プロローグ:夢中の再会
夢を見ていた。明晰夢、という奴だろうか。
水面を揺蕩う木の葉のように意識は曖昧で、けれど自身が夢を見ていることだけははっきりとしている。
否、そうでなければならない。
「おぉ! イース」
「あらイース、おかえりなさい」
場面はちょうど、扉を開いたところだった。見慣れた家の、見慣れた部屋。着ている服は着古した警備隊の制服で、袖から覗く皮膚には怪我一つ刻まれていない。
そして、帰ってきた自分を出迎えるように、二人は佇んでいた。
迷いなどなかった。二の句が出るよりずっと早く、二人の下へ飛び込んでいた。
心地良い体温、嗅ぎ慣れた匂い。決して離れないよう、ひっしと抱きしめる。
ようやく心細さから解き放たれた気がした。自分でさえ感じないよう深層へ押し留めていた感情が、二人の胸の中でようやく癒された気がした。
だが、気付いていた。これは夢だ。
なぜなら……二人はもう、この世にいないはずだから……。
「———っ⁉ はぁ、はぁ、はぁっ……」
荒い息を吐きながらイースは目を覚ました。
心地良い夢を見ていた。決して悪夢なんかではない。なのに夢の内容は記憶の彼方に消えてしまい、残っているのは隙間風が吹きすさぶ空虚な心の穴のみ。
苦しい。一呼吸ごとに肺を無情な冷たさが占めて、息苦しい。
「どうしました?」
「ん? ユエル、起こしちまったか」
見上げれば、ベッドの上で眠そうに目をこすりながらユエルが体を起こしていた。
久々の安眠を妨害してしまった後ろめたさから、反射的に目を伏せるイース。しかし、短くも濃い時間を共に過ごしたユエルには、イースの思惑などお見通しだった。
「嫌な夢を見てしまいましたか?」
「そんなんじゃ……いや、まあ、多分な。覚えてねぇけど」
「そうですか。でしたら、はい」
と、ユエルは片手を差し出した。
意図が分からずポカンとしていると、
「母がよく、怖い夢を見たときにしてくれたのです。手を握れば、怖い夢は見ない、と」
「あっそ、でも俺ガキじゃねぇし」
「私からしてみれば、あなたはまだガキですよ。ほら」
「……」
イースの方も彼女がどんな人間か段々と分かってきていた。少なくとも今のユエルにイースを揶揄う気持ちは微塵もない。
それに……この隙間風は誰かの手を借りなきゃ塞げないと、感覚的に分かっている。
「……ふん」
素直に礼を言う気になれず、かといって無碍にも出来ず、イースは差し出された手を握る。
手のひらから伝わる本物の体温。一定のリズムで脈打つ鼓動が子守歌のように伝わってきて、いつしかイースは眠りに落ちていた。
今度は、嫌な夢は見なかった。