◆ ◆ ◆
<side 坂柳有栖>
10月20日が何の日か知っていますか?
はいそうです。
清隆くんの誕生日です。
誕生日といえば、お誕生日会。
人道的な問題を一切無視していたあの環境で、お誕生日会なんてモノはまず行われていないはずです。清隆くんにとって誕生日だろうと他の日と何も違いはないと。もしかしたら今日が自分の誕生日ということすら気付いていない……いえ、意識していないでしょうね。
だからこそ、彼の友達である私たちがお誕生日会を開くのです。椎名さん、真澄さんとで数日前から計画を立てており、プレゼントの準備もバッチリ。
ふふ、サプライズに目を丸くして驚く清隆くんの表情が目に浮かびますね。
「綾小路。誕生日おめでとう。是非受け取ってくれ」
「プレゼントもあるのか。ありがとう、葛城」
「8月にはお前も贈ってくれただろう。当然のことだ」
「綾小路は今日は誕生日だったのか。おめでとう」
「ああ、戸塚もありがとう」
「……………」
ふふ、ふふふふふふふふ。
やってくれますねぇ、これは許されざる行為ですよ。
「……誕生日おめでとうございます、清隆くん」
「……おめでと」
「ありがとう、2人とも」
彼らが言った手前、私たちまで言わないといけなくなったではありませんか。
ウフフ、サプライズが台無しですね☆
「む、急に寒気が」
「お、俺もです」
「今日は誕生日なのか、綾小路」
「誕生日おめでとうございます。綾小路くん」
私たちの会話を耳にし、近くにいた橋本くんと真田くんも清隆くんに言葉を掛け始める。そしてその声が教室全体に広がっていき鬼頭くん、島崎くん、吉田くん、森重くん。他にも白石さん、西川さん、谷原さん、中島さん等々、教室内に居る多くのクラスメイトが清隆くんの誕生日を祝います。
「むむ、朝から調子に乗っているようですね、綾小路清隆」
包装された大きめな箱を両手に抱えて教室に入って来る森下さん。彼女の一歩後ろにはひっそりと山村さんの姿もある。
「ですが特別に許しましょう。私は寛大なのです」
そう言いながら森下さんは両手に持っていた箱型の物を清隆くんに押し付ける。
「さあ、刮目しなさい」
「……じゃあ開けるぞ」
一体どんなプレゼントなのかと、目を細めながら包装を丁寧に剝がしていく清隆くん。そして出てきた物は……んん、これは……。
「ヨーグルトメーカー?」
はい、ヨーグルトメーカーですね。
無難な物ではない、なかなか冒険しましたね森下さん。人によっては1、2回使った後で置物になりそうな家電製品です。それにプレゼントとはいえ、普通は学校に持ち込んでくる物ではないですよ。これを抱えて帰宅する清隆くんの身になってあげてください。
「これでヨーグルトが作れるのか?」
ヨーグルトメーカーのパッケージを見ながら清隆くんが呟く。
「ヨーグルトを
「おお、凄いなそれは。部屋に帰ったら早速使ってみる。ありがとう、森下」
声まで弾ませてかなり嬉しそうですね。
いつもの無表情が崩れているんですが……え、そんなにヨーグルトメーカーが欲しかったんですか? そして森下さん。何で渡した方がちょっと引いているんですか。まさかここまで喜ぶとは? ……そうですね、なかなかお目に掛かれないレアな表情をしていますね彼。
「一応言っておきますが、それは私と山村美紀と共同なので、山村美紀にプレゼントをねだるような真似はオススメしませんよ」
「は、はい。誕生日おめでとうございます、綾小路くん」
「そうか、山村もありがとう」
清隆くんはテンションを上げながら箱を開封し、中から器用に説明書を取り出し読み始める。
学校がなければ今直ぐ家に帰ったであろうウキウキした様子。
「牛乳を買ってこないとダメか」
言っておきますが、お店の予約はしてありますし今日はヨーグルトを作る暇はありませんからね! 私たちだってちゃんとプレゼントを用意してありますから!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
クラスメイトから誕生日を祝われ、ひより、有栖、真澄と4人でレストランに行きバースデーケーキを用意してもらった。プレゼントもしっかりと用意してくれていて、本当にありがたいことだ。有栖はサプライズ出来ずに驚かせられなかったことを悔やんでいたが、そんなことをしなくても十分過ぎるほどに楽しい一時だった。
自分の予定になかった誕生日会。嬉しいハプニングがあったが、今週はまだ大事な予定が残っている。
◇
約束の時間よりも30分前。
待ち合わせ場所に、目が吸い寄せられる程に清楚で可愛い美少女が姿を現した。
「お、おはようございます、清隆くん」
「おはよう、ひより」
ミントグリーンのフリル袖のブラウスとミントブルーのロングスカート。初めて見る新たな装いをしたひよりが、前髪を軽く指先で撫でながら歩み寄って来る。
「は、早いですね、清隆くん。まさか既にいるなんて思ってませんでした」
「部屋にいても落ち着かなかったからな。でも結果的に正解だった。おかげで30分も早くひよりに会えたからな」
「っ」
白磁の肌が朱に染まった。
ややクサい台詞だったか? だが、本心だしな。
「私も、早く来て良かったです」
照れ臭そうに上目遣いで言うひより。ドクンと飛び跳ねる心臓。不整脈かな? 一瞬だけ意識が逝きかけた。
コホン……でも良かった。つまりオレだけでなく、ひよりも今日を楽しみにしてくれたということだろう。
「ふふ」
お互いに同じ気持ちだった。そのことにひよりが微笑み、オレもくすぐったい気持ちになる。
「今日は1日よろしくお願いします、清隆くん」
「こちらこそ」
ひよりに喜んでもらえる日にする。
それが初デートの目標だ。
「一緒に楽しい1日にしましょうね」
「ああ、それじゃあ……」
予定よりも早いが、同じ場所で喋り続けるわけにもいかない(それはそれでアリだが)
移動しようと促すより前に、オレはいきなり失態しそうだったことに気付く。
「着物の色もそうだけど、ひよりは水色系の色が良く似合うな。清楚で落ち着いた服だけど、透明感があって綺麗で……オシャレだし今日
「!!」
服を褒め、ひよりを褒める。
ひよりの可愛さなど今更述べるまでもないが、これもデートでは必要なことのようだ。何でも、口でしっかりと伝えることが大事らしい。
「じ、実は、今日の為に新しく服をおろしたんです」
ひよりがフリル系の服を着ているのを今まで見た事がないと思っていたが、やっぱり初めて見る私服だったようだ。
「清隆くんも似合っていますし、その……カッコいいですよ」
清潔感を意識し、オレなりにオシャレには気を付けたが、新しく服を買おうという考えはなかった。お世辞でもひよりに褒められると普通に嬉しい。礼を伝えておく。
「カラオケに行こうと思うんだけど大丈夫か?」
学校の限られた敷地内で、数少ない定番デートスポットの一つ。難色を示されたら映画館に変更されるが……。
「その、今までカラオケをしたことがないんですけど、それでも大丈夫ですか?」
ひよりはオレにそう聞いてから「いえ」と軽く首を横に振った。
「せっかくの機会ですし、よろしくお願いします」
「気負う必要はないからな。カラオケが苦手だと思ったら遠慮なく言ってくれ」
変に気遣って楽しめなかったじゃ、デートとして本末転倒だからな。
頷くひよりとケヤキモールのカラオケ店に行き、そして部屋に入る。
「清隆くんは何度かここに来たことがあるんですか?」
「実はオレも殆どない。ひよりと同じ初心者みたいなものだ」
下見の為につい数日前に1度来ただけ。お試しとして2曲ぐらいしか歌っていない(残りは問題文の作成で時間を潰した)
「じゃあ先に一曲歌わせてもらうな」
カラオケ初心者であるひよりの緊張をほぐす為にもマイクを手に、オレは調べてきた流行りの曲を歌う。
「清隆くん、歌も上手なんですね!」
歌い終えたオレにひよりはパチパチと拍手をしてくれる。
歌もカリキュラムに組み込まれていたので、自分で言うのもあれだが人並み以上には出来る。だが、それだけだ。
「そ、それじゃあ歌います」
緊張と羞恥心。
単純な上手い下手で言うなら、オレの方がひよりよりも歌が上手いだろう。だが、ひよりの歌う歌には「照れ臭い」という感情が乗っていた。例え思い切り歌えていなくても、ただ
オレの拍手を受けながら、ひよりは頬を上気させながらマイクをテーブルに置く。
「その、思ったより恥ずかしかったです」
「あがり症とかでもないなら何回かやっていれば慣れるさ。もしくは、一緒に歌うとかどうだ?」
「是非……あ、でも、私は流行りの曲とかは……」
「ひよりの知ってる曲で良いさ」
といっても、そうなれば逆にオレが知らない曲が殆どだろう。オレは携帯を取り出し、ひよりとの距離を詰める。
「ひよりが歌ってみたい曲を教えてくれ」
時間はたっぷりあり、ガンガン曲を入れる必要性はない。
肩を並べて曲を聞き、それを一緒に歌っていく。ひよりの緊張、照れも徐々になくなっていき、楽しそうに微笑む回数が増えていく。オレもそんなひよりを見て嬉しく思う。
1人よりも2人。殆どの曲をデュエットで歌い続けた。
*
「楽しかったですね。カラオケに行って遊んでる人達の気持ちが分かったような気がします」
「ああ、気分もスッキリするし楽しかったな」
不思議と今まで来る機会がなかったが、娯楽施設の一つであり定番のデートスポットだけのことはある。ひよりが喜んでくれたようで良かった。ひよりの歌声も聞けたので満足だ。次は有栖、真澄も一緒に皆でカラオケに来るのも悪くない。
「少し早いが昼食にしよう」
向かうはカフェ。
変に飾らず慣れ親しんだ場所で食事をと考えたが、オレはその浅慮な選択に後悔した。休日なので人が多いことは予想していたが、席はほぼ満席状態であり、全学年が入り混じって勉強をしていたのだ。おかげでテスト期間中だったことを今更思い出す。いや勿論知っていたが、勉強会の為にカフェを利用する生徒が多いという事実が完全に頭から抜け落ちていた。
2人分の席は空いていると店員から言われるが、オレは迷う。
周りが勉強している空気の中、のんびり食事する男女。オレは気にしないがひよりはどう思うか。そもそも、テスト期間中にデートに誘ったことが迷惑だったかもしれないと、そんな考えすら頭に浮かぶ。オレは勉強せずとも問題ないが、ひよりはそうではないという事実に、本当に今更気付いたのだ。
「大丈夫ですよ」
そんなオレの逡巡を見透かしたように、ひよりの細い手がオレの右手に添えられる。彼女は穏やかな表情のまま、オレと目を合わせてから微笑んだ。
そして他の店に移動することはせず空席に移動する。
「私、運動はてんでダメですけど、勉強は得意なんですよ」
暗闇を払拭するような天使の如き明光。
ムン!とーー控え目な胸を張るような仕草が普通に可愛かったマル。
*
昼食を終え、次は雑貨店に足を運ぶ。
理由はいくつかあるが、その一つは女性は買い物が好きだというネット記事を読んだから。
時折、カップルが雑貨店で買い物する光景を見たことがあるから。
何よりせっかくの初デート。記念日というのは大袈裟だが、こうして一緒に過ごすひよりに何かプレゼントを贈りたいと思ったからだ。先日の誕生日プレゼントのお礼も兼ねて。
そんな考えを持ちながら、ひよりと共に色々な物を見て回っているわけだが、本当に色々あるな。受け取っても邪魔にならず迷惑にもならない物。デート中なのを加味するとして、ひよりに合いそうなアクセサリーはと……。
……ピアス? いや、ひよりの身体に穴を開けるなど言語道断だ。しかし、ノンホールピアスという穴を開けないで耳に挟める物もある。
「清隆くんはピアスに興味があるんですか?」
「どちらとも言えないな。今まで機会もなかったし、意識していなかったが近いか。ひよりは?」
「私も清隆くんと同じようなものです。こういう店自体に縁遠いのもありますけど」
自他共に認める本の虫だからな。アクセサリーを見て回る時間は、そのまま本棚を見て回る時間に変換されていたのだろう。ひよりは花型のピアスやロングピアスを物珍しそうに見ている。
「試しに着けて見るか?」
「え?」
「もちろん、耳に穴を開ける必要のないノンホールピアスだ」
「えっと……」
驚きと戸惑い。ピアスというアクセサリーを身に着けることに対して、全く想像していなかったのが如実に伝わる表情だ。
「物は試し。合わないなら合わないで付けなければいいだけだ」
口に出しているうちに、ひよりがピアスを付けている姿を是非見たくなった。
ひよりは瞳を左右に揺らした後、おずおずと口を開く。
「清隆くんも一緒なら……」
確かに1人より2人で、一緒にやった方が心理的なハードルは下がるし、言い出しっぺなのでオレも特に問題ない。問題があるとすれば。
「オレに……というよりメンズ系のピアスがないな」
目に映るピアスはどれも女性向けばかりの物だ。
「ならこれはどうですか?」
ひよりが手に取ったのは星型のピアス。色は銀。
シンプルなデザイン故に
「わ、私はこれで」
そしてひよりは、同じく星型だが、青色の光沢を持ったピアスを手に取った。
2つのピアスを買い物カゴに入れて、引き続き店の中を巡る。先ほどのやり取り、ピアスの購入によって心理的なハードル……開き直ったというべきか、ひよりは楽しそうに様々なアクセサリーを手に取り見ている。
「清隆くん、これ」
「ん」
ひよりは両手に持った伊達メガネをオレにかけてくる。それから「わぁっ」と綻ぶ。
「眼鏡をかけた清隆くんも素敵ですね」
「少し可愛い感じじゃないか?」
鏡に映る赤フチ眼鏡をかけた自分の顔。やや色合いが派手に感じる。オレよりもひよりの方が似合いそうだと、オレはひよりがかけてくれた伊達メガネを外し、そのままひよりにかけ直す。
イイネ! それも買おう! あ、要らない? まぁ、眼鏡でオシャレしなくてもひよりは可愛いか。でもその前に写メを撮っても良いだろうか?
*
「本屋に行こうか」
「はい」
ひより相手なら外すことのない場所だけあって良い返事だった。
ひよりはもちろん、オレも読書が好きであり共に推理小説を好む。自然とミステリーコーナーへと足が引き寄せられるが、ここまでカラオケ、雑貨店と普段とは違う新しい試みをしてきた。なら本屋も、敢えてあまり読まないジャンルの本を2人で買って読んでみないかと提案すると、ひよりは一瞬だけ驚きはしたものの快諾してくれた。
そして2人で立ち止まった本棚には、ライトノベルがびっしりと並んでいた。
『ライトノベル』は別にジャンルではないのだが、オレもひよりも全く触れてこなかったからこそ自然と立ち止まった形だ。
「カラフルですね」
「そうだな」
オレは適当に本棚から一冊のライトノベルを抜き取る。
表紙を飾る剣を持った少年と2人の少女。タイトルは『役立たずと追放された俺は外れクラスで最強となる。~今更戻って来いと言われても手遅れですw~』……長いな。
確かにこれはオレもひよりも今まで読んだことのないジャンルだと思うが、いきなり冒険しすぎるのもよくない。オレはそっと本棚に戻し、最低限の内容は保証されているであろう『アニメ化決定』と沢山積み重なったライトノベルを選んだ。
「ところで……清隆くんは作家の『かみないつし』が書かれた作品は読まれたことがありますか?」
「かみないつし? いや、著者の名前にも聞き覚えがないし、多分読んだことはないな」
もしかしてこのライトノベルの中にあるのかと目を向けるが、名前は見当たらない。
「無理もないですよ。全然無名で、今も昔も売れていない作家ですから」
どこか可笑しそうに笑うひより。
言葉とは裏腹に温かさと親しみを感じさせる表情にオレは興味を抱く。
「どんな本か読んでみたいな。紹介してくれないか?」
「残念ですけど、ここの本屋には取り扱っていませんでした」
「そうか……」
「ですが、自分の部屋には取り寄せて置いてあるんです」
「貸してもらっても良いか?」
「もちろんです」
ひよりは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
*
並木道をひよりと並んで進む。
道の先にあるのは寮だが、別にデートが終わりというわけではない。
「清隆くん、また後で」
「ああ、待ってる」
ひよりとはエレベーターで別れ、オレは自室に帰る。
当初のデートプランとは少し違うが、のんびり出来る場所ならどこでも良かったし、ひよりの提案でもある。飲み物を準備して数分待つと、ひよりがブックカバーのかけられた一冊の本を抱えて自室にやってきた。
「それが?」
「はい、かみないつしの本です」
お礼を言いながらひよりから本を受け取る。
早速読んでみようかと思うが、その前に。
「ひより、ピアスを着けないか?」
雑貨店で購入した星型のノンホールピアスを2つ取り出す。
「そう、ですね……はい、頑張ります」
「穴を開けるわけじゃないし緊張する必要はないさ」
まぁ、オレもピアス初心者ではあるが。
「清隆くん……お願いしてもいいですか?」
凄く緊張してきたな!
ノンホールピアスの着け方をしっかりと調べた後で、ひよりとの距離を更に一歩縮める。
白くて柔らかい耳たぶに、赤子を扱うようにそっと優しく触れた。
「んっ」
ひよりの身体がピクリと反応し、一瞬だけ変な声が聞こえた気がしたが鋼の精神で無視する。そのまま、つい先程調べた手順の通りに、ひよりの耳にピアスを付けた。
ふぅ……さて、もう片方も付けるか。
「ん」
……2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31……。
「あ、ありがとうございます」
赤くした耳に付いた、青い星型のピアス。
ひよりは鏡でそれを確認し、どこか感慨深く息を吐いた。
「痛くないか?」
「大丈夫ですよ。次は清隆くんの番ですね」
ひよりはそう言って、もう一つのノンホールピアスを手に取る。同じように、どうやら彼女がオレに付けてくれるようだ。
耳に触れられる細い指。そのくすぐったさに耐えること数分。
鏡で確認し、ひよりの気持ちを少し理解出来た気がした。今までオシャレやアクセサリーから最も縁遠い生活を送っていたオレが、こうしてピアスを付けることなど半年前まで全く想像していなかった。確かにこれは少し感慨深い気持ちになる。
「ふふ、お互いに不良になってしまいましたね」
色違いの星型ピアスに触れながら、ひよりがいたずらっぽく言う。
世俗に疎いオレが言うのもあれだが、その考えは古くないか? それともピアス=不良という考えは現役なのか?
「まぁ、ただのオシャレの一つだし、学校できちんとしていれば問題ないさ」
「そうですね。これは休日とか、大事な日に付けたいと思います」
思い付きだけで購入して勧めたピアス。「もう結構です」と突き返される可能性もあったわけだが、結果的に好感触のようで安心だ。
◇
さらり、さらりーーと、頭を優しく撫でる感触。
手の平から伝わる温もりと後頭部から伝わる柔らかな感触が心地良くて、このまま続いて欲しい。この至福の時が永遠に続けば良いと……そんなことをぼんやりと考える。ぼんやりと考えて……何故ぼんやりしているのかを疑問に思う。そして自分の視界が閉じていることに気付いて、微睡の中から目を覚ました。
「おはようございます、清隆くん」
「…………おはよう」
色白で端正な顔立ちの少女は、天使のような微笑みでオレの目覚めを出迎えてくれる。このまま見惚れていたいが、幸か不幸か意識ははっきりと取り戻してしまった。
どうやらオレは読書中にも関わらず眠りにつき、あまつさえひよりに膝枕してもらっているようだ。……ギルティでは?
「……悪い、今退ける」
「このままで大丈夫ですよ。お疲れだったんですか?」
「いや、そんなつもりはなかったんだがな……」
ひよりを気遣うとかではなく本心からの答えであり、だからこそ居眠りしまったオレ自身も困惑している。お日様の陽射しが気持ち良かったとかもない(そもそも室内)初デートに対しての気疲れはあるだろうが、それでも居眠りしてしまうほどの疲労感もない。夜更かしも特にしていないにも関わらず、無防備な姿を晒してしまった。
「どれくらい寝ていた?」
「ほんの40分くらいですよ」
「……足が痺れたりしていないか?」
ひよりは肯定も否定もせず、構わずオレの頭を優しく撫で続ける。
「清隆くんの寝顔を見ることが出来ました。可愛かったですよ」
「反応に困るな」
とはいえ、40分もひよりの膝を占有し続けてしまったのだ。オレの寝顔一つで彼女が喜んでくれるというなら、今回はその好意に甘えよう。……このままその好意に甘え続けて、永遠にひよりの膝枕を堪能し続けたいのだが、断腸の思いで上体を起こす。ひよりが名残惜しそうな表情をしていたように見えたが、恐らくそれはオレの願望だろう。
くそ、やっぱり惜しいことをしたかもしれない。
込み上げてくる後悔を抑え付けながら、オレは寝入る直前の記憶を思い返す。そして、背筋に冷たいものが走った。
ひよりと共に読書に興じていたオレ。その時にオレが読んでいた本は、かみないつしの本。ひよりから借りた本がつまらなかったから眠ってしまったと、そう受け止められても仕方がないタイミングの悪さだった。
「あー……悪い。別に退屈に感じたからとか、そういうわけじゃないんだ」
かみないつしの本を再び手に取りながら、我ながら下手な言い訳を口にする。思わず視線を逸らしてしまったオレに、彼女は「大丈夫ですよ、私でも偶にそういう時がありますから」と言ってくれる。しかし、それでもやはり申し訳ない気持ちが残る。
「……それでも謝罪の気持ちがあるんでしたら、受け取りますよ?」
「ん?」
今度はひよりがオレから視線を逸らし、恥ずかしそうに口を開く。
「今度は清隆くんが膝枕をしてください」
ご褒美かな?
「それじゃあ、お願いします」
横になろうとするひよりを制する。カーペットが敷いてあるとはいえ、わざわざ床の上で横になる必要はない。すぐそこにはベッドがあるのだ。
「あ、えっと…………良いんですか?」
「もちろんだ」
「じゃあ」と、おずおずとベッドの上に体を乗せるひより。思えばひよりと有栖、真澄はベッドを椅子替わりに使うことはあっても、桔梗のように無遠慮に寝転がるような真似はしていなかったな。
オレもベッドの上に上がり膝を差し出すと「失礼します」と小さい声と共に、ひよりの頭が太腿に乗った。かっるい。
「……頭を撫でても良いか?」
「お、お願いします……」
透明感のある淡水色の髪。神々しさすら感じる髪の毛に触れ、ゆっくりと丁寧に撫でる。照れ臭そうにしながら目を細めるひより。ほっと安堵するオレ。
さらさらとーー絹のように滑らかな髪がオレの指先によって静穏な音を奏でる。何だか楽器を弾いてるような気分だ。一日中触っていても飽きない確信がある。
「眠っても良いぞ?」
「それは魅力的な提案ですね」
言葉とは裏腹に目を閉じる様子はない。お互いに無言のまま静かな時間が経つ。
「どうしてデートに誘ってくれたんですか?」
ひよりは一瞬だけ躊躇うような素振りを見せてから言葉を続ける。
「今まで2人だけで出掛けることは何度かありました。それなのに、どうしてデートだって言ったんですか?」
ひよりに「デート」と口に出して誘った理由。
それはひよりに対しての認識を再度自覚し改めたから。故にひよりを思うこの感情が『恋』なのかどうか。彼女の言う「どうして」を
「…………」
だからこそ、その理屈を自ら封じたことによって彼女に返す言葉を紡げなかった。己の経験不足、レベル不足を実感しながら口ごもり、代わりに沈黙を作り出す。
「……オレはただ、ひよりと一緒にいたいと思った」
長考の末に出てきたのは、ありきたりな言葉だった。
「ひよりの時間を独り占めしたいと」
吐露した後で、結局はこの気持ちも己のエゴだったことに気付き後悔を覚える。今の発言を取り消し、もう一度吟味した後でやり直したいと。
「~~~~っ」
しかしオレの思いに反して、ひよりは夕陽のように赤くなる。太腿の上で身体を横向きに変え、両手の平で顔を覆うように隠した。
「清隆くんはズルいです」
「そ、そうか?」
いや、
ある程度の落ち着きを取り戻してから、ひよりは片手を伸ばしてオレの手を優しく握る。
「今日はとても楽しくて、本当に嬉しかったです。だからまた、デートに誘っていただけませんか?」
「ああ、次もデートに誘われてくれ」
笑顔を浮かべるひよりを見て思う。
喜んでくれて良かった。デートに誘って良かったと。
お互いの感情を共有できているこの瞬間を、幸福感を抱きながら願った。
時よ止まれ…………なんてな。
◇坂柳有栖。
・綾小路のサプライズバースデーを
ただ、お誕生日会ではとても喜んでいる綾小路を見れて溜飲が下がっている(しかし、ヨーグルトメーカーを超えるプレゼントはなかった模様)
◇山村美紀
・森下とのプレゼント選びの際「ヨーグルトメーカーは止めといた方が良いんじゃ……」と言いはしたものの案の定押し切られた。しかし……。
◇森下藍
・予想以上にヨーグルトメーカーが喜ばれていたことに引いていた。綾小路からの好感度を+50獲得している。
もっと登場して絡んで欲しいと思うキャラは?(参考程度に)
-
椎名ひより
-
坂柳有栖
-
神室真澄
-
堀北鈴音
-
櫛田桔梗
-
山村美紀
-
森下藍
-
その他