ようこそAクラスの教室へ   作:yadooo

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39話:夏休み②

 真澄とは友達だが、真澄と2人だけという場面はあまり多くはない。

 その大半の理由が有栖と一緒に居るからなのだが、珍しく真澄が1人でケヤキモールのベンチに座っていた。

 

「待たせたか?」

 

「待ってない。移動するわよ」

 

 占いの営業開始は10時から。今はまだ9時30分。移動するにはまだ早いように思ったが、既に一組だけだが並んでいた。

 

「真澄は占いとかに興味があるんだな」

 

「偶に見る程度よ。大して興味はないわ」

 

「……ならどうして来たんだ?」

 

 真澄がどこか遠い目で乾いた笑みを零す。

 

「占いを本気で信じている人はきっと少ないわ。でもね、自分に都合の良い結果が出たら嬉しくなって信じたくなるし、自分にとって不都合な結果が出たら気分が下がったり、時として不安になったりもするのよ」

 

「言いたいことは分かるが、突然どうした?」

 

「たかだか占いであったとしても期待はするし、縋りたくなるの」

 

 そんな「分かる?」……みたいな目で見られてもよく分からない。つまり何が言いたいのかと再度問うと、肩を割と強めに叩かれた。なぜ?

 

 

 先頭の男女のグループが仮施設から出て行き、「どうぞ」と呼ばれたので真澄と中に入る。

 薄暗い部屋の中はオレが勝手に抱いていたイメージ通りの光景が広がっていた。テーブルに置かれた分厚い本が数冊と、真ん中に置かれてあるやや大きめの水晶玉。そして部屋の主である、占い師とおぼしき老婆はフードを被って待機している。雰囲気だけは一級品だ。

 

 背もたれのない丸椅子に座ると、占い師は薄く笑い右手を動かす。

 机の下から取り出される小型のカードリーダー。どうやら料金表のようだが、世界観が一気に損なわれた感じだ。まあ別にいいんだが。

 ええと、何を占ってもらえるんだ。

 

「あ、コイツには恋愛だけで十分です」

 

「え?」

 

 オレが料金表で何があるのかを確認するより先に、真澄がそう言ってオレを指さす。

 

「嬢ちゃんは?」

 

「基本プランで」

 

「ほっほ。相分かった」

 

 真澄は学生証をかざしてピッ、とポイントを支払う。

 

「いや、オレも基本プランで良いんだが」

 

「なら基本プランも占ってもらえばいいじゃない」

 

「……まあ分かった」

 

 真澄が何を考えているか分からないが、これといって拒否する理由もない。

 オレもポイントを払い、占い師の指示に従い名乗ってから手相を見せる。

 

「むむむ、お主。無気力な顔をしておりながら、なかなかのプレイボーイであるようだな。恋愛線が愉快なことになっておるぞ」

 

「愉快って」

 

 何だその表現は。しかもプレイボーイでもないし。

 

「……なるほど、お主は幼少期から過酷な生活を送っていたらしい」

 

 急に話が飛んだな。しかも、大分アバウトだ。誰だって過去に1つや2つ程は経験しているだろう。

 

「そのせいで感情線が異常なまでに薄くて短かったが……どうやら良い出会いと良い経験を積んだようだの。やや薄いが、それでも()()の感情線が新たに刻まれておる」

 

二股……

 

 オレの隣で真澄が何かを呟いた気がする。良く分からないが多分誤解だな。

 

「そして同時に女難の相も出ておるの。せいぜい気を付けるが良いさ」

 

「それは気を付けて何とかなるんですか?」

 

「今のままではどうしようもないの」

 

「……異性とはなるべく関わるなってことですか?」

 

「今更それをやってもただの時間稼ぎにしかならんじゃろう。周囲がお主を放っておかんし、諦めなされ」

 

 詰みか?

 

「すみません、コイツの相手……パートナーがどんな相手だとか分かります? 例えば、読書が好きなのんびりした相手だとか、チェスが得意で性格の悪い相手だとか」

 

 前者はともかく後半。

 

「既に運命的な出会いを果たしているようだが、それが誰かまでは分からん」

 

「それは結婚相手とかもですか? てか、結婚出来るんですか?」

 

「……暗雲が立ち込めておるが、それを払えばあるいは……。出来るか出来ないかすらも、こうもハッキリ見えないのは大分珍しいのぉ」

 

 結婚か……。

 全然想像出来そうにないな。 

 

「ならどんな相手とコイツの相性が良いとかは分かりますか?」

 

「嬢ちゃんは保護者か何かなのかい? ……まあ良い。……人格破綻者でもない限り、基本的にどんな相手とでも上手くやって行けるだろう」

 

「つまり節操なしってことね」

 

「おい」

 

「そういう見方も出来るの」

 

 おい。

 

「宿命天中殺を持つ小僧よ。あっちこっちに手を伸ばすのは自重すべきじゃぞ」

 

 小僧って……。いや、それよりもいきなり新しい単語が出て来たな。真澄も疑問符を浮かべている。

 

「何ですか、その宿命天中殺って?」

 

 占い師が説明してくれる。

 宿命天中殺とは生まれた時から運の悪い不幸体質らしい。ただし一生不幸が続くというわけでもなく、あくまで個性の一つであり、あまり重く受け止める必要はないとか。

 

「宿命天中殺は生まれながらに様々な試練を背負う運命(さだめ)にある。しかし、それを打破するだけの素質も持っている。決して挫けず突き進めば新たな道が開けるだろう」

 

 興味深い話ではあったが、何一つ具体的じゃないな。一応頭の片隅には留めておくが。

 

 オレの番が終わり、次に真澄の占いが始まるが、占い師は学業、金運、恋愛などをありきたりな内容をすらすらと答える。なんかあっさりとして適当じゃないかと感じるが、真澄の方もどうでも良さそうに聞いていた。

 

 

 ◇

   

 

「真澄はここに来るのは初めてじゃないな?」

 

「ええ、3回目よ」

 

 3回て……。最低5千ポイントと安くはないのに、ご苦労様である。

 

「誰と来たかは聞かないわけ?」

 

「流石に分かる」

 

「でしょうね」と眉間に皺を寄せながら呟きながら、真澄は携帯を操作し始める。

 

「どこか食べて行くか? もちろん奢るぞ」

 

「何言ってんの。また並ぶわよ」

 

「……お前こそ何を言っているんだ?」

 

「うるさいわね、良いから速くこっち来なさい」

 

 ちょっとイラっとした顔でオレの肩を叩き、複数ある占いの中で全く同じ列に並び始める真澄。せめて違う占い師じゃダメなのか……。

 

 

 

 

 ◇

 

「こんにちは、清隆くん。神室さん」

 

 5分程列に並んでいると、水色のワンピースを着たひよりが姿を現した。毎日可愛い。

 

「神室さん、本当にありがとうございます」

 

「別に良いわ。ただし、今回だけよ」

 

 真澄は言葉ほどキツくない声音で「やれやれ」とひよりと場所を入れ替える。

 

「じゃっ」

 

 真澄が去って行き、列に残されるオレとひより。

 あー、なるほどね。

 前々から思っていたけど面倒見良いよなぁ、真澄()()()()()は。 

 

 ひよりと雑談しながら時間を潰し、再び占いの部屋へ。

 フードを被った老婆がオレを見て「また来よった」と言葉を漏らす。オレも「先ほどぶりです」と言葉を返しておいた。

 

「説明は不要じゃの。2人の相性を占えば良いのかい?」

 

「はい、お願います」

 

オレとひよりの顔、手相を見て占った結果を話し始める。

 

「小僧が()()なったのは嬢ちゃんのおかげのようだ。喜ぶと良い。お互いの相性は抜群に良い。『運命の相手』と言っても差し支えないの」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「だがしかし、小僧は宿命天中殺の持ち主じゃ。運命が捻じ曲がっておる。普通ならハッピーエンドで終わるところが道を外れて不可解な軌跡を辿る恐れがある」

 

「なら、どうすれば良いですか……?」

 

「距離を置くのは厳禁。しっかりと繋ぎ止めておきなさい」

 

「分かりました。ありがとうございます。……そういうわけですから清隆くん。あまり変な所に行かないように、しっかりと見ておきますからね」

 

「…………………」

 

「ほっほ。愛されておるの小僧。…………小僧? ……し、死んでる……」

 

「ハっ!?」

 

 死んでいないが、危うく魂を持っていかれるかと思った。

 天使(ひより)と運命の相手って…………えぇ、前世でオレはどれだけの徳を積んできたんだ?  

 怖い。オレはどうやら宿命天中殺とかいうやつみたいだし、これからドンドン不幸が降りかかって来るとかないよな? 試練という名の無理難題を押し付けられたりしないよな?

 

 ……知らなかった。

 人は幸せの許容範囲(キャパシティ)を超えると、逆に不安になるようだ。()()()()では知り得なかったことを知り、オレはまた一つ賢くなってしまった。

 

 

 ◇

 

 喜色の色を隠さないひよりに手を引かれながら部屋から出ると、とても良く知る顔が視界に映り込んできた。

 

「ふふ、こんにちは」

 

 2人1組の列に、有栖が1人で堂々と並んでいた。

 

「それでは清隆くん、坂柳さん。また後で」

 

 去って行くひより。

 つい先ほど一つ賢くなったオレは、後ろに並んでいるカップルと思わしき2人に「すみません」と一声掛け、有栖の隣に並ぶ。「何だコイツ」みたいな目で周囲に見られている気がするが無視。

 

「……普通に皆で一緒に来れば良かったんじゃないか?」

 

「結局やることは同じですよ」

 

 ……そうか。

 

 そういうわけで3度目の占いの部屋へ。同じ日に3回というのはきっとオレが初だろう。

 占い師である老婆が「小僧……」と呆れた声で言い、オレは開き直って「よろしくお願いします」と初めて来たような対応を取った。

 

「……2人の相性を占えば良いのかい?」

 

 オレと有栖の顔と手相を見る占い師の老婆。有栖はともかくオレも必要か? 今日だけで3回も手相を見られているぞ。

 

「よもやとは思ったが、こちらの嬢ちゃんも小僧にとっての運命の相手でもあるようだ」

 

「ふふ、当然ですね」

 

「……運命の相手ってそんな複数も居るんですか?」

 

「別に色恋が全てではない。先ほどの嬢ちゃんにも言えることだが、お互いの魂を成長させられる相手ならば『運命』と呼べるだろう」

 

「はぁ……?」

 

「小僧もそうだが、嬢ちゃんの方も小僧から良い影響を受けているようだの。新しい感情線が刻まれていたのは小僧のおかげだったか」

 

「退屈しないで済んでいますからね」

 

 その後も「2人の相性はすこぶる良い」とかの好意的なお言葉を頂いた。部屋を出る時に老婆から「刺されないように気を付けるのだぞ」と有難いお言葉もついでに頂戴した。

 

 

 

 

 

 

  ◆

 

 

「真澄さん、ありがとうございました」

 

「神室さん、ありがとうございます」

 

「別に終わったことだからもう良いけど、坂柳も椎名も占い程度で大袈裟よ。別に良いじゃない、2人の相性が悪いって占われてもさ」

 

「全然良くないですよ」

 

「ええ、清隆くんがショックで寝込んでしまいます」

 

「…………あっそ。とはいえ、アイツは基本的に誰とでも上手くやれるって占われたわけだけど」 

 

「節操なしですね」

 

「英雄色を好むというやつでしょうか」

 

「……ま、せいぜい頑張りなさい」

 

 真澄は奢ってもらったクリームが増し増しのフラペチーノに口を付ける。

 甘い。

 




◇神室真澄
・「相性占いでもしもがあったら嫌だから綾小路がどんな感じで占われるかを教えて」と、2人から頼まれた少女。 既に椎名も坂柳も各々、綾小路との相性を占った後での所業である。
 石橋を叩いて渡るとはまさにこのこと。流石の2人も神室にはポイントを支払って『依頼』した。

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