。
もしお時間あればコメントや高評価も頂けると嬉しいです。
なんで?どうして?
頭のなかが疑問と困惑でめちゃくちゃになる。
揺すっても声をかけても動かないいろは。
目の前で自分を刺して消えたヤチヨ。
月の世界に帰ったはずが、目を覚ましたらツクヨミにいて。
状況が何もわからずに、私はここにいる。
ただ1つなんとなくわかること、それは。
きっと私は取り返しのつかないことをしたのだ。
・・・・・・
・・・
「──かぐやちゃん!かぐやちゃん!!」
誰かが私を呼んでいる。
私が目の前の光景を受け入れられぬまま、そちらに意識を向けると、現実世界から呼び出しを示すポップアップが表示された。
「芦⋯花?」
私の知るツクヨミになかったその通知を開くと、記憶にある友人の姿が表示された。
芦花。
いろはの学校の友人だ。
その外見は記憶にある姿より大人びている。
「かぐやちゃん!目が覚めたの!?いったいいつから⋯」
「⋯わかんない。何か歌が聞こえて⋯気がついたらヤチヨがいて⋯それで⋯」
「ヤチヨ⋯?待って。ならいろははどこに⋯?」
「いろは?いろはは⋯」
目の前で動く気配のないいろはを見る。
そうだ。
ここがツクヨミなら、現実のいろははきっと無事で⋯!
「⋯嘘。そんな⋯」
芦花の震える声が聞こえる。
私の画面には、芦花の顔しか映っていない。
だけどその視線が私の方ではなく、別のものをみていることに気づいた。
芦花は、私と話していることを忘れたかのように一目散に走り出すと、何かのそばで崩れ落ちた。
「いろは!!いろはあ!!嘘だよね?ねえ!いろはあ!!」
大粒の涙を流しながら視線の先に手をやり、信じられない、信じたくないと言わんばかりに叫ぶ。
その姿を見て、気づいてしまった。
ああ、いろはもう本当に、どこにもいなくなってしまったのだ。
・・・・・・・・・
・・・・・・
悲しかった。
苦しかった。
だけど、涙は流れなかった。
ただただ受け入れることができなかった。
もう二度といろはと会えない現実を。
いろはと話すことができない事実を。
・・・・・・・・・
・・・・・・
芦花が泣きながらいろはの遺体を回収した後、どこにも帰る場所がなかった私は芦花について行った。
現実世界で活動する身体を持っていなかった私は、ツクヨミでしか活動できない。
だから芦花の端末越しに、いろはの遺体が回収され、焼かれるのをただ見ていた。
私が月に帰ったあとのことを芦花は話してくれた。
いろはが私を取り戻すために、全てを捧げたことを知った。
・・・・・・・・・
・・・・・・
芦花は三日三晩泣いていた。
かぐやがいなくなった後、芦花はいろはを支えるために勉強を頑張ったらしい。
何とかいろはと同じ大学に合格して、いろはの研究を手伝いながら研究に没頭して疎かにしがちだったいろはの私生活をフォローしていたらしい。
⋯まるで昔のかぐやみたい。
ううん、かぐやのほうがいろはに迷惑をかけてたか。
・・・・・・・・・
・・・・・・
ツクヨミは変わっていた。
昔は味がしなかったパフェは、現実で食べた時と同じ味がした。
川に足を入れれば冷たく、人に触れれば暖かかった。
まるで現実世界のようなその感覚も、いろはが研究の末に実装できたのだと知った。
この世界の節々に、いろはの姿が想いが感じられた。
・・・・・・・・・
・・・・・・
ねえ、ヤチヨ。
どうしてヤチヨはあの時、私の目の前で死んじゃったの。
ツクヨミにあるかぐやといろはが住んでいた部屋そっくりな空間には、未だいろはのアバターが眠ったように置かれている。
本来、現実世界で意識を失ったらアバターも自然消滅するらしい。
だけど、いろはだけはまるで現実の死が嘘のように綺麗なままだ。
その異常な光景は、ツクヨミの管理人であるヤチヨにしかできないことだと思った。
ヤチヨにとって、いろははファンの一人にしか過ぎないはず。
ヤチヨカップで優勝して一緒にコラボライブしたり、かぐやの卒業ライブの演出の相談に乗ってくれたりと他のファンより多少は近い関係かもしれないけど、それでもこの入れ込み様はおかしい気がする。
「いろは⋯ヤチヨ⋯」
眠っているいろはの手に触れる。
その手は温かく、本当に眠ってるのかのよう。
ある日、目を覚ましたらいろはも目を覚ましていて、『かぐや、おはよう。寝坊なんて珍しいじゃん』なんて言って笑ってくれそうな⋯。
「あ⋯」
頬を涙が伝う。
演出でしかなかった涙が口に入り、塩辛さを訴える。
だけど涙は止まらない。
一度失った幸せに気づいてしまったら、もう止まることはなかった。
私はその日、眠っているいろはを抱きながら泣き続けた。
・・・・・・
・・・
どれくらい泣いたのだろう。
泣き腫らした私の視界に、何か動くものが映り、私は飛び起きた。
その小さな動くものは、ビクッと震えるとこちらを振り向く。
私は困惑しながら記憶にあるその白いもふもふの名前を呼んだ。
「FUSHI⋯?」
「⋯久しぶりだな、バカタレ」
FUSHIはヤチヨの肩にいつもいた白いウミウシ型のマスコットだ。
「なんでここに⋯」
「⋯」
FUSHIは何も言わない。
ただ不機嫌そうにこちらを睨み続けている。
思えばこのウミウシはヤチヨの肩でライバーとしての手伝いをしてるときは愛想いいが、私といろはの前ではいつもこんな感じだった。
「⋯ヤチヨのことなら、かぐやはわからないよ」
「⋯」
ヤチヨのこと、何か聞きたくて会いに来たのだと思った。
そうでもなきゃ、私のことを嫌っているこのマスコットが姿を現すとも思えない。
「⋯ヤチヨはずっとずっと我慢してきた。自分の想いを押し殺してきた。お前たちのために」
「え⋯?」
「お前に、ヤチヨの全てを知る覚悟はあるか?」
FUSHIがこちらを試すように視線を向ける。
ヤチヨの全て⋯。
ヤチヨは私と話す時、いつも適当なことを言っていた。
だけど嫌な感じはしなくて⋯むしろ、こちらを見守るような優しさがあった。
だからこそ、最期の表情が忘れられない。
「⋯当たり前。ヤチヨのこと、かぐやは全然知らなかった。もう遅いかもしれないけど、知る方法があるなら、私はそれを知りたい」
「⋯とても、辛くて大変だぞ」
「⋯上等!かぐやにまかしとき!」
私の根拠のないから空元気を見て、FUSHIの目が潤む。
だがそれは一瞬でキリッとなると、その瞳が光りだした。
「いくぞおおおおお!!」
光と共に、たくさんの記憶が流れ込んでくる。
それはかぐやの知らないかぐやの記憶。
月に帰ったかぐやは、いろはの歌を聞いて地球に帰ろうとするけれど、隕石にぶつかって8000年前の地球に不時着してしまう。
何とかウミウシの身体になって、たくさんの人と交流し、8000年を乗り越えて再びいろはと出会うも、ヤチヨとなったかぐやはなかなかいろはに正体を打ち明けられず、ついに今際の際で正体を明かし、いろはの最期を看取る。
そしてヤチヨ自身もまた、目を覚ましたかぐやともう目を覚まさないいろはを見て、疲れたように瞼を閉じた。
「⋯はっ!?」
ヤチヨの長い記憶を巡り、目を覚ました私は湖の上で寝ていた。
辺りには何もなく、ただ暖かな光が降り注いでいる。
目の前ではFUSHIが心配そうにこちらを見ていた。
「⋯どうだ?大丈夫か?」
「⋯うん。ヤチヨは、かぐやだったんだね」
いろはにまた会いたくて8000年の旅を乗り越えて。
すぐに正体を明かしたかったのにかぐや達のことも気にかけて。
最後の最後に望みがかなったけど、もう全ては手遅れで。
そんなの、悲しいバッドエンドじゃん⋯。
「⋯ねえFUSHI。ヤチヨとずっと一緒にいてくれてありがとう」
「当たり前だ。僕をつくったのはヤチヨで⋯お前だぞ。お前たちを助けるために僕はいるんだからな!」
「ありがとう。これまでも⋯これからも頼りにしてる」
「わん!」
「⋯君のこともね。犬DOGE」
「わんわん!」
「ふん!調子に乗るなよ犬ころめ!」
FUSHIと犬DOGEがじゃれ合うのを微笑ましく思いつつ、私は自分のなかでやることを決める。
まだこの物語は、終わっていない。
ハッピーエンド⋯いろはを連れてくって言ったの、かぐやは諦めてないよ。
「FUSHI、聞きたいことがあるの」
・・・・・・・・・
・・・・・・
「月に行きたい?」
芦花は私の質問に、泣き腫らした目で聞き返した。
「うん。正確にはそこにある、筍型宇宙船が必要なの」
かぐやが乗ってきた筍型宇宙船には時間を飛び越える機能がある。
事実、ヤチヨは月での仕事を片付け、引き継ぎも終えていろはがおばあちゃんになってることを知り、月の技術で時間旅行を行って卒業ライブ後すぐの時間へ戻ろうとした。
結果、隕石にぶつかり8000年前に飛ぶことになるのだが、それは少なくとも8000年分は遡れるという証明でもある。
「⋯確かに。それが本当ならかぐやちゃんが過去に戻っていろはのもとに帰れば⋯いろはは死なずにすむ」
「そういうこと。お願い、この未来を変えるために私を助けて、芦花!」
「⋯手を貸したいのはやまやまだけど。それには問題があるの」
「えっ!?なに!?」
「月には今、誰も行けないの。ううん正確には危なくて誰も行けない、が正しいかな」
芦花が言うには、月の世界には今、得体の知れない怪物が跋扈していて誰も近づけないらしい。
いろはがかぐやを取り戻すために仮想世界を介して攻撃した際、月人に感染するウイルスを使った。
それによって月人は一掃されるも、ある日急に蘇ったらしい。
蘇った月人は、月の世界に侵入した相手を見境なく襲ってくるそうだ。
「月の技術を研究しようと調査団が派遣されたりしたけど全滅したんだって。そいつらに対処するためにいろはに新たなウイルスの作成依頼が来たりもしたけど、そのときにはもういろははかぐやちゃんをもとに戻すことにしか興味はなくなってたから⋯」
「むむむ⋯。かぐやしか宇宙船は乗れないしどうすれば⋯」
「⋯だけど、やりようはある、かも」
「え!?ほんと!?」
かぐやを取り戻すために行った作戦は極秘で行われて、芦花や帝等わずかな人物しか知らないらしい。
その時の月の世界に行くために使われた門がまだ
残ってるそうだ。
「門の場所はいろはの研究を手伝ってた私ならアクセスできる。あとは怪物だらけの月の世界でその宇宙船まで辿り着く方法だけど⋯」
「⋯よお!かぐや姫!お目覚めかい!」
「こ、この声は⋯!」
芦花がカメラをずらすと、整った容姿の3人の男が映った。
「⋯えーと、誰?」
「おいおい、悲しいぜかぐやちゃん。一緒にKASSENで戦ったのをもう忘れちゃったの?」
「もしかして帝!?へー、そんな顔だったんだ!てことは、後ろの2人はブラックオニキスの?」
「おう、雷と乃依だ」
「⋯」
「どうもー」
「朝日さん⋯私が呼ぶまで待っててくださいって言ったじゃないですか⋯」
「悪いな、芦花ちゃん。かぐやちゃんの声を聞いたら我慢できずに開けちまった」
ため息をつく芦花に帝は笑いながら答える。
なんだか⋯
「2人とも、なんだか仲良いね?」
「何だかんだでいろはのことで話す機会が増えたからね」
「まっ、妹を公私共に支えてくれたからな。それなりに仲良くもなるさ」
「ふーん⋯」
「そんなことよりも、話は聞いたぜ。月にまた殴り込むんだろ?ちょうどここに腕の立つプレイヤーが3人いるんだけどどう?」
「いいの!?」
「いーよ。かぐやちゃんの卒業ライブ、盛り上げきれなかったし。それに俺、こう見えて推しには尽くすタイプだから、さ」
おおー、滑らかなウインクに思わず拍手をする。
帝は現実世界でも帝だった。
「⋯いてっ、いてっ、おい、乃依、何すんだよ」
「べっつにー」
「今のは朝日が悪い」
「あはは⋯」
「???」
「とりあえず、これで必要なものは揃ったんでしょ?決行はいつにしますか?お姫様」
「うん、次の満月⋯9月12日にしよう」
・・・・・・・・・
・・・・・・
「こっちこっちー」
「真実!」
指定されたツクヨミのプライベートルームに入ると、懐かしいアバターが出迎えた。
真実もいろはの学生時代からの友人だ。
「かぐやー、おひさー」
「おひさー!真実も来てくれたんだ!」
「まあねー、子供もおっきくなったし、旦那に任せて手伝いに来たー」
「ええ!?真実、子供いたの!?」
「いるよー、双子ー」
そっか⋯頭ではかぐやがいなくなって何年も経ってるってのはわかってたけど、こうして変化を目の当たりにするとびっくりしてしまう。
「門へのアクセスは⋯うん、問題なし。黒鬼の皆は⋯」
「おまたせ。こっちも準備オッケー」
フル装備の黒鬼が遅れて現れる。
昔、KASSENで戦ったときに見たものとは細部が違う武器を背負っていた。
「ん?そりゃああの頃から時間も経ってるしな、武器だってアプデされるさ」
「⋯なんだかかぐや、ついていけるか不安になってきたかも」
「気にしない、気にしない。お姫様をエスコートするのが俺たちの役目だからさ。かぐやちゃんはただ自分の目的に向かって突っ走ればいーのよ」
「かぐや、これつけて」
そう言って芦花が一つのアイテムを渡してきた。
「これは⋯?」
「いろはの作ったウイルスに対するワクチン。月の世界はウイルスに汚染されてるから、これがないとかぐやも消えちゃう。絶対に外さないでね」
「⋯うん」
私はその月の形をしたアクセサリーを髪につける。
「それじゃあ皆、いくよ」
芦花の言葉とともに門が開いた。
・・・・・・・・・
・・・・・・
2度目の月の世界。
そこは最初と大きく変わっていた。
いや、俺たちが変えた、といったほうがいいかもしれない。
以前は無機質で味気ない世界だったが、それ故にどこか儚く、美しかった。
それが今や荒廃し、滅びかけている。
街や植物に至る全てがバグのようなテクスチャで覆われており、空もまたバグでできた天蓋に光を遮られていた。
地上ではウイルスに侵され怪物と化した連中が徘徊し、獲物を求めて彷徨っている。
そんな中を、ブラックオニキスは駆け抜ける。
武器を振るい、怪物を屠る。
芦花と真実にはかぐやちゃんの護衛を任せた。
正直、一人だって彼女達の前に通すつもりはない。
こんな世界にしたのは俺たちだ。
いろはの誘いに乗り、月人を殺したのは俺たちだ。
もっといえば、俺がいろはのお願いを断らなかったせいとも言える。
まあ、これは口にすると雷と乃依に怒られるから言わないけど。
⋯いろは。
俺は駄目な兄やったな。
研究に没頭するお前を、かぐやちゃんに固執するお前を、止めることも寄り添うこともしなかった。
やったことといえば出資したことと、一度だけのわがままを聞いたくらい。
母さん、お前の葬儀で泣いとったで。
父さんの葬儀でも泣かんかったあの人が、声を枯らして泣いとった。
あん親不孝者ーなんて言いながら、棺桶にしがみついとったよ。
⋯本当、なんで後悔ってのは過ぎたあとにしかできへんやろな。
このけじめをつけることが、その罪滅ぼしにならないことなんてわかっている。
だけど、せめて、お前の残したもののために、俺は。
「⋯お姫さまのお通りだ!邪魔する不届き者共はどこだあ!?」
・・・・・・・・・
・・・・・・
「こっち!」
かぐやの指示に従って城内を駆け抜ける。
外で黒鬼が引きつけてくれているからか、城内は不思議なくらい怪物がいなかった。
「ここだよ!」
かぐやが示した扉の前で、真実と2人、顔を合わせる。
私たちはアバターだからこの世界で傷を負っても現実世界に影響はない。
だけど、かぐやは違う。
月人と同じく、仮想世界で生きる存在。
ここで大怪我をしたら⋯下手すれば存在が消えてしまうかもしれない。
「下がってて」
かぐやを下がらせ、真実と2人でタイミングを合わせて扉を開ける。
中にはかぐやの言う通り、筍型の宇宙船が並んでいた。
そして、その前に立つ1人の異形。
「かぐや!絶対に前に出ないでよ⋯!真実!」
「おーよ!」
真実と2人、武器を構える。
目の前の月人は見覚えがあった。
黒衣に能面のような仮面をつけた月人。
あの日、かぐやを連れて行ったやつだ。
しかし、その姿は以前見たときと変わっていた。
仮面は割れており、半分しかない。
黒衣の身体もひび割れていて、すぐにも壊れてしまいそうだ。
深手を負っている。
そう判断した私は、真実と一緒に飛びかかろうとして───
「──待って!」
──かぐやの声でその場に踏みとどまった。
「かぐや!?」
「危ないから下がって!」
「⋯大丈夫」
かぐやはゆっくりと前に出ると黒衣の月人と向かい合う。
黒衣の月人はゆっくりとその頭を下げた。
「嘘⋯」
「敵⋯じゃない?」
「⋯ごめんね。この世界をむちゃくちゃにして」
月人が頭をあげる。
その仮面はどこか、かぐやをなぐさめてるように見えた。
「お願い。私、行かなきゃ」
「⋯」
月人が横にずれ、道が開ける。
「芦花、真実、行こう」
「おー、かぐやすげー」
「⋯うん」
私たちが通り抜けると月人が、背中を向ける。
それと同時に私たちが通った扉が壊され、怪物が入ってきた。
「くっ!もうここまで!かぐやは先に行っ⋯」
言い終わる前に、月人が飛び出していた。
私たちを庇うように怪物の前に立ちはだかる。
「どうして⋯」
「⋯芦花、真実。ここはあの人に任せて、先へ進もう」
「⋯わかった」
かぐやの声に従って、先へと進む。
後ろから戦う音が聞こえるも、私たちは振り向かずに走った。
・・・・・・・・・
・・・・・・
「ここだ⋯」
筍型宇宙船の発射場と思わしき場所に辿り着く。
先程取ってきた筍型宇宙船をセットし、かぐやがコンソールから入力を始める。
「かぐや!どれくらいかかりそう!?」
「うーん⋯ちょっと!」
ちょっとってどれくらい!?て聞きそうになるがここまで来た以上、あとはかぐやを乗せて飛ばすだけだ。
ここまで戦いになることは一度もなかったものの、ずっと緊迫していたのは事実。
私たちは一息つくことにした。
「⋯芦花」
「⋯なに?」
「⋯今なら、かぐやと話せるんじゃない?」
「⋯え?」
思わず真実の顔を見る。
その顔は、私を心配しているものだった。
「だってここを逃したらもうかぐやとは会えないんでしょ?いろはのことがあって話す機会がないって言ってたし、今しかないんじゃない?」
⋯真実には隠し事なんてできないなあ。
昔からぽやぽやしてるくせに、こういうときは誰よりも気を回してくれるんだから。
「⋯ありがと。ちょっとここ、任せるね」
「いってら〜」
真実の気の抜けた声を背中に受けつつ、私はかぐやのもとへと向かった。
・・・・・・・・・
・・・・・・
「⋯かぐや」
「⋯芦花?もうちょっと待って〜!」
かぐやはこちらを見ずにコンソールに入力し続ける。
⋯ちょうどいいや。正直、今だけは顔をあまり見られたくなかったから。
「そのままでいいよ。⋯ねえ、かぐやならいろはを幸せにできた?」
「え?」
かぐやは困惑してるようだった。
当然だ。
こんな時にこんなことを聞かれたら誰だって疑問に思う。
「私にはできなかった。いろはがかぐやを取り戻そうと必死になるのを、そばで支えることしかできなかった」
「⋯」
「ホントはね?何度も何度も思ったの。どうしてそんなに頑張れるの?って。どうして諦めないのって。⋯もうかぐやちゃんのことは忘れて、新しい人生を歩まない?いろはがこんなに苦しむことはないよって何度も思った」
かぐやは何も言わない。
コンソールを叩く音だけが返ってくる。
「だけどいろははいつも、私に笑いながら言うの。ねえ芦花、今日はこのタスクが終わったよ、これだけかぐやに近づいたよって。⋯本当に見てられなかった」
「月の世界なんてものは完全に未知の領域で、無人の荒野を一から開拓するようなものだった。進んでるのか、まったく見当違いのことをやってるのか、それすらわからずに終わりのない迷路をぐるぐる歩いてるみたい。成果が出るまでは、毎日いろはは笑われてたよ。頭がおかしくなったんだって、いつも侮蔑されてた」
「なのにいろはは怒らずに、言い返さずに、ただ研究に没頭した。それこそ、私生活すら投げ売って。⋯私がいなかったらあのマンションで孤独死してたかも」
「ねえ、かぐや。かぐやなら幸せにできる?いろはを、あの頑張り屋で意地っ張りで、誰よりも泣き虫なあの子を幸せにしてくれる?」
私の何年も溜め込んだものをかぐやは黙って聞いている。
いつのまにか、コンソールを叩く音も止んでいた。
ただ私の話を聞くために、かぐやは時間を使うとゆっくりと振り向いた。
「もち!かぐやがいろはをハッピーエンドに連れていくことは、ずっと前から決まってるの!だからかぐやに任せて!」
自信満々に変なポーズを決めながら宣言する。
その姿につい、ああ⋯かなわないなあ、なんて思ってしまう。
きっとこれがいろはを幸せにするために、私に足りなかったものなのだ。
⋯失恋、か。
あの日、かぐやが帰った時からずっと引きずっていたこの気持ちにやっと決着がつけられた。
「⋯うん!任せた!」
私は無理矢理笑顔を作ると、目尻に溜まった涙を気づかれないようにかぐやとハイタッチした。
・・・・・・・・・
・・・・・・
「どう?話せた?」
「うん」
「そっか〜」
「⋯真実」
「ん?」
「私、かぐやと話せてよかったよ」
「⋯ん」
筍型宇宙船が発射態勢に入る。
もうかぐやの姿はない。
既に宇宙船に乗り込んでるからだ。
発射口を塞ごうと怪物が束になって現れる。
だがチートを使用した黒鬼がその怪物を薙ぎ払う。
連続で使用したことによる身体への負担で荒い呼吸を繰り返すが、すぐに再使用し、流星となって怪物の群れを切り裂いていく。
発射場に侵入した怪物を真実と一緒に食い止める。
どれだけたくさんの敵が来ようと、絶対にここは通さない。
やがて、かぐやの乗った宇宙船が発射された。
あっという間に小さな星になり、見えなくなる。
良かった。
きっと、今のかぐやならいろはを幸せにできる。
私はそう確信して、彼女の軌跡を見送った。
・・・・・・・・・
・・・・・・
飛び出した宇宙船の中で、私は考える。
このまま行けば、私は隕石にぶつかって8000年前の地球に飛ばされる。
だけど今の私には、ヤチヨの記憶がある。
つまり、隕石との衝突を避けて地球に降りることもできるということ。
事実、協力してくれた皆には卒業ライブ後、すぐのいろはのもとに戻ると伝えてる。
「⋯ごめん、みんな」
だけど私はあえて航路を変えずに飛び続けた。
そしてやがて、件の隕石が見えてくる。
もうここまで来たら航路は変えられない。
「ハッピーエンド⋯絶対に行くんだ」
隕石にぶつかり、宇宙船の制御が利かなくなる。
たくさんのアラートに包まれながら、私はヤチヨの記憶を振り返る。
「いろはと⋯かぐやと⋯ヤチヨ、みんなで!」
目の前に広がる青い星。
私はこれから始まる8000年の旅に、想いを馳せた。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
そこからはヤチヨの記憶の焼き直しだった。
不時着した海のなか、壊れた宇宙船の力で何とかウミウシの身体を作り上げ、活動を開始する。
何が起こるかわかってはいても、未来のため、過去を変えるわけにはいかなかった。
一緒に遊んだ子供が病気で亡くなる様を見た。
私に恋した歌人、空襲で焼け跡になった街で花を売る少女、二人三脚で太夫を目指した花魁、焼け落ちる城で私に先を語った大名の妻、結核に冒されながら先の時代に夢見た俳人⋯またたくさんの好きになった人がいた。
CIA職員を名乗る男は、相変わらず好事家だった。
つい私が君と会うのは2回目だと口を滑らすと『だと思ったよ』なんて笑いながら返してきた。
『もと光る竹』を盗み出し、別れる時も彼はやはり、私を誘ってきた。
そしてそれを断ると、やはり彼は誤魔化すときの癖を見せながら笑って母国に帰っていった。
二度目でも限りある命である彼らとの出会いは、新鮮で眩しいものだった。
救えたかもしれない未来を切り捨てる度に、心に消えない傷ができていった。
それでも、私は歩みを止めなかった。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
技術が進み、インターネットが普及する。
私はツクヨミを作り上げ、ヤチヨになった。
再び温度も味もわからなくなった電子の世界は寂しかった。
だけど、ここまでやってきたのだ。
あと数十年も経てば、私は再びいろはに巡り会える。
その想いが、私の足を前に進める。
前のヤチヨと比べて、今の私には明確な違いがあった。
それはヤチヨの活動限界だ。
ヤチヨは充電とアップデートに加え、記憶の整理のために一定時間スリープ状態にならないといけない。
前は最大で52時間は活動できたのが、今では40時間にまで落ちている。
活動限界が短くなった理由も察しが付いている。
前のヤチヨの記憶を引き継いでいる私には8000年の経験が上乗せされている。
今回のと合わせて16000年。
記憶の整理と処理に時間がかかるのは明白だった。
そしてついにいろはと再び巡り、かぐやがやってきた。
ヤチヨカップを超え、コラボライブを行い、あっという間にかぐやの卒業ライブが始まった。
・・・・・・・・・
・・・・・・
「みんなー、ありがとー!」
感謝の言葉を述べながら、かぐやが月人に連れられていく。
地上ではいろは達が、成すすべもなく不安そうに見上げている。
今頃、現実世界ではかぐやがいろはに最期の言葉を述べてるのだろう。
かぐやが月に向かう途中、羽衣をかけられる前に私は行動を開始した。
ツクヨミの空を暗転させ、地上から見えなくさせる。
「え?」
「何これ?」
「演出か?」
「かぐやちゃーん!」
様々な憶測がツクヨミを流れる中、私は空の上で月人たちの前に立ちはだかっていた。
「えっ⋯?」
突如現れた私を前にして、かぐやと月人が困惑する。
「ごめんねー、このままかぐやを連れて行かれるのは困るんだー」
七福神を模した月人が私に対して武器を構える。
このまま戦っても十中八九私は負けるだろう。
いや、もしかしたら勝てるかもしれないが、その場合、現実世界からログアウトするかのようにかぐやが消えるだけだ。
だから戦って勝つ、という選択肢はもともと考えていない。
「だからさー、代わりにヤッチョがついて行ってあげる」
私の提案に月人が首を傾げる。
「あなた達ならわかるでしょ?私が誰なのか、どこから来たのか」
私が言うのと同時に全身を見通されるかのような感覚に陥る。
月人が私という存在を知るために、スキャンをかけているのだ。
それは一瞬で終わると、月人たちが一斉に私に対して頭を下げた。
「え?え?」
まだ何が起きたのかよくわかってないかぐやが、月人と私を見比べる。
「というわけで、かぐや!いろはのもとに帰ったげて!」
「ええー!?」
「おっと!そうだった!いろはに伝えておいて!卒業ライブでかぐやが歌った曲、絶対に完成させなきゃ駄目だよって!」
「や、ヤチヨ!待っ⋯」
「それじゃあさらばーい!」
かぐやが乗っていた足場が消え、悲鳴と共に落ちていく。
うん、これでかぐやはもう大丈夫。
さて、あとは。
「⋯羽衣は不要。ここまで来て逃げたりしないって」
私の言葉に、黒衣の月人が羽衣を懐へとしまう。
彼らは別に話が通じないわけじゃない。
こちらを思いやる気持ちも理解しようとする心の機微だってもっている。
「あ、そうだ。もう1個お願いがあった。かぐやの身体も返したげて!円満退職ってことで退職金代わりにさ?」
・・・・・・・・・
・・・・・・
誰もいなくなった家で、私は月へと手を伸ばす。
大切な人を奪った憎い存在に怨嗟の声が漏れ出る。
「私、やりたいことができ──」
最後まで言い切る前に、その異変に気がついた。
月から一筋の光が飛び出したのだ。
それは流れ星となって空を走り、地上へと向かっていく。
私はそれを見て、すぐに思い出した。
あの日、彼女と出会った記憶を。
「⋯っ!!」
慌てて上着を着て外へと飛び出す。
外はもう暗かったが、気にせずに光を追う。
息を切らし、光を見失わないように視界に収めて走り続ける。
途中、車に轢かれそうになったり、通行人にぶつかりそうになったが謝りながらも足は止めない。
ただその光を追い続ける。
やがて、見覚えのある場所に辿り着く。
本当は走っている途中で気づいていた。
光の向かう先が引っ越す前のアパートだったことを。
あの日と同じ、七色に光るゲーミング電柱。
私はつい、スマコンをつけてないか確認する。
⋯よし、現実だ。夢でもない。
息を吸ってゲーミング電柱に近づく。
記憶と同じく、そこを持てと言わんばかりに取っ手がついていた。
だが違う部分もあった。
それは、取っ手に手を伸ばそうとした私よりも先に取っ手が震え出したのだ。
同時にくぐもったような声も聞こえてくる。
「⋯むぐぐ⋯せまーい!早くあーけーてー!」
その気の抜けた声につい、吹き出してしまう。
まだ別れて時間も経っていないのに、懐かしく感じてしまう。
⋯加えて愛おしさも。
私はゆっくりと取っ手を掴むと勢いよく開け放った。
「⋯おかえり、かぐや!」
・・・・・・・・・
・・・・・・
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かくして、ゲーミング電柱から始まったかぐや姫の物語は、再びゲーミング電柱から帰ることで終わったのです。
その後、いろはとかぐやは幸せに仲睦まじく暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
happy end16_『幸せなふたり』
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ヤチヨ「ヤッチョと〜!」
かぐや「かぐやの〜!」
ヤチヨ・かぐや「「ハッピーエンド道場!!」」
かぐや「ん?なんでハッピーエンドなのにこのコーナーがあるの?」
ヤチヨ「んー?何でだろうね〜?やんちゃっ子のいたずらかにゃ〜?調べておくよー」
かぐや「うわ〜出た〜!適当な返事!」
ヤチヨ「よよよ〜ヤッチョもまた、キュートな悪わらべなのです〜」
かぐや「あー、ヤチヨ真似っこ〜」
ヤチヨ「さて⋯ここまでハードな展開を乗り越えてよく頑張った!かぐやならハッピーエンドに行けるってヤッチョは信じてたよ!」
かぐや「でもこのエンドだと、いろははやりたいことを見つけられてないし、お母さんとも話せてなくない?」
ヤチヨ「⋯それはこれから解決すればいいんだよ。この終わりなら、二人は一緒にいられる。いろはとかぐやなら、未来で夢だって見つけられるしお母さんと折り合いだってつけられる。ほら、めでたしできちゃうでしょ?」
かぐや「うーん⋯なーんか、違うんだよね〜」
ヤチヨ「違うって⋯何が?」
かぐや「かぐやが求めるハッピーエンドじゃないっていうか、モヤモヤするっていうか〜」
ヤチヨ「⋯もう、かぐやはわがままだな〜。それじゃあわがまま怪獣かぐやだよ〜」
かぐや「がお〜!よし決めた!かぐや、ハッピーエンドに連れてく!⋯ヤチヨも一緒に!」
ヤチヨ「⋯ええ〜?」
かぐや「だってこのまま終わりなんて嫌だもん!芦花の想いも、帝の後悔も、いろはの無念も⋯ヤチヨの贖罪も、全部全部背負ってかぐやは8000年をやり直したんだから!」
ヤチヨ「かぐや⋯」
かぐや「本当のハッピーエンド!連れていくから⋯絶対についてきてよね!!」
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次回、ブラックオニキス大勝利!凸凸突天山の謎!同時上映!かぐやといろはの夏休みに向かってプラグイン!