44話:体育祭準備①
◆
それは夏休みでの生徒会での出来事。
「……何ですか、このクソ……失礼、ゴミイベントは?」
「綾小路くん、あんまり変わっていないよ……」
「いや、一之瀬だって思わないか? どれだけ頑張ろうと全体がマイナス分にしかならない酷いイベントだって。しかも、ショボい個人報酬でそれを誤魔化そうとしているのが更にセコい。ペナルティはしっかりとあるくせに」
「そ、そうかも……?」
一之瀬は苦笑いを浮かべながら、助けを求めるように生徒会長と南雲、橘の方に目を向ける。
「ま、綾小路の言う通りに確かにしょぼいっスよね」
「だが、これが学校側が提示してきたものだ」
「なら
「ボロクソ言いますね……」
「クラスメイト皆で頑張った分、結果としてプラスを得る。そっちの方が明らかに健全だしモチベーションだって上がるはずです」
「……お前の言い分は尤もだな。一度、学校側に掛け合ってみよう」
「面白そうっスからオレも付いて行きますよ」
「会長、私も!」
生徒会長、南雲、橘が席を立ち上がる。
勝ったな。オレまで付いて行く必要はないし本でも読もう。もしも負けたら……その時は帰ってひよりと有栖、真澄と遊ぶ。
「にゃはは……。相変わらず綾小路くんは凄いね」
◆
2学期の始め。
午後の授業は2時間ホームルームになっている。
プリントを手に持った真嶋先生が説明を始める。
「2学期は9月から10月初めてまでの一カ月間、体育祭に向け体育の授業が増えることになる。新たな時間割表と共に体育祭に関わる資料も配っていく」
体育祭。
学校生活における一大イベントの一つである。
オレはとても楽しみだが、当然ながら全員がそういうわけではない。オレのように喜ぶ者もいれば、落ち込んだり不安そうにしたりと、運動を毛嫌いしている生徒も割といる。
「先生、これも特別試験の一環ですか?」
クラスを代表して葛城が挙手して質問する。こんな分かりやすい
「どう受け止めるのもお前たちの自由だ。どちらにせよ、各クラスに大きな影響を与えることにはなるだろう」
肯定とも否定とも取れない曖昧な答えだ。運動が嫌いだからといって露骨にサボる生徒はAクラスにはいないとは思うが、クラスの命運に関わると言われてしまえば大きなプレッシャーにはなるだろう。
既知の情報ではあるが、オレは配られた資料に目を通す。
「資料に目を通して気付いている者もいるだろうが、今回の体育祭は全学年を2つの組に分けて勝負する方式を採用している。お前達Aクラスは赤組に配属が決まった。そしてDクラスも同様に赤組として戦うことになる」
つまり、この体育祭の間はDクラスが味方ということだ。
AクラスとDクラスが赤組。
BクラスとCクラスが白組となり、体育祭は赤組対白組で行うことになる。
Dクラス。鈴音と桔梗のクラスで、最もオレと縁のあるクラスだろう。
交友関係で考えれば普通に嬉しいが、戦力として見るとどうだろうか。運動能力が高い生徒は須藤ぐらいしか分からない。
◇体育祭におけるルール及び組分け。
・全学年を赤組と白組の2組に分ける対戦方式の体育祭。
・内訳は赤組がAクラスとDクラス。白組がBクラスとCクラスで構成される。
◇全員参加競技の点数配分(個人競技)
・結果に応じて1位15点、2位12点、3位10点、4位8点が組に与えられる。
・5位以下はそこから更に1点ずつ下がっていく。団体戦の場合は勝利した組に500点が与えられる。
◇推薦参加競技の点数配分
・結果に応じて1位50点、2位30点、3位15点、4位10点が組に与えられる。
・5位以下はそこから更に2点ずつ下がっていく(最終競技のリレーのみ上記の3倍の点数が与えられる)
◇赤組対白組の結果が与える影響
・全学年の総合点で負けた組は全学年等しくクラスポイントが100引かれる。
◇学年別順位が与える影響
・各学年、総合点で1位を取ったクラスにはクラスポイントが100与えられる。
・総合点で2位を取ったクラスのクラスポイントは50与えられる。
・総合点で3位を取ったクラスはクラスポイントは変動しない。
・総合点で4位を取ったクラスはクラスポイントが50引かれる。
生徒会長、南雲、橘が頑張った。
全体的にマイナスにしかならなかったイベントで、少しだけクラスポイントのマイナス分が減ったのだ。(プラスにならないので渋い)
◇個人競技報酬(次回中間試験にて使用可能)
・各個人競技で1位を取った生徒には5000プライベートポイントの贈与もしくは筆記試験で3点に相当する点数を与える。
・各個人競技で2位を取った生徒には3000プライベートポイントの贈与もしくは筆記試験で2点に相当する点数を与える。
・各個人競技で3位を取った生徒には1000プライベートポイントの贈与もしくは筆記試験で1点に相当する点数を与える。
(いずれの場合も点数を選んだ場合、他人への付与は出来ない)
・各個人競技で最下位を取った生徒にはマイナス1000プライベートポイントのペナルティが科せられる。
(所持するポイントが1000未満の場合は筆記試験でマイナス1点を受ける)
◇反則事項について
・各競技のルールを熟読の上遵守すること。違反した者は失格同様の扱いを受ける。
・悪質な物については退学処分にする場合有り。それまでの獲得点数の剥奪も検討される。
◇最優秀生徒報酬
・全競技で最も高得点を得た生徒には10万プライベートポイントを贈与する。
◇学年別最優秀生徒報酬
・全競技で最も高得点を得た学年別生徒3名には各1万プライベートポイントを贈与する。
◆全競技終了後、学年内で点数の集計をし下位10名にペナルティを科す。
・ペナルティの内容は各学年ごとに異なる場合があるため担任教師に確認すること。
「最後のペナルティの内容だが、お前達1年に科せられるのは次回筆記試験におけるテストの減点だ。総合成績下位10名の生徒は10点の減点となる」
体育祭は楽しみだが、それとは別に酷いペナルティである。加点はショボいのに、減点は大きい。有栖は勿論、運動の苦手なひよりも心配である。
◇全員参加種目
①100メートル走
②ハードル競走
③棒倒し(男子限定)
④玉入れ(女子限定)
⑤男女別綱引き
⑥障害物競走
⑦二人三脚
⑧騎馬戦
⑨200メートル走
◇推薦参加種目
⑩借り物競争
⑪四方綱引き
⑫男女混合二人三脚
⑬3学年合同1200メートルリレー
「競技の多い理由だが、この学校の体育祭では応援合戦や組体操などは一切用意していない。あくまでも体育祭は体力と運動神経を競う行事だからな」
とても残念である。応援合戦や組体操に興味があったんだがな。
「それから非常に重要なことだが、ここに参加表と呼ばれるものがある。お前達はこの参加表に、個人競技や推薦競技で、自分達で各種目にどの順番で参加するか、全てを決めてもらうことになる」
自分たちで計画を立て、考えて勝ちに行く体育祭。
純粋な運動能力はもちろん、参加表もクラスの命運を握るものになるだろう。
その後も葛城を中心とした何人かが質問を重ね、区切りがついたところで話が打ち切られる。
「次の時間は第一体育館に移動し、各クラス他学年と顔合わせとなる。以上だ」
◇
体育館に集められた総勢400名以上に及ぶ大勢の教師と生徒。
「3年Aクラスの藤巻だ。今回赤組の総指揮を執ることになった」
てっきり生徒会長が総指揮を執るかと思っていたので意外だった。
その後も藤巻はありがたくも、そして何とも曖昧なアドバイスを送ってくる。
「全学年が関わっての種目は最後の1200メートルリレーのみ。それ以外はすべて学年別種別ばかりだ。今から各学年で集まり方針について好きに話し合ってくれ」
藤巻の言葉を皮切りに、3学年、2学年がそれぞれ別々に動き出す。
オレ達1年も動き出すべきだが、椅子に座っている有栖がいるし、
そう思っているのだが、なかなかDクラスが近付いて来ない。
お互いを探り合うような、微妙な隙間がAクラスとDクラスの間にある。まあクラス別での戦いから、いきなりの協力態勢だ。頭では分かっていても、目の前でこうして対面して見て改めて戸惑っているのかもしれない。
埒が明かないと思ったのか、葛城が先頭に立つ。同じタイミングで、鈴音がDクラスの先頭に立ち、少し遅れて平田も並んだ。
「奇妙な形で共闘することになったがよろしく頼む。出来れば仲間同士で揉め事を起こすことなく力を合わせられればと思っている」
「ええ、同じ気持ちよ。こちらこそよろしく頼むわ」
「よろしく、葛城くん」
葛城と鈴音、平田が近距離で互いに協力していくことを表明。
「クラスの方針はそれぞれあると思うがーー」
葛城、鈴音、平田の3人の会話が話を進めるが、詳細を詰めるようなことはしない。いや、出来ないし、今の段階では特に話し合う内容もない。お互いに適切に距離を取りながら、定期的にミーティングを取ることになった。
解散する際、鈴音と目が合った。
昨日の今日だ。思いっ切り睨まれた。
桔梗とも目が合った。
プイっと目を逸らされた。
◇
本番に向けてまず最初に決めなければならないのは2つ。全員参加の種目に出る順番と、推薦競技に誰が、何の種目に出るか。
基本的な2つの方針。能力制か挙手制か。ほぼ全員の意見によって能力制に決まった。
Aクラスは毎月10万を超える額を貰えているし、船上試験で獲得したポイントもある。報酬の加点が欲しいほど学力に不安を持つ生徒もいない。
現実的で妥当な方針だ。クラスポイントも絡んでいるし、きっと全クラスが勝つ為に能力制を採用するだろう。
方針が決まれば、次にやることは個人の運動能力の把握。
Aクラス全員でグラウンドに集まる。
まずは100メートル走と、男女共に記録を取っていく。
「これは……平均以下では?」
椅子に座りながら有栖が呟く。記録を取っているは葛城なので正確な
男子で一番足が速いのは鬼頭で、次に橋本。葛城は平均より少し上で、大半が平均、もしくは平均以下の運動神経だ。他クラスの状況は分からないが、総合力は決して高いとはいえないだろう。
「真澄が女子で一番なのは正直意外だった。運動部より足が速いって何で美術部なんだ?」
「えぇ、勿体ないですよね」
普段真澄をパシらせている有栖がすまし顔で言う。
「清隆くんは今回は真面目にやるんですか?」
「手を抜く理由は特にないからな。真面目に楽しませてもらうつもりだ」
「なるほど……」
「有栖は何かやりたいことでもあるのか?」
「分かってしまいましたか」と、オレの言葉に有栖は微笑みを携えて頷く。
「このまま普通にやっても面白くないので、私もクラスの為に貢献したいと思います」
「手伝うか?」
「清隆くんは体育祭を楽しんでください。それだけで十分ですよ」
「分かった。まあ、葛城に話しは通しておけよ」
「ええ、葛城くんにも協力してもらいますからね」
船上試験のように裏で勝手に進めず、かつ葛城に協力を仰ぐということは、正攻法か。抜け穴を探すのは難しいし、取れる手段は限られているからな。交渉でもするのだろうか。
「いつまで駄弁ってるのよ、綾小路。次はあんたの番よ」
女子で一番足の速い真澄が呼吸を整えながら戻って来る。
「清隆くん、わざわざ本気を出す必要はありませんが、意味もなく負けたら承知しませんよ」
「本気を出すなって言っておきながら何言ってんのよ。ま、頑張んなさい」
友達2人に見送られながらスタートラインに立つ。共に走る重森、的場に一声掛け、走り出す。
負けるなと言われたが、鬼頭のタイムをオレは知らない。全力で走る必要がないのは分かるが、こんなことなら並走しておけば良かった。7、8割程で力で走っておく。
「速いな……。ほんの僅かだが鬼頭のタイムを上回っている」
記録係の葛城がそう言ってオレのタイムを知らせてくれる。ついでに鬼頭のタイムを見せて貰うとかなり僅差だった。
「薄々そうじゃないかと思っていたが運動も出来んのかよ、お前」
橋本だけじゃなく多くのクラスメイトがオレに注目していた。中から「頼もしい」なんて女子の声も聞こえ、好意的な視線がバシバシと飛んでくる。足が速いとモテるなんて話をどこかで聞いた覚えがあるが、もしかしたら真実なのかもしれない。
握力測定も鬼頭より僅かに高い80キロを出してAクラスではトップになり「ゴリラなの?」と真澄からお褒めの言葉を貰った。
因みにゴリラの握力は400~500キロぐらいなのでオレは全然ゴリラではない。
◇綾小路清隆
・体育祭は楽しみだが、それはそれとして報酬がショボいので文句を言った。ついでに生徒会がどこまで学校のルールに干渉することが出来るか見たかった。
◇坂柳有栖
・仕方がないとはいえ体育祭では出番がない。なので別のアプローチを取ることにした。
◇神室真澄。
・美術部なのに運動の出来る少女。
もっと登場して絡んで欲しいと思うキャラは?(参考程度に)
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椎名ひより
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坂柳有栖
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神室真澄
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堀北鈴音
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櫛田桔梗
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山村美紀
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森下藍
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その他