ようこそAクラスの教室へ   作:yadooo

34 / 49
34話:Dクラスの女王

 ◇

 

 オレはまずAクラスの皆に頭を下げて謝罪した。

 それから今回の契約を交わした『言い訳』をする。

 

 Aクラスが勝ちすぎない為のヘイトコントロールだと。

 Aクラスでいるのは大切だが、最終的に重要なのはAクラスで卒業することだ。まだ学校生活が始まって1年も経っていない今の状況で、3クラスが同盟を組み徹底的にAクラスを潰しに来たらとても困ることを説明した。つい先日の無人島の試験が例として分かりやすい。契約を結んでいたから阻止出来ているが、もしDクラスがAクラスのリーダーを他クラスに共有していれば、Aクラスは150ポイントも失っていたことになる。

 Cクラスには信用のない龍園がいるが、それでも追い込まれれば同盟を組んでくる可能性が十分にあることも付け加えておく。

 

 ならどうして『結果1』で終わらせるのか。

 プライベートポイントが沢山あって困ることはない。Aクラスといえども50万も貰えるなら素直に嬉しい。しかし、他クラスの全員ともなれば話が変わって来る。

 葛城を含め一部の生徒は懸念しているのだ。その多額のプライベートポイントが、いずれAクラスを脅かす武器になるのではないかと。

 

 個人的には不要な心配だとも思うが、これに関しては素直に有栖が言った言葉を用いた。完全に私欲であったと。既に葛城と西川の2人にはバレているので下手は言い訳はしない。⑥の内容があるので言い訳不可ともいう。つまり開き直るしかないのだ。

 

「ごめんなさい、皆さん。これは完全に私の身勝手です」と有栖が()()()は謝る。

 オレと同じくAクラスでの卒業に拘りのない彼女はきっと後悔も反省もしていない。心の中で舌でも出していることだろう。

 

 まあどのみち、いくら不平不満があろうと契約を結んでしまった以上はどうしようもない。50万のプライベートポイントで許して欲しいと思う。

 ただ、これでAクラスから孤立し始めると困るな。クラスメイトとは仲良くしたいし友達も欲しい。どこかで機会があればきちんと挽回したい。

 

 

 

 でもまあ、目下の問題は人狼ゲームである。

 別にオレが何もしなくてもオレの所属する陣営が勝てれば問題ないのだが、だからといって今のままではいけない。ゲームをやるからにはオレだって楽しみたい。 

 動画でも見て人狼ゲームのノウハウでも学ぶか。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 試験2日目。

 第3回グループディスカッション。

 

「皆さん。それではポイントを賭けた人狼ゲームを始めましょう」

 

 ごくりと西川を含めた一部のメンバーが息を呑み、鈴音と一之瀬が真剣な面持ちになる。

 

 オレの役職は占い師。村人陣営にとっては責任重要だ。

 オレはまず鈴音を占う。

 

「占い師CO*1。鈴音は白*2

 

「占い師CO。鈴木は白だったぜ」

 

 オレと龍園が同時に占い師をCOした。

 龍園はどうやら人狼陣営であるようだ。狂人か人狼かはこの時点では不明。

 

「あらあら。これならいつもの初日龍園くん吊りが出来ませんね」

 

「にゃはは~、流石に一日目から占い師は吊れないよ」

 

 霊能者であるCクラスの小田がCOし、そこから話し合い(という名の難癖)の結果、最初に吊られたのが神崎だった。南無。

 夜の時間になり、オレは一之瀬を占う。理由は特にない。まだ情報もそんなに落ちてないし何となくだ。

 

 次の朝を迎えると、一之瀬帆波、櫛田桔梗、園田正志の3名が退場していた。

 一之瀬……お前は妖狐だったのか……。

 

「妖狐陣営はこれで全滅したようですね。清隆くんか龍園くんか、どちらが本物かは分かりませんがGJ*3です。……一之瀬さん、こちらを恨めしそうに見てはいけませんよ。死体だってこのゲームでは情報になりますからね」

 

「はい……」

 

 恨めしそうというより悲しそうな顔で一之瀬は引き下がって行った。なんかすまん。

 因みに初日に吊られた神崎は黒*4だった。

 

 そして次の話し合いの結果、吊られたのは平田洋介。

 そしてオレは襲撃されお陀仏となった。占い師とはいえ早々の退場だ。妖狐陣営を退治するという仕事は果たしたし、散々だった初日に比べれば大分マシだといえよう。

 

 その後は有栖と鈴音の論理派が人狼側を追い詰め、村人陣営の勝利で終わった。

 

「人数が多いので一回で一時間ぐらい掛かってしまいますね。どうしますか。もう一度だけやりますか?」

 

 結果1で50万も手に入るとはいえ、負けるとポイントが2万×勝った陣営の人数分となり安くはない。乗り気だった龍園を除く大半が「結構です」という空気だったので、第3回目のディスカッションはこれで終了となった。

 

 

 <結果>

◇村人陣営:A綾小路清隆、A坂柳有栖、A西川亮子、B津辺仁美、C小田拓海、C鈴木秀吉、D櫛田桔梗、D堀北鈴音

敗北陣営の人数×2万の報酬により、村人陣営は各プラス12万ポイント。

 

◇人狼陣営:A葛城康平、B神崎隆二、D平田洋介、C龍園翔

妖狐陣営:B一之瀬帆波、C園田正志

勝利陣営の人数×2万の支払いにより、人狼・妖狐陣営は各マイナス16万ポイント。

 

 

 

 ◇

 

 

「椎名さん。……それと綾小路くんも、ちょっと良いかな?」

 

 顔を上げると知らない女子が3人。

 

「どうかしましたか、真鍋さん?」

 

 どうやらCクラスの生徒のようだ。来てくれとのことなので、オレとひよりは有栖と真澄と一時的に離れる。

 

 彼女達ーー真鍋、藪、山下の3人の用件は諸藤リカに関することだった。

 夏休み前のカフェでのやり取り。諸藤を突き飛ばした相手がDクラスの軽井沢だったかどうか、それを確認して欲しいとのことだった。

 オレはDクラスの優待者、軽井沢恵の『卯(兎)』のグループのメンバーを思い出す。諸藤リカの友達を名乗る目の前の3人と同じグループだった。

 

 わざわざ顔を見て確認を取るまでもなく軽井沢で間違いないのだが、素直にそれを伝えることに僅かな躊躇いを覚えた。もちろん軽井沢を庇うわけではない。ただ、3人の軽井沢に対する感情が、友達の為だからと怒りを感じる義憤だけではないように思えたからだ。まだまだ感情の機微に疎いオレなので勘違いの可能性は高いが、下手に彼女等が突っ走った結果、事態がこじれて後々困るのは諸藤本人になるかもしれない。

 

 オレは3人の話に了承し、有栖と真澄に一声掛けてからひよりと真鍋、藪、山下の5人で歩く。

 肝心の軽井沢の居場所がどこなのか聞くと知らないらしい。

 おいおい、このだだっ広い豪華客船の中から探して回る気か? 部屋にいられたらどうしようもないだろ……。

 

 そんなことを思っているとひよりの携帯が鳴り、彼女は電話に出る。

 そこから一言二言話をした後で「ごめんなさい」とオレ達から離れて行った。軽井沢の確認はオレ一人で十分に出来るので、真鍋達もわざわざ引き止めたりはしなかった。

 

 つい先程まで顔すら知らなかったCクラスの生徒3人とAクラスのオレ。

 当然ながら気まずい。速く()()()()()と願っていると、真鍋から質問が飛んできた。

 

「綾小路くんって、椎名さんと付き合ってるの?」

 

「いや、付き合っていないぞ」

 

「でもいっつも一緒にいるよね。椎名さん、Cクラスじゃいつも一人で本を読んでるし何を考えているか全然分からないけど、綾小路くんの前では何となく嬉しそうにしているのが分かるから」

 

「オレもひよりと一緒に居ると嬉しいし、そこはお互い様だな」

 

 ひよりが嬉しい時や楽しい時、喜んでいる時などはオレも同じような気持ちになれる。ひよりの顔を見ていると心が落ち着ける。ひよりもまた、オレと一緒に居て同じように想ってくれているならやはり嬉しい。周囲からもそう見えているなら自信もつくな。

 

これ、やっぱりリカに勝ち目ないんじゃ……

 

皆無ね

 

リカ……南無

 

 コソコソと話す3人。

 いきなりどうしたと視線を向けていると携帯が鳴り出す。3人の前で電話に出て、呼び出されてしまったと伝える。軽井沢の件は必ず後で時間を作ると約束し、連絡先だけ交換して3人から離れた。

 

 

 オレは真澄に『助かった』とチャットだけ飛ばし、Aクラスのグループチャットから『卯(兎)』グループにいる森重を辿り電話を掛ける。

 

「お、おう。綾小路か。一体どうした?」

 

「急に電話して悪いな。『卯(兎)』グループのことで聞きたいことがあるんだが、構わないか?」

 

 オレは森重からDクラスの軽井沢とCクラスの真鍋、藪、山下の3人に何か揉め事はなかったかと尋ねる。

 するとやはりCクラスの3人は諸藤の為に既に行動を起こしており、軽井沢と揉め事があったと話を聞いた。軽井沢は自身の写真を取ろうとした真鍋の携帯を払い落としていたそうだ。その時は町田が介入し有耶無耶になったが、以降のディスカッション中の軽井沢は町田の隣を陣取るようになったそうだ。

 そのことから、Cクラスの3人に対する軽井沢なりの防御策なのは予想出来る。同じDクラスの男子はどうしたと言いたいところだが、それは一旦置いて置き、オレがまず思ったのが、軽井沢は意外と()()があったんだなということだ。

 

 オレはケヤキモールのカフェで、軽井沢が諸藤と突き飛ばして割り込みし、なおかつ一切の非を認めずにふんぞり返った姿を見て「コイツはヤベェ奴だ」と思っていた。櫛田の口から耳にした「女王」という単語もあってか、それを特に疑いもせず信じていた。

 

 だから森重の話を聞きながら、既に「ウルサイ黙れ」と軽井沢がCクラス3人との熱い攻防(言い争い)を行っているのではと思っていた。しかし、そんなことにはなっておらず、ましてや女王のように「あの3人が難癖付けてきてさー。マジ気に入らないからやっちゃってくんない?」と誰かに命じたり、逆切れしてやり返しているようでもない。

 

 むしろ軽井沢は町田の隣に座り『庇護下』に入っている。

 恐らくそれは、己の行動に非があったと、カフェの件では弱い立場にいることを自覚しているからだとオレは思った。

 ならさっさと謝るべきだと思うのだが、それはそれ……軽井沢は『謝ったら負け』だと考える人種なのかもしれない。

 

「話を聞かせてくれて助かった、森重」

 

「これぐらい気にするなって」

 

 電話を切ろうとすると「ちょっと待ってくれ」と呼び止められる。

 

「今回の件、そんな気にしなくていいぞ。そりゃあ、葛城や一部の奴等の言い分も分かるけど、こっちだって同額のポイントを得られるんだ。そこまでいちいち気にしてたら卒業前に心労で倒れちまう」

 

 どうやらクラスメイト達に無断で結んだ契約内容についての話のようだ。

 

「むしろ、初日の話し合いすら行わず、優待者の法則を見つけ出したお前や坂柳の凄さに俺や周りは頼もしいとすら思っている。それに、あの場では誰も口にしなかったが、何もせず簡単に50万も貰えるのは普通に嬉しいしな」

 

 電話越しで森重が笑う。

 

「無人島の試験では色々と助けられてるしな。何かあったらまた頼ってくれよ、綾小路」

 

「ああ。ありがとう、森重」

 

 森重との電話を終わらせる。

 森重と話したことは殆どなく、突然電話に迷惑だと思われないか不安だったが、快く受け入れられて逆に驚いた。今回の契約に関してもだ。身勝手な契約にも関わらず意外とクラスメイト達からの心象は悪くない。それが分かって少し安心した。

 

 

 さてと……軽井沢、それと諸藤や真鍋達の件に戻るが、思考は一つの答えに辿り着く。

 最初にも思ったが、これはAクラスのオレにはあまり関係ないという結論だ。須藤の一件は内容が内容だけに直接関与したが、Dクラスの問題はDクラスが片付けるべきである。

 

 

 オレは鈴音に連絡を取った。

 

 

「今度は何の用なの?」

 

「軽井沢の件でな」

 

 オレの口から軽井沢の名前が出た事を訝しみにながらも、鈴音は黙って話の内容に耳を傾ける。カフェでの出来事や、諸藤の友達である真鍋達が軽井沢と接触して、彼女を謝らせようとしていることなど全て話した。

 

「そんなことが裏であったとはね。はぁ……、どうして要らないトラブルを引き起こすのかしら」

 

「軽井沢のことで聞きたいんだが、Dクラスでは女王のように振る舞っているのか?」

 

「女王? まあ、女子グループのリーダー的存在といえばそうかしらね。だからこそ特別試験では協力してもらったわけだし」

 

「協力? 衝突じゃなくてか?」

 

「……あなたが私をどういう風に見ているかはこの際聞かないけど、協力よ。彼女もポイントを残したい派だったおかげね。実際に何度か助けられたわ」

 

 意外……ではないのか? 性格からして鈴音とはお互いに馬が合わないだろうと勝手に思っていたが……。

 軽井沢についてはどうにもカフェでの出来事や櫛田の「女王」という言葉に引っ張られているな。

 

「軽井沢はどういう奴なんだ?」

 

「……あなた、軽井沢さんに興味があるの?」

 

「軽井沢に興味はないが、軽井沢の性格には興味がある。Aクラスには居ないタイプの人間だしな」

 

「先ほども言ったけど、女子グループのリーダー的存在よ。それと前回の試験までは協調性の欠片もない我儘な人間だと思っていたわ。……ついでに言うと平田くんの彼女ね」

 

「え、そうなのか?」

 

「残念ね、彼氏持ちで」

 

 それはどうでもいいが。

 平田洋介といえばDクラスでは櫛田と並ぶほどに名の知れた生徒だ。櫛田でさえ暴言を吐かない爽やかイケメンである。同じ『辰(竜)』グループだし、Dクラスのリーダーの一角であるのは間違いない。

 そんな相手が彼氏だとすれば、軽井沢が調子に乗って「女王」のように振る舞うのも理解出来なくもないが……。

 

「軽井沢は平気で人を突き飛ばして列に割り込むような奴か?」

 

「それは……どうでしょうね。やっていてもおかしくはないとは思うけど」

 

 鈴音は軽井沢と友達でもないようだから、これ以上の情報は引き出せないか。

 

「取り敢えず、龍園くんの耳に入る前に軽井沢さんには、その諸藤さんって子に謝るように言っておくわ」

 

「一度は拒否しているんだ。鈴音が言っても素直に聞かないかもしれないだろ。だからオレも協力させてもらって良いか?」

 

「協力って、今度は何を企んでるの?」

 

「企んでいない。ただの興味本位だ」

 

「それはそれで悪いわよ」

 

 そう言って鈴音は溜息を吐いた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

「一体何なのよ!」

 

 ポニーテールの少女、軽井沢が強気な目で睨み付けてくる。

 その視線から逃れるようにオレの隣にいる諸藤が俯く。

 

「そう睨んでくれるな。彼女に、諸藤に謝って欲しいと思ってな」

 

「は、ハァ!? どうして私が謝らないといけないのよ!」

 

「どうしても何も兎のグループではトラブルが起きてるんだろ? さっさと謝った方が良くないか?」

 

「っ」

 

 おや?

 普通に言い返されると思ったが、軽井沢は言葉につまらせ動揺を表す。

 それからやや躊躇いながらも、最後には「分かったわよ」と言葉を漏らした。

 

「謝れば良いんでしょ」

 

 どこか諦めたように口ぶりだが、声音には安堵のようなものも感じ取れる。

 もしかしたらとは頭にあったが、オレが思っているより自分勝手で傲慢な性格ではないのかもしれない。

 ただ、このまま素直に謝られるのも()()()()()。彼女は貴重なサンプルケースである。

 

 オレはこれから諸藤に対して謝ろうとしている軽井沢に携帯を向けた。

 

「は……? あんた一体何してんのよ!?」

 

「何って録画だ。後で真鍋達に見せて、お前が諸藤にしっかりと謝ったと教える為にな」

 

「ふざっ、ふざけないで!」

 

 軽井沢は叫ぶ。

 怒りと動揺。その2つは理解出来る。当然の反応だとも思う。だがそれとは別に、恐怖の色を覗かせているのは何故だ?

 

「別に録画ぐらい良いだろ。どっちにしろ、後で3人から本当に謝ったかどうか確認を取られるぞ」

 

 自分で言っておきながら、それはないだろうとは思う。諸藤がしっかりと謝られたと真鍋達に伝えれば、彼女達だってそれで納得するはずだ。

 

「いや、いやっ! 絶対に謝らない!」

 

 そのまま携帯を向け続けていると、軽井沢は発言を撤回し、両手で過剰に顔を隠す。

 同時に怒りの感情が鳴りを潜め、分かりやすく動揺して怯えの色が見え始める。

 

「ーー何をしているの?」

 

 背後から、薔薇の棘のような鋭さを持った声。

 振り返ると鈴音がこちらに向かって近付いて来ている。

 

「ほ、堀北さん!」

 

 軽井沢は助かったように一瞬安堵の表情を見せた。

 

「よ、呼び出しておいて来るのが遅い! そのせいで変なのに絡まれちゃったじゃない!」

 

「ごめんなさい。途中で先生に捕まって少し遅れたわ」

 

 平然と()を吐きながら、鈴音はオレの横を通り過ぎて軽井沢を庇うように立つ。それを見て軽井沢は更に安堵した様子を見せた。

 

「それで? 一体軽井沢さんに何の用なのかしら、綾小路くん」

 

「直接用があるのはオレじゃないが」

 

 オレは隣の諸藤を見る。鈴音の登場によって気の弱い彼女は再び萎縮していた。軽井沢とは別種の強気なタイプだから無理もない。

 

「悪いな、諸藤。もしかしたらと思ったんだが、ぬか喜びさせてしまった。これ以上ここにいても仕方がないし行こう」

 

「う、うん」

 

 オレは諸藤を連れて鈴音と軽井沢から離れる。

 そこで諸藤を呼び出したことを謝ってから、何か言いたげな様子だった彼女とは解散した。

 

 ピッタリ10分後に、鈴音から連絡が入る。

 先程まで軽井沢と話していた、人通りのない壁際に鈴音が待機していた。彼女1人、軽井沢の姿はない。

 

「さっきのは何?」

 

「何とは?」

 

「分かってるでしょ。軽井沢さんに携帯を向けたことよ。あれがなければ彼女はあのまま謝っていたはずよ」

 

 まあそうだろうな。

 

「それについては素直に悪かった。だが、軽井沢の様子はどこか変じゃなかったか?」

 

「……まあそうね。私もあんな軽井沢さんは初めて見たわ」

 

 一度謝ろうとしたことからも、軽井沢は『謝ったら負け』という人種ではない。なら、一度目のカフェの時に謝らなかった理由はなんだ? また、オレが携帯を向けた途端に態度を一変させ怯え始めた理由は?

 

 前半の部分は何となく分かる。

 恐らく「女王」としてのプライド、またはその立場を守る為だろう。オレは気にしたことはないが、学生間のカースト制度というやつだ。あの時は2人の友達も居たようだし、大勢の前で恥を掻きたくないと思ったのだろう。だからこそ先程の方が謝りやすい状況だったのも理解出来る。

 

 なら後半は?

 携帯を向けられて怒る気持ちは分かるが、やはり怯えた理由が分からない。あの瞬間だけ、確かに軽井沢から「女王」の仮面は剥がれ落ちていた。

 それに『卯(兎)』のグループでは大人しく町田の『庇護下』に入っていることもだ。最初はCクラスの3人に対する軽井沢なりの防御策かと思ったが、平田という彼氏がいるという情報と先程の態度を見て、それすらも僅かな違和感を感じる。

 

 平田とはグループが違うとはいえ、それは一時的だ。離れ離れになった瞬間に軽井沢のカーストが地に落ちるわけでもないだろう。

 偉そうにふんぞり返れとは言わないが、他の(町田)にわざわざ擦り寄る必要性を感じない。それが防御策であったとしても、彼氏持ちがそれをやったら印象が悪いだろう。それで平田に嫌われて別れる切っ掛けにでもなったら、それこそカースト低下の危機だ。そんなことになるぐらいなら、普通に彼氏である平田を頼れば良いだけだ。

 

 ……。

 …………ダメだ。

 人の感情に対してはまだまだ理解度の低いオレがいくら考えても答えが出ない。

 ()()で友達のいないボッチ(鈴音)も同じだろう。

 

 

 ここは素直に、頼れる相手を頼ろう。

 

 教えて、真澄先生!

 

 

 

「イジメられてたんじゃないの?」

 

 真澄は面倒臭そうにそう答えた。

 

「軽井沢さんが……? 本当に?」

 

 信じ難いと鈴音が呟く。

 

「あんた達の話を聞いて何となくそう思っただけ。携帯を向けられただけで大きく取り乱すなんて、いかにも()()()じゃない」

 

 真澄の言う『らしい』という意味はぴんと来ないが、よっぽどの理由がないと()()もならないとは確かに思う。

 

「それに、イジメられてた子が奮起してやり直すには丁度良い環境だしね」

 

 その言葉には納得出来た。理由は違えど、外部から隔離された環境を望んでいるのはオレも同じだからだ。

 

「ふふ、案外平田くんとの彼氏彼女という関係も、偽りなのかもしれませんね」

 

 有栖が笑みを含ませながら言い、鈴音がちょっとだけ警戒しながら「どうしてそう思ったの」と問う。

 

「町田くんに擦り寄っている様子からも、清隆くんの言うように彼女なりの防御策だとは思います。ですが、やはり外聞が悪い。平田くんと別れてしまうリスクを考えられないほど軽井沢さんが愚かなのか、それともそこまで追い込まれているのか。あるいは、絶対に別れることはないと()()()()()()()()。それに……イジメられっ子を助ける為に付き合うというのは、物語の中ではありがちな理由じゃないですか?」

 

 有栖は微笑みながらひよりに目を向けると、ひよりは少しだけ困ったような表情を浮かべながらも「そうですね」と頷いた。

 

「…………平田くんなら、それもあり得るかもしれないわね」

 

 真澄と有栖の話を聞き、熟考の末に鈴音がその可能性があることを認めた。

 

 イジメられっ子だったからこそ、イジメられないように強気に振る舞う。平田という彼氏を得てスクールカーストを上げれば、その心配は更になくなるだろう。そして、暗い過去を持ち、強気に取り繕っているからこそ完璧な「女王」に成り切ることも出来ない。素直に謝ることも出来ていないが、イジメられっ子だったからこそ自分に非があるという認識(常識)はきちんと持っている。

 

「あの性格は自分の身を守る為か」

 

「……そうね。彼女が本当に自分勝手で我儘だったら、試験の為とはいえ私と協力なんて出来ていなかったわ」

 

 ふむ、どうやら軽井沢恵は『ヤバイ奴』ではなかったようだ。

 諸藤にやったことが許されるわけではないが、彼女なりに理由はあったのだ。 

 

「なるほどな」「なるほどね」

 

 オレと鈴音の声が見事にハモった。

 鈴音と目が合い、彼女がキっと睨んでくる。

 お、何だコイツ、やんのか?

 

「真似するなよ」「真似しないで」

 

 …………。

 

「清隆くん」「清隆くん」

 

 あ、はい。

 何ですか?

 

「清隆くんも、あまり外聞の悪いことはしていけませんよ?」

 

 オレも協力したとはいえ、クラスメイトに無断で契約を結んだ有栖が言うと説得力があるな。人狼ゲームの件など私欲まみれで言い訳も出来ない。

 

「何か?」

 

 何でもないです。すみません。

 

「清隆くん、諸藤さんや軽井沢さんの件はもう仕方がないかもしれませんが、女の子にばかりちょっかいを掛けてはいけませんよ?」

 

 ひよりはオレを誤解していないか?

 今回は軽井沢が女の子だっただけで、別に性別で相手を選んでいるわけではないのだが……。  

 

「分かりましたね?」

 

 っす。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 オレは鈴音を連れて3人から離れた位置に移動する。

 別に逃げたとかではなく、これからする話を3人に聞かせる理由は特にないからだ(本当に)

 鈴音が何か言いたげな目をしていたが、無視して話を切り出す。

 

「それで、軽井沢の件はどうする?」

 

「どうする、とは?」

 

「分かるだろ。図らずともオレ達は軽井沢の生殺与奪の権利を握ったにも等しい。この情報さえあれば軽井沢を意のままに従わせることだって出来る。お前はこの情報を使って、軽井沢をどうするつもりだ?」

 

「……イジメられていた過去も平田くんとの関係もまだ確定したわけじゃないでしょ」

 

「オレはさっきの話を聞いてそうだと思ったし、お前も同じだろ。現実から目を逸らしても意味はないぞ」

 

「分かってるわ……」

 

 鈴音は口を閉じ考え込む。

 軽井沢について、鈴音もまだ混乱してどうすれば良いのか判断がついていないだろう。

 

「まあ、Dクラスの生徒だし、鈴音が軽井沢を脅して服従させようが、敢えて何も言わずに放置しようが、()()()に関してはオレから特に言うつもりはない。ただ、諸藤には謝ってもらうぞ。軽井沢の為とかじゃなく、諸藤や彼女の友達である真鍋達の為にもな」

 

「それも分かっているわ。どっちにしろトラブルの芽は早めに摘んでおかないといけないから」

 

「諸藤や真鍋達の連絡先はオレが知っている。必要なら知らせてくれ」

 

「ええ、ありがとう。その時は連絡するわ」

 

 鈴音は深い溜息を吐く。

 鈴音はこれから分岐点の一つに立つ。

 Dクラスの女子のリーダー。軽井沢恵という『偽りの女王』とどう関わっていくかという分岐点に。

 

 鈴音はどういう選択し、軽井沢とどんな関係になるだろうか。

 しっかりと見届けさせてもらおう。

 

*1
カミングアウト

*2
村人陣営

*3
グッジョブ

*4
人狼陣営




◇軽井沢恵
・どのグループも結果1を目指す為に最終日まで試験を受けるので、諸藤を突き飛ばした時点で真鍋達の3人に目を付けられトラブルが起こるのが確定していた。 ただ、あのカフェの場に綾小路がいた為に本人の知らない所で真実に辿り着かれ、気付かぬうちに生殺与奪の権利を握られている。

◇諸藤リカ
・カフェのトラブルの後で、そのまま綾小路、椎名、山村の4人で別の店で食事をしていた(綾小路の奢りで) 普通に気まずかったが、自分を気遣ってくれての事だとは分かっていたので無碍にも出来なかった。因みに惚れてはいない。気になるかもっていう程度であり、真鍋達の3人が勝手に勘違いして盛り上がっただけである。

◇綾小路清隆
・機械化は進行していないが知識欲は顕在。人間関係に荒波を立てたくないと思いつつも、つい気になって軽井沢の件に首を突っ込み、結果的に彼女の秘密を暴いた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。