ようこそAクラスの教室へ   作:yadooo

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11話:平穏

 放課後。

 事前に言っていた通りに、オレと坂柳は『答え合わせ』を始める。

 といっても、お互いに想定していた通りの結果だった。

 

 入手した過去問を見せ合い、答え合わせはあっという間に終わる。

 わざわざ気付いた理由などの説明は不要だろう。

 

「因みに綾小路くんは何ポイントで譲ってもらえましたか? 私は8千ポイントで譲ってもらいました」

 

 大分安値で手に入れているが、フフフ、今回は相手が悪かったようだな。

 

「10万ポイントだ」

 

「はっ? そんなに支払ったの、綾小路?」

 

 横から神室が信じられないといった表情で割り込んでくる。

 坂柳は口を閉じて考え込んでから「まさか」と言葉を漏らす。

 

「10万ポイント()、譲ってもらった」

 

「はぁああああ!?」

 

 オレは携帯を操作し、ポイントが譲渡された記録を2人に見せる。

 

「マ、マジなのね……」

 

「ふふ、ふふふふ。流石ですね、綾小路くん」

 

 坂柳が自分のことのように嬉しそうにして笑う。

 

「まあ10万ポイントの譲渡に関しては、別にオレが何かしたわけじゃない。よく分からないが、生徒会長が勝手にくれただけだ」

 

 とはいえ、0ポイントで過去問を受け取っているので、どちらにしろ坂柳よりは安く入手しているけどな。

 

「意味わかんない。生徒会長って変人なの?」

 

「もしかしたらそうなのかもな」

 

「誠意と褒美」だと言っていたが、10万ポイントを簡単に渡してくる生徒会長が何を考えているのかは不明だ。オレだって堀北学のことを詳しく知っているわけじゃない。

 

「ところで、入手した過去問はどうするつもりか考えているか?」

 

「綾小路くんと同じ考えです。葛城くんに丸投げ……いえ、任せましょう」

 

「気付いていたのか?」

 

「当然です。綾小路くんはリーダーを目指しているわけではありませんし、別に手柄とかも気にしていないでしょう?」

 

 頷く。

 Aクラスには既に葛城というリーダーがいる。わざわざ出しゃばる必要性はなく、彼に任せた方が円満に進みクラスメイトの為にもなるだろう。

 

「真澄さん。葛城くんを呼んできて貰っていいですか?」

 

「それぐらい……はぁ」

 

 神室は溜息と共に立ち上がり、まだ教室に残っている葛城に近付く。

 少し大きな声を出せば呼び出せる距離なのだが、律儀だな、神室。

 

「どうした、坂柳。綾小路」

 

「葛城くん。これを見てください。私と綾小路くんが上級生から別々に入手したものである」

 

 過去問の表示された、オレと坂柳の携帯を葛城に見せる。

 驚く葛城に、鈴音に説明したのと同じような内容を聞かせる。

 

「葛城の好きなタイミングで皆に公開してくれ」

 

 Dクラスと違い、過去問があるからといって勉強を疎かして油断する生徒はいないだろう、多分。

 

「感謝する、綾小路。坂柳」

 

 終始感心した様子の葛城が過去問を受け取り、オレと坂柳の2人に礼を告げた。

 

「2人、いや、3人も勉強会に参加しないか?」

 

 1週間前から既に、Aクラスもまた葛城が中心となって勉強会が教室で行われている。

 正直、前々から興味があった。

 

「そうだな。せっかく誘ってくれたわけだし、取り敢えず1時間だけで良いなら参加させてくれ」

 

 Aクラスに馴染む為にも、友達を増やす為の足掛かりになれば嬉しい。

 

「そうか。綾小路は参加してくれるか。坂柳と神室はどうする?」

 

「綾小路くんが参加するなら私も付き添いましょう」

 

 坂柳も参加を表明し、神室が面倒臭そうに溜息を吐いた。

 

 

 椎名に連絡を入れてから、始まるAクラスの勉強会。

 

 クラスの半分近くが参加している勉強会。基本的に皆きちんと勉強しているが、私語もちらちら聞こえてくる。葛城も注意する気配はないし、思ったよりも空気が緩い。Dクラスと違い、Aクラスは学力に不安を抱えていないからな。これも自信の表れか。

 

「綾小路くんは大丈夫そうですね」

 

 問題を解くオレを見ながら、勉強を教える側に回っていた真田が柔和な表情を浮かべる。

 

「これなら綾小路くんも教える側に回った方がいいかもしれませんね」

 

「それは別に構わないが、人に教わらないといけないほど困っている奴はいるのか?」

 

 何度も言うが、学力の面においてAクラスの生徒たちは優秀だ。分からない問題があっても自力で調べ、答えを解く力を既に身に着けている。

 もちろん全員ではないが、葛城、真田、島崎。ついでに、仏頂面の神室を相手に、口角を上げながら付きっ切りで見ている坂柳など、勉強を教える側の数は十分に足りているように思う。

 

「そうですね。なら僕と一緒に勉強しましょうか」 

 

「お、おう」

 

 真田はそう言って机を動かして椅子に座る。

 

「前から聞きたかったんですが、綾小路くんはあの小テストの点数は、狙ってやったんですか?」

 

 まさかテスト結果を貼り出されると思っておらず、全教科を88点で揃えた話だ。

 あの時はまだSシステムやらクラス対抗やらの混乱があったから追求は受けなかったが、改めて聞かれると何て答えるのが正解なのか分からない。

 

「……偶然だといったら信じてくれるか?」

 

「いやいや、そりゃあ無理だろ、綾小路」

 

 横から橋本が声量を抑えながら軽薄な様子で、椅子を持って移動してくる。

 

「さっきのお前達の話はちゃんと聞いてたぞ。姫さんもだが、お前もキレ者だったんだな」

 

「過去問の話ですね。僕も話を聞いていましたが、綾小路くんと坂柳さんの説明を聞いていてハッとさせられる気持ちになりました」

 

「過去問での勉強なんて別におかしな事でもなんでもないのにな。目から鱗な気分だったぜ」

 

 人目を避けたわけでもないし教室内での話だからな。まあ、教室に居たなら会話も耳に入ってくるか。

 

「今回は偶々考えていたことが当たっただけだ。あまり買い被らないでくれ」

 

「悪いが、勝手に買い被らせてもらうぜ。あ、この問題教えてくれよ」

 

 橋本はニッと笑みを浮かべて教科書を開く。一応、勉強するつもりはあるようだ。

 

「それとAクラスを維持する為には俺も協力するからよ。何かあれば遠慮なく言ってくれ」

 

「僕も協力しますよ、綾小路くん」

 

「オレじゃなくて葛城に言ってやってくれ……」

 

 オレはAクラスのリーダーじゃないし、Aクラスに拘りもない。

 普通に言う相手が間違ってると思うぞ。

 

 

 そんな感じで真田、橋本、ついでに葛城、戸塚とも軽く話し(勉強し)、交流という点では及第点の1時間だった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 中間テストがやってきた。

 ここまで色々な苦労が…………特になかったな。

 一応、あれからも何回か勉強会に参加しクラスメイト達と交流を取るようにしたが、その後はいつも通り、図書室で集まって読書の時間を楽しんでいた。

 

 葛城は10日前にきちんと過去問を皆に配っているし、それがなくてもAクラスの生徒達は赤点を取る心配がないぐらいには勉強が出来る。特にトラブルも発生せずAクラスは万全だ。

 

 

 他クラスの椎名だが、彼女は最初から学力が高いし、過去問も渡しているから退学の心配は万が一にもない。特に関心はないが、椎名を通して過去問が渡ったCクラスから赤点の生徒が出ることもないだろう。

 

 Bクラスは分からない。

 一之瀬帆波という女子生徒の名前を耳にした程度で、特に接点もないし交流もない。Bクラスから退学者が出ようがどうでもいいことだ。

 

 

 オレが接点を持ち、そして関わった、ある意味で注目のDクラス。

 

 最終的に過去問を見せるとはいえ、勉強の習慣を身に着けさせる為に鈴音は奮闘していた。

 

 昼休みに、放課後。鈴音が須藤を含めた赤点組に勉強を教えている光景は何度も見た。

 夜に行われる須藤との勉強会にも殆ど毎日参加し、オレの代わりに須藤の勉強を見ていた。たまぁーに、きつい言葉が飛び出すこともあるが、彼女なりに歩み寄ろうとしているのが見て取れたし、須藤の方もそれを感じ取っているのか、意外なことにキレることもなかった。

 それどころか、須藤は最後の一週間は部活を休み、懸命に勉強に取り組んでいた。その姿には素直に感心し、鈴音も誉め言葉(歪曲されて分かり辛かったが)を送ってたぐらいだ。

 

 夜はオレと鈴音が見ているから寝落ちする心配はないし、須藤に関しては、もしかしたら過去問がなくても赤点を乗り越えられたかもしれないな。

 

 

 

 

 中間テストの結果だが、Aクラスといえでも流石に全員が満点を取ることは叶わなかった。

 しかし、オレと坂柳を含めた10名近い生徒が全教科で満点を獲得。それに大半の生徒が、何かしらの教科で満点を取っていたりと高得点を叩き出している。

 この結果にクラスメイト達はもちろん、真嶋先生までもが嬉しそうな顔をしていた。

 

 

 

 

 *

 

 

「綾小路くん、ちょっといいかしら?」

 

 中間テストの結果が発表された翌日の放課後。

 図書室で椎名と坂柳、神室の、最近お馴染みとなった4人で本を読んでいると、名前を呼ばれたので顔を上げる。

 

「どうかしたか、鈴音?」

 

鈴音……?

 

「少し話をしたいの。いいわよね?」

 

 ついて来いということらしいので、本を閉じ立ち上がる。

 

 一応、3人に一言掛けておこうと視線を横に移動させると、本から顔を上げている椎名と目が合った。椎名にしては珍しい無表情でオレを見ている。

 次に鋭い視線を飛ばしてくる坂柳。オレと鈴音を交互に見て「へぇ」っと言葉には出さずに口元を歪める。なんか怖いな。

 最後に呆れた表情を向けてくる神室。面倒臭そうな顔で「さっさと行きなさいよ」と声に出して言った。了解だ。

 

 背中に刺さる視線を感じながら、鈴音と一緒に図書室を出て外にある自販機の前までやってくる。

 

「おごるわ」

 

「じゃあ、コーヒーを頼む」

 

 缶コーヒーを受け取り、流れるままに2人でベンチに座る。

 

「一応、お礼を言っておこうと思って。なんとかDクラスから赤点を出さずに済んだわ」

 

「らしいな。頑張った甲斐があったじゃないか」

 

「……えぇ、そうよ。頑張ったわ」

 

 鈴音は缶コーヒーを両手で握り締めながら呟く。

 

「須藤くん、池くん、山内くん。全く勉強をしてこなかった彼らを勉強するように促し、そして勉強を見るのは疲れた。退学の危機にあったというのに、どうして彼らはああも楽観的で愚かだったの? それなのに、どうして私が彼らの為にこんなに大変な思いをしなければならないのかしら? 意味不明よ。念の為に点数の調整だって行ったし。一人で勉強している方がずっとずっとずーっと楽だったわ」

 

 鈴音はここ2週間の溜まっていた愚痴を吐き出しながら、最後にハァーっと深い溜息を吐いた。

 

「分かってる。これは私の為。私がAクラスを目指す為に必要なことだということは。それでも『楽』をしないでいるのは、やはり辛いわね」

 

「そのことに気付けているなら問題ない。大変だった分、お前もまた少し成長した証拠だ」

 

「少し、ね」

 

「喜べ。まだまだ成長の余地があるということだぞ」

 

「ほんと、上からで偉そうね」

 

 言葉とは裏腹に棘のない声音で、鈴音はコーヒーに口をつける。

 オレもコーヒーを飲み一息つく。

 

「綾小路くん、前に私がどこまで出来るかどうか質問したわよね? その意味を私なりに考えてきたわ」

 

「ああ」

 

「Aクラスを目指すにあたって、私は自分のクラスにしか目を向けていなかった。Aクラス、Bクラス、Cクラスと他のクラスを意識していても、それはあくまでクラスポイントで見た数値上だけの話。『外』である他クラスの生徒に全く目を向けていなかった」

 

「それで?」

 

「もしかしたら、他のクラスの生徒には、あなたが言ったような他クラスのクラスポイントを減らすような戦略を取る生徒がいるかもしれない。実際、中間テストの勉強中にCクラスの生徒から挑発を受けたわ。もしあのまま須藤くんが暴力を振るっていたら問題になって、クラスポイントを減らされていた可能性があった」

 

「すでに体験してるなら話は早い。例えば監視カメラのない場所なら、相手を挑発して暴力を振るわせてハメることだって可能だ」

 

 挑発した証拠がなければ「喧嘩を吹っ掛けられた」と、怪我を物証にして一方的に訴えることが出来る。それが通用すれば、退学まではいかずとも、停学によって何らかのペナルティを与えられるはずだ。

 

「ちょっと、怖いことを言うのは止めなさいよ」

 

 鈴音の頭の中にも、挑発に乗りやすい一人の生徒が思い浮かんでいることだろう。

 

「何なら自作自演も可能だな。多用は出来ないが、これも相手によって1度くらいは成功するだろう」

 

「……須藤くんには、よく言い聞かせておくわ。特に、綾小路くんには注意しろってきつく言っておく」

 

「別にオレはやらないぞ」

 

「そう信じるしかないわね。あなたがその気なら、今の私では止められそうにないもの」

 

「なら信じておけ。マジでやらないから」

 

 特にやる理由もない。

 もしやったとしても、成功か失敗かの結果に関わらず相手からの悪感情は避けられない。Aクラスに拘りのない身からしたら、無駄に敵を作る行為でデメリットの方が目立ちそうだ。

 

「外に対して意識を持ったのは良いことだが、兎にも角にも、足元はしっかり固めておけよ」

 

 他クラスを警戒していても自クラスがボロボロなら何の意味もないからな。

 

「それぐらい言われなくても分かってるわ」

 

 鈴音は気が重そうな顔で答えた。

 Dクラスは本当に大変そうだな。良かった、Aクラスは平穏で。

 

 お互いに缶コーヒーを飲み終える。

 鈴音からこれ以上、何かを言う気配もなさそうなのでオレは立ち上がった。それを見て鈴音も立ち上がる。

 

「……なあ、一応これってお礼だったんだよな?」

 

「当たり前でしょ。その手に持っている飲み終えた缶コーヒーは誰が奢ったと思っているの?」

 

「いや、それは分かっているが、その後にお前の愚痴を聞かされたりしたからな。ふと疑問に思ったんだ。後半の内容はともかく、前半の愚痴をオレが聞く理由って特にないよなって」

 

「私がスッキリしたかったからに決まってるじゃない」

 

「愚痴を吐く相手はオレじゃなくてもいいだろ別に……」

 

「あなたAクラスでしょ。なら構わないじゃない」

 

「意味が分からん」

 

 いや、そういえばコイツ友達いないんだったな。愚痴を吐き出せる相手がいないのか。

 可哀そーー。

 

「ぐぇ」

 

 脇腹に手刀。

 普通に痛いんだが。

 

「今、憐みの視線を向けなかったかしら?」

 

「……被害妄想だ」

 

「そう。なら勘違いさせないように気を付けるべきね、綾小路くん」

 

 自分は悪くないと言わんばかりの毅然とした態度である。

 まあ、間違っていないんだが。

 

「それじゃあな、鈴音」

 

「待って。私も一緒に行くわ。図書室で本を借りようと思うの」

 

 そう言って鈴音は、少しだけ躊躇うように間を置いてから言葉を続ける。

 

「椎名さんに、おすすめの本を選んでもらおうと思っているのだけど、良いかしら?」

 

「オレに確認を取る必要はないが、良いに決まってるだろ。椎名が喜ぶ」

 

 本を読むのが好きな椎名だが、その他にもオレ達におすすめの本を紹介する椎名の顔もいつも嬉しそうなのだ。

 椎名が喜ぶ姿を見られるならオレも嬉しい。

 椎名の為にも、鈴音を読書仲間に引き摺りこむべきか?

 

 

「鈴音は読書はするほうか? いや、思えば入学式のバスの中で読書をしていたな」

 

「また懐かしい話ね。本は読む方だけど、それが何なの?」

 

「単純に読書仲間が増えて嬉しいと思っただけだ。因みにどのジャンルが好きなんだ?」

 

「面白いなら、どのジャンルだろうとこだわりはないわ。綾小路くんは?」

 

「オレもジャンルにこだわりはない方だが、選ぶとしたらミステリーだな」

 

 

 オレは鈴音と他愛もない雑談をしてながら、図書室に戻るまでの短い時間を楽しんだ。

 

 




◇平穏なAクラス。
・綾小路が同じクラスであり、また彼との本気の勝負を挑み、そして敗北したことで坂柳は綾小路を差し置いてまでAクラスのリーダーになろうとは思わなくなった。元々Aクラスに拘りがないので猶更である。なので坂柳派、葛城派などといった内ゲバは発生しない。
 坂柳としてもリーダーが葛城でも特に文句はないと思っている(ただし、葛城に素直に従おうとも思っていない)
 *坂柳派が存在しないので、橋本と鬼頭の側近組と坂柳の交流が原作に比べると殆どない。

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