ようこそAクラスの教室へ   作:yadooo

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23話:見返り

・①CクラスはAクラスに対し、200ポイント相当分の物品を購入し譲渡する。

 購入する物品は、Aクラスが自由に指定できる。

 

・②Cクラスが①を遂行した時、Aクラスは龍園翔に270万プライベートポイントを譲渡する。

 

・③AクラスとCクラスは、最終日にお互いのクラスのリーダー当てをすることを禁止する。これを破りそれが発覚した時、以下のペナルティが発生する。

 Aクラスの場合は綾小路清隆を含めた任意の生徒5名の退学、および100万のプライベートポイントをCクラスの生徒に譲渡する。Cクラスの場合は龍園翔を含めた任意の生徒5名(椎名ひよりを除く)を退学、および100万のプライベートポイントをAクラスの生徒に譲渡する。

 

 

 

「ふざけてんのか?」

 

 龍園はそう言って契約書をぐしゃりと握りつぶす。

 この試験では用紙だって別に無料ではないのだが、まあ後でCクラスに払わせるから問題ないな。

 

「大分譲歩したと思うんだが、どこが悪かった?」

 

「綾小路テメェ、舐めてんのか?」

 

 ふむ。

 

「それを本気で言っているんだったら、それはオレの台詞だ。お前がオレの()()()を受け取らないというなら、オレだってわざわざお前に()()()を渡したりはしない。この試験においては、徹底的にCクラスを潰す」

 

「なに?」

 

「お前が先ほどの契約書を持ってきてくれたおかげで、お前がこれから取るであろう戦略は殆ど読めた。その戦略をDクラスとBクラスに伝えにいく。何なら3クラスでこの試験の間は同盟を組んでも良いぐらいだ。果たしてこの試験終了時、Cクラスはどんな状態になってるのか、お前は自分の目で確かめてみる気はあるか?」

 

 オレの言葉の真偽を見極めるように、龍園が眼光を鋭く光らせて睨んでくる。

 

 真澄も葛城も橋本もオレをじっと見ていた。

 3人にもまだ何も説明していないし、オレがこうも強気な発言が気になっているのだろう。

 

「クク、ハッタリにしては面白え。なら是非とも教えてもらおうか、俺の考えている戦略とやらを」

 

 

「そうだな。お前の取ろうとしている戦略を、敢えて作戦名を名付けるとしたら…………0ポイント作戦か」

 

 

「は?」

 

 橋本が「何だそりゃ?」と言わんばかりの気の抜けた声を出すが、その表情がすぐに変化し息を呑む。真澄や葛城と同じく気付いたからだ。

 

「お前、は……」

 

 どこか偉そうで人を馬鹿にしたような龍園の態度が一変していることに。

 

 動揺と警戒。

 

 龍園の表情と態度が、オレの正しさを証明していた。

 

「この試験で最も大切なことは何か分かるか?」

 

 オレは龍園ではなく、真澄、葛城、橋本の3人に向かって語り掛ける。

 

「難しく考えなくていい。単純に、この試験が最も得意なクラスはどこだと思う?」

 

「……Bクラスか?」

 

 葛城が答える。

 

「そうだ。1日2日のキャンプとは違う。オレも含め、無人島で1週間も生活したことのある奴なんて恐らく居ないだろう。そんな未知の環境と状況で、男女合わせて40人が1週間も集団で生活するんだ。この試験のテーマは自由だが、まず何よりもチームワークが大切となる。男女で協力して思いやり、お互いの意見に寄り添ってポイントのやり繰りをしていかなければ、あっという間にクラス内はバラバラに瓦解することになるだろう」

 

 誰もが自由に振る舞えばただの無秩序となる。

 

「なら次に、チームワークにおいて最もこの試験が向いていないと思うクラスは?」

 

 3人の視線が龍園に向く。

 個人的にはDクラスもどうなのか気になるが話を進める。

 

「例えばの話だが、Bクラスのリーダーと名高い一之瀬が、クラスメイトの意見を何も聞かずにポイントを好き勝手に使ったとして、この試験が終わった後もリーダーとして続けられると思うか? 仮に続けられたとしても確実にクラスメイトからの信用は落ちているはずだ。同じように、数日程度なら龍園の得意な方法でもクラスメイトを従えられるだろう。だが1週間もそれを続けた後は? その間にリーダーである龍園に対しクラスメイトの求心力が落ちないという保証は?」

 

「確かにCクラスが、てか龍園がBクラスのように仲良く協力し合う光景は浮かばないな」

 

 Cクラスの内部事情を詳しく知っているのか、橋本が納得するように深く頷く。

 

 特に龍園の得意とする暴力のように乱暴な手段とは相性の悪い試験だ。内側だけでなく外側に対しても、暴力行為などで他クラスを妨害すれば容赦のないペナルティが襲ってくる。

 それにこの1週間を何とか乗り越えたとしても、上手くやらなければ必ずどこかで不満の種が出てくるだろう。そしてその種がどのタイミングでどういう作用を引き起こすか、龍園であろうと予測は出来ない。

 

 

「ならクラスメイトからの不満を出さずにこの試験を乗り越えるには、一体どうすれば良いと思う? ヒントは先ほどの龍園の契約内容だ」

 

 

「……0ポイント作戦……。そうか、そういうことか!?」

 

 葛城がハッとした様子で声を上げる。

 流石はAクラスのリーダー。気付くのが速い。

 

「全員をリタイアさせるのか、そしたら船内で自由に過ごせる!」

 

「でもそしたらポイントが……っ、あぁ、そういうことね。だから私たちに……」

 

「はぁー、なるほどなぁ。龍園お前、すげぇこと思いつくな」

 

 どのクラスもポイントを残そうとするこの試験で、敢えてそれを逆手に取った戦略。いや、奇策か。

 葛城、真澄、橋本が龍園の狙いに気付き感嘆の声を漏らす。それすらも今の龍園には屈辱だろう。

 

「先ほどの契約通りに進めば、オレ達に200ポイントの物資を提供した後はCクラスの生徒を船に帰せばいい。残りの100ポイントは遊ばせるポイントとしてビーチでバカンスでも楽しませておけば、クラスメイトも満足するだろう」

 

「ポイントは0からマイナスにならない。ならばそこから、他クラスのリーダーを当てれば最大150ポイントは獲得出来る」

 

「クラスメイトを満足させて、結果も出せればリーダーとして誰も文句は言えないわね」

 

「あの契約を結んだ後に何もかも上手くいったら150ポイントと、俺等から3年間ずっと月80万近いプライベートポイントまで取れるのか……」

 

 仮にどのクラスのリーダーを当てられなくても、Aクラスからプライベートポイントをじわじわと奪い続けられる。大雑把に計算して1年間で約960万のプライベートポイント。クラスポイントは増えないかもしれないが、200クラスポイントに匹敵するポイントを毎月得られるのだ。

 Aクラスと契約を結ぶだけで最低限の成果は出せる。

 

「真っ先にAクラスに契約を結びに来たことに関しても、Cクラスに対し信用のないBクラスとDクラスがこの契約を簡単に結ぶとは龍園本人も思っていないからだ」

 

「つまり、Aクラスと契約出来なくて困るのはCクラスってことね」

 

 真澄が納得したといった表情でオレを見る。

 

 ここまでのからくりが分かっていれば契約内容が対等である必要がない。

 Cクラスの弱点と戦略を知り、イニシアチブを握っているのはこちらであるからだ。

 

「肝心のリーダー当てのやり方だが、まあ色々な理由を付けて他クラスに1人か2人ほどスパイでも送ればいい」

 

「理由には困らなそうだな、Cクラスだと」

 

 橋本が苦笑いを浮かべながら龍園を見る。

 この時には既に憤怒に近い表情をしていた。

 

 

「龍園。これで最後のチャンスだ。先ほどの金額に納得がいかないならプラス50万のプライベートポイントを追加してもいい。それと、()()()()()()()()がお前の取る戦略を他クラスに他言しないという内容も加える。ここまで説明したから分かると思うが、オレの提案する③を含めたこれらの条件が、この試験でオレがお前に与えられる最大限の()()()だ。ーーまあ、取引を断りA、B、Dの3クラスから睨まれながら真面目に1週間、クラスメイトと共に無人島生活を楽しんでみるのも良いと思うが……、どうする?」

 

 

 オレの言葉を最後に沈黙が落ちる。

 真澄、葛城、橋本が固唾を吞むように龍園の言葉を静かに待つ。

 

 数秒……10秒以上経過してから、龍園は殺意を漲らせながら答えた。

 

 

「綾小路、お前を必ず潰してやる」

 

 

「今のままでは無理だな」

 

 

 オレは予め用意していた()()()の契約書をポケットから取り出し、龍園に近付いて差し出す。

 龍園はそれを受け取る為に手を伸ばそうとしてーーオレの顔面目掛けて拳を放った。

 

 

「……チッ」

 

 

「英断だな龍園」

 

 

 オレの数センチ手前で止まった龍園の拳。

 当然、防ぐことも躱すことも出来たが、そこまでの()()()を用意してやるつもりはない。殴られたら容赦なく先生にチクりに行った。

 3人も見てるし、これでも生徒会メンバーなので信用勝負もバッチリだ。つい先月に冤罪を仕掛けてきたCクラスの()()()相手に負けるわけがない。

 

 

 

・①CクラスはAクラスに対し、200ポイント相当分の物品を購入し譲渡する。

 購入する物品は、Aクラスが自由に指定できる。

 

・②Cクラスが①を遂行した時、Aクラスは龍園翔に320万プライベートポイントを譲渡する。

 

・③AクラスとCクラスは、最終日にお互いのクラスのリーダー当てをすることを禁止する。これを破りそれが発覚した時、以下のペナルティが発生する。

 Aクラスの場合は綾小路清隆を含めた任意の生徒5名の退学、および100万のプライベートポイントをCクラスの生徒に譲渡する。Cクラスの場合は龍園翔を含めた任意の生徒5名(椎名ひよりを除く)を退学、および100万のプライベートポイントをAクラスの生徒に譲渡する。

 

・④今この場でいる者は皆、試験終了時まで誰であろうとCクラスの戦略を他言することを禁じる。これを破り他言した者は龍園翔に20万のプライベートポイントを譲渡する。

 

 

 契約成立である。

 

 

 

「龍園」

 

 オレは背を向けて歩き出す龍園に言う。

 

「あまり挑発してくれるなよ。流石のオレでも、鬱陶しく感じたら手が出てしまうことがあるからな」

 

「…………」

 

 龍園は足を止めずに進む。

 聞こえたのか聞こえていないのか判別はつかない。

 

「潰す気で来るんなら、もっと成長してから来い」

 

 龍園の姿が木々の中へと消えて行った。

 これでCクラスに関してはヨシ!

 

 

「さて戻るか」

 

「いや、軽いな!」

 

 橋本がそう言ってオレの肩に手を回して来る。凄く嬉しそうだ。

 

()()()って言葉には敢えてツッコまないけど、殆ど脅迫だったわよね、アレは」

 

 真澄は呆れるような声音で言っているが、口角は少し上がっている。どうやら彼女も喜んでくれているようだ。

 

「……なるほど。一回目は断られ、そこから『解答』するまでの流れも含め、全て掌の上か」

 

「ああ、きちんと龍園に教える必要があったからな。既にこちらが龍園に対し銃口を突きつけている状態だということを」

 

「……恐ろしい男だ。あの龍園を相手に、本当にたった320万のプライベートポイントで契約を結ばせてしまうとは」

 

 葛城はちょっと戦慄するような表情をしている。そこは素直に喜んでくれてもいいんだが。

 

「てか龍園の0ポイント作戦っていう発想もヤバいけど、それを瞬時に見抜くお前もヤバいな綾小路!」

 

「別に瞬時にってわけじゃない。さっきも言ったが、龍園が持って来た契約書のおかげだ。その内容を知らなければ、流石にどんな戦略を取るかまでは分かりようがない」

 

 

 Cクラスはどうして200ポイントもAクラス譲渡することが出来るのか。

 200ポイント渡した後に、Cクラスはどうするつもりなのか。

 

 Aクラス全員から毎月2万ポイントは確かに魅力的だとは思う。

 だがしかし、普通に試験を受けて占有ポイントを稼ぎ、リーダー当てに成功させれば一気に300ポイント以上の結果を出せるかもしれない。

 龍園がそのチャンスを最初から諦める理由は?

 失敗してもいいように安定を求めた? ハイリスクハイリターンの冤罪事件を仕掛ける龍園が?

 他にも、ご丁寧にBクラスとDクラスのリーダーを探し出し、Aクラスに伝えることも条件にはあった。そこまでしてAクラスと契約を結ぼうとする理由。結びたい理由。

 それを結べなかった時のCクラスのデメリット。そして、Cクラスの現状。試験のルール。この無人島生活を送るにあたってのチームワーク(土台)。Cクラスのリーダー龍園翔の性格。

 

 龍園が30分も待ってくれるという()()()も理由の一つか。

 恐らく、Cクラスはまだスポットを見つけて確保もしていないのだろう。ベースキャンプを決めていない。契約を断られた時の()()がないことからも、真面目に無人島生活を送る気がないことは想像出来た。別にAクラスとの契約がなくても0ポイント作戦は行えるし、スパイも送り出せるからな。

 

 

「皮肉にも、龍園自身が自らの弱点を晒しに来たわけね」

 

 

「鴨が葱を背負って来たようなものだな。当然、逃す気はない」

 

 

 オレとの契約を断れば、スパイを含めた戦略を他クラスに暴露され、リーダー当ては困難を極めることになり、何の成果もなく本当に0ポイントで試験が終了してしまう。しかも同盟を組まれ、リーダーを3クラスから当てられればポイントを減らされるだけでなく、他クラスにポイントを与えることにも繋がる。

 

 逆に契約を結べれば、毎月は無理でも320万のプライベートポイントは手に入り、他クラスに戦略をバラされる心配がない。また、戦略のバレているAクラス(オレ)からリーダー当てを狙われる心配もなくなる。リーダーを当ててポイントを増やせる可能性は、前者を選ぶよりも高くはなるだろう。

 

 

 Aクラス(オレ)に契約を持って来た時点で運の尽き。

 契約せざるを得ないというやつだ。

 

 

 オレとしても契約の中に()()()を与えられたので良かった。

 オレとひよりの為にも、機会があれば媚びは売っておかないとな。

 

 

「か~、頼もし過ぎるぜ、綾小路!」

 

「分かったから、そろそろ放してくれ」

 

 「悪い悪い」と笑いながらオレの肩から手を放す橋本。流石は陽キャ。テンションが高い。

 そんな橋本を真澄が「何コイツ」みたいな目で見ている。

 

「それより戻ろう。まだ洞窟で説明することがあるんだ」

 

「山村に渡してたあの紙のことだよな? それを皆に回して読んでいて欲しいって言ってたけど、何て書いてあるんだ?」

 

「それを説明する為にも戻るんだ。……森下もな。いつまで隠れてるつもりだ?」

 

 真澄、葛城、橋本が各々のリアクションを出し、オレと同じ視線の先に目を向ける。

 

 木の裏側から、ひょっこり顔だけ出す森下藍。

 この場にいる4人の視線を一身に受け、彼女はフっと気取るように笑う。

 

「この忍者のような隠密に気付くとは、藍ちゃんファンクラブNo.2は伊達じゃないということですね」

 

「……そうだな」

 

「No.1は誰なのよ?」

 

「山村美紀ですよ、神室真澄。そこにいる綾小路清隆と山村美紀はこの私の魅力に心酔しているのです」

 

「……そうだな」

 

「綾小路、お前、目が……。一体どうしたってんだ」

 

 色々……うっ、頭が……カブトムシぃ……。

 

「森下は何故ここにいる? さっきの話は聞いていたのか?」

 

「もちろんです、葛城康平。ファンを守るのもアイドルの務め。そこにいる綾小路清隆が龍園翔なる輩に殴られないか心配で助けに来たんです。こう見えても私、藍ちゃん流古武術の免許皆伝ですからね」

 

「コイツが殴られそうになってもずっと隠れてたわよね」

 

「そもそもアイドルってなんだよ」

 

「森下。一応言っておくが、先ほどの内容は他言無用で頼むぞ」

 

「綾小路清隆がわざわざ()()()()()()()()と言っていましたからね。仕方がないので守っていてあげましょう。せいぜい感謝してください、藍ちゃんファンクラブNo.2」

 

 ……そうだな。

 

「長いな、どっちかに統一しておけよ」

 

「橋本正義は藍ちゃんファンクラブに加入させませんからね。残念だとは思いますが諦めてください」

 

「あー、はいはい。そりゃあ残念だわ」

 

「はい。なので泣かないでください、橋本正義」

 

 橋本が助けを求めるようにオレを見るが、オレにも無理だ。

 

「さっきから一歩も進んでないわよ。戻るんじゃないの」

 

「時間は有限ですよ、綾小路清隆。早く戻りましょう」

 

 「何なのこの女?」みたいな目で真澄がオレを見てくるが、オレにもよく分からない。彼女の相手は葛城に任せよう。

 だが、葛城は黙ったまま先に歩き出す。あ、ちょっと待ってくれ。

 

 

 そんなこんなで、龍園の相手をした時よりも気疲れして洞窟に戻ると、全員の視線が集まりだした。驚きを含めて、そのどれもが好意的な視線や雰囲気。疑問を抱えている者もいるようだが、その数はほんの僅かのようだ。

 

 

「あー……、取り敢えず、全員内容を確認したなら、葛城たちにも見せたいから契約書を渡してくれないか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

 柔和な笑みを浮かべる真田から契約書を受け取り、オレはそのまま隣にいる葛城に渡す。

 葛城の両隣に立つ、橋本と真澄。

 森下は何故かオレの背後に立つ。怖い。

 

「どんな内容なんだ」と期待を膨らませる橋本。

「今度は何をしたの」と何故か仏頂面を浮かべる真澄。

「見えません」と呟く森下。

 

 

 

・①BクラスはAクラスに対し、60ポイント相当分の物資を購入し譲渡する。

 購入する物品とタイミングはAクラスが自由に指定できる。

 

・②Bクラスは綾小路清隆に対し、20万のプライベートポイントを譲渡する。

 

・③AクラスとBクラスは、最終日にお互いのクラスのリーダー当てをすることを禁止する。これを破りそれが発覚した時、以下のペナルティが発生する。

 Aクラスの場合は綾小路清隆を含めた任意の生徒5名の退学、および100万のプライベートポイントをBクラスの生徒に譲渡する。Bクラスの場合は一之瀬帆波を含めた任意の生徒5名を退学、および100万のプライベートポイントをAクラスの生徒に譲渡する。

 

・④綾小路清隆がBクラスのリーダーを他の生徒に他言した時、またそれが発覚した場合、綾小路清隆は20万のプライベートポイントを一之瀬帆波に譲渡し、退学処分とする。

 

 ◆AクラスとBクラスは条項通り契約を締結する。

 

 

 

「事後報告で悪いが、Bクラスと契約してきた」

 

 

「っ」

 

 葛城は目を見開いて驚愕し、対照的に橋本は声を出して笑う。

 真澄はクールに振る舞おうと口を閉じているが、残念ながら笑みを隠しきれていない。

 森下は「動かないでください綾小路清隆」と手で作った銃口をオレの背中に突きつけてくる。怖い。

 

 

 兎にも角にもーー

 

「BクラスとCクラスはこれで無力化出来た。ポイントも潤沢だし、後は無人島生活を楽しもう」

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 無意識に腕が動き、一本の木を殴りつける。

 拳から伝わる痛み。

 拳が傷つき血が滲み出てくるが、それすら気にならない。

 

 屈辱と怒り。

 

 試験が始まってからまだ半日も経っていない。数時間も経過していない。

 にも関わらず、この試験においてCクラスはAクラスに『敗北』した。

 たった数分のやり取りの内で、自身が取ろうとした奇策を完全に読まれて対処された。

 足元を見られた契約。

 しかし、契約せざるを得なかった。でなければAクラスだけでなく、BクラスとDクラスにまで不利を強いられることになる。

 Cクラスを支配した自身のやり方。

 いくら暴力で屈服させようが、結果を出さなければいずれ暴君は引きずり落とされる。最初から出鼻を挫かれるわけにはいかない。そのことも()が理解してでのあの内容だ。

 

 

「クソが……!」

 

 

 椎名を通して奴の存在は知っていた。

 生活態度による支給ポイントの変動や、Sシステムの全容が明かされた後にでさえ過去問を提供してきたAクラスの生徒。思わず()を疑い、別ルートで過去問を入手して確認したが、何も仕掛けて来なかった間抜けな奴だと。

 

 椎名にご執心のようだから、Aクラスのスパイとして利用してやろうとも思っていた。

 

 だが先月に初めて対峙して、奴は間抜けではなく、ましてや『普通』でもない存在だと認識を改めた。

 

 綾小路清隆。

 

 そいつはそのまま生徒会に入り、期末テストでは1年生で唯一の満点を叩き出した。 

 やはり面白ぇ。コイツは俺を退屈させない、楽しませてくれる存在だと、そう思っていた。

 

 

 慢心、過信、傲慢。

 

 敗北することは初めてのことじゃない。

 何度も何度も負けてーーそして最後には逆転して屈服させてきた。

 

 綾小路も同じだ。

 これまでと同じように、今回は負けても次は、最後に俺が勝利すればいい。

 この考えは今も当然変わらない。いや、より一層その想いは強くなっている。

 

 だが…………。

 

「今のままじゃダメだ」

 

 綾小路の言葉が思い返される。

 

 

「今の俺では………………奴には勝てねぇ」

 

 

 

 

 ビーチ付近の森の中。

 日陰の中にCクラスの生徒達は待機しており、龍園の帰還を待っていた。

 戻ってきた龍園を見ても彼らが安堵することはなく、逆に彼のピリつく雰囲気に恐怖を抱く。

 

「アルベルト、マニュアルを持ってこい」

 

 その指示にアルベルトは黙って従い、龍園は持ち運ばれたマニュアルを奪うようにして掴み取った。 

 

 0ポイント作戦の要である、リーダー当て。

 

 契約により、Aクラスとはお互いのリーダーを当てることは出来なくなった。正確には出来るが、それをした後で重たいペナルティが待っている。しかもしっかりと『椎名ひより』だけを除外した万全のペナルティだ。

 とはいえ、Aクラスからリーダー当てを狙われなくて助かるのも認めがたいが事実だ。完全に作戦を読まれているのだ。リーダーを誰にするかの見当はついているのだろう。

 

 これから重要なのはBクラスとDクラスのリーダー当て。

 スパイを送り込むのは決まっている。誰を送り込むのかも選び終えている。

 ただーー。 

 

 今回の作戦に本当に穴はないか。

 1%でも成功率を高められる方法はないか。

 何か利用できる道具。もしくはルールの裏を突ける方法はないか。

 

 マニュアルに目を通しながら龍園は思考を回す。

 

 

「龍園くん」

 

 

 鬼気迫るその集中力にクラスメイトが固唾を呑んで見守っている中で、1人の少女がのんびりと声を掛けた。 

 

「椎名か……」

 

「Aクラスに行ってきたんですよね? 清隆くんと会いましたか?」

 

「…………会ったが、それがどうした?」

 

「いいえ。ただ、納得しただけです」

 

「あ?」

 

 龍園は椎名を睨み付けるが、彼女は怯むことなく穏やかな表情を浮かべたまま。

 クラスにいる時はあまり感情を表に出さない少女が、はっきりとした感情の色を見せている。

 その瞳は龍園を通して、ただ1人の人間だけを見つめている。

 

 気付けば、口を開いていた。

 

 

「アイツは、何者だ?」

 

 

「清隆くんは、私の大切な人ですよ」

 

 

 即答を返され、思わず毒気を抜かれる。

 

「はっ、そういう意味じゃねえよ」

 

 

 男だろうと女だろうと性別は関係ない。

 必要であれば誰であろうと躊躇うことなく暴力を振るうことが出来る。

 ()()()だなんだと、ふざけたことを口にしてくるが、有無を言わさず椎名を傷つけ脅すことだって出来るのだ。

 

 それなのに、それを()が行わない理由。 

 

 奴は言った。

 

 

()()()()()とーー。

 

 

 その言葉が、俺自身の『答え』でもあるとーー今、自覚した。

 

 

 椎名ひよりを傷つけた先には『未知』が待っている。

 アイツも俺も、どうなるかは()()()()()

 どんな『感情』を抱くことになるのかも。

 

 

 

 

 

 椎名ひよりはパンドラの箱だ。

 

 

 




◇橋本正義
・初めての特別試験。()()()()()()()()()他クラスの情報収集はちゃんと行っている。その中にはもちろん龍園も含まれており、Cクラスで一番の注目株だったが、自分の目の前で綾小路に完封される。 前から注目はしていたが実際にその実力を目の当たりにし「期末テストの満点といい、コイツがいればAクラスは安泰じゃね?」とテンションが上がっている。


◇龍園翔と0ポイント作戦。
・実際原作でもAクラス(橋本の密告)Bクラス(金田スパイ)Dクラス(伊吹スパイ)によって150ポイント手に入り、毎月多額のプライベートポイントを得られるので、契約内容も含めて完璧な作戦だった…………綾小路清隆がいなかったらの話だが。


◇見返り(脅迫)
・見返りを受け取らないと酷い目に合う(Cクラスが)
 実際に龍園が契約を拒んでいたら、発言通り他2クラスに龍園の取る戦略をバラしに行っていた。スパイなど当然通用しなくなる。そのまま協力もされるので、潜伏していたリーダー(龍園)までもが見抜かれる可能性が高くなる。
 それならばと真面目に無人島生活を取り組もうとすると、3クラスで同盟を組まれどっちにしろ龍園のストレスが溜まる。リーダー当ても恐らく上手くいかない。逆に当てられる危険性が増す。
 綾小路「見返りを受け取らないんだから仕方がないよな?」



◇山村美紀。
・綾小路がBクラスとの契約書を彼女に渡したことで「何だ何だ」とクラスメイト達の視線が集まる。あわあわと内容を確認せずに近くにいた町田に渡した後は、ミスディレクションで気配を断った。藍ちゃんファンクラブNo.1

◇綾小路清隆
・藍ちゃんファンクラブNo.2。

◆禁忌
・椎名ひより
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