ようこそAクラスの教室へ   作:yadooo

10 / 11
10話:問題

「綾小路くん。()()は用意しましたか?」

 

「いや、まだだが。もう坂柳は準備出来たのか?」

 

「いいえ、私もまだです。昼休みなのでこれから真澄さんと一緒に行ってきたいと思います」

 

「ならオレも行くか。あ、一緒にって意味じゃないぞ?」

 

「分かってますよ。それでは真澄さん、行きましょう」

 

「どこに行くつもりなの? そもそも何するつもり?」

 

「食堂です。何をするかは、楽しみにしておいてください」

 

 坂柳と神室が教室から出て行く。

 オレも食堂を狙っていたんだが、まあいいか。他にも方法はあるし、切っ掛けとして考えればある意味で都合が良いかもしれない。

 

 オレも教室に出て椎名に合流する。

 

「椎名、Dクラスに寄っていいか? それと昼食を摂る時間が遅れるが構わないか? お腹がペコペコなら坂柳と神室に合流するのをおすすめするが」

 

「大丈夫ですよ。綾小路くんに付き合います」

 

 オレ > 坂柳・神室ということかな?

 だったら普通に嬉しい。

 

 

 オレと椎名はDクラスの前までやって来る。

 うーむ、他クラスに入るのは緊張するし、無駄に注目を浴びそうで嫌だな。扉の前で待っていれば来てくれるか? それはそれで目立ちそうだが、教室に入るよりはマシか。

 いや、須藤に連絡して呼び出してもらうか?

 

 ちらりとDクラスを覗くと、残念なことに須藤の姿はなかった。

 諦めてオレはDクラスの扉の前に立ち、目的の人物に視線を向ける。

 

 一応知っているつもりだったが、彼女は本当に一人だった。

 誰かと一緒に昼食を食べる気配はなさそうだが、彼女の視線は一人の少女に向けられている。昨日、図書室で一緒に勉強会をしていたもう一人の少女だ。

 

 昨日の今日で早速行動を起こそうとしているのか。もしそうなら素直に感心出来るが、その前にオレに気付いて欲しい。やばい、視線が集まり始めてきた。

 

「何かDクラスに用があるのかな?」

 

 内心で帰ることを検討していたオレに、爽やかなイケメンが声を掛けてきてくれた。

 余計に視線が集まってしまっているが、無言でいるわけにもいかないので口を開く。

 

「すまない、鈴音……、堀北鈴音を呼んできてくれないか?」

 

鈴音……?

 

「堀北さんを?」

 

 爽やかなイケメンが目を丸くしながらも後ろを振り返る。

 その時には流石に鈴音もオレの存在に気付いており、戸惑った表情を浮かべていた。

 

「堀北さん。彼が君に用があるって」

 

「……そのようね」

 

 鈴音は立ち上がり、視線を集めながら歩いてくる。

 ダッシュで来いよと思いつつ、それだと猶更目立つかと苦悩する。間を取って瞬間移動してくれれば解決するか?

 

「何の用なの、綾小路くん?」

 

「ここで話すことじゃない。移動しよう」

 

 怪訝な表情を浮かべながら、オレの隣に並んで歩き出す鈴音。

 

「それと紹介しておく。彼女は椎名ひより。オレの友達だ」

 

「綾小路くんのお友達の、1年Cクラスの椎名ひよりです」

 

 オレを間に挟んで椎名がにこやかな顔で挨拶する。

 

「……堀北鈴音よ」

 

「よろしくお願いします、堀北さん」

 

「えぇ」

 

 椎名と違い愛想がまるでない。椎名を相手なのに冷たいぞ。ギルティ。

 

「綾小路くん。今朝担任の茶柱先生に確認を取ってみたら、中間テストの範囲は本当に変更されていたわ。あなたは間違っていなかった。一応、礼は言っておくわ」

 

「恩を着せるわけじゃないが、一応じゃなくてしっかりお礼を言うべきでは?」

 

 オレが言わなかったら、Dクラスは今も間違ったテスト範囲を勉強していた可能性があるわけなんだが……。

 

「それで、どこに行くつもりなの?」

 

「内緒だ」

 

「ふざけてるの?」

 

「3年Aクラス」

 

「は……?」

 

 3年Aクラスの前に辿り着いた頃には、鈴音は借りてきた猫のように大人しくなっていた。

 びくびくと落ち着かない様子で、オレの一歩後ろにいる。

 対照的に、椎名はオレの隣でいつも通りの自然体だった。3年生の教室の前でも変わらず落ち着ている。

 

 3年Aクラスの教室を覗き、目的である男子生徒を探す。

 彼は妹とは違い、数人の男女に囲まれていた。

 オレが呼び出そうとする前より先に、オレの視線に気付き、周囲に断わってから近付いてくる。

 

「何の用だ、綾小路?」

 

「っ」

 

 オレの名前が呼ばれたのに、背後にいる鈴音がビクリと反応していた。

 視線すら向けられていないのに過剰反応しすぎである。

 

「生徒会長。一昨年の一学期、中間テストの問題を持っていませんか? もし先輩、あるいは先輩のクラスメイトの中に過去問を持っている人が居るなら、それを譲ってもらいたいんですが。それと入学直後にやらされた小テストもあれば、その解答も」

 

「ほお」

 

 堀北兄が眼鏡をクイっとした。

 

「何故過去問が欲しいかとか、理由をわざわざ説明した方がいいですか?」

 

「不要だ。それよりもいくら払う?」

 

「お互いの為に、0でいいですよね?」

 

「対価を払うつもりはないと?」

 

「対価なんて大袈裟な言い方をしますね。オレはお互いの為にと、提案しているんです」

 

 首を動かし、オレの背中に半分隠れるようにいる鈴音に目を向ける。

 

「勘違いされたくないので先に言っておきますが、別に()()するつもりはありませんよ?生徒会長を敵に回すつもりもない。証拠もありませんからね。でも彼女とは別に、昨夜はいきなりだったので驚きました」

 

「昨夜、何かあったんですか?」

 

 椎名が良いタイミングで言葉を挟んでくれる。

 

「怪我()しなかったから大丈夫だ」 

 

 怪我はないから物証がない。だから昨夜の出来事に対して堀北兄が不利になることはない。例え周りに言いふらしたとしても、「軽い兄妹喧嘩がありました」で誤魔化され説明が済んでしまう。

 だけどそれとは別に、オレが堀北兄に暴力を振るわれたという事実が消えるわけではない。

 表に出なくても、オレ(本人)の間では遺恨は残る。

 

「なるほど。確かにこれはお互いの為だな。いいだろう、綾小路。携帯を出せ」

 

「助かります。これでスッキリしますね」

 

 最悪突っぱねられる可能性もあったのだが、敵対とまでいかずとも、堀北兄はオレに悪感情を抱かれるのを良しとはしないようだ。まあ、むやみやたら周囲に敵を作る人間が生徒会長にはなれないだろうが。

 

 言われた通りに携帯を出すと、堀北兄も自身の携帯を取り出し操作し始める。

 そして直ぐに送られてくる添付画像。過去問だ。

 

 準備がいいな。 

 やはり、想定されていたことか。

 

「小テストも付けておいた。これで問題ないな?」

 

「……それはありがたいですが、コレは?」

 

 過去問と小テスト。それと一緒に送られてきた10万ポイント。

 

「誠意と褒美。そのどちらでも構わない。受け取っておけ」

 

「……ありがとうございます」

 

 いきなり10万ポイントを送られると、それはそれで怖いんだが、一応軽く頭を下げておく。

 

 用件が終わると、堀北兄は妹に声を掛けるような真似はせずに、さっさと教室へと戻っていった。同時に、安堵したような深い息が背後から聞こえてくる。

 

「……どういうつもりなの、綾小路くん」

 

「少し待て、鈴音。……よし、教室を覗いて見ろ。こっそりな」

 

鈴音……

 

「ちょ、離しなさい」

 

「いいから生徒会長を見ろ」

 

「……兄さんが、何なの?」

 

「今は一人か?」

 

「……見て分かるでしょ。クラスメイトと一緒にいるわ」

 

「仲は良さそうか?」

 

「そんなの、私が分かるわけないじゃない……」

 

「椎名はどう思う? 生徒会長は、つまらさなそうな顔をしているか?」

 

「私は生徒会長のことは詳しく知りませんから、彼の表情を見て断言をすることは出来ません。ですが、彼の周りにいるクラスメイトの方々は楽しそうにしていると感じますよ」

 

「だ、そうだぞ、鈴音?」

 

「…………それが何だっていうの」

 

「それが何なのかは、お前が考えろ」

 

 オレは鈴音の手首を離す。

 

「さて、学食に行こうか。付き合ってくれたお礼に奢らせてくれ、椎名」

 

「そんな。別にいいですよ、綾小路くん」

 

 臨時収入も増えたし絶対に奢ることを決意しながら、オレは鈴音を見る。

 

「安心しろ、鈴音にも特別に奢ってやる」

 

「……どうして、私も一緒に昼食を食べることになっているの?」

 

「別に嫌なら帰ってもいいが、お前の為でもあるぞ?」

 

 オレはわざとらしく携帯を開き、過去問の表示された画像を鈴音に見せる。

 

「……いいわ。ただし、発言の撤回は認めないわよ」

 

「はいはい」

 

 

 

 食堂にて、坂柳、神室の姿は見当たらない。きちんと探せばいるのかもしれないが、まあ無理に探し出す必要もないし3人で席に座る。

 

 椎名にはグラタンとサラダを奢った。 

 ふぅーふぅーとグラタンの熱を冷ます椎名が可愛い。

 

 鈴音は奢りだからと高いスペシャル定食を頼んだ。

 別にいいんだけど遠慮がなくて逆に清々しい。

 

「綾小路くん。一人だけ山菜定食を頼むなんて私に対する当てつけのつもり?」

 

「そんなつもりはないし、そもそも気にしてないだろ」

 

 普通にぱくぱく食ってるじゃん。

 

「ただ、無料の山菜定食を食べたことはなかったと思っただけだ」

 

「嫌味かしら? Aクラスはポイントがあって羨ましいわね」

 

「まあな。金欠だと大変そうだし、ポイントの少ないDクラスじゃなくて助かってる」

 

 ふん、と忌々し気に鈴音は鼻を鳴らす。

 椎名はオレの顔を見ながら「あぁ」と微かに空気を揺らした。

 

「それで綾小路くん。兄さ……生徒会長から受け取った物に関してだけど」

 

 椎名も察しているはずだし「兄さん」呼びで良いと思うのだが面倒なので指摘しない。

 

「話を聞いていたから分かっていると思うが、過去問と小テストだ」

 

 オレは携帯を開いて操作し、椎名と鈴音に見えるようにテーブルの上に置く。

 

「この問題って……」

 

「そうだな。一語一句違わない。小テストの最後の方の問題は、一昨年と同じ内容だ」

 

「最後の3問だけは、いくら何でも難し過ぎると思っていたのよ……」

 

「そうですね。後で調べてみたのですが、この問題は高校2年、3年で習う範囲の問題でした」

 

 椎名の捕捉に鈴音は「道理で……」と言葉を漏らす。

 

「鈴音。どうして学校側が、こんな解けない問題を放り込んだと思う?」

 

「他の問題が簡単すぎたから、満点を取らせないようにする為かと思ったけれど、違うのよね……?」

 

鈴音は数秒ほど考え込んでから、口を開く。

 

「学力を計る以外で別の狙いがあった……。機転、柔軟な思考がなければ、辿り着けない」

 

「お前も見ていたと思うが、生徒会長はオレの頼みを聞いても驚く素振りを見せなかった。むしろ入学直後の小テストの答案用紙すら保存しており、直ぐに送れる状態でもあった」

 

「つまり、最初から想定されていたということね」

 

「小テストがここまで一緒なんだ。過去問だからといって丸々同じ問題が出るとは限らないが、全く違う問題になるとも思えない。過去問の内容も、テスト範囲が変更されたのと同じ範囲の問題だしな」

 

 小テストの次に過去問の画像を出す。

 きちんとテスト範囲が変更された部分の問題が出されている。一週間前に過去問を用意していれば、逆に範囲が違うと混乱していたかもしれないな。

 

「…………いつから気付いていたの?」

 

「確信を抱いたのはテスト範囲が変更された昨日だが、過去問が有効的だって可能性は、一週間前の中間テストの話をされた時から想定していた」

 

「っ!? そんなに前から!?」

 

 真嶋先生は言っていた。「坂柳だけでなく、お前達全員が満点を取れることを期待している」と。

 いくらAクラスとはいえ、3週間ーーいや、2週間の勉強で全員が満点を取れるとはとても思えない。なら何故、真嶋先生はそんな夢物語に等しい大言を口にしたのか。それはつまり、夢物語を可能にする為の攻略法があることを示していると、オレは思ったのだ。

 

「鈴音、お前はこの過去問の存在を知った今、小テストの問題だけじゃない。他にも違和感を覚える部分はなかったか?」

 

「……今思い返すと、茶柱先生の言い方が妙だったわ。退学者を出さずに乗り切れる方法があると確信を持って話していた。担任として、須藤くんたち赤点組の成績は把握しているはずなのに……」

 

 どうやら真嶋先生に限らず、Dクラスの担任である茶柱先生も、ヒントはしっかりと出していたようだ。

 

「違和感を違和感のままで処理するな。しっかりと疑い、視野を広げてちゃんと考えろ。お前は本気でAクラスを目指しているんだろ?」

 

「っ!?」

 

 鈴音は悔しそうに歯を喰いしばる。

 そんな鈴音を、椎名はちょっと意外そうな表情で見ていた。

 

「……綾小路くんの言う通りね。認めるわ。私の能力不足だった。私の力だけで過去問に辿り着かなければならなかったのに、またこうしてあなたから助言を受けている……」

 

「ま、そんないきなり成長出来るとは思ってないからな。気にして欲しいが、気に病む必要はない」

 

「ムカつくけど、今は甘んじて受け入れるわ」

 

 そう言いながら、ジト目を向けてくる。あと少しだけ怒らせれば舌打ちして来そうである。

 

「でも、過去問のおかげで須藤くんを含めた赤点組の退学は避けられそうね」

 

「一応、言っておくがお前には渡さないぞ。もちろん、椎名には渡すけどな」

 

 「は?」と言葉を漏らす鈴音は無視して、携帯を操作して椎名に、堀北兄から受け取った過去問、小テストを全て送っておく。

 

「ありがとうございます、綾小路くん。大切に有効活用させていただきますね」

 

「ああ、信用してる」

 

「ちょっと待ちなさい。椎名さんはCクラスでしょ? どうして敵に……いえ、椎名さんに渡せるなら私にも渡せるはずでしょ?」

 

「100万ポイントだ。100万ポイントで渡してやる」

 

「ふざけてるの?」

 

「つまり、渡す気がないってことだ。てか、それぐらいはオレに頼らずに自分の力で入手するべきだろう? それとも手とり足とり介護が必要か?」

 

「っ、分かってるわよ!」

 

 鈴音は立ち上がり、周囲を見渡してから上級生の方へと歩いてく。

 早速行動するのは良いことだが、あまり冷静じゃなさそうだな。そんな煽ったつもりはないんだが……、って、あれ、もしかして揉めてる?

 

「私が行ってきますね」

 

 遠目に見守っているオレの横で椎名が立ち上がり、早歩きで鈴音に近付いていく。

 そこで上級生に軽く謝る素振りを見せてから一度離れ、鈴音と一言二言の会話を交わす。それからまた別の、山菜定食を食べている上級生に声を掛ける。そして2人は携帯を取り出し、短いやり取りを終えてから戻ってきた。

 

「お帰り」

 

「ただいまです、綾小路くん」

 

「…………」

 

 鈴音は若干罰の悪そうな表情を浮かべ、オレとオレの食べ終えた山菜定食の食器に目を向けている。

 

「悪いな、椎名。いくらポイントを使った? オレに支払わせてくれ」

 

「大した出費ではありませんから大丈夫ですよ。綾小路くんも気にしないでください」

 

「まあ椎名がそう言うなら。ーーで、鈴音はどんなミスをやらかしたんだ? 最初に声を掛けていた上級生、怒っていなかったか?」

 

「……3万ポイントって言われたのよ。いくら何でも暴利だわ」

 

 大して吹っ掛けられてなかった。いや、Dクラスからしたら大金か。

 どっちにしろ、交渉しようとすれば半分ぐらいまでは減らせそうだが。

 

「そもそも、ダメならダメで、揉める前に他の上級生の所に行けば良かったんだ。もっと低い額で取引出来る上級生なら沢山いるだろ」

 

「っ」

 

 鈴音がまた悔しそうに俯く。

 うーむ、これ以上は流石にぐちぐち言うのは酷か。ある程度は鈴音のプライドは折っておきたいところでもあるんだが、椎名の前でもあるからな。

「酷い男」と椎名に嫌われたらオレが泣いてしまう。

 椎名の前では止めておこう。

 

 

 

 

 椎名が教室に入るのを見送ってから、オレは歩き出している鈴音を呼び止める。

 

「少し歩くぞ」

 

「昼休みはあと少しよ」

 

「それぐらい分かってる」

 

 鈴音が隣に並んだタイミングで口を開く。

 

「さっきよりは落ち着ているな」

 

「……えぇ、椎名さんには迷惑をかけたわ」

 

「お詫びの気持ちがあるなら、今度椎名からおすすめの本でも借りて、その感想でも伝えてやってくれ」

 

「椎名さん、本が好きなのね」

 

「ああ、読書仲間は常に募集しているはずだ」

 

 と、時間も少ないし本題に入ろう。

 

「オレ達と同じ、過去問を手に入れた鈴音に『問題』だ。過去問を、どのタイミングで見せるつもりでいる?」

 

 オレの問いに、鈴音は一呼吸置いて答える。

 

「3日前にする予定よ」

 

「理由を聞いても?」

 

「流石に、これからずっと先のテストも過去問が通用するとは思えない。それに、いくら可能性は高くても過去問が絶対に通用するという保証もない。今年だけ違う可能性だってあるわ」

 

「そうだな。過信せず、保険の域であることを頭に入れといた方がいい」

 

「言うまでもなく、赤点を回避することは必須よ。だけどもう一つ、勉強を継続させて習慣を身に着けさせることも大事なことだわ。早くに過去問を与えてしまえば緊張が緩み、危機感を与えられなくなる。勉強せずにテストで過去問を頼りにされてしまえば、いずれ破綻するわ。……私は間違っているかしら?」

 

「いいや、正しい。オレがもしDクラスでも、過去問を公開するは2日や1日前にしていただろう」

 

 どうやら冷静さを取り戻し、ちゃんと考えているらしい。

 これで今すぐにでも過去問をクラスメイトに配るとか言い出していたら頭を抱えていた。

 

「問題はこれで終わり?」

 

 少しだけ自信を取り戻したような顔で鈴音が聞いてくる。

 

「問題はこれで終わりだが、一つ知りたいことがあるんだが質問をいいか?」

 

「何?」

 

「お前は、Aクラスを目指すにあたって、他クラスの生徒を退学に追い込む覚悟はあるか?」

 

「え……?」

 

「別に驚くことじゃない。詳細は明かされていないが、退学のペナルティがないとはお前も思っていないだろう? ならAクラスを目指すに当たって、他クラスの生徒を退学に追い込みクラスポイントを減らすことだって十分戦略のうちだ」

 

「それは、そうね……」

 

 頷きながらも鈴音の表情は固い。

 

「オレは今回の中間テストでDクラスから10人近く、Cクラスからも数人。上手くいけばBクラスでさえ、1人か2人ほど退学に追い込める手段を見つけているぞ」

 

「なっ……!?」

 

 絶句する鈴音に構わず、オレは過去問の画像が表示されたままの携帯を見せる。

 

「そんなに難しいことじゃない。過去問という有効な武器に、毒を塗り込み()()に使うだけだ」

 

「……問題の、すり替え……」

 

「ああ、すり替えるのは1教科で十分事足りる。個人の苦手な教科を把握していれば、狙い撃ちだって可能だろう」

 

過去問の使い方次第では、赤点を回避する道具ではなく、赤点に追い込む武器へと変化させることが出来る。学力の低い、過去問の存在によって慢心した者から退学していくことになるだろう。

 

「どうする、鈴音」

 

「どうする、とは……?」

 

 鈴音は戦慄した表情で、オレから一歩だけ距離を取る。

 

「一緒にCクラスとBクラスを陥れるか? 1人か2人だけでも退学者を出せれば、一気にクラスポイントの差が縮まるかもしれないぞ?」

 

「っ、それは、だけどっ……。でもそれは人として、道義として、許されるべきじゃないわ。そんな方法じゃきっと兄さんだって認めてくれない……!」

 

「そうだな。じゃあこの話は終わりだ」

 

「え?」

 

 あっさりと話を切り上げ携帯を仕舞うオレを見て、鈴音は呆けた声を出す。

 

「やってやるわと、そう言い切られなくて安心した」

 

 いや、マジで。

 

「……からかったの?」

 

「揶揄われたと思ったか?」

 

 鋭い眼光を向けてくる鈴音と正面から目を合わせる。

 数秒ほどお互いに目を逸らさず向かい合っていると、鈴音はどこか諦めたように口を開く。

 

「分からないわ。少なくとも私は、あなたが本気でやるんじゃないかと信じてしまった」

 

「最初に言ったが、お前がどこまで出来るのか知りたくて質問しただけだ」

 

「……それで質問の意味はあったの?」

 

「ああ、お前が真っ当な人間で安心した。これで話は終わりだ」

 

 オレは来た道を振り返り、Aクラスに向かって歩き出す。

 あと1、2分で予鈴が鳴りそうだ。

 

「考えるわ。あなたが私にこの質問をした意味を」

 

「そうか」

 

 流石に、ある程度の意図は伝わっているか。

 彼女がきちんと気付きを得るか、期待しておこう。

 

 




・因みに椎名と鈴音は各1万ポイント払い(計2万)上級生から過去問と小テストを入手した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。