てなわけで心機一転の投稿です。随時改善していくので、楽しんでいただけたら幸いです。
帝都は大火に包まれていた。
地を這う無数の魔物によって栄華の象徴と言うべきビル群は無情にも崩れ落ち、間を蜘蛛の巣のように走る道路に瓦礫となって積み上がっている。逃げ惑う人々は自らが積み上げた歴史の残骸によって退路を断たれ、一人また一人と凶刃に掛かって命を落としていく。
煙が立ち上る茜色の空には死に物狂いで抵抗する人類の英知が飛び交うも、強大な力を持つ魔物が相手では鼠の一噛みにもなりはしない。鋼鉄で出来た反撃の使いはたちまち切り裂かれて地面に落ち、放たれた弾頭も悉くが強固な皮膚によって弾かれる。
抵抗など無駄だった。避けようのない運命だった。人類がそれを自覚したときには、もはや後戻りのできないところまで来ていたのだ。
その青年は今わの際、大敵を前にしてそれを悟った。
「ここまでか」
だらりと腕を垂らして青年は呟く。
「なんのために頑張ってきたんだろ……」
力ない呟きは仄暗い殿堂に空しく反響するばかり。大理石の床に白亜の壁、豪華なシャンデリアがいくつも吊り下がる湾曲した天井。帝国の誇りだった宮殿は、今や人の立ち入ることなど許されない伏魔殿と化していた。
青年は宮殿の中心に立ち尽くしていた。その身体はすでに満身創痍。擦り切れた鎧には深紅の血がこびりつき、手に持つ剣は半ばから折れ、反撃の証であった黄金色のマントは血や土で見る影もない。
素肌に焼けつくような痛みが走って籠手を外すと、手首から指先に掛けてが腐っていた。外気に晒された皮膚はわずかな風の動きでボロボロと落ちていき、鈍く不愉快な痛みだけを残していく。
正真正銘の死を前にして、青年はどこか他人事のように感じていた。達観……とも違う不思議な感覚に身を乗せて、喉を震わせながらからからと笑う。
「なんのために生きてきたんだろ……僕は……」
生まれたときから剣を握り、来る終末に備えて人生を捧げて来た。片時も自らの使命を忘れることなく、いついかなる時も誰かのために生きて来た。
全ては魔物から人々を守るために。
(その結末が
守るべき民などどこにもいない。
果たすべき役目など意味がない。
———この世を生きる理由もない。
青年は折れた剣の切っ先を自らの胸へと向ける。常に傍らにあった鋼鉄の右腕は刃先を失ってなお切れ味を残していた。まるでこの瞬間が来ることを予期していたかのように。
眼前の魔物が意図を察したように魔手を伸ばすが、もう遅い。
青年はふぅと息を吐き———一息に心臓へと突き立てた。
ふらりと倒れ行く肉体。それを受け止めたのは魔物だった。しかしそれは憐憫による慈悲などではない。不定形な漆黒の闇は青年を抱き留め、傷口から心臓へと魔手を伸ばし、その力の一片までをも奪い去ろうと暴れ狂う。
無駄だ。刃が心臓を貫いた時点で力は失われた。いくら亡骸をまさぐろうと虚しさだけが広がるのみ。
「ははっ、ざまぁみろ」
血反吐を吐きながら青年は勝ち誇った笑みを浮かべた。最初で最後の自由意志がもたらした細やかな勝利に幾分か苦しみも和らいだ。
意識が沈む間際、力の残滓は男に一つの景色を見せた。それが何なのかは彼自身にしか分からない。
ただ、最後に力を振り絞って、怨嗟の言葉を呟かせた。
「———こんな世界、大嫌いだ」