・いつも誤字脱字報告ありがとうございます。
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<side:堀北鈴音>
特別試験の内容を聞かされた時、私には向いていない試験だと分かった。
私だけじゃない。まだまだチームワークのないDクラスには不向きな試験だと。
仮設トイレ1つで言い合いをするクラスメイト達を見て思う。
幸村くんの1ポイントでも多く残したい気持ちはもちろん理解出来る。しかし、満足な設備のない状態で1週間生活を送れる自信は今の段階では持てない。何もかもが未知数だ。
Dクラスが言い争っている間にAクラスが移動し、Bクラスも続いて移動を始める。
私たちDクラスとCクラスだけがまとまりを欠いている状態だ。
そんな中、須藤くん、池くん、山内くんの3人がスポットを探しに森の中へと駆け出していく。
いつかの話が思い出される。
学力では足を引っ張る須藤くん達3人だが、今は率先して早く動き出した。今回は学力以外の能力を問われている、そんな試験だ。
平田くんが仮設トイレの必要性を幸村くんに説き、納得させる。
そして池くん達が川にあるスポットを見つけ、この場をベースキャンプ地にすることを決める。
次に出てくる問題は、誰がリーダーになるのか。
私は、リーダーに立候補した。
私がリーダーだと目立つという意見も出たが、だからこそ裏をつける。それに誰を選ぼうがリスクは平等だ。何よりも責任感があると、平田くんと櫛田さんが私に賛同し、私はリーダーに選ばれた。
私は平田くんと共に茶柱先生の元に行き、キーカードを受け取る。
その際に私は一つの質問を茶柱先生にした。
私の言葉を聞いて茶柱先生は意味深そうな笑みを浮かべ、隣にいた平田くんはやや困惑していた。
改めて思うが、この試験は私に向いていない。
中間テストの過去問の提出。Cクラスとの冤罪事件でクラスポインを獲得したことから、クラスメイト達から認められているのを感じているが、協調性という部分に関してはまだまだ。なるべく努力したいとは思っているが、不要だと切り捨てて数年以上培ってこなかった能力がいきなり身に着くはずがない。
けれども、この試験を乗り越えるには誰かとの協力が必要不可欠。
私1人だけの力では限界がある。今の私だけでは
馴れ合う必要はない。でも、協力し合える『仲間』が必要だ。
「平田くん、軽井沢さん、櫛田さん。……それと須藤くんも、話があるの」
クラスの中心人物である平田くん。
平田くんの彼女であり女子の中ではリーダー的な存在である軽井沢さん。普段は絡まないが、今回の試験では私と同じく出来るだけポイントを残したい派。
男女共に人気者である櫛田さん。彼女は私を嫌っているし私も嫌いだが、彼女の対人能力だけは認めざるを得ない。クラスの和を保つ為に、多くのフォローが必要になるであろう今回の試験では欠かすことの出来ない存在だ。
そして須藤くん。まだまだ未熟な面は多々あるけど、私が本気でAクラスを目指していることを知っている私の味方(のはず)
他の人にはまだ聞かれたくないので、私は少し離れた位置で彼ら4人を集める。
「どうしたの、堀北さん?」
「…………」
自分が酷く緊張しているのを感じる。
今までの自分では決して考えられないようなことをしようとしているからだ。
それでも、打ち明けなければならない。Aクラスに上がる為に。この試験で少しでも良い結果を残す為にも。
私は深呼吸をしながら、ゆっくりと口を開く。
「私は今、熱があるわ」
山内くんが龍園くんと揉めたCクラスの伊吹さんを拾ってきたり、高円寺くんがリタイアしたりと、何だか熱が悪化した気がするわ…………。
その中で唯一マシだったことと言えば、池くんがアウトドアの知識に詳しかったことね。
◇
試験2日目。
Bクラスの神崎くんが朝一に来たことを平田くんから知らされ、その後でCクラスの生徒の安っぽい挑発がテント越しで聞こえてきた。
丁度いい機会だ。
他クラスのことは色々と気になっていたので、私はキーカードを寝袋の中に隠してから、平田くんと軽井沢さんに一言掛ける。
「呼ばれたみたいだし、Cクラスの偵察に行ってくるわ」
「堀北、俺もついて行くぜ」
「……挑発されても我慢出来る?」
「ああ、当然だぜ」
須藤くんはCクラスとの相性が悪い。少しだけ不安に感じながらも、私はCクラスが居るというビーチに向かう。
「な、なんだよ、これりゃあ!?」
「嘘でしょ……。こんなことって……あり得る?」
それはビーチで散財し、バカンスを楽しむCクラス。
水着姿でチェアーに寝そべる龍園くんの姿。
私の姿を見て彼は自慢げな顔をする。
「随分と羽振りが良いわね。相当豪遊しているようだけど」
「見ての通りだ。俺たちは夏のバカンスって奴を楽しんでいるのさ」
「……この試験を投げ出して、トップが無能だと下の人間が可哀そうね」
「はっ、100だか200だかのクラスポイントの為にお前らは飢えに耐え、暑さと虚しさに耐えるのか。想像するだけで笑えてくるな」
「警戒してここに来た私がバカだったわ」
「バカはどっちだ? 俺か? お前か?」
龍園くんは挑発するような笑みで私を見る。
私は思わず言い返そうになったが、寸前で思い留まる。須藤くんに注意しておきながら、私が挑発に乗る訳にはいかない。
逃げるのとは違うが、これ以上の相手は時間の無駄だ。
私たちからすれば好都合なのは間違いないのだから。
「用件がもう一つあったわ。あなた、伊吹さんを知っているわね?」
「うちのクラスの人間だ、それがどうしかしたか」
「彼女、顔を腫らしていたわ。あれはどういうこと?」
「はっ。威勢よく飛び出したと思ったら、なんだ、あいつは結局他のクラスの連中に助けを求めたのか? 情けない女だ」
龍園くんは鼻で笑いながら、横で待機しているアルベルトくんから串焼きを受け取る
「支配者の命令に背く手下はいらねえ。俺がクラスのポイントを好き勝手に使うと決めた以上、それは決定事項なのさ。反旗を翻そうとしたから、軽く制裁を加えてやった」
「ポイントを好き勝手にって……。あなた、初日で全てのポイントを使い切ったのね?」
私の隣で須藤くんが驚愕している。私も冷静さを努めているが、内心では驚きを隠せない。
「そう言うことだ。伊吹がどうなろうとポイントを引かれる心配はないってことだ。それがどれだけ自由なことか分かるか?」
龍園くんは肉の香ばしい匂いを漂わせる串焼きにかぶり付く。それを見て須藤くんが軽く舌打ちを零した。
「……まさか0ポイントであることを逆手にとるなんてね。だけど短絡的な思考なのは変わらない。せっかくのクラスポイントを無駄にして、今は良くても結局は後で苦労するだけよ」
「ククク。結局凡人どもには単純な考えしか浮かばないのさ。与えられたポイントを守ろうと躍起になり、リーダーが誰かを探ったり、スポットとやらを必死に押さえ、汗だくで森を駆けまわる。心底くだらねえな」
「戻りましょう、須藤くん。これ以上ここにいる意味はないわ」
「お、おう」
「待てよ。せっかく来たんだ、俺と遊ばねえか? 専用のテントぐらい用意するぜ」
「ッ、テメェ!」
「須藤くん、行くわよ」
「わ、わりぃ」
「ククク、最高の気分を味合わせてやろうと思ったのによ。だが、遊びたくなったらいつでも来いよ、鈴音」
「……人の名前を気安く呼ばないでくれるかしら」
ありったけの侮蔑を込めた視線を送ってから、私は龍園くんから離れる。
そんな私に、1人の少女が近付いて来た。
「こんにちわ、堀北さん」
「椎名さん」
ジャージ姿の椎名さんが、2本のペットボトルを手に近付いてくる。
「ごめんなさい。龍園くんが失礼なことを口にしましたよね?」
「……別に、椎名さんが謝ることじゃないわ」
「これ、お詫びというのは少し変ですが、是非貰ってください。ちょっと温いですけど」
そう言ってペットボトルの水を私と須藤くんに差し出す。
「それは……助かるけど、大丈夫なの?」
私は背後にいる龍園くんにちらりと視線を送る。彼はチェアーに寝そべっており、こちらを見ていない。それでも後でバレたら何か言われるんじゃないだろうか。
「大丈夫ですよ。それに、もともとバカンスの招待を受けてこの場に来たんですよね? なら一緒に食事をしても何も言われないはずです。あっちでお肉を焼いていますし、取って来ましょうか?」
「い、いえ、流石にそこまでは……。水だけで十分よ。ありがとう、椎名さん」
ちょっと毒気を抜かれながらも、椎名さんから私と須藤くんは水を受け取る。
私は少しだけ迷ってから口を開く。
「椎名さんはこれで良いの? せっかくの試験を不意にしているのよ?」
「良くはないのかもしれませんが、内心では助かってます」
「助かる?」
椎名さんは少し照れ臭そうに笑った。
「私、運動が苦手ですからね。それに、ここだと1週間も本を読めないですから」
「…………そう」
まあ確かに、この試験中はマニュアルぐらいしか読む物はないわね。
「それではまた。体調不良には気を付けてくださいね」
「え、えぇ」
椎名さんはそう言って離れていき、私たちも気を取り直して移動する。
「アイツ等、どういうつもりなんだ? どう考えたって1週間もあれじゃ持たないだろ」
須藤くんが最もな疑問を持つが、私は龍園くんが何を考えているのかつい先ほど理解した。
「1週間も見てないのよ」
「……どういう意味だ?」
「椎名さんが言っていたでしょ、ここだと1週間も本が読めないって。なら、どこでなら本を読めると思う?」
「どこってそりゃあ学校…………じゃねえよなっ」
私の呆れる視線に気付き、須藤くんが慌てて撤回する。
「答えは船の中よ。高円寺くんと同じで、全員リタイアして船に戻れば0ポイントだろうが関係ないわ」
「マジかよ……。つうことはアイツ等、本当に試験そのものを放棄したってことか」
須藤くんが改めて驚愕し、思わずといった様子で後ろを振り返っている。
「だ、だがよ。やっぱりアイツ等はバカだよな。せっかくの試験なのに勝手に自滅してくれたんだからよ。こっちとしちゃあ、マジで助かるぜ」
「えぇ……。それは、そうね…………」
「堀北?」
私の歯切れの悪さに須藤くんが訝しむ。
確かに、単純に考えれば須藤くんの言う通り。龍園くんの選択は愚かとしか言いようがない。
だけど、本当にそうだろうか?
違和感を無視してはいけない。
短絡的に判断してはいけない。
思考を回さなければならない。
私は龍園くんを知っている。つい先月、彼が裏で糸を引き冤罪事件を仕掛けて来たことを知っている。
冤罪事件を仕掛けた理由は? それは私たちDクラスにダメージを与える為だ。クラスポイントの為だ。
そんな彼が「100だか200だかのクラスポイントの為に」と、本当にそう思っているのだろうか?
やはり強い違和感がある。
彼の言葉をそのまま鵜呑みにしてはいけない。納得してはいけない。
考えなければ。視野を広げて、しっかり考えないと。
「っ」
「堀北? おい、大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫よ」
「熱があるんだろ? あんまり無理はすんなよ」
「まだ大丈夫よ」
答えはまだ出ない。
それでも、糸口は掴めたかもしれない。
*
私はDクラスの元まで戻り、Cクラスの所で見て来た光景と、龍園くんがその後で取るであろう行動を平田くんと軽井沢さんに伝えた。
「……凄いな。そんなこと考えもつかなかったよ」
「何それ超羨ましいっ! ……でも、それだとポイントが増えないんだよね?」
「ええ、後々で苦労することになると思うわ」
「やっぱり我慢するしかないのかぁ……」
うへぇっと、心の底から嫌そうに軽井沢さんが呟く。
「このままBクラスに行ってみようと思うわ。構わないわよね?」
「それは良いけど、大丈夫かい?」
平田くんは心配するように見てくるが、須藤くんと同じように返しておいた。私は軽井沢さんに目を向けると彼女は軽く頷いた。今、私のキーカードは彼女が大事に持っている。このまま預かっていてもらうつもりだ。
「ねえ、私も付いて行っていい、堀北さん?」
「松下さん?」
横から松下さんが歩み寄ってくる。
「勝手に聞いてて悪いとは思うけど、Cクラスの話を聞いてたら他のクラスがどんな状況なのか興味が出てきてさ」
絶対の秘密というわけでもないし聞くぐらいなら別に構わないのだけど……。
私は平田くんと軽井沢さんに視線を向ける。
「堀北さんが良いなら、僕から何かを言うつもりはないよ」
松下さんとちゃんと話をしたことは一度もない。
普通なら……いえ、今までの私ならきっと断っていただろうけど、ここで無下に彼女を断れば私は『楽』をすることになる。松下さんの真意は分からないど、目と耳は一つでも多い方が良いはず。付いてくるというなら
「……なら、お願いしようかしら」
「ありがとう。よろしくね、堀北さん」
私は須藤くん、そして松下さんの3人でBクラスに向かった。
*
平田くんが受け取った神崎くんの伝言に従って森を歩くと、折れた大木の根本が見つかった。
そこから先に、大勢の生徒が道を踏みならしたような痕跡があり、それに従って進んでいく。
程なくして、Bクラスのベースキャンプ地へと辿り着いた。
「流石はBクラスと言ったところかしら……」
Dクラスとはまるで違う生活感。
スポットの井戸の周りは木が多く、8人用のテントを3つも4つも広げるスペースがない。その分をハンモックによって補い、寝泊りするスペースを確保していた。同じようにスタートしていても、場所によって使っているアイテムはまるで違う。
「あれ、堀北さん? それに須藤くんと、えぇと、松下さん……だよね?」
私たちの来訪に気付き一之瀬さんが振り返る。彼女の横にいた短髪の少女がビクっと肩を跳ね上がらせていた。
「随分とクラスが上手く機能しているようね。拠点として苦労も多そうだけど」
「まあ……苦労はあったよ。でも、悪い場所じゃないからね。色々工夫しながらやってるよ」
一之瀬さんがちょっとだけ苦笑いを浮かべた。そんな彼女の腕を短髪の少女が気落ちした様子で掴んでいる。
「……忙しいんだとしたら、邪魔にならないように退散させてもらうわ」
「にゃはは。少しぐらいなら大丈夫だよ。聞きたいことがあるから訪ねてきたんだろうし」
私は一之瀬さんと、今どれだけのポイントを使ったかをお互いに話し合う。
朝に神崎くんにDクラスを見られているようだから、直接教えてたところで大した痛手にならないと分かったうえでの話し合いだ。
「一之瀬さん。私たちは前回から協力関係にあると思っていて良いのかしら」
前回ーー須藤くんの冤罪事件では大きく助けられている。Cクラスの、龍園くんの情報を聞いたのも一之瀬さんの口からだ。
「うん、私はそう思ってるよ」
一之瀬はそう言った後で、少しだけ躊躇いがちに言葉を続ける。
「……協力関係の継続ってことはさ、リーダーの正体を見破るって追加ルール。お互いのクラスを除外しあうのも手だと思うんだけど。どうかな?」
「私もその話をしようと思っていたの。一クラスでも警戒対象から外れてくれるならありがたい。一之瀬さんからの提案を受けさせてもらいたいわ」
「ならそれと……気分が悪いとは思うんだけど、契約書も書いてもらっていいかな? お互いにクラスのリーダー当てはしないって」
「え、えぇ。それは、別に構わないけど」
一之瀬さんは「ごめんね」と謝罪しながら、一枚の紙とボールペンを持ってきて文字を記入する。
その内容は。
●BクラスとDクラスは、最終日にお互いのクラスのリーダー当てをすることを禁止する。これを破りそれが発覚した時、以下のペナルティが発生する。
Bクラスの場合、Dクラスの生徒に100万プライベートポイントを譲渡する。
Dクラスの場合、Bクラスの生徒に100万プライベートポイントを譲渡する。
口約束では信用出来ないから……という理由は分かるが、それにしても違和感を覚える。須藤くんと松下さんも少々困惑した様子で契約内容を見ていた。
一之瀬さんは本当に申し訳なさそうに「お願い」と口にする。
契約内容におかしな文言はない。疑問には思いつつも、もともとそのつもりで来たので私もDクラスの代表者として名前を記入した。
それを見て一之瀬さんは安心した様子で感謝の言葉を口にし、隣にいる短髪の少女もほっと安堵の息を吐く。
私たちはその過剰とも思える反応に対して疑問を抱いていると、一之瀬さんは「にゃはは」と乾いた笑いを零した。
「うん、分かってる。ちゃんと理由は説明するよ」
「ええ、お願いするわ。一体何があったの?」
「実は私たち、Aクラスにリーダーを見つけられてるんだよね……」
ーーッ。