携帯を触っても良い許可が出たため、私たちはそれぞれのグループにメッセージを飛ばす。
まだ1回目のディスカッションが始まり10分も経過していないが、万が一にでも『裏切り者』が出たら目も当てられない。退学者は出ないが借金地獄のペナルティが襲い掛かって来る。
当然「何故?」という理由を聞かれるが、それは後で説明するから絶対に優待者を告発しないでと念押ししておく。特に高円寺くんに対しては説明も添えて何度も。
「さて皆さん。これで無事に契約が締結しましたので、これからは楽しいゲームの時間ですよ」
私たちの連絡が終わるのを見届けて、坂柳さんが口を開く。
⑥の契約内容。人狼ゲームだ。
「さて人狼ゲームですが、皆さん一度くらいは聞いたことはありますよね?」
「……ないんだが」
綾小路くんがぽつりと何かを呟いた気がした。
「ただ、適当にやられてもつまらないので、緊張感を持たせる為に皆さんにはポイントを賭けさせてもらいます」
「ほぉ、面白れえ」
警戒する私たちと違い、ポイントを賭けるという言葉に真っ先に反応した龍園くん。
「賭けのポイントに関しての説明文は既に用意していますので、確認してください」
『辰(竜)』グループ。参加人数14人。
『人狼ゲーム』
・村人陣営:村人5。占い師1。霊媒師1。狩人1。
・人狼陣営:人狼3。狂人1。
・妖狐陣営:妖狐1。背信者1。
3つの陣営で行う。
◆賭けポイント。
・負けた陣営は勝った陣営のメンバーにそれぞれ2万ポイント支払う。
・反則および不正を行った者がいた場合、その者は100万プライベートポイントを坂柳有栖に支払う。
・ポイント支払いは試験終了時にポイントが得られた後に行われる
思ったよりも普通……なのかしら?
多額のポイントが賭けられると思ったから少し拍子抜け……いえ、50万のプライベートポイントを得られるせいで金銭感覚がおかしくなっているわね。
これは村人陣営が勝ったら、負けた陣営は1人につき2万の支払いだから、それが8人分となって16万も失うことになる。
「人狼ゲームはこの携帯のアプリを使ってやりましょう。皆さん、準備してください」
負けたリスクも大きいが、ゲームを断ったらその時点で10万のペナルティだ。やらざるを得ないので、坂柳さんに言われ通り携帯を操作し人狼ゲームのアプリを入れる。
「さて、オンラインと違って夜の時間は皆さんの良心に掛かっています。きちんとルールを守って楽しく遊びましょうね」
坂柳さんは龍園くんを見ながらニッコリ微笑む。
「なあ、有栖。オレ人狼ゲームなんてやったことないしルールすら知らないんだが……」
「分かっていますよ。清隆くんと同じような人も居るでしょうから、初日だけはポイントを賭けずに練習のみにします」
その言葉に私も内心で安堵する。私も綾小路くんと同じく人狼ゲームを一度もやったことがないし、ルールをしっかりと把握していない。
<練習1回目>
「初日はどうやって人狼か見極めるんだ? 占い師で占える相手は1人だけ。それだけじゃ流石に情報が少ないだろ?」
「情報の少ない初日では割と適当ですよ。何となく怪しいとか、あんまり喋らないとか、何でもありです。ーーそうですね、例えば龍園くんは信用出来ないので初日から吊りたいと思うんですが、皆さんどうですか?」
「あ?」
やり玉に挙げられた龍園くんは、そのまま初日で吊られた。
私を含めた大多数の票数を集めた龍園くん。日頃の行いというやつかしら。
「こわぁ……」
それを見た綾小路くんが静かに慄いていた。
夜の時間。
各々の携帯から音が鳴り、周囲の音をかき消す。私を含めた村人陣営は目を閉じ机に顔を伏せ、坂柳さんの指示の元、テーブルに手を叩いて更に音を鳴らす。
タイマーの音が鳴り、夜の時間が終わりを告げた。
私たちが顔を上げると、綾小路くんが人狼の餌食となっていた。
「……死んだんだが」
「清隆くん、死人は喋ってはいけませんよ。龍園くんと仲良く静かに観戦していてください」
「あ、あぁ……」
無表情ながらも、ちょっとしょんぼりとした様子ですごすご椅子を引いて下がる綾小路くん。
その後は霊媒師の情報によって、龍園くんが村人陣営だったことが判明。人狼に襲われたということで、綾小路くんも恐らく村人陣営だったという仮定で話が進む。
そして私が吊られた。
理由はあまり喋っていなくて情報を落とさないからだそうだ。
私も初心者なんだけど厳しすぎやしないかしら……。
再びやってくる夜の時間。
どうやら人狼の3人は坂柳さんと津辺さん、鈴木くんだったようね。
その後も話し合いで平田くんが吊られ、同時に西川さんも死亡してしまう。どうやら平田くんの役職は妖狐だったらしい。
そして最後は人狼陣営の勝利で終わった。
因みに初回で吊られた龍園くんは狩人だった。
「理解しましたか、清隆くん?」
「たった一度だぞ。もう少し練習が必要に決まってる」
同感ね。
「ですが、もう時間なので1回目のグループディスカッションはこれで終了しましょう。清隆くんを含め、自信のない人はしっかりと人狼ゲームについて学んでおいてください。次も練習ですが、明日からはしっかりとポイントを賭けますからね」
時計を見ると9時を少し過ぎていた。
私たちは慌ててDクラスに集まるように連絡を飛ばす。
「綾小路、坂柳」
「分かってる。本当に悪かったな葛城」
「ふふ、勝手にしてすみません、葛城くん」
「何度も謝る必要はないし、契約が交わされてしまった以上はクドクド言うつもりもない。ただ」
「それも分かっている。オレの方からクラスメイト達にしっかり説明するつもりだ」
Aクラスの会話を耳にしながら、私たちは部屋を退室した。
「なんか、思いもよらない展開になったね……」
「うん。流石に予想出来ないよ」
平田くんと櫛田さんの言葉に頷いて返す。
恐らく綾小路くんと坂柳さん以外、想像出来た者は誰一人としていなかっただろう。
◇
午前中と同じようにホールの一室にDクラスの皆を集めて、つい先ほど起こった出来事を説明しながら契約書を見せる。
「うわ、ペナルティがえげつないね。絶対に結果1で終わらせようっていう意地を感じる」
「……Aクラスは本当に全クラスの優待者を見つけ出したのか? ハッタリという可能性は?」
誰もがペナルティの重さに目を丸くしている中、幸村くんがどこか非難するような視線を向けてくる。クラス全体を巻き込んだ契約を勝手に結んだことに対する憤りなのは何となく分かるが。
「それはないわ、幸村くん。少なくとも、Dクラスの優待者は確実に特定している」
私はポケットからくしゃくしゃに丸まったメモ紙を取り出し、幸村くんに渡す。綾小路くんから渡されたそのメモ紙には、しっかりとDクラスの3名の優待者の名前が記入されてある。
「僕はそのメモ紙を見ていないけど、一之瀬さんや龍園くんが大人しく契約を結んだことから間違いないと思うよ」
「……そうか」
平田くんの援護も加わり幸村くんは納得したように頷くが、その表情はどこか悔しそうだ。
「何でそんなに落ち込んでんだよ、幸村? そりゃクラスポイントが得られないかもしれないけど全員に50万だぜ! それで十分じゃねえか!」
池くんや山内くんの言葉に、多くの生徒が同意の声を上げる。
ペナルティの重さに目が行くかもしれないが、単純に『裏切り者』にならなければ良いだけのこと。絶対に『裏切り者』を出させない為のペナルティでもある。ほぼ確実に全員に50万の大金が振り込まれることが確定しているのだ。
優待者を探し出す必要はなく、ディスカッションを真面目に取り組む必要もない。事実上は試験が終了したにも等しく、面倒事からも解放されている。誰も彼もが試験前の不安など完全に忘れ去っていた。
「俺だって優待者を当てられるよりはずっとマシな結果だって分かってるし、50万も貰えることは素直に嬉しいさ。……だけど、これが……Aクラスか……」
「何だそれ、どういう意味だよ?」
池くんの言葉に幸村くんは溜息を吐き「何でもない」と首を横に振る。
幸村くんが何を言いたかったのか、私には彼の気持ちが理解出来てしまった。
綾小路くんを相手に「勝つ」と意気込んで挑んだ試験は、勝負の形にすらならなかった。結果だけ見れば『引き分け』だが、それは坂柳さんの
「『優待者の法則』か……。やっぱり何かあったんだね。どういう内容か話は聞いてる?」
「……そう言えば聞いてなかったわ」
それどころじゃなかったというか、すぐに人狼ゲームが始まったから。
「もう優待者を隠す必要もないんだし、私たちも探して見ようよ」
松下さんの言葉に頷く。
今更見つけても意味はないかもしれない。それでも考えることを放棄してしまえば、本当に何も得られるモノがなくなってしまう。綾小路くんと坂柳さんが導き出した法則を見つけ出し、少しでも追いつかなければならない。
「僕も考えるよ」
「俺もいいよな」
「役に立たねえかもしれないけどよ、俺も手伝わせてもらうぜ、堀北」
平田くん、幸村くん、須藤くん。他にも櫛田さんや王美雨さん。興味を持った小野寺さんや三宅くんなどの数名の生徒が参加してくれる。
Dクラスの優待者と各グループのメンバーを見ながら私たちは頭を捻る。人数が増えたとはいえ、考えてすぐに分かるようなら苦労はしない。
黙々と考えても埒が明かないと思い、私は取り敢えず疑問に思っていたことを口にする。
「どうしてグループ名が干支なのかしらね」
「そうだね。別にアルファベットや数字でも良いわけだし」
「これがヒントだってことは何となく分かるけど……」
再び沈黙が続く。
……ダメ。いくら考えても糸口が掴めない。
「分っかんねえ。なんか目印というか、そういう分かりやすいヒントはねえのかよ」
「そんな物があれば苦労しないだろ」
答えを導き出せなくてぼやく須藤くんに、同じく少し苛々した様子の幸村くんが答える。
悔しいが、ヒントとして一之瀬さんからBクラスの優待者の情報を教えて貰うのも手かもしれない。
「……目印っていうか……もしかしたら、数字じゃないか?」
ぽつりと呟く三宅くんに私たち全員の視線が集まる。
「いや、単純にさ。グループの数が12で干支も12だから、それに合わせた数字なんじゃないかって」
『干支』だから、それに絡めた意味があるのかと思って難しく考えてしまったが、シンプルにそういう可能性もあるかもしれない。思い返せば、坂柳さんも『簡単』と口にしていた。
Dクラスで優待者である軽井沢さん。彼女のグループは『卯(兎)』 干支なら4番目だ。
4番目。このメンバーの中で、何に対して軽井沢さんは4番目なのか……。
他の優待者の名前、グループの参加メンバーの名前も確認しながら、番号を当てはめて考えてみる。
そしてーー。
「あっ」
私の声に全員の視線が集まるのを感じる。
これなら、Dクラスの3人を含め、各クラスにしっかりと3名の優待者が割り振られている。
「恐らく、名前順よ……」
説明を求める皆に、私は伝える。
グループのメンバーを五十音順に並び替え、後は干支の順番に対応する生徒を割り当てるだけだということを。
「……なんつーか。すげぇシンプルだな」
「でも、自分のクラスの優待者だけじゃ法則の確証は難しいんじゃないかな……。失敗したら逆にポイントを失うわけだしね」
平田くんが気遣うように私を見るが、それはいらない気遣いだ。
既に私も気付き、とっくに後悔しているからだ。
「ブラフ、だったのね……」
私の反応から、綾小路くんと坂柳さんは『優待者の法則』のハッキリとした確信を得たのだ。
「ごめんなさい……。また私のせいで……」
「堀北さんだけのせいじゃないよ。Bクラスの一之瀬さんだって動揺していたし、仮に堀北さんが完璧に隠し通せたとしても、どうにもならなかったんじゃないかな?」
「グループが違うから良く分かんねえけど、別にクラスポイントが減るわけじゃねんだろ? むしろ50万の大金が手に入るんだし、気にすんなよ堀北」
平田くんや須藤くんのフォローが逆に私を惨めな気持ちにする。
悔しいと、再び後悔の念が胸に渦巻いた。
「堀北さん。落ち込んだって何も変わらないよ。それに、須藤くんの言うことは何も間違ってないしね。今は自力で優待者の法則を見つけ出せたことを喜ぼうよ」
「ええ、そうね……」
「それと、人狼ゲームの方は大丈夫なの? 堀北さん、やったことある?」
「ついさっき練習で1回やってみたけど、まだ全然ね。ポイントが懸かってるし、後で自分なりに調べてみるけど」
「また気になる新情報を……。なら練習しないとダメじゃない。堀北さん、付き合ってあげるよ」
「俺もやるぜ。人狼ゲームのルールはよく分からねえけどよ」
「なら須藤くんはいいかな。ルールが分かる子だけでやるから」
「くそぉ!」
「僕も練習に参加させてもらうよ。あまり自信がないからね」
松下さんの発案の元、Dクラスで人狼ゲームをやることになった。
私、平田くん、櫛田さんの『辰(竜)』は強制参加。松下さん、軽井沢さん、佐藤さん、篠原さん、森さん、前園さん、小野寺さんの10人での人狼ゲームが始まった。
立ち回りの分からない私は何度も途中で吊られるか人狼に襲われるかで、軽井沢さんと同じくらい殆ど最後まで生き残れたことはなかった。
難しいわね、人狼ゲーム……。
◇堀北鈴音
・無自覚でクラスメイトとの親睦を深めている。
きちんと理論を組み立てて話せるので人狼ゲームは得意な部類に入るが、まだ立ち回りが良く分かっていないので弱い。感情勝負にはよく負け、感情吊りにあう回数も多いとか何とか。
◇高円寺六助
・試験が続くのは面倒だが50万が支給されるので我慢する。それと流石にペナルティが重い。