ようこそAクラスの教室へ   作:yadooo

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32話:仲良くしましょうね?

  ◆  ◆  ◆

 <side:堀北鈴音>

 

 『辰(竜)』グループ。私、平田くん、櫛田さんの中から優待者は出なかった。

 

 新たな特別試験のルール説明がされ、平田くんや松下さんを通じてクラスメイト達からいくつかの相談を受けている。

 これも無人島の試験を共に乗り越えたおかげだろう。

 午前中にホールの一室を借り、招集をかけたら一人(高円寺)を除いて全員が集まってくれた。

  

 Dクラスからは予想通り優待者は3人。

 全12グループ。公平性との話だったので、一クラス3人の優待者が割り振られているのだろう。

 優待者の情報がどこから漏れるか分からないので、平田くんと私にだけ優待者を知らせるようにお願いする。

 優待者と同じグループのメンバーなら、情報を共有した方が良いんじゃないかという意見もあったが、それは優待者の任意にした。完璧に演技し誤魔化せるなら良いが、知っているが故のミスが起こりうる可能性はある。優待者が情報を公開して協力を仰ぐか、それとも隠すのかは優待者自身の選択に委ねることで話をまとめた。

 

「堀北さん、この『厳正なる調整の結果』ってあるけどさ。やっぱり優待者が選ばれる基準とかがあるのかな?」

 

「私もこの一文が気になっているわ」

 

 松下さんの言葉に頷き、考えてはいるのだが簡単に答えは出てこない。自クラスだけの優待者だけでは情報が足りないように思う。最低でもあと一クラス分の優待者の情報が必要かもしれない。

 

 同盟状態にあるBクラスと優待者の情報を共有する?

 

 ……それはアリかもしれないが、いきなり取れる手段でもなさそうね。

 

 Bクラス……一之瀬さんだって初日の話し合いが行われていない段階から、二つ返事で頷いてはくれないだろう。

 

 試験がどういう風に進んでいくか。その流れと状況を見極め、必要ならBクラスと手を組もう。

 それが今の段階で決められることだ。

 

 

 *

 

 

 試験1日目。

 第一回ディスカッションの始まる15分前の12時45分。

 部屋の前で私は平田くんと櫛田さんと待ち合わせる。

 

「改めてよろしく、堀北さん」

 

「一緒に頑張ろうね、堀北さん」

 

 平田くんと櫛田さんの言葉に頷いて返す。

 

 つい先日の試験で私に一杯食わせてきた龍園くん。そして、Aクラスの綾小路くん。

 今の私一人の能力だけでは敵わない。人間としての好き嫌いは置いておいて、2人との協力は必須だろう。

 

 

「とりゃっ、革命!」

 

「なら革命返しで……って、良いんだよな?」

 

「ええ、問題ないですよ。私はパスで」

 

「俺もパスだ」

 

「なら8流しで。これで上がりだな」

 

「次は私の番ですね。12のツーカード。そして6で上がりです」

 

「また私と葛城くんだけ残ったー!」

 

 部屋に入ると、Aクラスは大富豪をやっていた。

 確かにまだ試験は始まっていないけど、緊張感の欠片のない。  

 

「どうやらDクラスが来たようだな」

 

 「また大貧民だ」と嘆く西川さんの横で貧民となった葛城くんが私たちに視線を向ける。

 ただ、綾小路くんと坂柳さんの2人は、私たちなど眼中にないかのようにトランプに注視している。そしてシャッフルを終えた後で大富豪を再開し始めた。

 

「僕たちも座ろうか」

 

「ええ」

 

 Aクラスの4人が固まっているので、私たち3人も固まって座る。

 私たちが座ったタイミングで、Bクラスの一之瀬さん、神崎さん、津辺さんの3人も入室。大富豪に興じるAクラスを見て一瞬だけ驚きながらも、私たちDクラスの横にBクラスも固まって座った。

 

「またぁ!? ちょっと一回カード交換やめてやり直さない!?」

 

 そこからCクラスの生徒も1人2人と増え、丁度5分前に龍園くんが姿を見せる。

 

「ハッ、天下のAクラス様は随分と余裕そうだな?」

 

 龍園くんが早速噛みつくが、それはAクラスを除くこの場にいる全員の代弁だった。

 手を止める葛城くんと西川さん。綾小路くんだけが気にせずトランプを場に出すが、坂柳さんが続かなかったので大富豪は終わりを告げた。綾小路くんが寂しそうに(多分気のせい)トランプを片付ける。

 

 今まで視線を一度も向けて来なかった坂柳さんが、ニッコリとワザとらしく私たちの方を向く。

 

 坂柳有栖。

 私の中でAクラスといったら綾小路くんの印象がとても強いが、ほぼ満点に近い期末テストの点数からも、彼女も綾小路くんに負けず劣らずの高い学力を有しているのが分かる。同じ『辰(竜)』のグループに選ばれていることからも十分な警戒対象。

 

 

「まだ時間にはなっていませんが、皆さんこうしてお揃いになったので自己紹介を先に始めましょうか。学校からの指示もありましたしね。私の名前は坂柳有栖です。これから()()()、よろしくお願いしますね」

 

「綾小路清隆だ。()()()、よろしく頼む」

 

 私たちの返事を待たず坂柳さん、綾小路くんが自己紹介を始め、葛城くんと西川さんも続く。

 学校側から指示があったのは本当だし特に反対する理由もない。Bクラス、私たちDクラスも軽い自己紹介だけし、最後に龍園くんの番がやってくる。しかし、龍園くんは口を閉じたまま名乗らない。何となく予想は出来ていたから特に驚きはないけれど。

 

「龍園くん。内心ではくだらないと思っているかもしれませんが、ここで一人だけ名乗らないのは逆にダサいですよ?」

 

「随分と調子に乗っているようだな、坂柳。綾小路が隣にいて気でも大きくなってるのか?」

 

「龍園くん。この部屋のどこかに音声を拾うマイクがセッティングされてあるかも知れないよ? そうなった時に不利になるのは自己紹介しなかった人だし、グループ全体の責任になったら龍園くんだって困るよね」

 

 坂柳さんの援護をするように一之瀬さんが口を挟む。

 上手い言い方だと思う。どちらの過失にせよ、万が一が起こらないという保証はない。自己紹介をするかしないかのこんな内容で、もしペナルティでも与えられようものならリーダーとしてクラスに顔向け出来ないだろう。

 

 龍園くんが舌打ちして名乗り終えたタイミングで、1回目のグループディスカッションを開始するという簡潔なアナウンスが流れる。

 

「綾小路くん、お願いします」

 

「分かった」

 

 誰が場を仕切る進行役を務めるのか。どういう風に話し合うのか。それを決めるより先に、坂柳さんの一声によって綾小路くんが席を立ち上がった。

 そして私たちDクラスの方へと歩き出し、私の前で立ち止まる。

 

「何?」

 

 困惑と警戒を孕んだ私たちの視線を一身に受けながら、綾小路くんはポケットから二つに折りたたまれたメモ紙を取り出す。

 

「これを」

 

 そう言って手渡されるメモ紙。

 訝しみながら私はメモ紙に書かれている文字を見た。

 

 

「ーーーーー」

 

 

 声が出なかったのは奇跡に近い。

 だがしかし、表情までは隠しきれなかった。

 

「ほ、堀北さん?」

 

「ッ」

 

 私は反射的にメモ紙を握り潰し足元に隠す。それが既に手遅れなことだったとしてもだ。

 

「あや……」

 

 バクバクと心臓の音を鳴らしながら顔を上げると、既に綾小路くんの足は一之瀬さんの前で止まっていた。

 私と同じように、一之瀬さんにも折りたたまれたメモ紙を手渡そうとしている。

 私の反応で薄々と察しているのだろう。一之瀬さんはそれを凄い嫌そうな、それでも受け取らないといけないというジレンマを抱えた顔で受け取る。

 

「参ったなぁ……」

 

 そして私と同じようにメモ紙を手の中に隠し深い溜息を吐く。

 綾小路くんは最後に龍園くんにメモ紙を渡し、龍園くんが大きく舌打ちを零す。そのままぐるっと一周を終え、綾小路くんが席に戻った。

 

「どういうことだ、綾小路?」

 

「改めて悪いな、葛城」

 

 同じクラスである葛城くんと西川さんの2人が、私たちの反応を見て戸惑い困惑している。

 どうやら2人とは共有していないらしい。

 ならこれは綾小路くんと、そしてーー

 

 

「皆さん、契約を結びましょう」

 

 

 坂柳さんは嗤う。

 可憐なはずなのに、今の私たちにとってそれは悪魔のように見えた。

 

「分かっているとは思いますが、拒否した瞬間に各々のクラスの優待者を()()します。メールは既に作成していますし、各グループにボタン一つで簡単に指示が飛ばせる状態ですので、軽率な行動は控えるようによろしくお願いしますね」

 

 坂柳さんはニッコリと分かりやすく自身のケータイを持ち上げる。

 

「因みにですが、それが嘘か真かを確かめてみたいクラスはありますか?」

 

「……………」

 

 迂闊なことを口にした瞬間に、彼女は間違いなくそれを実践するという嫌な確信があった。

 私も一之瀬さんも、龍園くんさえも沈黙を貫くことしか出来ない。

 

「よろしい。では皆さん、念の為に各自の携帯をテーブルの上に置いてください。5秒以内にお願いします」

 

「ッ」

 

 坂柳さんによって場の空気が完全に支配されているし、事実全く逆らえない。

 メモ紙を直接見ていなくとも、平田くんや櫛田さん。Cクラスの生徒も含め、どんな状況下に置かれているかは流石に察しているはずだ。私たちは言われた通りの指示に従う。

 

「今から契約内容を見てもらいます。一つのクラスでも拒否すればその瞬間に9つのグループの試験が終わりますので、そこのところも改めてよろしくお願いします。皆さん、仲良くしましょうね?」

 

 坂柳さんが、予め準備していた用紙をポケットから取り出す。折りたたまれた紙を広げて、再び綾小路くんの手によってDクラス、Bクラス、Cクラスに各1枚ずつ手渡される。

 

 銃口を突きつけている状態での『仲良く』

 どんな内容が書かれているのかと、戦々恐々と中身を確認する。

 

 

 

 

 ◆全てのグループは協力し合い『結果1』を目指す◆

 

①結果1以外の結果が出たグループがあった場合、その『裏切り者』の所属するクラスは、この試験終了時に振り込まれるプライベートポイントも含め、綾小路清隆にクラスの持つ全てのプライベートポイントを譲渡する。

 

②結果1以外の結果が出たグループがあった場合、その『裏切り者』の所属するクラスから既に1人目の『裏切り者』がいた時、そのクラスに所属する生徒は綾小路清隆と坂柳有栖にそれぞれ毎月5万のプライベートポイントを譲渡する。この契約は綾小路清隆と坂柳有栖がこの学校を卒業するまで継続する。

 

③結果1以外の結果が出たグループがあった場合、『裏切り者』1人につき、『裏切り者』の所属するクラスは400万プライベートポイントを坂柳有栖に譲渡する。

 この内容は①の支払いとは別である。また、払えない場合は翌月に10%の金利を上乗せして支払う。

 

④結果1以外の結果が出たグループがあった場合、その『裏切り者』の所属するクラスがAクラスだった場合、この試験終了時に振り込まれるプライベートポイントを含め、Aクラスの持つ全てのプライベートポイントをBクラス、Cクラス、Dクラスの3つのクラスに均等に支払う。また、Aクラスから任意の生徒を10名退学処分とする。

 

⑤全てのグループが結果1を導き出して試験が終了した時、各クラスは50万のプライベートポイント綾小路清隆と坂柳有栖に譲渡する。

 

⑥契約の締結時、『辰(竜)』のメンバーは、残りのディスカッションの時間は『人狼ゲーム』をして遊ぶ。ゲームを拒否した者は、そのつど10万プライベートポイントを坂柳有栖に支払う。

 

 

「…………えっ?」「ん、人狼ゲームって何だ?

 

 

 思わず声が漏れる。

 先ほどとは別種の驚きだ。平田くんと櫛田さんも戸惑いの色が強い。

 

 Dクラスだけでなく、Bクラスの一之瀬さん達も同じ。龍園くんも訝しみながら坂柳さんを睨む。

 

「どういうつもりだ? この内容にお前達Aクラスにどんなメリットがある」

 

 その通りだ。

 Aクラスに大きなメリットがない。

 

 Aクラス、綾小路くんと坂柳さんは全クラスの優待者を把握している。だから契約と聞いた時、どんな法外な内容が書かれているのかと強く警戒していた。

 

 ⑥の内容は一旦置いておくが、蓋を開けてみれば、全く悪いものではない。

 確かに貴重なチャンス(特別試験)を、クラスポイントの差を縮められないのは痛いが、それは優待者が発見されていないことが前提条件だ。

 仮に坂柳さんが指示を飛ばし、Aクラスが他クラスの優待者を全て学校に報告すれば、その瞬間に450ポイントのクラスポイントがAクラスに入る。同時に、私たち3つのクラスはマイナス150ポイントのクラスポイントを減らされことになる。

 そして、3クラスで残り3人の優待者を奪い合う争奪戦が始まるのだ。上手くいってAクラスの優待者を3人とも全て見つけられても、得られるクラスポイントは0で、プライベートポイントは150万。どのみちAクラスは300のクラスポイントと450万のプライベートポイントを獲得できる。

 

 だが、この契約内容ならどのクラスもクラスポイントが増えることはない。

 それだけでなく、綾小路くんと坂柳さんに合計で100万のプライベートポイントを譲渡しても、一クラスが一気に2000万以上のプライベートポイントを獲得できるのだ。

 

「どういうつもりだ、綾小路、坂柳!」

 

 葛城くんが内容を把握して声を上げ立ち上がる。

 Aクラスのリーダーとしては当然異議の声を上げるだろう。

 クラスポイントを上げるチャンスを不意にし、他クラスに多額のプライベートポイントという『武器』を渡す契約内容だからだ。

 

「Aクラスのリーダーとして当然の反応だと思う。だけど悪いな。有栖(友達)が学校側にやり返したいと言うから協力することにした」

 

「やり返す? どういう意味だ」

 

 葛城くんの視線を受け、坂柳さんが大きく息を吐いた。

 それまで場を支配していた彼女の放つ圧迫感が霧散していく。

 

「どうして……と。葛城くんだけじゃなく皆さんも疑問に思っているようなのでお答えします。理由は単純です。私はこの試験に心底ガッカリしたからです」

 

「が、ガッカリ?」

 

 予想もしていなかった言葉に目が丸くなる。

 

「その通りですよ、堀北さん。私はこの試験でどちらが先に優待者を見つけ出すか、清隆くんと競い合うのをとても楽しみにしていたんです。なのになんですか、この『優待者の法則』という()()な答えは。どうして清隆くんはそれを見つけてくるんですか」

 

「……()()だからじゃないか?」

 

 綾小路くんは坂柳さんから目を逸らしながら呟く。

 

「何が『厳正なる調整の結果』ですか。何がディスカッションですか。全く必要ないじゃないですか。これならまだランダムに優待者を仕分けてくれた方が面白味がありました。私にとっての初めての特別試験。ようやく私も楽しめると思ったのに、上げて落とされるとはまさにこのことです。ええ、本当につまらない。ガッカリですよ!」

 

 相当鬱憤が溜まっているか、くどくどと不満を吐き出す坂柳さん。

 綾小路くんは無表情ながらも「オレは悪くない」と言った顔で坂柳さんから目を逸らし続け、葛城くんも気勢を削がれていた。

 

「ですので、学校サイドに多額のプライベートポイントを負担してもらおうと思うのです。皆さんで協力して仲良くポイントを巻き上げましょう」

 

 40人×50万と優待者分でプラス150万のプライベートポイントにより、一クラス2150万のプライベートポイントが獲得でき、それが×4クラス分。

 合計で8600万。確かに、改めて数字に出すと凄い額ね。

 

「考える時間を与えたくないので1分以内で決めてください」

 

「っ」

 

 理由が正直過ぎる。

 分かっているけど普通は口に出さないわよ。

 

「何度も言いますが時間切れ、および一クラスでも契約を断れば()()です。まあ、これは葛城くんの望みなので、それを行うのも一興かもしれませんが」

 

「「「…………」」」

 

 私と一之瀬さん。それに龍園くんとも顔を見合わせる。

 龍園くんは「クハハ」と高らかに笑い、一之瀬さんは「にゃはは~」と苦笑いを浮かべる。龍園くんの心境は分からないが、私は一之瀬さんの気持ちが何となく分かった。 

 

 

 

 

 

「契約成立です。皆さん、改めて仲良くしましょうね?」

 

 

 

 ……取り敢えず、急いでクラスメイト達には周知させないといけないわね。

 

 




◇齟齬。
・坂柳「わくわく。清隆くんと一緒の()()()()()()で、どちらが先に優待者を見つけ出せるか楽しみですね」
・綾小路「有栖との勝負の為に真面目に優待者を探し出すか。えーと、法則とかないかなぁ。まずはAクラスの優待者でも葛城から教えてもらうか」
 ↓
・綾小路「有栖。優待者の法則を見つけたんだが有栖も同じようになったか?」
・坂柳「ふぁっ!?」
 ↓
(解読中)
 ↓
・坂柳(は~~激怒(げきおこ)
 ↓
◆そして出来上がった契約書。⑥の内容は綾小路にも内緒で付け加えられた。

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