2週間の楽しいクルージング旅行が終わりを告げた。
その間に特別試験と呼ばれる、普通ではない試験が2回も開催されたが、そのどちらも無事に乗り越えることが出来たのでヨシ!
夏休みはまだ1週間以上は残っている。
どうやって過ごそうか、誰と過ごそうかとワクワクしているオレの元に連絡が来る。
生徒会長からの呼び出しである。
まさか夏休み中にも関わらず働けと?
無視したかったが既読を付けてしまった。
渋々と制服に着替えて生徒会室に向かう。
生徒会室の内装が変化しており以前より広々として綺麗になっていた。そう言えば夏休みを利用して改装工事を行っていたことを思い出す。大して人数がいないのにお金が掛かっている。
堀北学と橘茜が入室したオレを見て座るように促す。
書類などはなく仕事の為に呼び出されたわけではなさそうだが、なら何なんだ。面接でも始めるつもりだろうか?
「綾小路、初めての特別試験はどうだった?」
「無人島生活なんて貴重な体験だったし素直に楽しかったですよ。2回目の試験もまあまあ楽しかったです」
人生初の人狼ゲームとか。
「綾小路くんだけですよ、試験を楽しめたなんて本心で言えるのは」
そんなこともないと思うが。
「生徒会にも結果の報告が上がってきている。どちらの試験も、お前の活躍は耳にしているぞ」
「昨日の今日で早いですね。しかも、個人的な行動まで知らされるんですか?」
「生徒会長といっても詳細まで知らされるわけではない。だが、情報とは常に洩れるものだ。特に2回目の試験で、1年全てのクラスが2000万以上のプライベートポイントを獲得したのはあまりにも異例のことだ」
「まあ、普通にやったら獲得出来ないようになっていた試験でしたからね」
あの契約はオレ達がAクラスで、どのクラスよりも先に優待者の法則を導き出せたから出来た選択だ。他のクラスだったら普通に優待者を当ててクラスポイントを得ていただろう。
悪く言えばAクラスのーーオレと有栖の『舐めプ』というやつである。
「それで本題は何ですか? まさかとは思いますが、オレと雑談する為にわざわざ呼んだわけではないですよね」
生徒会長は眼鏡に手を当ててから頷く。
「綾小路、この学校生活は楽しいか?」
「ええ、楽しませてもらっていますよ」
突然どうしたという思いはあったが、オレは迷わず即答を返す。
「お前は以前俺に言ったな。誰もが疑心暗鬼となる、殺伐とした学校生活を送りたくはないと。学校の秩序の為にと」
「言いましたが、それが何か?」
「その言葉に嘘偽りがないなら、俺はお前に一つの依頼を頼みたい」
「依頼?」
「生徒会副会長である南雲雅を止めてもらいたい」
「……南雲副会長を止めるのと学校の秩序にどんな関係があるんですか?」
そこから詳しく聞かされる、南雲の目的。
どうやら南雲は真の実力主義を目指しているらしい。上が上に行き、下が下に落ちていく、クラスはなく個人主義を重視した仕組み。それが実際に出来るかどうかは別として、クラスの枠組みを超えるやり方に生徒会長は危機感を持っているようだ。確かに、実力、個人主義になり過ぎれば、クラスメイト同士にも疑心暗鬼が生まれるかもしれない。それと、歯向かうものに一切容赦しない点。南雲が既に10人以上の退学者を出していることも危険視しているポイントの一つのようだ。
実力主義の環境が完全に間違っているとは思わない。Aクラスはともかく、他のクラスにはクラスメイトに足を引っ張られていると不満を抱く生徒がいるのは間違いないだろう。彼らを救済する為の仕組みがあっても良いとは思う。
生徒会長の言い分も理解出来るが、南雲の考えも理解出来る。どちらかが一方だけが正しいということはないだろう。賛成も反対も出て、誰もが納得する答えはきっとない。
ならオレは、生徒会長と南雲のどちら側の考えを持っているのか。
答えは前者だ。
クラスの枠を超えない今までのやり方。生徒会長風に言うと、伝統的な学校の仕組みだ。
南雲の考える個人主義がどれほどのものかは分からないが、個人主義の環境に突っ走られるのは、あまりにもツマラナイ。
「分かりました。オレにどこまで出来るか分かりませんが、南雲副会長が暴走した時は止めるように頑張ってみます」
「感謝する、綾小路。お前にそう言ってもらえてこれほど心強いことはない」
「大袈裟すぎませんか?」
薄々と感じていたが、生徒会長から尋常じゃない評価を得ている気がする。
オレが生徒会長にやったことと言えば、鈴音を投げ飛ばそうとしたのを止めたことと、過去問を貰ったこと。須藤の冤罪事件で生徒会長を通して学校側に交渉しただけ…………意外とやってんな。
いやいや、にしては評価がやっぱり高い気がする。生徒会の働きぶりに感心したって感じでもないだろう。まさかとは思うが、オレが
「一応確認しますけど、生徒会長や橘先輩も協力してくれるってことで良いんですよね?」
「もちろんだ。お前に任せっきりにはしない。後で協力者にも連絡して知らせておく」
なら良かった。流石に丸投げされたら速攻で南雲側に寝返っていた。
「それと、報酬とは別に生徒会長への質問と、場合によっては頼みたいことがあるんですが良いですよね?」
「俺に出来ることなら構わない」
「なら問題ないですね」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「それで? わざわざ部屋まで呼んで、今度はどんな厄介事なの?」
「そう警戒するな。今回は厄介事ではないはずだ」
オレは携帯を操作してチャットを飛ばす。それから冷蔵庫からペットボトルのお茶を2本取り出してテーブルに置く。
「少し待っててくれ」
「……前に来た時より物が増えてるわね」
「そうか? カーペットと本棚ぐらいしか増えていないはずだが」
ノートpcを購入予定だが、まだまだ殺風景な部屋だと自分でも思う。日常で使う物以外に必要なものなんて特にないから別にいいんだが。
「鈴音にとって生徒会長はどんな奴なんだ?」
「……いきなり何なの」
カーペットの上に座りながら、分かりやすく不機嫌な表情を浮かべる。彼女にとってアンタッチャブルな話題だと分かっているが、オレは鋭い眼光に怯まず口を開く。
「お前も知ってると思うが、オレは生徒会に入って生徒会長と接する機会が増えたからな」
「それは嫌味のつもりかしら?」
「単純な興味だ。オレの目から見る生徒会長と、お前の目から見ている生徒会長には、一体どれくらいの差異があるのか。改めて聞くが、鈴音にとって生徒会長はどんな奴なんだ?」
「あなたも生徒会で兄さんを見ているなら分かるでしょう。兄さんはあなたにだって負けないぐらい優秀で周囲からの人望も厚い人よ」
「……そうか」
「何……、言いたいことがあるならハッキリと言いなさいよ」
「妹であるお前から見ても、外野と同じようなことしか言わなんだと思ってな」
「どういう意味よ」
鈴音のボルテージがグングンと上がってきているのを肌で感じているが、それが爆発する前にインターホンの音が鳴る。
「……何、櫛田さんでも呼んだの?」
「……」
ちょっとだけドキリとする発言に無視しながら、オレは扉越しに「どうぞ」と声を掛け、部屋に招き入れる。
「ーーーーは?」
鳩が豆鉄砲を食ったように固まる鈴音。端的に言って間抜け面である。
美少女の、鈴音のこんな表情を見れただけで既に満足したのだが、だからといって解散させるわけにもいかないので、オレは来訪してきた生徒会長ーー堀北学にも座るように促す。
「ああ」と短く返しながら、テーブルを挟んで鈴音の対面に座る学。
「お茶は好きにどうぞ。オレは料理でもしてるんで、あとはご自由に」
「ちょ、ちょっ、ま待ちなさい、綾小路くん!」
硬直状態から解放された鈴音が、正面に座る学から逃げるように立ち上がりオレを呼び止める。何を言われるかは何となく想像がついたので、オレは先んじて口を開いた。
「さぷら~いず」
「ぶち殺すわよ」
「マジですみませんでした」
学がすぐ目の前に居るにも関わらず……ガチだった。
鈴音の手元に武器があれば間違いなく犯行に及んでいただろう。怖すぎる。
「く、くわばらくわばら」
「綾小路くん!」
キッチンに逃げ込むオレ。そのまま冷蔵庫を開け食材を取り出していく。何を作るか既に決めているのだ。桔梗を除き、誰かに料理を振る舞うのはこれが初。オレの料理スキルがいかほどのモノか、2人の舌で確かめさせてもらうとしよう。
◇ ◇ ◇
相変わらずの無表情でふざけたことを宣った綾小路くんが、キッチンに逃げ込んで私の視界から隠れる。
近年稀にみるほど高まった殺意。本来なら後を追って折檻を行うべきだが、今この部屋に居るのは私と綾小路くんだけじゃない。体の中から急速に熱が萎んでいくのを感じる。
「鈴音。お前も座ったらどうだ」
「は、はい……」
思わず立ち上がっていた私は、再び腰を下ろし座り込む。
私のすぐ目の前に座っているのは……私の兄さん。
どうして……何故……どうして兄さんがここに!?
改めて意識し始めると、心臓が冷たくなり、頭の中が混乱の渦に取り込まれそうになるのを感じる。
「どうやらお前も、この学校生活を楽しんでいるようだな」
「あ、え? ……そう、何ですか? すみません、自分じゃ正直よく分かりません」
今の状況も含めて、楽しんでいる余裕が全くないというのが本心だ。自分がDクラスに居ることも、変化してきた周囲との人間関係も、とにかく考えることが多すぎる。
「…………ただ、退屈している暇はないですね」
「どうやら本当に、お前の欠点が1つ、克復されたようだな」
「私の欠点……ですか?」
「お前は自分のことに集中するあまり、周囲が見えていなかった。その視野が広がったことで、退屈な日々から抜け出しつつあるということだ」
「なんだか、兄さんらしくない……ですね」
私の知る兄さんは誰よりも真面目一辺倒で、自分を高めることを怠らない人。学校を楽しむモノだと認識しているはずがないと、そう考えていた。
「俺らしさとは何だ? 成績や人望という値しかお前の目には映っていない」
「それはーーーー私にとって兄さんは、永遠の目標だからです」
「目標、か」
僅かにだが、兄さんの顔が険しくなった気がする。
分かっている。それが自分には分不相応だということは。それでも……。
「限りなく近付けるように努力することは悪いことではないはずです」
兄さんは私の想いに答えず、ただ静かに一度目を閉じ、それから小さく息を吐いた。
「……ある男に言われた。妹に誇りに思われていることが嬉しくないのかと。自慢出来る兄でいられることがそんなに嫌なのかとな」
「え?」
「結論から先に言うが、お前が俺を大切に思ってくれているように、俺もお前を大切に思っている」
「ッ!?」
頭が一瞬で真っ白になり、兄さんの言葉の意味を上手く受け止めきれない。
「にに、に、兄さんは……兄さんと比べて能力不足な……
思い返されるのは入学して1カ月後の出来事。
Dクラスになった私を恥だと言い、力不足だと失意を向けて来た。だから私は、てっきり……。
「嫌ってはいない。だが、何も変わっていないお前に失望したのは事実だ」
「っ……!」
兄さんを失望させている。その事実に、再び心臓がギュッと締め付けられる。
「鈴音、初めての特別試験はどうだった?」
「……わ、私には不向きな内容で、とても大変でした。それに……
「試験の内容も結果も既に耳にしている。俺が聞きたいのは、お前がクラスメイトとどんな事を成し、何を思い、何を感じたのか。2週間の出来事の、嘘偽りのない詳細だ」
綾小路くんと同じような台詞を兄さんが言う。それにどんな意図があるのか、やはり私にはイマイチ分からない。それでも兄さんにそう言われたなら、答えるしかないだろう。
綾小路くんに話した時と同じように、私はDクラスと共にどう試験を乗り越えたのかを、ぽつぽつと、赤裸々に話し始めた。
兄さんは口を開くことはせず、静かに耳を傾けていた。
*
カレーの匂いが鼻孔をくすぐる。
「……以上、です……」
喋り過ぎた喉は水分を欲していたが、目の前にあるお茶を取ることが出来ず、兄さんの反応を静かに窺う。
私の話に、兄さんは一体何を思っているのだろうか。
無人島試験で龍園くんに一杯食わされたこと。2回目の試験でもあっさりと主導権を握られ、何も出来ずに終わったことに、やはり失望しているのだろうか。
兄さんはペットボトルのお茶を手に取り口を付ける。
私もそれを見て、お茶に手を伸ばして喉を潤した。
「……どうやら、俺の想像以上に成長しているようだな」
「え?」
「これも、綾小路の言った通りか」
「それは、どういうーーーー」
言葉の途中で、キッチンで調理音を奏でていた綾小路くんが、エプロン姿でひょっこりと姿を見せる。
「話の途中で悪いが、カレーが出来たぞ」
綾小路くんがテキパキと3人分のカレーとサラダをテーブルに並べる。
夕食には良い時間だし、今更それぐらいのことで異を唱えるつもりはないから別に良いのだけども。
「綾小路くん、あなた料理出来たのね……」
「先月からやり始めてな。感想が聞きたいから美味しいか不味いかだけでも頼む」
「え、えぇ」
私たちは「いただきます」とカレーを口に運ぶ。
カレーは初心者でも簡単に作れる類の料理ではあるけれど、それを加味しても普通に美味しい。カレールーのとろみも私好みで絶妙だ。
「どうだ?」
「美味いぞ」
「……美味しいわ」
「なら安心だ」
私と兄さんの淡泊な感想にも満足気に頷く綾小路くん。
……あまり考えないようにしていたけど、どういう状況なのかしらね、これは。
兄さんといきなり対面して、会話して、綾小路くんと一緒に3人で夕食を食べる。入学前の私に言っても絶対に信じてもらえない光景よ。
「ところで、お前がブチギレた話は生徒会長にしたのか?」
「は?」
「ほぉ」
また綾小路くんが余計なことを口にし、兄さんが関心を示すように眼鏡を光らせる。
「聞いてください生徒会長。鈴音と交渉していたら、突然彼女がブチギレしてオレに怒鳴って来たんですよ」
「交渉ですって? あんなの殆ど脅しじゃない。それに私はブチ……怒鳴っていないわ」
「普通に嘘をつくな。キレてたし怒鳴っただろ」
「………………うるさいわね」
くっ、兄さんがいなかったら立ち上がって問答無用で黙らせるのに、食事中ということもあってそれが出来ない。精一杯に睨んでもどこ吹く風なのが憎たらしい。ほんと、後で覚えてないさよ。
「交渉というのはどんな内容だ?」
「Dクラスに軽井沢恵って生徒が居るんですが、彼女の過去についての口止め料の交渉です。1千万ポイントを要求したらキレられました」
「当たり前でしょ!」
「ならお前は、その軽井沢という生徒の過去を吹聴して回るのか?」
「いえ、取引は成立しましたよ。半年後に引き延ばすという条件でオレも合意しました」
兄さんは私を見る。
真っ直ぐと、見定めるような真剣な表情で。
「その軽井沢という生徒はお前の友達か?」
「いいえ……友達じゃありません。同じクラスメイトの一人です」
私の否定するような物言いに、兄さんは目から落胆の色が浮かんでくる。
「ですが……過去を乗り越えようと奮起する軽井沢さんの……彼女の味方になりたいと、『仲間』になって欲しいと思っています」
「…………そうか」
兄さんは眼鏡の押し上げながら、フッと短く笑った。
「綾小路」
「何ですか?」
「感謝する」
「生徒会でもされましたよ」
「お前になら安心して任せられる」
「……生徒会での話ですよね?」
何の話かよく分からなかったが、兄さんは答えずに再び笑った。
*
キッチンから食器を洗う音が聞こえてくる。
料理はともかく、片付けも綾小路くんが1人でやると断固固辞した結果だ。
必然、私と兄さんの2人が残される。
「鈴音」
「は、はい」
「生徒会に興味はないか?」
◆ ◇ ◇ ◇ ◆
堀北学ーー生徒会長がお帰りになった。
てっきり鈴音も一緒に出て行くのかと思ったが、彼女はまだ部屋の中に残っている。オレが言うのはとても今更であれなんだが、男と女が同じ部屋に2人きり。
「綾小路くん」
「あ、はい」
やばい。色々やった自覚はあるし確実に怒ってる。
そう言った意味でもお帰りになって欲しかったんだが、これは……骨の一本や二本で済むか?
土下座を検討しているオレを見ながら、鈴音はゆっくりと深い息を吐いた。同時に張り詰めていた空気が弛緩していくのを感じる。
「…………色々と言いたいことはあるし暴力に訴えたい気分だけど、今日だけは……今日だけは特別に赦してあげるわ。感謝しなさい」
「ありがとうございます」
「ただし、明日は少しだけ付き合ってもらうわよ」
「お、おう?」
◇
一時間程待たされてから、美容室から出て来た彼女は、新しい装いでオレの前に立った。
「…………」
「……無言とは失礼ね。何か言うことはないのかしら」
「あ、あぁ、悪い。とても似合ってる。その髪型も良いな」
「ま、まぁ、当然よね」
鈴音はオレから目を逸らし、バッサリと短くなった自身の後ろ髪を撫でる。
「いきなり髪を切ると言い出した時は驚いたが、一体どんな心境の変化なんだ?」
「……昨日、兄さんと色々と話して考えたのよ。兄さんは私を嫌っていなかった。でも、何も変わっていない私に失望したとも言ったわ。それが一体どういう意味なのか、兄さんが私に何を望んでいるのか、その真意をいくら考えてもまだ分からない」
「取り敢えずは、形からってことか?」
「そういった意味ももちろんあるけれど、ふと思い出したのよ。小さい頃の私は今みたいなショートが好きだったってことに」
「ならどうして髪を伸ばしていたんだ?」
「それは……どうだったからしらね……。確か昔、兄さんが長い方が好きだって言ったからかしら」
ブラコンか。
まあ知っていたが。
「じゃあ髪を切ったことで生徒会長から嫌われるんじゃないのか」
「馬鹿にしてるの? 兄さんがこの程度の理由で私を嫌うわけないじゃない」
昨日まで兄に嫌われていると思ってビクビクしていた奴の台詞とはとても思えないな。
まあ言ったら手刀が飛んできそうなので言わないけど。
「ずっと長い髪で過ごしてきたから愛着も湧いていたし、全く躊躇いがなかったと言えば嘘になるけれど、これは一種のケジメ。ーーいいえ、決意ね」
鈴音は力強い瞳で、オレの目を真っ直ぐ見つめてくる。
「私はまだ、私の『答え』を見つけられていない。だけど決して足を止めるつもりはない。成長し続けるわ。そして私は私なりのやり方で、不良品と呼ばれるDクラスをAクラスに引き上げて見せる」
初めて会話した夜の出来事が思い出される。
生徒会長に冷たく拒絶され傷つきながらも、絶対にAクラスに上がると大言を吐いて見せた。決して諦めることのない不屈の精神力。その瞳の輝きを。
「綾小路くん、あなたに勝つわ」
競い合う『敵』としては、まだまだオレの足元にも及ばない。
それでもやはり、オレは彼女にーーーー
「ああ、期待させてくれ」
最近思うことがある。
椎名ひよりとも坂柳有栖とも違う。だけど2人と等しく、堀北鈴音もオレにとっては特別な人間であることを。鈴音の成長に、とても心を躍らせていることを。
鈴音もまた、ひよりや有栖と同じく一緒に過ごせるだけで楽しいと思える
■ ■ ■ ■ ■
「綾小路くん。堀北を退学にしてよ」
鈴音といい、須藤といい、軽井沢といい、Dクラスは魔境だな。
良かったぁ、Aクラスで。
◇堀北学
・「妹が嫌いなの? そうじゃないなら会話して?」と綾小路に言われ、会話の席を設けられた。
◇堀北鈴音
・心機一転。髪を切った。