ようこそAクラスの教室へ   作:yadooo

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51話:善は急げ

 葛城にテストの作成を頼まれた後でのこと。

 

「清隆くんは善は急げという言葉を知っていますか?」

 

「高校生で知らない奴の方が少ないんじゃないか?」

 

「そうですよね。……ところで清隆くん。体育祭が終わってから既に1週間以上が経ち、中間テストも終わっているんですよ?」

 

「……悪い、何が言いたいんだ?」

 

 有栖はオレをじとーっと恨めしそうに見てから溜息を吐く。

 

「料理の件です。いつになったら私たちに料理を教えてくれるんですか?」

 

 そのことなら勿論忘れていない。

 ただ有栖と同じように、オレもまたそっちから言い出すのを待っていただけなのだ。

 

「悪かった。それじゃあ今週の土ょーー」

 

「善は急げ。早速今日から教えてもらいます」

 

 食い気味に言われた。

 まあ別に良…………いや待て。普通に不味いのでは?

 

 オレの部屋にはオレ以外の私物が置いてある。言うまでもなく桔梗の物だ。

 その桔梗の私物だが、夏休み以降に女物のハンドタオル、ポーチ、アロマオイルの香りを部屋に広げるリードディフューザー、充電器等々、気付けばそこそこの小物が持ち込まれてある。

  

 別に桔梗とは人には言えない男女の秘め事を行っているわけではない。しかし、恋人でもない少女を部屋に招き入れて一緒に過ごしているという事実は変わらない。それは人には言い触らせない、外聞の悪いやましいことに分類されているのは、世間知らずのオレでも分かる。ひよりや有栖達には特に、だ。

 

「そんな顔せずとも安心してください。椎名さんにも既に連絡してありますから」

 

「あ、あぁ(そうじゃない)」

 

 じ、事後報告。

 いや待て、まだ間に合う。

 

「なあ、明日じゃダメか?」

 

「今日も明日も変わらないでしょう?」

 

「いや、有栖達を招くなら部屋を片付けて掃除しないといけないからな」

 

「清隆くんの部屋は散らかっているんですか? 全然想像がつかないんですが」

 

「むしろ殺風景っぽいわよね。最低限の物しか置いてなさそう」

 

 オレと有栖のやり取りを見ていた真澄が口を挟んできた。いらない援護である。そして別に間違ってもいないが、正解というわけでもない。桔梗が置いていった物が部屋を僅かに彩っているからだ。

 

「お待たせしてしまって、すみません」

 

 どうやって逃れようか必死に考えているところに、図書室の方向からひよりがやって来る。

 

「椎名さん。清隆くんの部屋が散らかっているそうですよ?」

 

「そうなんですか? あんまり想像出来ませんが……でも私は気にしませんし大丈夫ですよ。料理を教えてくれるんですし、片付けなら手伝わせてください」

 

 ま、眩しくて思わず浄化される~っ。

 でも、でもこのままじゃマズいんだ。

 

「い、いや、ひよりにそんな真似をさせるわけにはいかない。掃除もしっかりして綺麗にしておきたいし、やっぱり料理は後日にしないか?」

 

「……清隆くんらしくありませんね。何か隠してませんか?」

 

「ですね。清隆くんのそんな顔は初めて見ました」

 

「確かに。何、なんかやましいことでもしてるわけ?」

 

 流石は友達だ。

 オレの動揺を感じ取ってくるとはな。嬉しいんだが困るぞぉ。

 

「急だったから驚いてただけだ。コホン。……一体何を料理しようかは決めているのか?」

 

「私たちは初心者ですよ? 清隆くんが決めてください」

 

 丸投げ? 別にいいが……ならオレの時と同じで良いか。

 

「カレーにするか」

 

 料理なんて正直レシピ通りに作れば初心者でも一定の味は保証される。しかし、包丁などの道具の扱いは練習しなければ上達しない。カレーなら大きく失敗することもないし、肉も野菜も切るから良い練習になるだろう。

 

「悪いが食材の方の買い出しを頼む。その間にオレは部屋を片付けてくるから」

 

「清隆くん。再三言いますが私たちは初心者です。どんな食材が良いかなどの審美眼はありませんし、そもそも何を買えば良いのかすらよく分かりません。それでも私たちを放置して部屋に戻るんですか?」

 

 前半はともかく後半は携帯で調べれば簡単だと思うんだが……やばいな。じとーーっと、流石に疑いの目が強くなってきている。

 

「鞄を置きたいですし、先に清隆くんの部屋に行きますか」

 

 まずーーーいっ!

 

「に、二度手間になるし買い物を済ませてからで良いだろ」

 

「…………」

 

 有栖だけでなく真澄の目も鋭くなった気がするが無視。いきなり部屋に来られるのは詰む。

 

「椎名さん、どう思います?」

 

「わ、私は信じたいと思います」

 

「…………」

 

 んん、胸がズキズキしてやや苦しい……? 

 

 これはもしかして……あれか……。

 

 これが……罪悪感……というやつか?

 

 よ、良く分からないが、天使(ひより)を悲しませるのは万死に値する罪だ。どんな犠牲を払ってでも回避しなければならない。

 

 オレは3人に断わってからトイレに避難する。

 流石にトイレに行ったフリをして寮まで戻り、部屋を片付けるには圧倒的に時間が足りない。仮に部屋にこっそり戻って片付けたとしても、その後は何故そんなことをしたのかと、状況証拠だけで有罪判定を食らう恐れがある。

 

 正直取れる手段はかなり限られているし、決して最善とも言えない。

 しかし、覚悟の上だ。

 

 

「もしもし。どうしたの、清隆くん?」

 

 表の声音。周囲に人が居るのか。

 

「桔梗。今どこにいる?」

 

「声が小さくて聞き取り辛いよ。もう一度言って」

 

「桔梗に頼みたいことがあるんだが、今はどこにいる?」

 

 手で口元を隠しながらちょっと大きめの声で言う。

 

「カフェのパレットだよ。それで頼みたいことって?」

 

 とても言い辛い。言い辛いが、時間も限らているし言うしかない。

 

「実は今日、ひよりと有栖に料理を教えることになって、自室に呼ぶことになったんだ」

 

「ふ~~ん。ーーーーで?」

 

 声音の緩急が凄い。周囲に人が居るんじゃないのか?

 

「だ、だからその、部屋には桔梗の私物がいくつか置いてあるだろ? 流石にそれを見られるのはマズいというか困るというか……。つまりオレ達が買い物に行っている間に片ーー」

 

 ブツリと電話が切られた。

 まだ話の途中なんだが、ボタンを押し間違えたのかな?

 

「ーー何よ」

 

 いつもの桔梗の声。

 聞き慣れている声音のはずだが、電話越しでも圧を感じる。

 

「か、鍵はオレの下駄箱に置いておく。だから頼む。せめて桔梗の私物だけでも隠ーー」

 

「清隆くん」

 

 っす?

 

「困れば良いと思うよ」

 

 電話を切られた。

 かけ直すとワンコールだけ鳴った後で、ツーツーと乾いた音が聞こえてくる。

 これが着信拒否というやつか…………。

 

 ん……詰んだ?

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 

 

「席を外してごめんね」

 

「それぐらい構わないけど……何かあったのかい、櫛田さん?」

 

「何かって? 別に何にも……何にもないよ、平田くん」

 

「そ、そう?」

 

「誰からの電話だったの?」

 

「大切なお友達だよ、堀北さん。ムカつくことにね」

 

「……まぁいいわ。それよりも話の続きをしましょう。試験についてだけどーー」

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 

 

 

 ま、まだだ。

 桔梗がダメでも、まだ頼める相手はいる。

 傷を広げる行為にはなるが、ひよりと有栖にバレるよりはマシなはずだ。

 

「綾小路、まだなの?」

 

 廊下から真澄の声。

 え、トイレの前で待機してるのか? おいおいデリカシー。

 

「てか、誰かと話してない? もしかして電話してるわけ?」

 

「してない今行く」

 

 取り敢えず手を洗いトイレをしたフリだけして廊下に出ると、真澄が壁に寄り掛かって待機していた。先に玄関に行っているのか、ひよりと有栖の姿はない。

 

 …………真澄に頼むか?

 …………。 

 …………冷静に考えると、女物の証拠隠滅を別の女に頼むってヤバイな。

 

 それをやらせたら真澄の信用が一気に地の底に落ちそうだ。

 腹を括ろう。 

 嘘をついたり誤魔化そうとしてバレるより、最初から正直に白状した方がきっとマシな結果になる。

 

 じょ、情状酌量の余地はあるよな?

 

「何かさっきよりも顔色悪くない? 大丈夫なわけ?」

 

「大丈夫だぞ(大丈夫じゃない)」

 

 くそ、どこかに青いタヌキでもいないだろうか。

 そうすれば昨日に戻って、部屋の片付けをしっかりと行うのに。

 

 重たい足取りでひよりと有栖の元に向かっていると、ーーピロン♪ と、携帯の音が鳴った。

 メールを見る。

 

『下駄箱に鍵を置いておいて』

 

 あああああああ、ありがとう! ありがとう、桔梗様!! 

 

 天使はひよりだけかと思ったが、桔梗の前世ももしかしたら天使に近しい存在だったのかもしれないな!

 

『マジで助かる。鍵はポストに置いておいてくれ』

 

「急にニヤニヤしてどうしたわけ? 気持ち悪いわね」

 

 なかなか酷い言葉を口にしてくるが、今は全く気にならない。何でも許せてしまえそうだ。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ぉ、お邪魔します」

 

「お邪魔しますね」

 

「お邪魔するわよ」

 

 買い物を済ませ、ひより、有栖、真澄の3人を部屋に招き入れる。

 桔梗の私物がきちんと見当たらないのを確認する。

 

「普通に片付いてますね」

 

「予想通り殺風景ね。物はあるけど、もっと内装に拘っても良いんじゃない?」

 

「くんくん、……女の匂いがしません?」

 

 犬かな?

 

「有栖。それはきっと自分の匂いだ。もしくは……アロマオイルの匂いだな」

 

 桔梗が持ってきて、今も机に置いてあるリードディフューザーを示す。

 

「オシャレですが、あまり清隆くんらしくない物ですね。こういった嗜好品にも興味があるとは知りませんでした」

 

「……物は試しというやつだ。それよりも早速料理を始めるぞ」

 

 これ以上、探偵有栖をやられるのは困る。

 オレは有栖とひよりの背中を押すようにキッチンに導く。

 

「真澄は良いんだよな?」

 

「私は最低限出来るし別にいいわ」

 

 真澄はクールに鞄から本を取り出して読み始める。まぁ、部屋の中を物色して余計なことに気付かないなら何でもいい。

 

 寮の1人部屋のキッチン。当然ながら広いスペースはなく3人だと結構狭い。調理台の上もまな板を2つ同時に置くことは叶わない。2人同時に調理することは叶わないので、先にひよりから教えることにした。

 家庭科の授業で最低限は習っていると口にするひより。

 取り敢えず後ろから見守ると「えい、えい」と固い人参を切り始めた。一応、手の形(猫の手)は出来ているが、手の位置と包丁の位置が離れすぎているし力み過ぎていてハラハラする。

 もしひよりの指がスパーっと行ってしまったらオレは一生後悔するかもしれない。オレはひよりに一声掛け、彼女の後ろから手を伸ばす。

 

「あ、え、き、清隆くん!?」

 

 ひよりの両手に自分の両手を重ね「こうするんだよ~」と丁寧に矯正していく。

 ひよりの赤い耳が見えて手も熱い。オレも内心ではアチアチだが、物凄く頑張って平静さを務める。我ながら大胆なことをしているが、ひよりが怪我をしない為には必要なことだ。本当だぞ。

 

「ーーと、こんな感じだ。残りも今のようにやってくれ。あ、別に失敗して大丈夫だし気楽にな」

 

「は、はい、頑張りますぅ」

 

 俯きながら人参を切り始めるひより。まだまだ動きは硬いが、先程よりも安定感がある。

 

「清隆くん、私にも同じことをしてくれるんですよね?」

 

 勿論構わないが、有栖の場合は杖があるので基本的に片手での調理となる。それ故にオレが補助したら逆に練習にならないんじゃないだろうか。まぁ許可が下りてるならやるが。

 

 そんなこんなで、ひよりと同じように有栖の背後から手を添えたら「ひゃわっ」と可愛げな奇声を上げきた。身体にハンデがあるせいで有栖はやっぱり防御力が低いなぁと思った。

 

 

 ◇

 

「真澄さん、どうかしましたか?」

 

「もしかして、口に合わなかったでしょうか?」

 

「別に何にもないわ。味も大丈夫よ」

 

 オレも見ていたし失敗していないのは確認済。味だってひよりと有栖の手作りということもあってオレの作るカレーより10倍は美味しい。だというのに、真澄の表情がどこか固い。いつもより仏頂面なのが、逆にそれが感情を出さないように意識しているのが分かる。何かあるとは思うが、本人は喋る気がなさそうだ。有栖も軽く首を傾げていたが、取り敢えずはスルーしていた(追求しなかった)。

 

「ところで今回の特別試験。ひよりが問題文の作成を行うのか?」

 

「そうですね。Aクラスと当たらなければ、恐らく私と金田くんが作成することになると思います」

 

 そこら辺の警戒意識はしっかり持っているようで安心した。

 もちろん線引きはするが、龍園がそれを信用するかは別だしな。

 

「Aクラスの攻撃先はどこなんですか?」

 

「Cクラス(一之瀬クラス)ですよ」

 

「なるほど、坂柳さんの案ですね」

 

「ええ。堅実にDクラスを狙いに行くにはつまらないですし、落ち目のCクラスがどこまで落ちていくのか興味もありますから」

 

 体育祭の同盟といい、分かってはいたがやはりCクラスの心を折りに行くのが目的らしい。防御力は低いが攻撃的である。

 

「BクラスはやはりDクラスを狙うんですか?」

 

「そうですね。学力で唯一勝てそうなのがDクラスですが……きっと負けますね」

 

 なんてことないように、ひよりは微笑んだ。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 夕食を終え、1時間程ゆっくりしてから3人は帰って行った。

 一時はどうなるかと思ったが、終わり良ければ総て良し。

 改めて桔梗にお礼をしようと携帯を開くと、丁度そのタイミングでチャットが飛んでくる。

 

「何か忘れ物でもしたか?」

 

 部屋を見て回るが、特にそれらしい物はない。

 首を傾げつつも時間を潰し、連絡通りに10分ぐらいしてからインターホンが鳴る。

 

「鍵は開いてる。入ってくれ」

 

「…………」

 

「どうし……た?」

 

 真澄がオレに向ける眼差し。

 真澄には度々呆れられたり、冷めた目をされたり、睨まれたりすることもあるが、そのどれにも該当しない。

 

 あぁ、この眼差しはもしかしてーー。

 

 

「あんた、女を部屋に連れ込んでるでしょ」

 

 

 軽蔑、か……。

もっと登場して絡んで欲しいと思うキャラは?(参考程度に)

  • 椎名ひより
  • 坂柳有栖
  • 神室真澄
  • 堀北鈴音
  • 櫛田桔梗
  • 山村美紀
  • 森下藍
  • その他
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