小テストが始まる前に真嶋先生が、今回の期末テストにおける組み合わせを知らせてくれる。
Aクラスから
そしてAクラスに問題を出すことになったクラスもまた、
つまり今回の戦いはAクラス対Cクラス、Bクラス対Dクラスの直接対決となる。
正直CクラスをAクラスを指名したことは意外だったが、これはDクラスと指名が被った後のクジ引きの結果らしい(後日知った)
◆ ◆ ◆
「ペーパーシャッフル試験。勉強以外に取れる戦略ってあるのか?」
小テストを終えペアが決まった後で、橋本が椅子を引き立ち上がる。全員に向けての発言ではあるが、視線はオレ達を向いている。
「あるにはあるぞ。とっておきの必勝法が」
「流石だぜ、綾小路」
橋本だけじゃなくて周囲からも感心した反応が返ってくるが、とても簡単なことだ。
「Cクラスが提出する問題用紙を入手する。もしくは、とても簡単な問題にしてもらうか」
「……それはCクラスと交渉するということか?」
葛城の問いに頷く。
「例えばの話、一之瀬から2000万プライベートポイントを支払うから8科目の問題用紙を提出して欲しいと言われたら橋本はどうする?」
「え、あぁ……まぁ提出するな……」
シンプルにもっと自信を持って答えてもいい。オレなら迷わず提出する。
「つまり取引次第では問題用紙を入手出来て、試験に確実に負けないってことだ」
「とはいえ、今のCクラスは簡単なポイントでは頷かないでしょうね」
有栖の捕捉が入るが、その通りだろうう。
Cクラスが負ければマイナス100クラスポイント。Bクラス対Dクラスの結果によってはCクラスがDクラスに落ちることになる。それを抜きに考えても体育祭の挽回はしたいはずだ。それに船上試験によってどのクラスも2000万近くのポイントがあり、ポイントの飽和状態でもあるからな。
「落ち目であるCクラスにとっては何としても勝ちたい試験。とても気合が入っていることでしょう。だからこそ正攻法で勝つことに意味があります」
暗にポイントの取引なんてつまらない真似はしないという有栖の意思である。
「あー、じゃあポイントの取引以外に何か作戦はないのか?」
「ないな。純粋な学力の高さがものをいう試験だ」
全くないわけでもないが、基本的に裏工作が必要となるし、それを行う為に結局はポイントも絡むので面倒だ。
「一応聞くが、Cクラスにポイントを支払って取引した方が良いという者はいるか?」
葛城が周囲を見ながら聞くが、誰も手を上げたりするものはいない。上げ辛い空気かもしれないが、まあ確実に勝ちたいなら最初からBクラスかDクラスを狙えば良かっただけだ。
「それでも取引の話だけはCクラスに持ち掛けましょう」
「何故だ?」
「Cクラスが負けたと時に思うでしょう。やっぱりあの時に取引しておけば良かったと……追加でダメージを与えられるからですよ」
クラスメイトの何人かが「うわぁ」「ドS」と顔を引き攣らせている。
「その為にも、皆さんしっかりと勉強してCクラスに勝ちましょうね」
◇
椎名ひより。
入学初日から出来た大切な友達。
同じ読書の趣味を持ち口数も多い方じゃない。不思議と波長が合い、無言の時間が続いても苦に感じることはない。一緒の時間を共有しているだけで充実感を得られる相手。
オレは無神論者ではあるが、人生で初めての友達がひよりであるという幸福をとても感謝している。まさに天使、神様の御使いだ。
ひよりはオレの1番であり大切な存在だと自覚していたはずだったが、真澄のおかげでオレは自分でも思っている以上に彼女の存在の大きさを知った。自分さえ良ければとーーそんな性根のあるオレが他人を優先している事実に気付けた。
肝心なのが、この気持ちが『恋』なのかどうかだが……。
恋とは特定の誰かに強く惹かれ思いを寄せること。その相手をずっと考えるようになり、ドキドキしたり胸が締め付けられるようになる感情。もっと相手を知りたい、一緒に居たいと思う気持ち……と、恋について改めて調べて出てきた文面だ。
これを一つずつ、ひよりを相手に当てはめて考えてみる。
……………………。
自分のことは自分が良く分かっていると、そう思っていたんだがな……。
「ひより」
久しぶりの茶道物の帰り、山村と別れてそのまま寮のロビーに入ろうとするひよりを呼び止める。
周囲に人が居ないことを確認し、オレは気持ちを落ち着かせるように息を吐く。
「週末、デートしないか?」
言葉にして微かに喉の渇きを覚えた。
ひよりと2人切りという場面は何度もあるし一緒に出掛けたこともある。しかし思えば「デート」と改めて口にしたことはなかった。
目をパチクリさせて固まるひより。
唐突だったか?
だが、他にデートの誘い方をオレは知らない。
「あー、ダメか?」
「だ、ダメじゃないです」
顔を朱に染めながら手を振るひより。それを見て深く安堵するオレ。
「どこか行ってみたい場所とかあるか?」
「えっと……」
言葉を詰まらせるひよりと見てふと我に返る。
勢い余っていきなり丸投げする形になってしまった。
「悪い、今のはなしだ。オレが考えるけど、それで良いか?」
「その、よろしくお願いします」
ひよりが控えめに頷く。
学校の敷地内で、やれること行ける場所は限られている。それでもひよりに喜んでもらえる一日にする為に、精一杯にデートプランを考えよう。
取り敢えずは後でネットで調べてみるか。
◇ ◇
時刻は20時と少し過ぎ。
「良いご身分ね」
部屋に入るなり開口一番、桔梗は言う。
「いきなりだな」
ひよりと有栖に料理を教え、作られた料理を一緒に食べる。そして20時近くまで部屋でゆっくりしてから3人が帰宅する……そんな流れが土日を挟んでここ5日連続で続いている。
当たり前の話だが、ひよりと有栖、真澄がオレの部屋にいる時間が長い程、桔梗がオレの部屋で過ごす時間が減っていく。
それが桔梗には不満なようだが、この件に関してオレから特に言えることはない。それに、どうにかしろと言われても困る。
「……いつまで続けるの?」
「それはオレにも分からない」
「てか上達してんの?」
「してる」
ひよりも有栖もレシピ通りにきちんと料理を作ってくれるので正直もう教えることは何もない。後は練習あるのみ。後ろで見守っていることが殆どだ。
「先に言っておくが、多分桔梗の期待しているような展開にはならないぞ」
桔梗がオレの部屋に入り浸っているように、料理とは関係なしにひよりと有栖、真澄もオレの部屋にやってくる機会が増えていくだろう。桔梗と同じように、オレはそれを嫌だとは感じないし止める気はない。
オレの言葉に桔梗は返答せず、仏頂面のまま近付いてくる。
「……てか、やっぱり清隆くんが今回の問題文を作ってるんだ」
「数学と化学の2教科だけな」
桔梗は適当に相槌を打ちながら横から問題文を覗き込んでくる。
「Dクラスの方はどうだ? Bクラスに対して勝算はあるか?」
「AクラスやCクラスと当たらなかったし何とかなるんじゃない? 勉強会だってしてるし気合だって凄いよ」
最初の一カ月でDクラスはポイントを70まで一気に減らしている。そこから順当にポイントを積み上げ、今では500を超えて試験結果によってはBクラスに上がれるチャンスもある。落ち目であるCクラスとは逆で、Dクラスのモチベーションは高そうだ。
「てか堀北がリーダー面してるんだけど、ぶっちゃけ大した功績上げてないよね堀北ってさ
唐突に始まる桔梗の愚痴。
まあ、いつものことなので驚きはなく、問題分を作りながら耳を傾ける。
曰く、無人島試験では結局龍園くんにしてやられて平凡なポイントで終わっていること。船上試験では全体で2000万ポイントが手に入っているが、別に堀北が何かしたわけじゃないし所詮は棚ぼた。つい先日の体育祭だってAクラス発案の作戦に乗っかっただけだよね、等々。
「7月の冤罪の件では確かに
入れ知恵はしたが、その答えを導けたのは鈴音の力だ。とはいえ、今回は桔梗の愚痴なので頷いて肯定しておく。
「でしょ。いつの間にか軽井沢さんや松下さんとも良好な関係を築ているし、堀北のクセに本当にムカつく。一生ボッチで居ればいいのに」
ボコボコと
4日ぶりだからか、思っていたよりストレスを溜め込んでいたようで、その後も桔梗の愚痴は続いた。
2学期が始まってから鈴音と会話する回数が減ったが、鈴音は鈴音の方で頑張っているようだ。
今回の特別試験。
龍園の使いそうな裏工作はいくつか思い浮かぶが、どれも対策が取れるものばかり。Aクラスでも同じ話をしたが、シンプルに学力の高さが有利に働く試験。クラス全体で勉強し努力した分だけ勝率が高くなる。そう言った意味でも、AクラスがCクラスに負ける可能性は十分にあるな。
*
時計の針が11時に近付いている。
「まだ帰らないのか?」
どんなに遅くても10時前には帰宅している桔梗。それが何故か今もベッドの上に寝転がっている。そろそろシャワーを浴びたいし、桔梗も同じだろう。
「何、帰って欲しいの?」
「逆に聞くが帰らないつもりか?」
「うんって言ったら?」
「ダメた」
桔梗がオレの部屋に来るのは構わない。愚痴を吐くのも一緒に夕食を食べるのも断わりはしない。ただし、線引きはしっかりと行うべきだ。オレと桔梗は友達だが恋人ではない。真澄とのやり取りもあるし、これ以上は裏で
「…………ま、着替えも持って来てないし帰るけど」
着替えを持ってきてオレの許可があれば泊まるつもりだったのかコイツ。
「帰る」
玄関まで見送ると下駄箱の上に紙袋が置いてあった。
「これは?」
「このまま置いておいて」
明日もひよりと有栖、真澄が来るだろうから置きっぱなしには出来ないんだが。
「また後で電話するから。それまでは置いておいて」
どういう意味かと聞くより先に桔梗は出て行った。
それから1時間と少し。
0時になって日付が変わったと同時に携帯が鳴る。
「誕生日おめでと。あの紙袋は清隆くんにあげるから。それじゃお休み」
オレが口を挟む暇もなく電話が切られた。
「…………」
紙袋の中に入っていたのはお菓子とハンカチ。
お菓子はクッキーで、男物ハンカチは滑らかな肌触りからきっと高価な物だ。
「……驚いたな」
自分の誕生日のことなど忘れていた。それが日付が変わった途端に祝われ、しかも誕生部プレゼントまで貰えるなんて夢にも思っていなかった。
完全に意表を突かれた形だ。
内心では結構動揺しているが、同時に嬉しいと素直に思えている。
オレは桔梗に感謝のメッセージを送ってからベッドに入った。
今夜は少しだけ眠りにつけるのが遅くなるかもしれない。
◇綾小路清隆
・分からないことは調べる。自身に疎い分野のことを簡単に調べられるパソコンの便利さを実感している(その分偏った知識も取り込む)櫛田が帰った後はベッドの片付けをしっかりと行うようになった。
◇櫛田桔梗
・誰よりも早く綾小路の誕生日を祝う。ここ数日部屋に来られなかったので
もっと登場して絡んで欲しいと思うキャラは?(参考程度に)
-
椎名ひより
-
坂柳有栖
-
神室真澄
-
堀北鈴音
-
櫛田桔梗
-
山村美紀
-
森下藍
-
その他