外にある自販機の近くのベンチで本を読んでいると、ピンク色の長髪を持つ、野暮ったい伊達メガネをかけた少女が近付いてきた。
Dクラスの佐倉愛里である。
本を閉じ、汗をかいている佐倉に用意していたペットボトルを差し出す。
「暑かっただろ。お茶だがもらってくれ」
「あ、ありがとう、綾小路くん」
「上手くいったか?」
「うん、録音して堀北さんにきちんと渡せたよ」
「鈴音は何て言っていた?」
「ありがとう、助かったって」
佐倉は照れ臭そうに笑う。
特別棟で行われた、偽カメラによるCクラスとBクラスのやり取り。
佐倉にはその内容を録音してもらい、鈴音にボイスレコーダーを渡す役目を担ってもらっていた。
片手でボイスレコーダーを持ちながら、もう片方の手は携帯を通話中にして鈴音からの指示で動けるようにしておく。そして必要な内容を録音出来たら、こっそりと特別棟を抜け出し別の場所に待機してる鈴音にボイスレコーダーを渡す。
場所と時間さえ分かっていれば、隠れて録音するのは難しくない。少なくともBクラスには話が通っており、Cクラスの3人は動揺によって周囲に気を配っている余裕もないだろう。仮に姿を見られたとしても内容を録音出来ていれば問題ない。Bクラスの前で強引に奪うような真似は流石にしてこないだろう。
「それと一昨日の件もありがとう。凄く助かったよ」
「昨日も聞いたぞ。それに、証人を山村と代わってもらったりとこっちも助けられた。お互い様だ」
先週の日曜日、櫛田と佐倉の3人で電気屋に行った時の話だ。
カメラの修理を依頼する際、男性店員の態度と佐倉の様子に違和感を覚えたオレは、佐倉に問いただした。
佐倉とは違うクラスだし別に友達でも何でもない。嫌われても別に問題ない相手だからこそ、口ごもる佐倉に何度もしつこく問いただした。そして最後には根負けしたのか、それとも本当は誰かに話したかったのか、ついに佐倉はストーカーの被害を受けていることを告白。
佐倉がグラビアアイドルの『雫』として活動していたことを知ったのはこの時だ。そんな彼女の元には百に届きそうなほどの手紙や、気持ち悪いネットの書き込みがあることを教えられ、オレは迷わず学校に直行。休日だったが幸いにも職員室にいた真嶋先生に報告。後で茶柱先生も合流してから証拠である大量の手紙を提出し、ネットの書き込みも見せた。
学校側としても閉鎖的なこの場所で、学生を狙うストーカーなど野放しに出来るはずがない。厳正な対応により翌日の月曜日にはあっさりと解決し、佐倉には慰謝料として多額のポイントが振り込まれることになった(佐倉は額の多さに驚愕しすぎてアワアワしてた)
それに便乗して「オレがいなかったらもっと大事になってたかも」「こんな場所でこの話が広がったら生徒の安全体制としてマズいのでは?」等々、ポイントを要求したら割とあっさり50万のプライベートポイントを貰うことが出来た。ラッキー。
「全然つり合ってないよ。綾小路くんがいなかったら今も不安で一杯だったはずだもん。本当に、感謝してるの」
「本当に気にしなくていいんだけどな。結果として佐倉とこうして話せるようになったし、オレにとっては十分お礼になってる」
友達……ではまだないけど、人見知りである佐倉と普通に話せる程度の信用は得られたと思っている。何だかんだで連絡先も交換しているし、本当に満足しているのだ。
「も、もう……」
佐倉は顔を赤くしながら照れるように笑った。
「綾小路くんは……私のこと、やっぱり変な目で見ないんだね……」
「変な目?」
「ううん、何でもない」
佐倉はちょっと嬉しそうに微笑む。
「それじゃあ、その、えっと、また……」
「ああ、また明日な。佐倉」
「う、うん。また明日っ」
佐倉はそう言って小さく手を振りながら離れて行った。
佐倉の姿が見えなくなった後で、オレは首を動かし視線を後ろに向ける。
「山村、さっきから何してるんだ?」
「えっ、何でっ」
本気で驚いている様子の声。
「何でって、少し前から視線は感じていたからな。後ろにいても気付くさ」
「そんな……」
そんなって……。
山村はどこか諦めた様子で、びくびくとオレの前までやってくる。
オレが悪いのは自覚しているんだが、その反応は普通に傷つく。
「そ、それで、用って何ですか?」
「もう少しだけ時間が掛かると思うから待っていてもらっても良いか?」
元々スペースは空いているが、オレはそこから更に少しだけ横にずれた。
「はい……」
山村は口を閉じ、ベンチに座るオレの前で立ち続ける。
「……取り敢えず座ったらどうだ?」
「わ、分かりました」
山村は恐る恐るとオレの隣に座った。
彼女は人と話のが苦手だ。
オレも基本的に喋るが得意じゃない。苦手といっても良いだろう。そんなコミュ障が2人。悲しいかな、和気藹々な会話など発生するわけもなく、沈黙状態。
オレがサブカルチャーや世間の流行りに詳しければ、山村に会話のネタを一つか二つほど提供出来たのかもしれないが、生憎ととても疎い。
オレが出せる話題と言えばやはり一つ。
「山村は本とか読む方か?」
「あ、あんまり読まないです。ごめんなさい」
「あ、謝る必要はないが」
沈黙。会話が終わった。
我ながらクソ雑魚コミュ力である。
「あの、綾小路くん……。どうして、綾小路くんは、私に嘘の証人をやらせたんですか? ど、どう考えても私は適任じゃなかったはずです。それに、どうしてそこまでして、CクラスとDクラスの問題に関わりに行ったんですか?」
巻き込まれた山村にとっては当然の疑問をぶつけてくる。
「この話を知る生徒はオレともう一人しかいない。他言無用を約束してくれるか?」
「え、あ、はい……えぇ……」
返事をした後で怖気づいた感じになっているが、オレは気にせず話し始めた。
「改め確認するが、CクラスとDクラスの事件の内容、その詳細は知っているな?」
「はい。Dクラスの生徒が説明に来ていましたし、実際に関わってしまいましたから……」
「オレは今回の事件を聞いて、もし冤罪を起こしたCクラス側が勝ってしまったらとてもマズいと思った。この戦略の有効性が証明されてしまえば、最悪学校の秩序が崩壊してしまうと」
「ち、秩序!?」
「大袈裟だと思うか? だがオレは、この内容で生徒会長を脅迫した」
「え? …………え、えぇ!?」
良い反応を返してくれる山村を見ながらオレは続ける。
「バレなければ犯罪を犯しても構わない。その精神は道徳と倫理観の欠如した考えではあるが、実際にバレなければ問題にならないのも事実だ。オレ達が知らないだけで、社会では別に珍しことでもないだろう。だが、ここは学校でありオレ達は学生だ。いくらクラス間で競い合っている特殊な環境にあるとはいえ、その精神が横行してしまえばやりたい放題になってしまう。そんなのは普通に困る。そんな殺伐とした学校生活をオレは送りたくない」
例えば今回の件で、Cクラスの3人が須藤に殴られた怪我を自分たちで作ってきたが、もしそれが骨折だったらどうなっていただろうか。恐らく審議など行われず、須藤は問答無用で停学、あるいは退学になっていた可能性がある。
例えば、他クラスの女子生徒と他クラスの男子生徒が2人で会っていたとしよう。
その女子生徒が自傷行為を行い、男子生徒にやられたと訴えたらどうなるか。偽の証人まで用意して、男子生徒が不利になる嘘の証言したらどんな結果になるだろうか。
例えば、3年Bクラスの生徒が下級生に対し多額のポイントを支払う代わりに、3年Aクラスの生徒を罠にハメろと交渉してきたらどうなるか。成功しなくても、相打ちに持ち込めたのなら十分な嫌がらせになる。
いずれにしても、行きつく先は疑心暗鬼の学校生活。誰も彼もボイスレコーダーや小型カメラを手放せなくなる。
「山村も知っての通り、審議の判決を下す裁判官の役目を担うのは生徒会だが、いくら生徒会長が優秀であろうと結局はただの素人。警察が介入するわけでもなく、素人が捜査して、素人が判決を下す。生徒の自主性を重んじているのは分かるが、この学校のシステムとはあまりにも嚙み合わせが悪い」
「そ、その代わりに監視カメラが……あっ……」
「監視カメラはあるが、どこにでもある訳でもない。当然、学校敷地内の全てをカバー出来るほど監視カメラは設置されていない。監視カメラのない場所で事件が起こったとして、司法に頼らない素人集団にどこまで真実を見抜けるものか。罠にハメられた方もどこまで信用で戦っていけるのか。まあ、信用だけで勝てたとしても、それはそれで問題だけどな」
「………………」
山村がとても不安そうな顔で俯いている。
少し脅し過ぎたかもしれない。
「先ほども言ったが、最悪の場合な。そうなって欲しくないから、オレは今回の事件を聞いて介入することを決めた。生徒会長にも今のと同じようなことを発言して脅し、そして協力を要請した」
遡って、オレは須藤から話を聞き、鈴音から「偽カメラを使って訴えを取り下げる」という策を聞いた翌日。
オレはまず真嶋先生に確認した。
CクラスとDクラスの生徒間のトラブルはどうやって解決させるのか。まさか当事者であるCクラスの生徒と須藤だけで話し合いが行われることはないだろう。そうなれば言葉より先に拳が飛び交うことになる。必ず中立の者が間に立つことは分かっていた。
そしたら予想通り、クラスの担任とその当事者、そして生徒会との間で決着がつけられると判明。
生徒会と聞いて真っ先に思い浮かぶのが鈴音の兄、堀北学。
鈴音と兄の関係性。
深い事情をオレは知らないが、優秀な兄を追って鈴音はこの学校に入学し、その実力を認めて貰いたいと思っているのは、鈴音と知り合った夜の日で大体分かっている。
そして生徒会長から過去問を貰いにいったオレの後ろで、ビクビクと大人しかった鈴音。認めて貰いたいと思っているが、失望されている現状に恐怖を抱いている。恐らく、そんな心境なのだと推測。
どちらにせよ、鈴音が生徒会長を前でいつも通りに振る舞えるか不明。
この時点で鈴音を煽ることを決意。鈴音にはまだ伝えていないが、再審議に持って行かせることはオレの中では決定事項。審議の最中にでくの坊になられては困る。
そして放課後、オレは泣く泣く茶道部に行くのを断り、3年Aクラスに直行。生徒会長、堀北学に2人だけで話がしたいと伝える。アポなしだったが、生徒会長はあっさりとオレとの会話の場を設けた。
そして上記の説明を生徒会長にも伝える。
「それで、お前は俺に何を求めている?」
「学校の秩序の為に、学校側に掛け合い、生徒会を通してオレに依頼して欲しい」
「依頼だと?」
「バレなければ問題じゃないという、そんな精神が横行する殺伐した学校生活を送りたくない。冤罪を仕掛けたCクラスは必ず敗北させる。それは間違いなくオレの本心だ。だが、学校の為に
生徒会長は興味深そうに目を細める。
「断ったらどうなる?」
「残念ながらCクラスが勝つ
「それは脅しのつもりか?」
「あくまで可能性の話です。それに、そうなればオレだって困るとも先ほども伝えました」
生徒会長の鋭い眼光で向けてくる。
相変わらず迫力があり圧があるな。そんなに見られると思わず目を逸らしたくなる。
「……いいだろう。坂柳理事長には俺の方で掛け合っておこう」
坂柳?
「だが、今回のCクラスとDクラスの事件。お前はDクラス側の完全無罪を信じ、訴えたCクラス側が冤罪を仕掛けたと決めつけているが何故だ? 証拠、あるいは証人でも現れたか?」
「さあ? それはオレもまだ知りませんし聞いてません。ただ、須藤が暴力を振るっていないと、嘘だったらバスケ部を辞めても構わないと誓ったので、信じました」
須藤にとってバスケットは人生そのものだ。勉強は嫌いだし素行も悪いが、バスケットだけは真剣に取り組んでいる。その須藤がバスケットを賭けたのだ。信じる理由としては十分だろう。
「別に生徒会長は信じなくても構いませんよ。どちらにせよ、鈴音と協力して須藤の無実を証明するので」
「お前は兎も角、鈴音に出来るのか?」
「生徒会長が妹のことをどう思っているかは分かりませんが、勉強は出来るみたいですし優秀ですよね? 目先のことで視野は狭いですが、それも少しずつですが改善し始めてる。作戦だって既に鈴音が用意している」
なら期待させて貰おうーーと、ここまでが生徒会長とのやり取り。
そして先週の金曜日に、『ある条件』を受ける代わりに生徒会長から学校側にオレの願いが受理された報告を受け、正式な依頼が届いた。
「そ、そんなことがあったんですね……」
「もう一度言うが他言無用で頼む。この話が広まったらオレと広めた相手に罰則があるからな。最悪、退学させられるかもしれない」
「わ、分かりましたぁ」
山村は唾を呑み込みながら頷く。
やっぱり聞かなきゃ良かった、みたいな顔をしている。
木曜日の夜に櫛田から聞いていた。Dクラスに目撃者がいるかもしれないと。
金曜日にはそれが確定となり、土曜日には事件の写真を撮っていたことも判明。
証人としての役目も奪ってしまうので、そのお礼と謝罪も兼ね、ついでに佐倉愛里と直接会って写真を譲ってもらう為に櫛田を通じてコンタクトを取る。それがどういう流れになったのか、日曜日に櫛田も含めて3人でカメラを修理しにお出掛け(この時はオレも流石に「なぜ?」と首を傾げた)
佐倉のストーカーが退治され結果オーライではあったが、結局はその対処によって日曜日に写真を受け取ることは叶わず、月曜日に鈴音から受け取ることになった。
そして月曜日。
オレは山村美紀に、交渉を開始する。
Dクラスの代理人ではなく、Aクラスから出る偽の証人として、審議に出てくれと。
当然だが、断る山村。
それでも頼むオレ。断る山村。
頼むと力強くお願いするオレ。無理ですと断る山村。
土曜日の話を持ち出すオレ。
山村自身、椎名の誘いを断り、逃げるように去って行ったことには後ろめたさを覚えていようで「そ、それは」と言葉を詰まらせる。
ここが攻め時だと、再度頼み込むオレ。
最終的には「わ、分かりましたぁ」と若干の涙目で陥落した。
つまりはゴリ押し。やはりパワー、パワーは全てを解決する。
その日の放課後に、特別棟での写真撮影。
写真はまだ受け取っていなくても、例の写真以外は自撮りしていたと聞いていたので、偽の証拠作りの為だ。
昨日の審議で、坂上先生は「デジタルカメラは容易に日付変更出来る」と言っていたが、見事にその通り。オレはデジカメを生徒会から借り、生徒会のパソコンを使って日付を変更して写真に現象したのである。証拠として必要なのは例の写真だけだが、これ1枚だけというのも不自然だ。そしてオレの分、山村と一緒に立ち会う為の最低限の証拠(偽)作りである。
「オレ達がわざわざ証人として出たのは、CやDだけでなく、AもBも全部のクラスが関わった事件として少しでも規模を多くす為。そしてCクラスの心象を落とす為だ」
Aクラスの証人まで居るのに、嘘を貫き通し冤罪を仕掛けようとしたCクラス。
今頃はボイスレコーダーの音声で色々とバラされ、Cクラスの心象は地に底に落ちていることだろう。
生徒会長には事前に色々伝えているし、どうせ話が平行線になるので再審議を行うようにも要求している。
結果の分かり切った『茶番』であることには変わりないが、重たいペナルティーに関しては誰もが納得できる程度の理由作りは大事だ。
「あの……」
「ん?」
「結局、どうして私が嘘の証人になったのか……私が選ばれた理由は、何なんですか……?」
「……色々とあるんだけが、どっちが聞きたい?」
「ど、どっち?」
「それっぽい理由と、ぶっちゃけた理由」
山村は熟考を重ねた後で恐る恐ると口を開く。
「そ、それっぽい理由で」
「リアリティの為だ」
「え? ……えぇ!? だ、だって、昨日、さ坂上先生に……えぇ……?」
坂上先生としてはAクラスの発言の信用を少しでも落とそうとした言いかがりな発言。まあ、言いがかりではなく、これまた見事に坂上先生の言う通りなのだ。流石は教師。大人である。
「そ、それなのに、先生を相手にあんな啖呵を切ったんですか……?」
驚きからの困惑、そしてドン引きしている山村。
「オレ達が認めなければ言いがかりだからな。実際、失礼な言い方だっただろ?」
「失礼も何も事実だったんじゃ……」
事実でも審議中にバレてなきゃセーフだ。
「……あの、ぶ、ぶっちゃけた理由というのは?」
「聞きたいのか?」
「も、もうここまで来たら、逆に聞いておきたいなって……」
山村は諦めと開き直りを足したような曖昧な顔をしている。
「ぶっちゃけた話をすると、別に山村じゃなくても良かった。何ならAクラスからわざわざ証人を出さなくても良かった」
「な、何となくそうなんじゃないかと思っていましたが……。ほ、本当に包み隠さずですね……」
そう言って山本はほんの僅かにだけ口角を上げた。別に楽しくて笑っているわけではないがだろうが、一周回ってちょっと面白おかしくなっているのかもしれない。
「それと山村と関わる切っ掛けが欲しかった」
「……え…………?」
橋本、葛城、真田、吉田と、他のクラスメイトと話さないわけでもないが、Aクラスで圧倒的に多いのが坂柳と神室だけ。
入学してから約3カ月。Aクラスに友達と呼べるのは2人しかいない。
オレが悪いのは承知している。
ついつい友達と、居心地の良いメンバーと一緒にいるせいで友達が増えないのは分かっている。だが、喋るのが得意じゃないコミュ障は、友達でもない相手に普通に話しかけるだけでも難易度が高いのだ。オレに「ウェ~イ、一緒に遊ぼうZE」なんて陽キャな真似が出来るはずもない。
つまりは切っ掛け。切っ掛けが必要なのである。
それに山村は椎名が気に掛けた相手。自分と少し似ていると言った相手だ。普通に興味を持つだろう。実際に話をしてみると、椎名よりもやはりオレ自身と重なる部分が多いように感じているが。
「そ、そそ、そんなことの為に、私に頼んだんですか……?」
オレにとってはそんなことではないのだが、まあ選ばれた山村からしたらたまったもんじゃないよな。
「改めて悪かった。振り返ってみると山村の迷惑も考えずにかなり自分勝手だったな」
というか、嫌われたら元も子もない(既に苦手意識は持たれてるか?)
我ながら完全に勢いありきだった。
「そ、それは今更なんで良いんですけど……。あ、綾小路くんは、変な人なんですね」
「つい最近も友達に言われた」
「で、ですよね」
山村はちょっと嬉しそうに、安心するように言った。
「一応、普通でありたと思っているんだが、オレのどこら辺が変だ?」
山村は櫛田のようにケラケラ笑うことはなかったが、鳩が豆鉄砲を食ったような顔を向けてくる。
「じ、自覚ないんですか? わ、私と関わりを持ちたいなんて、十分に変ですよ」
「…………すまない、ちょっと意味が分からなかった。山村と友達になりたいって思うどこが変なんだ?」
「ひぇっ」
ひぇ?
「へ、変ですよやっぱり。私ととも…………やっぱり綾小路くんは変ですっ」
山村は落ち着かない様子でベンチから立ち上がる。
そして逃げ出そうとする山村の手をオレは掴んだ。
「あ、綾小路くんっ!?」
「いや、勝手に帰ろうとするから。用がまだ済んでないぞ」
「…………そういえばその為に呼ばれたんでした……」
顔を赤くして俯く山村。
問題なさそうだったので手を放すと、タイミング良く携帯が鳴った。メッセージを読む。
「再審議が終わったようだ。行こう、山村」
「ど、どこにですか?」
「まずは職員室。次に生徒会室だ」
職員室に向かう途中でCクラスの石崎、小宮、近藤の3人とすれ違う。3人共意気消沈しており、オレと山村に気付くことはなかった。どれぐらいの処分かは知らないが、退学よりはマシだろう。
職員室に入り坂上先生のところに向かうと、手を額に当てて眉間に皺を寄せていた。オレと山村に気付き、その皺が更に深くなる。
「再審議の結果は聞きましたよ。これで坂上先生も納得してくれましたよね、山村は嘘つきじゃなかたって」
「…………私に何を言わせたいんですか?」
流石は教師。話が早いけども、きっと坂上先生が今考えいることとは違う。
「勇気を振り絞って証人として立ってくれた山村を褒めてあげてください」
「え?」
オレの背中に隠れるようにいた山村が声を漏らし、坂上先生も虚を突かれたように目を丸くする。
「頑張った生徒を褒める。別におかしなことではないですよね?」
オレの問いに坂上先生は数秒の沈黙を保った後で、息を吐きながら軽くメガネの縁を触れた。
眉間の皺もなくなり、平静さを取り戻しつつあるようだ。オレは戸惑う山村を前に差し出す。
「山村美紀さん。昨日は失礼な発言をしてしまいましたね。彼の意思が多分に絡んでいるとは思いますが、それでも最後はあなたが自らの選択によって、あの場に勇気を持って証人として立ちました。…………頑張りましたね。私の受け持つ生徒ではありませんが、一介の教師として、あなたの苦手が克復されることを願っておきますよ」
「は、はひ。あ、ありがとうございます」
カチコチになりながらも山村は坂上先生に頭を下げる。
オレは先に山本だけを職員室から帰し、坂上先生と向かい合う。
「……まだ私に何か?」
「ポイントをください」
職員室を出ると、山村は落ち着かない様子でオレを待っていた。
「な、何を話していたんですか?」
「坂上先生から山村にエールだ。ちょっとだけだったが、まあないよりマシだろう」
オレは携帯を操作し、山村に1万ポイントを渡す。
「えぇ……? 本当に何を話したんですか?」
「大したことじゃない」
山村が頑張った分のお礼をくださいと、言葉だけ足りないので分かりやすい
「よし、次は生徒会室だ」
◇櫛田が佐倉とのカメラ修理に綾小路を巻き込んだ理由。
・裏では部屋に入り浸っているが、表の学校生活の中で接する機会が殆どないので「一緒にお出掛けしたい、かも……」と思ってのこと。流石に一対一だと完全にデートとなり表側の立場としても言い訳がしにくいため、佐倉の件は渡りに船だった。佐倉としても万が一に備えて男子がいた方が心強いかも……?とは思っていた。
◇佐倉愛里
・ちゃっかりストーカーが撃退されている。
◇綾小路から逃げる山村。
・山村は休み時間の度に教室を抜け出すが、「最高傑作」である綾小路くんを出し抜けるはずもなく、悉く見つかり「お前も偽の証人として出ないか?」と説得され続けた。因みに昼休みに陥落した。