ようこそAクラスの教室へ   作:yadooo

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原作2巻
13話:事件の始まり


 7月初頭。

 中間テストを乗り切った1年生のご褒美として、各クラスに最低100クラスポイントが支給されることになった。

 

・Aクラス:940 → 1024

・Bクラス:650 → 663

・Cクラス:620 → 650

・Dクラス:70→ 157

 

 だが1年生だけトラブルがありポイントの支給が遅れると、朝のHRで真嶋先生から通達があった。Aクラスの皆はポイントに余裕があるはずなので取り乱すことは特にない。

 ただ「トラブルって何だ?」という疑問だけは残った。

 トラブルの内容が学校側の問題か生徒側の問題か。後者なら面倒臭そうだが、品行方正なAクラスが絡んでいる確率は相当低いだろう。

 

 

 

 

「ん?」

 

 自室で本を読んでいると須藤から連絡が来た。

 電話に出ると「助けてくれ」とのこと。具体的に何を助けて欲しいのか、そう聞いても「部屋で説明するから。頼む来てくれ」と埒が明かない。

 

「須藤くん?」

 

「ああ。よく分からんが助けて欲しいらしい」

 

「あー、そう言えば放課後に茶柱先生に呼び出されたわ。その件じゃないの?」

 

「……面倒事な気がしてきたな」

 

「絶対そうでしょ」

 

 オレは溜息を吐きながら本を置いて立ち上がる。

 

「取り敢えずは行ってくる。帰るんだったら別に鍵とか気にしなくていいからな、櫛田」

 

「いってらっしゃい」

 

 オレのベッドの上でダラーっとクッションを抱えながら携帯を弄る櫛田。見送りはおろか視線すら向けてくれない薄情な櫛田に背を向けてオレは部屋を出る。

 

 部屋に出たタイミングで、音が鳴りエレベーターの扉が開いた。

 何となしに顔を向けて見ると、鈴音がエレベーターから降りてきてお互いに目が合う。

 

「丁度いいタイミングね」

 

「……みたいだな」

 

 お互いの足が須藤の部屋の前で止まり、インターホンを鳴らしてから部屋に入る。

 

 

 

「俺、今日担任に呼び出されてよ。それで、その、実は俺、もしかしたら停学になるかもしれない。それも長い間」

 

「須藤くん、一体何をやったの?」

 

「俺は何もやってねぇ! 何もやってねぇのに、Cクラスの連中が俺に暴力を振るわれたって騒いできたんだ!」

 

 あれ、これはもしかして……。

 鈴音が鋭い視線をオレに飛ばしてくる。

 

「どういった経緯でそんな話になったんだ? まさかいきなり、須藤に暴力を振るわれたって相手側が騒いでいるわけじゃないだろ? 例え虚偽でも、そこに至るまでの発端と最低限の関わりはあったはずだ。一度深呼吸してから、ゆっくりと話してくれ」

 

「あ、ああ、分かった」

 

 オレの言葉に従って深呼吸をする須藤。

 そこから改めて事の経緯を話し始めた。

 

 1年でレギュラー候補に選ばれた須藤。

 同じバスケ部でCクラスの小宮と近藤に、別棟に話があると呼び出された須藤。そこに行くと石崎という小宮と近藤の友達もおり、彼らに「Dクラスの須藤がレギュラーに選ばれそうなのが我慢ならない。痛い目にあいたくなければバスケ部を辞めろ」と脅してきたらしい。

 

「殴ったのか?」「殴ったの?」

 

 オレと鈴音の声が見事にシンクロした。

 

「殴ってねぇ! そりゃあムカつくこと言われて手が出そうにはなったけどよ。堀北、お前が言ってただろ。もしかしたら難癖をつけられて挑発されるかもしれないから、そん時は構うだけ時間の無駄だからさっさと逃げろって。喧嘩よりもバスケットが大切なら、それぐらいは出来るだろってよ」

 

「おぉ」

 

 鈴音、須藤にしっかり言い聞かせてたんだな。

 感心した声を上げて鈴音を見ると、再度キっと睨まれた。なぜ?

 

「せいぜい、後ろから肩を掴まれた時にそれを振り払っただけだ。なのにアイツ等、俺に殴られたって学校側に報告しやがったんだ。しかも3人共、自分たちで殴られた跡までつけて自作自演までしてきやがってよ」

 

「学校側はなんて言ってきてるの?」

 

「来週の火曜までに時間をやるから、向こうが仕掛けてきたことを証明しろとさ。無理なら俺が悪いってことで夏休みまで停学。その上クラスポイントもマイナスだってよ。ふざけんな、俺は何も悪くねえのに……!」

 

 学校側からの至れり尽くせりの対応だな。

 須藤もDクラスの生徒もたまったもんじゃないだろう。

 

「綾小路、堀北、俺はどうしたらいいんだ……」

 

 焦りと苛立ち。そして僅かな不安を抱えた表情で須藤はオレと鈴音を見る。

 

「最後にもう一度だけ確認させてくれ。須藤、本当にお前は相手側に暴力を振るっていないんだな? 後で実は……、なんて嘘が発覚したら金輪際オレはお前との関わりを断つぞ」

 

「本当に俺はやってねぇ! 信じてくれよ!」

 

「誓えるか?」

 

「誓う。嘘だったらバスケ部を辞めたっていい!」

 

 須藤がここまで言うなら本当なのだろう。

 オレは「分かった」と頷き、鈴音を見る。

 鈴音は頭痛を堪えるような面持ちだったが、深呼吸をして肩の力を抜く。

 

「須藤くん、あなたは私の言いつけをしっかり守ったのよね? 挑発されても手を出さなかった」

 

「ああ。バスケが大切で、本気でプロを目指してるからな」

 

「今回の件は、確かにあなたは被害者よ。あなたは何も悪くない。そのことは私も認めるし、信じるわ。あなたは大切なバスケットの為に努力出来る人」

 

「お、おぅ」

 

「だけど問題の本質はそこではないの。()()()確かにあなたが被害者だけど、()()()()あなたが原因で起こるべくして起こった事件よ。あなたは被害者であると同時に加害者にもなっている」

 

「っ、どういう意味だよ! 俺はやってねぇって何度も言ってるだろ!」

 

 ドンっと、テーブルに強く拳を落とす須藤。

 

()()()須藤。怒りっぽくて喧嘩っ早い、今までのお前の素行によって、須藤ならやってもおかしくないと、嘘の証言でもお前なら陥れられると思われたから起こった事件なんだ。だからオレも、お前を簡単に信じることが出来なかった。身から出た錆。お前は日頃のお前自身の行いによって苦しめられていることを今、しっかりと自覚するべきだ。それを治さない限り、いつまで経っても同じことが繰り返されるぞ」

 

「っ、それは」

 

 唇を噛み締める須藤を見ながら、鈴音はゆっくりと諭すように語り掛ける。

 

「須藤くん。起こってしまったことはもう仕方がない。過去は変えられないのだから。だから、これからの先を為に、あなたも成長しなさい。それを約束してくれるなら、私はあなたを助けるわ」

 

「堀北……」

 

オレが鞭で鈴音が飴か。

鈴音の言葉に須藤は口を開けたまま固まり、それから真っ直ぐ頭を下げた。

 

「俺が堀北や綾小路のように真面目に過ごしていれば、こんなことにはなってないんだよな。Cクラスの連中にハメられたのは、俺が馬鹿なことをやってきたせいだ。約束する、俺はこれから成長していく。だからどうか、迷惑を掛けちまうけど助けてくれ。頼む」

 

「えぇ、期待しているわ」

 

 その後は方針について簡単に話し合った。

 理想は相手側の自白だが、既に偽証してまで学校に訴えているのでほぼ不可能。それを認めてしまえば、相手側に重い処分が下るのは間違いないからだ。

 

 次に証拠があれば苦労しないが、オレも鈴音も「期待出来ない」という同じ認識を抱いている。

 ところが、意外にも須藤が「人の気配がした」とのこと。確証はないらしいが、須藤が殴っていない以上、もし本当に一部始終を見ている者がいれば、冤罪を晴らせて一気に解決出来る。

 

 現実的な案として、目撃者捜しから始まることになった。

 その際、須藤が「噂が広まると困るから誰にも言わないでくれ」と言ってきたが、流石に鈴音が一喝。

 むしろクラスメイト達にも事情をしっかりと説明し、謝罪して協力を仰ぐのが筋だと須藤を説き伏せた。

 

 最後に当事者である須藤が、この件に関わるのは良くないと本人に納得させてから、この場では解散となった。

 

 

 

「どうしてこう……」

 

 須藤の部屋を出てすぐに、鈴音は深い溜息を吐く。

 須藤の前では理知的に振る舞っていたが、内心では怒り狂っていたのかもしれないな。

 

「綾小路くん、少し話をしたいのだけど、部屋に行ってもいいわよね」

 

「ああ。……いや、何故?」

 

「同じ階層で部屋も近くでしょ。わざわざロビーまで移動するのは面倒よ」

 

「………少しだけ待ってくれ」

 

「何、部屋でも散らかってるの?」

 

 オレは答えず素早く扉を開けて自室に入る。

 部屋に入って直ぐに、テレビの音が聞こえてくる。

 

「おかえり。思ったより早かったわね」

 

 テレビ画面の方を向きながら片手で携帯を持ち、もう片方の手でクッションを抱えている櫛田が雑に出迎えてくれる。

 テレビか携帯、どっちかにしろ。あと、まだ帰らずに居たのか。

 

「今から鈴音が部屋に入って来るんだが」

 

「は、何で?」

 

「話したいことがあるらしい」

 

「断って」

 

「一応オレの部屋だ。少しだと言っていたし風呂場にでも隠れていてくれ」

 

「……分かった」

 

 櫛田は抱えていたクッションを手放し、立ち上がり移動する。

 それを見届けてからオレは扉を開ける。扉の前には鈴音がきちんと待機していた。

 

「誰かに見られたらどうするの? 早く入れてちょうだい」

 

「なら帰ってればいいだろ」

 

鈴音を部屋に招き入れ、入口の扉が閉まったのと同時に、洗面所の扉が開かれた。

 

「こんにちわ、堀北さん」

 

「…………どういうこと?」

 

 一瞬コイツ誰だと思ってしまうぐらい、にっこりとアイドルのように微笑む櫛田。

 そして物騒な顔でオレを睨む鈴音。

 嫌な沈黙が場に落ちる。

 何となくジュースでも買いに部屋を出たいんだが、入口は鈴音が塞いでいて通れそうにない。

 

「ほら、綾小路くんも堀北さんも、入口の前で止まってないできちんと中に入りなよ」

 

 櫛田は自分の部屋に招き入れるかのようにそう言って、軽やかな足取りで移動しベッドに腰掛ける。

 オレの部屋には椅子がないので、櫛田はいつも勝手にベッドを使っているのだが、今のタイミングでは自重して欲しかったかもしれない。鈴音の眉間にますます皺が寄っている。

 

「……あなた、櫛田さんと付き合ってるの?」

 

「いや、付き合ってない」

 

「綾小路くんとは友達だよ!」

 

「友達だな」

 

「……いつから? あなたと櫛田さんに接点があったとは知らなかったわ」

 

「堀北さん、いっつも一人だからね。知らなかったとしても無理はないよ」

 

「つい最近知り合って友達になったんだ」

 

「そう……。でもどうして友達の櫛田さんが綾小路くんの部屋に居るの? いえ、居()の?」

 

 何と答えるのが正解か迷っている間に、櫛田が素早く答えた。

 

「綾小路くんから相談を持ちかけられてね。部屋に呼ばれて来たんだけど、その後にすぐ須藤くんから呼び出されちゃったから。だから綾小路くんが私に、戻って来るまで部屋で待っていてくれって言ってくれたからだよ。ね、綾小路くん?」

 

「……そうだな」

 

「…………いいわ、取り敢えずは納得しましょう。でも櫛田さん。私は彼と話したいことがあるから、相談は明日にずらしてもらっても良いかしら?」

 

「綾小路くんが良いって言うなら私は良いよ」

 

「まあ、櫛田が構わないと言うなら」

 

「決まりね。それじゃあ櫛田さんは帰ってくれないかしら? 私は綾小路くんと2人で話したいことがあるから」

 

「何で? 私も気になるから参加するよ?」

 

「しなくていいわ。私は彼と大事な話をしたいの」

 

「まさか……、告白するつもりなのかな、堀北さん?」

 

「は?」

 

「違うなら大丈夫だよね? 多分だけど、須藤くんの件でしょ? 何があったのかは分からないけど、大切なクラスメイトの為に協力したいな」

 

「…………」

 

 櫛田はワザとらしい程にニコニコしており、鈴音は仏頂面のまま苛立ちを隠さずにいる。

 空気悪いな。窓でも開けて換気しようか。

 

「鈴音、須藤に関わる話なら櫛田だって全くの無関係じゃないはずだ。櫛田も、鈴音の話が他言されたくない内容だった場合、言われた通り他言しないと約束できるなら部屋に残ってもいい」

 

「分かったよ。大丈夫、秘密にするのは得意だからね」

 

「勝手に決めないで欲しいのだけど」

 

「そうしないと話が進まないだろ」

 

 鈴音は渋々といった様子で最後には承諾する。

 

「綾小路くん。一番大事なことだから先に聞かせてもらうけど、今回の件はあなたが裏で絡んでいるとかはないわよね?」

 

「誓ってオレは関係ない。正直、オレだって驚いているぐらいだ」

 

 まさかオレが言った通りの冤罪事件がそのまんま起こるとは思わなかった。

 

「そう。なら最大の障害は乗り越えられたわね」

 

 鈴音は不敵に言う。

 どうやら、きちんと策を練ってあるようだな。

 

 

 

 

 ◇

 

「あー腹立つ。せっかく優越感に浸っていたのに台無しよ」

 

 鈴音の話が終わり、鈴音が部屋を出て行った後で(なんか言いたげな視線だったが、櫛田がにこやかに先に帰らせた)櫛田はクッションに拳を振り下ろす。

 オレの枕を守る為に、櫛田の為にわざわざ買ったクッション(サンドバッグ)(耐久性に優れたちょっと良い物)が、ボコボコと凹んでは跳ねるを繰り返す。

 

「なんで腹が立っているんだ? 悪くない策だっただろ」

 

「それが腹立つんだよ。得意気になってたしクソ生意気」

 

 難癖をつけるぐらい、櫛田が鈴音のことを嫌っているのは知っているから驚きはない。

 

「それでも鈴音を相手に表面上だけでも笑顔で接するのは凄いな」

 

「……何、滑稽だって馬鹿にしてるの?」

 

「穿ってとらえるな。純粋に褒めてるんだ。オレの部屋で愚痴を吐きに来ているが、それでも表ではきちんと周囲から好かれている。嫌いな相手にも優しく接しているんだろう? オレにはとても無理だと思う。だから、凄い」

 

「~~っ、うっさい!」

 

 何故か櫛田はオレから顔を逸らし再びクッションに拳を振り下ろす。

 

「はーっ。……よし、落ち着いた!」

 

 櫛田はそう言ってクッションを胸に抱える。

 殴られたり抱えられたりと、しっかりと有効活用されているクッション。買った甲斐がある。

 そんなことを思っていると、ジッと櫛田がオレの目を見ながら口を開く。

 

「ところで綾小路くん、堀北さんに何か入れ知恵してるよね?」

 

「おせっかいは勝手に焼いたが、さっきの策は純粋な鈴音の力だぞ」

 

「おせっかいを焼いたから、()()()()が出たんでしょ。優等生な堀北さんだけの力で思いついたとはとても思えない」

 

「だとしても別に問題ないだろ。お前はムカつくかもしれないが、だからといって失敗して欲しくもないはずだ」

 

「まぁ、須藤くんはどうでもいいけど、ポイントが減らされるのは困るからね。……というかあっさり認めたね。綾小路くんはAクラスでしょ? どうして敵に、堀北さんなんかに塩を送ってるの?」

 

「鈴音がAクラスを本気で目指しているからだ」

 

 櫛田が「はぁ?」と呟きながら意味が分からないという顔でオレを「意味分かんない」ーー実際に言った。

 

「綾小路くんて、ほんっと変な人だよね」

 

「そうか……。オレは『普通』でありたいとは思ってるんだけどな」

 

 それを聞いた櫛田がケラケラと笑った後で、口角を上げてにっこりと微笑む。

 

「無理でしょ」

 

 

 




◇櫛田 → 綾小路
・表の顔を知らず、本性を見せているの自分に対し「友達になりたい」と言ってくれた相手。そのおかげ(せいで)本人も無自覚だが好感度がかなり高い。素の自分でも気にせず接してくれるので変人だと確信している。 綾小路が自分の為に買ってきてくれたクッションが色々な意味でお気に入り。殴ったり抱えたりと重宝している。
 因みに2日に1回の頻度で綾小路の部屋に行っているが、特に何も言われないので遠慮なくお邪魔している。カップなどの道具を持ち込もうか検討中。

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