汎用長剣型像力兵器、レイラ。旧文明が生み出し現代まで残ったこの武器には、二種類の特殊な能力が付与されている。
一つは、引き金を引くことで
イースは体質によって二種類の能力を際限なく活用できる。上位種を相手に勝てたのもレイラがいたからこそだ。
……なのだが、
「あ、あれ? 動かねぇ……」
何度引き金を引いても剣は無反応。それどころか引くたびになぜか引き金が重くなっていく。
見れば刀身には大きな罅がいくつも入り、結晶も砕けてしまい中心部が露出している。表面では分からないが、内部の部品も壊れている可能性が高い。
だが、今更気付いても遅い。すでに挑発されたフラグマーが目と鼻の先まで迫っている。
「やべっ———」
鋭利な凶刃が差し迫り、イースは反射的に手を掲げる。
———刹那、襲ってきたフラグマーの上半身が消し飛んだ。
「後先考えずに動くから危険な目に遭うのです。覚えておいてください」
呆れた口調で告げながら、ユエルは剣についた血を荒々しく払う。
「ここは私にお任せください。すぐに終わらせます」
「ちょ、ちょっと待てって。俺もやるっての」
挑発したのは自分だ。さすがに他人の手を借りるのはカッコ悪すぎる。
レイラを鞘に戻しながら歩み出るも、ユエルはため息交じりに片手で制す。
「武器が無い状態でどう戦うのですか。良いから下がっていなさい」
反論を挟む余地すらなく、迫りくるフラグマーをユエルは淡々と処理していく。
何度見ても、ユエル・エクスコートの戦いは苛烈だ。剣が出せなければ腕でデイルをもぎ取り、防御のためなら魔物の腕を千切って即席の盾にする。もはや戦いではなく虐殺としか思えない。迫りくる魔物が理知的であれば逃げ出していたであろうほどに。
その姿を、イースは言い尽くせない後悔と共に見ていた。魔物の首が宙を舞うたびに……そのどす黒い血が彼女の肌を穢すたびに、浅はかで準備不足だった自分の行いに苛立ちが募る。
(なんで……レイラを点検しなかったんだ)
浮かれていた。答えなどその一言に尽きる。
上位種を倒し、ユエルを救った。その経験が驕りを生み、無視してはならない犠牲を無視してしまったのだ。
せめて壊れていることに気付いていれば、彼女に面倒を掛けることも無かった。自分の所為で振るわれる剣を見ると、その思いがますます強くなる。
「———ふん」
ものの数分で魔物どもは骸と化した。
瘴気と化して消えていく屍を踏み越えながら、ユエルは冷ややかな目でイースを見る。
「なにを考えていたのですか。苦労して拾った命を無駄にしたいのですか?」
「……ごめん」
「馬鹿なことをしないで……って、はい?」
「だから、その、ごめん」
叱責の声に、突き放すような目線に、イースはレイラを抱きながらただただ謝ることしかできない。
目を合わせることも、顔を上げることも出来ずに。
「随分としおらしいですね。いつものように言い返さないのですか?」
「悪いのは分かってるから。だから、ごめん」
「……調子が狂う」
前髪を掻きあげながら零れた言葉に、イースは一層委縮してしまう。
なぜだろう。見慣れているはずの彼女の一挙手一投足が途端に恐ろしく感じる。何気ない所作が、まるでイースを責め立てようと企てているかのように。
「まったく、もう怒っていませんから、もう落ち込まないでください」
「ごめん」
「ごめんはもう十分です。ほら、元気を出してください」
ユエルが荒々しく撫でたことでようやくイースは顔を上げた。少しは元気になったかと思っていたが、ようやく合った浅葱色の瞳には陰りが生じている。
半月ほど過ごした程度の家にも感謝を告げるような人間だ。ただでさえ名前まで付けて大切にしていた道具が壊れていて、気付いたのも戦闘に赴こうとした直後、その尻拭いを他人にさせたとなれば、負い目を感じるのも不思議じゃない。
なるべく威圧感を与えないよう、ぎこちない笑顔を浮かべるユエル。二人旅のお陰で幾分表情筋を使うようになったとはいえ、未だに意識して笑おうとすると頬が突っ張る。
ただ、慣れない笑顔を頑張ったおかげで、イースはほんのり笑った。
「とはいえ、まずはあなたの武器を修理しなければなりませんね。まさか本当にする羽目になるとは」
「……俺もびっくりだよ」
元よりイースの剣には在るべきはずの部品が一部無い。体質を最大限に活用するための特注品と言えば聞こえはいいが、傍から見れば欠陥品もいいところだ。現にユエルも初めて見た際には修理を打診したほど。
出会ったばかりを思い出してイースは苦笑。
「でも修理できるとこなんてあんのか?」
「ええ。当初の予定通り……というわけではありませんが、まあ焦る必要も無いですから」
レイラの柄頭と共にイースを撫でながら、ユエルは次なる目的地の名を口にした。
「宿駅へ行きましょう。あなたもきっと気に入りますよ」