荒んだ世界を僕らは生きる   作:華月 珠音

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第三十話

 汎用長剣型像力兵器、レイラ。旧文明が生み出し現代まで残ったこの武器には、二種類の特殊な能力が付与されている。

 一つは、引き金を引くことで刀身(ブレイド)に溜めた像力エネルギーを爆発させる像力破(しょうりょくは)。もう一つは、鍔の中心に取り付けられた青い結晶に触れることでバリアを展開する像力盾(しょうりょくたて)。

 イースは体質によって二種類の能力を際限なく活用できる。上位種を相手に勝てたのもレイラがいたからこそだ。

 ……なのだが、

 

「あ、あれ? 動かねぇ……」

 

 何度引き金を引いても剣は無反応。それどころか引くたびになぜか引き金が重くなっていく。

 見れば刀身には大きな罅がいくつも入り、結晶も砕けてしまい中心部が露出している。表面では分からないが、内部の部品も壊れている可能性が高い。

 だが、今更気付いても遅い。すでに挑発されたフラグマーが目と鼻の先まで迫っている。

 

「やべっ———」

 

 鋭利な凶刃が差し迫り、イースは反射的に手を掲げる。

 ———刹那、襲ってきたフラグマーの上半身が消し飛んだ。

 

「後先考えずに動くから危険な目に遭うのです。覚えておいてください」

 

 呆れた口調で告げながら、ユエルは剣についた血を荒々しく払う。

 

「ここは私にお任せください。すぐに終わらせます」

「ちょ、ちょっと待てって。俺もやるっての」

 

 挑発したのは自分だ。さすがに他人の手を借りるのはカッコ悪すぎる。

 レイラを鞘に戻しながら歩み出るも、ユエルはため息交じりに片手で制す。

 

「武器が無い状態でどう戦うのですか。良いから下がっていなさい」

 

 反論を挟む余地すらなく、迫りくるフラグマーをユエルは淡々と処理していく。

 何度見ても、ユエル・エクスコートの戦いは苛烈だ。剣が出せなければ腕でデイルをもぎ取り、防御のためなら魔物の腕を千切って即席の盾にする。もはや戦いではなく虐殺としか思えない。迫りくる魔物が理知的であれば逃げ出していたであろうほどに。

 その姿を、イースは言い尽くせない後悔と共に見ていた。魔物の首が宙を舞うたびに……そのどす黒い血が彼女の肌を穢すたびに、浅はかで準備不足だった自分の行いに苛立ちが募る。

 

(なんで……レイラを点検しなかったんだ)

 

 浮かれていた。答えなどその一言に尽きる。

 上位種を倒し、ユエルを救った。その経験が驕りを生み、無視してはならない犠牲を無視してしまったのだ。

 せめて壊れていることに気付いていれば、彼女に面倒を掛けることも無かった。自分の所為で振るわれる剣を見ると、その思いがますます強くなる。

 

「———ふん」

 

 ものの数分で魔物どもは骸と化した。

 瘴気と化して消えていく屍を踏み越えながら、ユエルは冷ややかな目でイースを見る。

 

「なにを考えていたのですか。苦労して拾った命を無駄にしたいのですか?」

「……ごめん」

「馬鹿なことをしないで……って、はい?」

「だから、その、ごめん」

 

 叱責の声に、突き放すような目線に、イースはレイラを抱きながらただただ謝ることしかできない。

 目を合わせることも、顔を上げることも出来ずに。

 

「随分としおらしいですね。いつものように言い返さないのですか?」

「悪いのは分かってるから。だから、ごめん」

「……調子が狂う」

 

 前髪を掻きあげながら零れた言葉に、イースは一層委縮してしまう。

 なぜだろう。見慣れているはずの彼女の一挙手一投足が途端に恐ろしく感じる。何気ない所作が、まるでイースを責め立てようと企てているかのように。

 

「まったく、もう怒っていませんから、もう落ち込まないでください」

「ごめん」

「ごめんはもう十分です。ほら、元気を出してください」

 

 ユエルが荒々しく撫でたことでようやくイースは顔を上げた。少しは元気になったかと思っていたが、ようやく合った浅葱色の瞳には陰りが生じている。

 半月ほど過ごした程度の家にも感謝を告げるような人間だ。ただでさえ名前まで付けて大切にしていた道具が壊れていて、気付いたのも戦闘に赴こうとした直後、その尻拭いを他人にさせたとなれば、負い目を感じるのも不思議じゃない。

 なるべく威圧感を与えないよう、ぎこちない笑顔を浮かべるユエル。二人旅のお陰で幾分表情筋を使うようになったとはいえ、未だに意識して笑おうとすると頬が突っ張る。

 ただ、慣れない笑顔を頑張ったおかげで、イースはほんのり笑った。

 

「とはいえ、まずはあなたの武器を修理しなければなりませんね。まさか本当にする羽目になるとは」

「……俺もびっくりだよ」

 

 元よりイースの剣には在るべきはずの部品が一部無い。体質を最大限に活用するための特注品と言えば聞こえはいいが、傍から見れば欠陥品もいいところだ。現にユエルも初めて見た際には修理を打診したほど。

 出会ったばかりを思い出してイースは苦笑。

 

「でも修理できるとこなんてあんのか?」

「ええ。当初の予定通り……というわけではありませんが、まあ焦る必要も無いですから」

 

 レイラの柄頭と共にイースを撫でながら、ユエルは次なる目的地の名を口にした。

 

「宿駅へ行きましょう。あなたもきっと気に入りますよ」

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