ようこそAクラスの教室へ   作:yadooo

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3話

 学校生活2日目。

 授業初日ということもあり、大半は勉強方針の説明で終わった。

 

 そのまま学校生活初めての昼休み。昼食を食べる時間がやってくる。

 生徒が思い思いに席を立つ中、オレは一呼吸置いて隣の席を見る。

 

「坂柳。もし良かったら一緒に昼食を摂らないか?」

 

「……驚きました。まさか綾小路くんの方から誘ってくださるなんて」

 

「そんなに驚くことか? と、友達だろ?」

 

 友達だから食事を誘うのは変じゃないよな? 許されるよな?

 

「ふふ、そうですね。では、ご一緒させてください」

 

 っし! ふぅ、ドキドキした。

 

「あ、椎名も一緒だけど構わないよな?」

 

「……それは構いませんが、いつの間に誘ったんですか?」

 

「昨日の夜。チャットでだ。坂柳も一緒に連絡先の交換をしただろ?」

 

 友達に加えて、連絡先の入手。

 自室で一人ニヤニヤとしながら、慣れない携帯を操作して椎名と約束したのだ。

 テンション上げ上げの完全に勢い任せではあったが、昼食のオーケーを貰うことは出来た。それにそのまま椎名とチャットでのやり取りも行った。他愛もない内容だったが、オレが求めていたものでもあり、短いながらも楽しいひと時だった。

 

「うらや……こほん、綾小路くん。次からは私にもチャットしてください。なんなら電話でも構いません」

 

「同じクラスで席も隣だし必要ないのでは?」

 

 ぺしっと杖で脛に叩かれた。

 よく分からないが不満そうに見える。理由は分からない。

 

 

 椎名と合流して3人で食堂にやって来た。

 人が、人が多い……。

 もしオレ一人だけで来ていたら「ぷーくすくす、アイツ一人だぜぇ」と笑われ、涙と共に逃げ帰っていたことだろう。

 だけどオレには友達がいる! 2人も!

 

「坂柳。食べたい物が決まったら教えてくれ」

 

「ありがとうございます。でしたら私は3人分の席を確保しておきますね」

 

 オレの言いたいことが伝わったようだ。会話が省けて楽だな。

 

「気をつけてな」

 

 坂柳は頷いて、空席に向かいゆっくりと歩き出す。周囲には同じく昼食を食べに来ている生徒が多い。大丈夫かなぁと、少しハラハラした様子で彼女を見守る。

 

「優しいですね、綾小路くん」

 

「優しい? えっと、何についてだ?」

 

 ?マークを浮かべながら椎名を見ると、彼女は穏やかに笑っている。

 

「坂柳さんを気遣う姿が紳士的で優しいと思いました。彼女が歩く時や、今だって特に気を配ってますよね?」

 

「いや、別にそれは普通のことだろう?」

 

 体にハンデのある坂柳を無視して好き勝手に振る舞う訳にはいかない。例え友達という間柄じゃなくとも、それぐらいは常識の範囲だと思うのだが。

 

「オレに言わせれば椎名の方が優しいぞ」

 

「私、ですか?」

 

 心当たりがありません、みたいな顔をしているが、オレに声をかけてきてくれた時点で聖人(天使)である。彼女がいなければ、オレはまだ友達がいなかった可能性だってあるのだ。

 

 

 

『本日午後5時より第一体育館にて、部活動の説明会を致します。部活動に興味のある生徒は十分前には第一体育館に集合して下さい。繰り返します。本日──』

 

 食事の最中、スピーカーから可愛らしい女性のアナウンスがされた。

 

「「あやのっ……」」

 

 坂柳と椎名の声が被った。

 微妙な間を置いて「どうぞ」と椎名が促し坂柳が再び口を開く。

 

「綾小路くんは何か部活動に興味がありますか?」

 

「……興味があると言えばある。ただ、どこの部活をやってみたいとか具体的なものはない」

 

「ふふ、お友達が欲しいですよね?」

 

「…………」

 

 沈黙を選択するも、それが肯定を意味することは我ながらバレバレか。

 

「そう言う坂柳は?」

 

「私は特に。この体ですから運動部は論外ですし、入られる部活動も限られますから」

 

「椎名はどうだ?」

 

「私はまだ分かりません。いくつか見てみようとは思っていますが」

 

「なら一緒に説明会に行かないか? 当然、坂柳も」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「ふふ、誘われてしまったのなら仕方がありませんね」

 

 

 

 放課後の体育館で部活紹介を見ながら思う。

 

 友達作りに最適な部活動は何だろうか?

 やはり運動部とかか? 同じチームの仲間たちと切磋琢磨し友情を築く。

 世間一般的な青春というイメージがある。……案外悪くないんじゃないか? そう思いもしたが、体育系の部活紹介は迫力があり、なんか初心者お断りの空気を感じる。

 それに自分が彼らの中に混じり、ワイワイとリア充のように活動出来るイメージがまるで湧いてこない。なんなら相手にもされず楽しくなくて、退部する結末まで一瞬見えた。

 

 うん、部活動に入るとしたら落ち着いた静かな部とかがいいな。

 

 茶道や書道などのマイナーな文化系の部活も充実しているようだし、思い切ってそういうところもありかもしれない。

 

「椎名と坂柳はやってみたい部活はありそうか?」

 

「茶道部に、興味があります」

 

 瞬間ーーポワンポワンと、椎名の茶道部風景が脳内に浮かぶ。

 

 お淑やかにお茶を点てる着物姿の椎名。

 

 ……は? 凄く見たいんだが?

 

 これはオレの入る部活が決まったな。

 

 

「綾小路くん、新しい部を結成するのにたった3人だけで良いそうですよ」

 

「ん? ああ、坂柳は何か新しい部を作りたいのか?」

 

「チェス部です。私と綾小路くんと、あと一人で簡単に出来てしまいます」

 

 勝手に頭数にされているが、友達の為だし別に嫌ではない。

 チェス繋がりで友達が増えていく可能性だって十分にあるからな。

 まあそれとは別に、部活の掛け持ちは大丈夫なのか、後でしっかりと確認しておこう。

 

 

 そのまま部活紹介が進んでいき、最後には生徒会長が壇上の立つ。

 

「ん?」

 

 ふと何気なく視線を横にずらすと、見覚えのある少女の姿があった。

 昨日の、同じバスで隣側にいた黒髪少女だ。

 ワクワクドキドキだった勇の一歩を挫いてきた黒髪少女ではあるが、恨めしいと思うことはない。むしろ彼女がオレの出鼻を挫いてくれたおかげで、椎名(天使)と出会い友達になることが出来たのだ。彼女には感謝しかなく、オレの恩人といっても過言ではない。

 

 そんな黒髪少女が、顔を青くしながらも食い入るように生徒会長を見ている。

 なんだ、体調でも悪いのか?

 

「迫力のある、凄い方でしたね……」

 

「凡人ではありませんね。流石はこの学校の生徒会長といったところでしょうか」

 

「ああ、そうだな。オーラみたいのが漂ってた」

 

 堀北学と名乗った後での、生徒会長の話は殆ど聞いてなかったが、その前のたった一人で100人を超える新入生たちを黙らせる、その支配力には驚くものがあった。

 

「椎名さんは茶道部の受付に行くんですよね? 綾小路くん、私たちはチェス部の立ち上げにいきましょうか」

 

「いや、まだ人が足りてないだろう。それにオレもーー」

 

 ーー茶道部に。

 

「まさか綾小路くん。こんな人の多い場所に私一人を残して行ってしまうんですか? 友達だというのに薄情ですね」

 

「……分かった。それじゃあ椎名。また明日な」

 

「さようなら、椎名さん」

 

「綾小路くん、坂柳さん、さようなら」

 

 椎名を見送り、オレは最後に黒髪少女のいた場所を見る。

 黒髪少女は部活動に入る様子はなく、出口に向かって人ごみの中へと消えていくのが見えた。

 

 所属クラスも、名前も知らない黒髪少女だが、いつか恩を返したいものだ。

 

 

 

 後日、オレはきちんと茶道部に入った。

 入ったが、茶道部に男がオレしかいないことに愕然とした。入部早々、幽霊部員になりそうである。

 

 あと、坂柳と共にチェス部も作った。

 部活の掛け持ちは大丈夫だということで、3人目は椎名の名前を借りることで達成した。 

 

 2つの部活に所属したが、今のところは友達は増えそうにない。

 

 

 

 

 ◆

 

 突然だが、葛城康平は優秀な生徒だ。

 

 どうやら葛城は真嶋先生に質問した、支給されるポイントの変動に対しての答えに、強い疑念を抱いていたようで、複数の上級生に同じ質問をして回っていたらしい。

 そしてその結果が、真嶋先生と同じ「答えることが出来ない」そうだ。それも一人ではなく、全員が同じ答えだったようだ。

 

 つまりは『毎月に支給されるポイントは変動する』ことがほぼ確定したと言ってもいい。

 

 1学年がだいたい160人で、単純に計算しても480人前後の在校生に毎月10万も支払えば、それだけで月4800万。年間5億6000万だ。幾ら国主導の高度育成学校だとしても、やり過ぎである。他にもコンビニの隅に置かれてある、無料の日用品の商品に食堂にある無料の山菜定食など、違和感は多々あったのだ。

 

 では次に、変動するポイントを増やせるか。または減らさないように維持出来るのか。

 

 分かりやすくテストなどの告知されていれば良かったが、今のところそういうのはない。中間テストも一カ月以上は先である。しかしだからといって、ここまでの情報で5月も同じ10万ポイントが支給されると考える楽観的な者はいないだろう。

 

 

「抜き打ちのテストが行われる可能性があるな。皆、心しておいてくれ」

 

 葛城がそう言って話を締めくくり、クラスメイト達が感心したように頷く。中には「葛城さん、すげぇ」と、呟く声も聞こえてくる。

 そんな空気の中で、オレの隣人がゆっくりと口を開いた。

 

「普段の生活態度も見られていると思いますよ」

 

「坂柳か。どうしてそう思う?」

 

「むしろ思わないんですか? 皆さんが気付いているかどうかは知りませんが、教室内にでさえ設置されている監視カメラ。他にも敷地内に多くの監視カメラのある場所で、テストの点数だけでポイントが決まると考えるのはあまりにも安易です」

 

 坂柳の言葉に葛城や他のクラスメイトが天井付近を見上げ、2ヵ所のカメラに気付き「あっ」と声を漏らす。

 

「……確かにそうだな。テストで100点を取れるからといって、好き勝手に振る舞っていいということにはならない。いい意見だ。助かった、坂柳」

 

「いえいえ」

 

 

 つまりは支給されるポイントを減らされないように、清く正しい学校生活を送り、テストも頑張るーー

 

 

 ーーという上記の話を放課後に、丸々全て椎名に伝えた。

 

 

「凄いですね、Aクラスの方々は。私も違和感は感じていましたが、そこまで導き出すことは出来ませんした」

 

「オレもだ。葛城と坂柳は凄いな」

 

「……まあ、いいでしょう」

 

 何か言いたげだった坂柳はふーっと溜息を吐く。

 

「椎名一人じゃどうしようもないからな。Cクラスの生徒に共有しておくと良いと思うぞ」

 

「そうですね。支給されるポイントが減るのは困りますし、明日にでもクラスメイトの方に伝えておきます」

 

「ああ」

 

 友達の助けになれたのなら良かった。

 はぁっと、オレの横で坂柳がまた小さく息を吐いていた。

 

 




 
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