ようこそAクラスの教室へ   作:yadooo

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5話:そして1カ月が経った

 月末の3時間目。

 真嶋先生は告げる。

 

 成績表に()反映されない抜き打ち小テストを行うと。

 

 恐らく教室の殆ど生徒が「きた!」と思ったことだろう。葛城の予想は見事に当たったのだ。

 

 

 一科目4問、全20問で、各5点配当の100点満点。

 

 問題を解き始めて、拍子抜けしてしまう。

 どの問題も非常に簡単なのだ。受験の時に出た問題の方がまだ難しかった。

 そう思いながら最後まで問題用紙に目を通すと、ラスト3問は桁違いの難しさだった。明らかに異質。数学最後の問題は特に高校1年で解けるようなレベルじゃないように見える。

 

 

 さて、何点ぐらいを取ろうかな。

 

 この日の備えて、クラスメイト達はきちんと勉強しているはずだ、多分。

 授業態度の様子からも須藤のような勉強嫌いの生徒はきっといないはず。

 全体的に問題は簡単。最後の3問は難しいが、それでも1問ぐらいは解けるはずだろう。そうなると、皆80~85点ぐらいかは取るか? 支給されるポイントに影響があるなら、平均点以下は取らない方がいいか。クラスの足は引っ張りたくないしな。

 

 

 

 

 

 

 

 5月の最初。

 振り込まれたポイントは9万4千。

 変動している。

 

 坂柳に確認しても同じポイント数だった。ただ、椎名に支給されたポイントは6万2千だった。

学年別にポイントが変動して決まる可能性も疑っていたが、どうやら支給されるポイントはクラス別になっているようだ。

 

 そして朝のホームルーム。

 真嶋先生は各クラスの成績が書かれたポスターを黒板に貼り出す。

 

 

Aクラス:940

 

Bクラス:650

 

Cクラス:620

 

Dクラス:70

 

 

 そこから明かされる高度育成学校の持つSシステムの全容。

 

 クラスポイント(cl)とプライベート(pr)。毎月に振り込まれるprはcl×100の数字によって決まること。

 生徒たちはランダムでクラス分けされたのではなく、優劣順にAからDに振り分けられていること。しかしclの数字はクラスのランクに反映されており、clの数字によってクラスが変動する可能性があること。

 そして最後に、国の管理下にあるこの学校の誇る高い進学率・就職率の恩恵は、Aクラスにしか授かることが出来ないこと。

 

 つまりこれからはB、C、DのクラスはAクラスを目指すための熾烈な競争が始まることを意味する。

 オレ達Aクラスもまた、下位のクラスに引き摺り落とされないように抗っていくことになるだろう。

 

 

 それから真島先生は小テストの結果を貼り出した。

 

 

 一番上には坂柳の名前がある。

 驚きの全教科100点。あの難易度の高い問題を全て解いたことを意味している。

 

 「凄いな坂柳」

 

 周囲の視線を集めながら坂柳は優雅な微笑む。

 それは得意気な表情とは違い、取れて当たり前といった余裕を感じられる。

 

「ふふ、綾小路くんも流石ですね」

 

「いや、オレは……」

 

 坂柳に集まっていた視線が、隣のオレに移ってきたいるのを感じる。

 

 大半の生徒が75点~85点を取っている中、オレは全教科88点。

 ケアレスミスさえも調整して揃えた点数が悪目立ちしている。テスト結果が貼り出されることを知っていれば、こんな遊び心を発揮することはしなかったのに……。

 

 

「中間テストまで後3週間。お前達なら大丈夫だろうが、油断せず取り組むように。坂柳だけでなく、お前達全員が満点を取れることを期待している」

 

 そう言って真嶋先生は教室を出て行った。

 教室内はそこそこざわついている。

 

 まあ、無理もないだろう。

 入学したら将来が安定だと信じていたのに、後出しで条件を出されたのだから。見方によっては詐欺にあったようなものだ。今はAクラスとはいえ、3年後も同じAクラスのままでいられる保証はどこにもない。クラスメイト達の焦りや戸惑いが伝わってくる。

 

 そんな中、葛城が立ち上がり教壇に向かっていく。

 

 

「皆さん、静かにしてください」

 

 

 誰もが葛城の動向に注目する中、凛とした声が響いた。

 意識外から差し込まれたその言葉よって、ピタリと教室に静寂が訪れる。

 葛城も思わず足を止め、声の主であるオレの隣人に目を向ける。

 

「これから葛城くんから大切な話がありますよ」

 

「えぇ……?」

 

 そんなのわざわざ言わなくたって皆分かってるだろう。

 出鼻を挫かれた葛城が少し可哀そうだった。

 

 

 

 

 

 

 昼。

 いつも通り坂柳と椎名の3人で昼食を食べ終わる。

 今回は、いつもよりも会話が殆どなかった。別にオレ達3人共、決して口数が多いタイプではないが、それでもいつもとは空気が違う。

 坂柳に目立った変化はないが、椎名の方はどこかよそよそしい。きっとオレも、その雰囲気に引っ張られている。だけど、いつまでもこのままではいられない。

 向き合う必要がある。

 

 これから本格的に始まり出す、クラス闘争。

 これにより、事実上は他クラスである椎名と敵対関係になってしまった。

 もしかしたら椎名は、敵として割り切り、友達としての関係を断ちたいと思っているのかもしれない。椎名が本気でAクラスを目指している場合、ここで縁を断つのが彼女の為になるのかもしれない。

 

 だけどオレはーー。

 

「……オレはAクラスだし、そして坂柳の手前で言うのも何だが、正直に言うとAクラスで卒業することに興味はない。どのクラスで卒業したって別に構わないと思っている」

 

 

 椎名ひより。

 入学したその日から、オレと友達になってくれた少女。

 ()()()()()()()の『友達』

 椎名とはまだ1カ月程度の付き合いだ。

 それでも、オレは椎名と過ごす時間を。一緒に昼食を食べ、共に本を読み、感想を伝え合う。そんな彼女とのありふれた『普通』の日常を尊く思っている。手放すには惜しいと、感じている。

 

 

「そんなことよりも……」

 

 

 伝えるべき言葉。

 これからの為に、今伝えなければならない言葉。

 今オレが感じている想いのままに口を開く。

 

 

「オレは椎名と友達でいたい。これからも付き合いを続けていきたいんだ」

 

 

 するりと口から出てきた言葉。

 それがオレの嘘偽りのない本心。

 椎名は目を丸くしながら、オレと目を合わせた。

 口を開こうとして一度閉じ、それからゆっくりと顔を綻ばせる。

 

「私も……私も、綾小路くんとこれからもずっと仲良くしていきたいです」

 

 まるで花が咲き誇るような、綺麗で温かい微笑みだった。

 思わず、呼吸を忘れてしまいそうになる。

 

「良かった……本当に、良かったです。綾小路くんも同じ気持ちで」

 

「オレもだ。もしかしたら椎名とはこれきりで疎遠になってしまうんじゃないかってハラハラしてた」

 

「お互い、似たようなことを考えていたんですね」

 

 椎名と同じ感情を共有出来ていたことにくすぐったさを覚え、言い知れぬ感情が込み上がってくる。

 

 

「……お2人共、場所を考えた方がいいと思いますよ?」

 

「「っ!?」」

 

 お昼故に、大勢の生徒が賑わう学食。

 もちろん全員ではない。だが、周囲にいた何人かの上級生たちがオレ達を見ていた。「甘酸っぱい」「青春だねぇ」なんて声すら聞こえてくる。

 は、恥ずかしい……。

 

「それと椎名さん。私とは別に友達じゃなくてもいいんですか?」

 

 にっこりと笑う坂柳を見て、椎名はあせあせとテンパりだす。

 

「も、も、もちろん、坂柳さんともお友達でいたいです! よろしくお願いしますっ!」

 

「本当にそう思っていますか? 先程までまるで私のことなど眼中にありませんでしたが」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 普段のゆっくりと落ち着いている椎名らしから慌てよう。貴重な光景なのは間違いないが、オレも同罪なので傍観者を気取れない。

 

「オレも謝るから許してやってくれ。お互いにいっぱいいっぱいだったんだ。ワザと坂柳を蔑ろにしたわけじゃない」

 

「……分かってますよ、それぐらいわ」

 

 からかうような微笑みは止まったが、代わりにどこか拗ねたような表情が残った。テーブルの下からオレの脛を杖で小突き、そこからふぅーっと諦めたような溜息を零す。

 

「これからもよろしくお願いしますね、椎名さん」

 

「は、はい、坂柳さん」

 

 そう言ってコクコクと頷く椎名が少し可愛らしかった。

 

 

 

 

「綾小路くん。少し一緒に来て頂きませんか?」

 

 椎名と別れて、教室に入るところで坂柳に呼び止められる。

 断る理由もないので頷き、人気のない廊下まで歩く。

 坂柳がオレを見た。

 いつもとは違う、刃のように鋭い雰囲気を纏っている。

 

「放課後。勝負をしませんか?」

 

「一体何の勝負をするつもりだ?」

 

「私と綾小路くんが共有するモノは一つしかありません」

 

「チェスか」

 

「はい。ただ、これまでのような本気の()()ではなく、全身全霊の真剣勝負を望みます」

 

 カツンと、杖の音が鳴り響く。

 

「ああ、約束しよう」

 

 坂柳は笑う。

 その目は少女のモノではなく、獲物を借るハンターのような鋭さを見せていた。

 

 

 

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