ようこそAクラスの教室へ   作:yadooo

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タイトルが毎度思い浮かばない……。


15話:証人

 グループチャットから連絡が飛んでくる。

 どうやら鈴音が生徒会室に向かったようだ。

 

「あ、あ、綾小路くん、ほ、本当にやるんですか?」

 

「ああ、やる。だから頼んだぞ」

 

 あわわわわっと、彼女は体をガタガタと震わせている。

 まだ本番前なのだが、いざって時に緊張で失神しないか心配である。

 

「まあ、オレも横にいてサポートするからな。そんなに気負う必要はないぞ?」

 

「む、むむむ、無理ですぅ!」

 

「最低限、言って欲しい言葉だけ言ってくれれば後は気絶してくれても大丈夫だ。だから頑張ってくれ」

 

「ひぇえ~~!」

 

 緊張のあまりテンションがバグっている。

 正直結構面白い。

 

「さて、そろそろ移動しよう」

 

「あ、ああああああああ……!」

 

 彼女の手首を掴み、引っ張りながら移動していく。 

 そして目的地まで辿り着くと、丁度いいタイミングで電話が鳴った。

 電話に出てから、お互いに一言ずつ発する。

 

 オレは携帯を仕舞い、生徒会室の扉をノックする。

 

 

「さぁ行くぞ、()()

 

 

「や、()()ですっ!」

 

  

 おお、ちゃんとツッコミを入れてきた。

 任せたぞ、山村美紀。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 CクラスとDクラスの審議。

 

 

 バスケット部員ではない石崎くんの存在。暴力を警戒しておきながら、3人共一方的に暴力を振るわれていることに対しての疑問。無抵抗であっても、そこまでの怪我をする不自然さ。

 いくつかの主張を口にしても、Cクラスは怪我という強力な物証を武器に抗ってくる。決して非を認めない。決定的な証拠がない限り話は平行線のまま。

 これは最初から分かっていたことだ。

 

 だから私は、電話をかけて()()を呼び出す。

 

 

「失礼します、1年Aクラスの綾小路清隆です。それと同じくAクラスのーー」

 

「や、やや、山村、美紀ですっ!」

 

 綾小路くんと山村さんが、生徒会室に足を踏み入れた。

 綾小路くんはいつもの感情を読み取らせない無表情。対照的に山村さんは顔を青くして視線があっちこっちに彷徨っている。

 

 事前に話は聞いているけど、大丈夫よね?

 

 ただ、私の内心の不安とは別種の不安がCクラス側にも襲っている。

 目撃者が居たとは思っていなかったのだろう。彼らの動揺が伝わってくる。

 

「では、証言をお願います」

 

「は、はひっ、みみみ、見ました、私っ、特別棟でっ!」

 

 山村さんはそう言って数枚の写真を取り出し、目を閉じながら前に前に差し出す。

 綾小路くんは横からそれを受け取り、固まっている山村さんの代わりに兄さんと橘書記まで歩み寄り写真を提出した。

 

「わ、私、写真が趣味でっ、たまたま、撮ったもので!」

 

 上擦った声を出しながら山村さんが一生懸命に訴える。

 写真に目を通す兄さんを見ながら、坂上先生が口を挟む。

 

「これは何で撮影したものだね?」

 

「え、えと、で、デシタ()()カメラです」

 

「落ち着け山村。デジタルカメラだろ?」

 

「ですっ」

 

「……確かデジタルカメラは容易に日付の変更が出来たはず。日付のみ操作してプリントアウトすれば、事件当時の時間帯を再現できる。証拠としては不十分では?」

 

「しかし坂上先生。この写真は違うと思いますが?」

 

 兄さんが私たちにも見えるように一枚の写真をスライドさせる。

 

「っ……!?」

 

それは石崎くんが後ろから須藤くんの肩を掴んでいる場面だ。

 

「……なるほど。どうやら彼女が現場にいた話は本当のようだ。そしてDクラスの証言通り、須藤くんが後ろから肩を掴まれたのも事実のようだ。ですが、この写真だけでは、この後で彼が暴力を振るわなかったかどうかは分かりませんね」

 

「わ、わたし、見てましたっ! か、彼らは喧嘩してません。彼は、誰も殴ってませんっ」

 

「しかし、これだけではやはり一部終始を見ていた確証にもなりません」

 

「その後の写真がなくても他クラスである山村さんが証人として真実を発言しています。証拠としては十分じゃないでしょうか?」

 

 私がすかさず反論するも、坂上先生は慌てることなく言葉を返してくる。

 

「いいえ、不十分です。Dクラスと口裏を合わせた可能性だってある」

 

「口裏を合わせる? それをしてAクラスに何のメリットがあるんですか?」

 

「ポイントですよ。Dクラスはポイントを支払い、山村美紀さんに嘘の証言を言うように指示をした」

 

「ポイントの記録を確認して貰っても構いませんが、そんなことはしていません。それに嘘の証人を仕立てるにしても、山村さんではなく他の代役だって立てられたと思いませんか?」

 

 山村さんは下を向いて表情を隠しながら両手を握り締めて黙している。ぷるぷる震えるその姿は嵐が過ぎ去るのをじっと耐え忍ぶかのようだ。

 

「ポイントは後で受け取ることだって可能です。それと彼女のような人物を立てることで、証言にリアリティを持たせるためでしょう」

 

 少しでも山村さん(証人)の信用を落としたいのだろう。

 坂上先生は更に発言を続けようとしたところで、横から言葉が差し込まれた。

 

 

「リアリティ? それは流石に言いがかりではないでしょうか?」

 

 

 今まで黙っていた綾小路くんだ。

 

「見ての通り山村は人前に出ることが得意ではなく、喋ることだって苦手としています。そんな彼女が勇気を振り絞ってこの場で証言したことを、ポイントやリアリティだのと、そんな言葉で侮辱して欲しくはありません」

 

「……それなら、どうして人前に出て彼女は証言したんですか? 先ほどの堀北さん、堀北鈴音さんの発言をお借りしますが、代役を立てれば良かった。いえ、あなた自身が代役で良かったはずだ」

 

「教師なのに分からないんですか?」

 

「何?」

 

 綾小路くんの淡々と挑発するような物言いに坂上先生が眉を顰める。

 

「繰り返しますが、山村は人前に出ることが得意ではなく喋ることも苦手です。だからこそこれが、彼女にとっての切っ掛けとなって欲しかった」

 

「切っ掛け?」

 

「人前に出ることが苦手。喋ることが苦手。だから人と話す能力を養うことが出来ず、それが悪循環になっていく。大人になり社会に出てもそのままでは、いずれ困るのは山村自身です。自業自得と言ってしまえばそれまでですが、幸いにもオレ達はまだ学生の身。社会に出るのは数年先で、まだまだ時間の猶予がある」

 

 綾小路くんが一度言葉を区切り、山村さんを見る。山村さんも少しだけ顔を上げ、上目遣いで不安そうに綾小路くんを見ていた。

 

「何様かと思われるかもしれませんが、オレは彼女に()()して欲しかった。これを切っ掛けに、ほんの少しでも勇気を持てれば。それが小さな一歩だとしても、自分を変える切っ掛けになれればと、そう願った。だからオレは代役を拒否し、目撃者だった山村を説得してこの場に連れて来ました」

 

「あ、綾小路くん……」

 

 山村さんの小さい声が生徒会室に響く。

 思わず、私を含めた全員が綾小路くんの言葉に聞き入っていた。

 

 僅かに訪れる静寂の時。

 それを最初に破ったのは兄さんの声だった。

 

「綾小路。お前がクラスメイトに対するその気持ちは素晴らしいことかもしれない。しかし、これはCクラスとDクラスの審議だ。お前の想いや彼女の勇気は、今この件に直接関係しない」

 

「え、えぇ、そうです。綾小路くん。確かに君のその考えは教師としても感嘆とするものがあります。ですが、だからといって彼女の証言の裏付けにはならない。Dクラスと口裏を合わせ、偽りの証言をしていない理由にはならないんですよ」

 

 そう。決定的な証拠がない限り、やはり話は平行線のまま。

 限りなく黒に近くなっても、グレーであり続ける限りCクラスは絶対に非を認めない。

 

「山村が大きなリスクを背負ってここに立っている。それでも認めて貰えないんですか?」

 

「リスク? 今度はいきなり何を言いだすんだ」

 

「自クラスの生徒を信じている坂上先生は当然そういう反応でしょう。ですが、事件の真実を知っている山村は違う。真実を知る山村の視点では、そこにいるCクラスの生徒は、自作自演まで行いDクラスの生徒を罠にハメる犯罪者に等しいんです」

 

「は、犯罪者!?」

 

 その強い言葉に石崎くん、近藤くん、小宮くんの3人が声を荒げて大きく反応する。

 

「真実とはいえ、そんな彼らに不利な発言をすれば後で逆恨みされてその矛先が自分に来るかもしれない。山村はそのことにも酷く怖がっていました」

 

「それこそ言いがかりです。私の生徒はそんなことをしない」

 

「事件の真相を知らない坂上先生ならそう言うでしょう。そう言うしかない。ですが、山村はそうは思っていない。少しでもいいので、彼女の意を汲んでくれませんか?」

 

「っ、そもそも君はさっきから何なのだね? 彼女と違い目撃者でも何でもない、事件とは無関係の生徒が何故この場にいる。さっさと退出しなさい」

 

「今更な発言の気もしますが、一言でもオレが事件と無関係だと口にしましたか?」

 

 綾小路くんはワザとらしく溜息を吐き、ポケットから数枚の写真を取り出す。そしてそれを、兄さんに手渡した。

 

 それを見て再度冷や汗を流すCクラスの生徒。坂上先生も険しい表情でその手渡された写真に目を向けているが、こちら側からではどんな写真なのか伺うことは出来ない。

 兄さんも、それを私たちに見せようとはしなかった。

 

「この写真も決定的な証拠にはならないかもしれませんね。まあ、どうでもいいんですが、こんなくだらない茶番劇なんて。生徒会長もそう思いませんか?」

 

「俺から特に言うことはない」

 

「そうですか。……山村も悪かったな。せっかく頑張ったのに嫌な気分になっただろ」

 

「は、はひ。い、いえ、私は、別にっ」

 

「オレと山村は退室します」

 

 綾小路くんは兄さんの返事を待たずに、山村さんの隣まで移動する。

 

「行くぞ、山村。……山村?」

 

「あ、ああ、あ足、足がっ」

 

 見ると、山村さんの足は生まれたての小鹿のように震えていた。

 綾小路くんは珍しく虚を突かれたような顔をして、「触るぞ」と一言断りを入れてから、山村さんに肩を貸すようにして歩き出す。

 

「荒療治がすぎたか……」

 

 ーーと、言葉を零しながら生徒会室から出て行った。

 

 

 思わず気の抜けてしまう光景だったが、まだ審議は終わっていない。

 

「ーーコホン。結局のところ、話は平行線のまま変わりません。……そこで落としどころを模索しませんか?」

 

 ドクンと、私の心臓が跳ねたのを感じる。

 本当にきたーーと。

 

「Aクラスから提出された写真と証言があるとはいえ、決定的な証拠にはならない。しかし、Cクラスの生徒にも幾ばくかの責任があると思います。そこで須藤くんに2週間の停学、Cクラスの生徒たちに1週間の停学。それで如何でしょう? 罰の違いは、相手を傷つけたかどうか、その違いです」

 

 私の横で須藤くんがグッと歯を喰いしばって耐えているのを感じる。

 それでもこれはかなりの譲歩があってのこと。Aクラスの証言がなければ、須藤くんは1カ月以上の停学にされていたはず。

 

 妥協点としては申し分のない内容。

 須藤くんが暴力を振るっていなくても、それを証明出来ない以上は無罪を勝ち取れないからだ。

 

「どうですか? Dクラス代表の堀北さん。意見をお聞かせください」

 

 それでもーー。

 

「私は今回、この事件に()()()()()()須藤くんにも問題があったと思います。彼は日頃の自分の行いを、周囲への迷惑を全く考えていなかったからです。素行の悪い生徒だと、周囲から思われ信用がなかったのは紛れもなく彼自身の責任です」

 

「ッ」

 

 須藤くんの部屋でも言ったことを改めて伝える。

 だけども彼は。

 

「彼は反省すべきです。……いいえ、違う。彼は既に反省し過去の自分を見つめ直している。成長しようと一歩を踏み出しました。それを、Cクラス側が仕込んだ意図的な事件によって邪魔されることを、同じクラスメイトの一人として決して許すことは出来ません」

 

「堀北……」

 

 

「私は、須藤くんの完全無罪を主張します。よって、1日たりとも停学処分を受け入れません。()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 山村と一緒に生徒会室を出ると、途端に彼女の身体が重たくなった。

 

「こ、ここ、腰がっ」

 

 腰が抜けたのか……。

 まあ、よく保ってくれたというべきか。

 

 オレは彼女に背中を向けてしゃがみ込む。

 オレがやろうとしていることを察したのか、山村が首を左右にブンブンと振った。

 

「む、むむ、無理ですっ!」

 

「だからといって、生徒会室の前で座り込んでいるわけにもいかないだろ。山村には迷惑を掛け続けてるからな。取り敢えず保健室まで行こう」

 

「き、気持ち悪くないですか?」

 

「…………」

 

 綾小路清隆に1000のダメージ。

 

「す、すまない。気持ち悪かったよな……」

 

「ち、ちちち違いますっ。綾小路くんじゃなくて、私がその、気持ち悪くて、嫌な気分にさせてしまうんじゃないかって……」

 

「別に思わないが……。突然どうした?」

 

 生徒会室に来るまでに手首を掴んで引っ張て来ているし、今さっきだって肩を貸していた。接触云々を気にしているなら割と手遅れだ。

 

「悪いな、気を遣わせて。やっぱりオレが気持ち悪かったよな」

 

「わ、分かりましたからぁ」

 

 若干涙目なような気もするが、山村は恐る恐るとオレの肩に手を伸ばしてくれる。オレもスカートに気を付けながら彼女の膝裏に手を通し持ち上げた。

 「ヒェっ」と山村が短い悲鳴を漏らす。

 

「山村、改めてとても助かった。証言してくれてありがとう」

 

「そ、それは、本当に、はい。……もう二度としたくないって思いました」

 

「マジですみません」

 

「ですが……、その、ありがとう、ございます……」

 

「…………何度も言うが、無理を言って助けてもらったのはオレの方だからな」

 

「はい……」

 

 

 放課後ということもあり、幸いなことに生徒の数は少ない。

 それでも当然ながらゼロではなく、人とすれ違うたびに、山村が声にならない悲鳴を上げオレのうなじ付近に顔を突っ込んでくる。顔を隠そうとする努力は認めるが、逆に目立っている気がしなくもない。あと吐息がかかって少しくすぐったい。

 

 

「おや、おやおや? これはスケコマシの綾小路清隆じゃありませんか。次はまさかの山村美紀を毒牙にかけるなんて、なかなかニッチな趣味がありますね」

 

「…………」

 

「も、森下さんっ」

 

 保健室まで後少しというところで、オレと山村は携帯のカメラを向けてくるクラスメイトに捕まった。

 

 森下藍。

 

 正直、彼女とのやり取りがここ最近の出来事で一番疲れたかもしれない。

 

 

 *

  

 因みに鈴音から、明日の4時にもう一度だけ再審の席が設けられるとの連絡があった。

 

 




 
 椎名と坂柳を差し置いて綾小路が他の女の子にやったこと。

・堀北鈴音 → 名前呼び。

・櫛田桔梗 → 自室に招き入れる(頻繁に)

・山本美紀 → おんぶ (new)

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