56話:生徒会の新人
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茶柱先生が試験結果を黒板に貼り出す。
Bクラス対Dクラス。その勝敗の行方は……。
「よっしゃあああー!」
いの一番に池くんが声を上げ、周囲も喜びの声を上げていく。
50点以上の差を広げてDクラスはBクラスにペーパーシャッフル試験に勝利したのだ。
これでクラスポイントは+100。Bクラスを上回った。
「やったね、堀北さん」
「ええ、皆が協力して頑張ったおかげよ」
くじ運に恵まれ、AクラスやCクラスではなくBクラスと戦えたことは大きい。それでも誰一人として油断なく、しっかりと勉強会に参加して学力を高めたからこそ掴めた勝利だ。
AクラスとCクラスの結果によっては、Dクラスはそのまま一気にBクラスへと上がる。不良品のクラスと言われていた私たちが、1年と経たずにBクラスになれるかもしれない。
勿論、ゴールはBクラスじゃないことは分かっている。目標であるAクラスとのポイント差には依然として開きがあるし、逆にCクラスとBクラスの差は小さい。次の特別試験の結果によっては簡単にDクラスに戻ってしまうかもしれない。まだまだ油断できない状況ではあるが、それでも今は勝利を喜ぼう。
そして、これは丁度良い切っ掛けね。
◆ ◆ ◆
貼り出された試験結果を見ながら、思わず零れ落ちた。
「2点……」
たかが2点。されど2点。
CクラスはAクラスに負け、クラスポイントを-100も失った。今のCクラスには……いや、"私"には重たすぎる敗北。BクラスとDクラスの結果次第では、CクラスはこのままDクラスへと落ちてしまう。
「悪い、一之瀬……」
「え?」
「俺がもっと点取ってたら勝てたかも知れないのに」
「し、柴田くんだけのせいじゃないよ。私だって良い点取れなかったし」
柴田くんに
「それは言いっこなし! 皆は頑張ってくれてたでしょ! 悔しいけど、次こそ勝てば大丈夫だよ!」
負けた時こそ、明るく前向きに。
皆は悪くない。悪いのは、皆の頑張りに応えられなかったリーダーである私のせいだから……。
「……このままで次も勝てるのか?」
決して大きい声ではなかった。それでも、神崎くんの声がハッキリと耳に届く。
神崎くんと目が合う。悔しさを滲ませ、歯を喰いしばるような表情をしていた。
「それは……」
その疑問に答えられず、言葉に詰まる。
「……すまない。俺自身も力不足だったことを棚に上げた」
神崎くんはそう言い、クラスメイト達の視線を振り切りながら教室から出て行った。
「…………」
分からないよ。
どうやったら勝てるかなんて、私にも……。
◇ ◇ ◇
テスト期間中は殆ど人がいなかったグランドや体育館から活気が伝わってくる。活動が再開されるのは部活動だけじゃない、生徒会もまた1週間ぶりの活動となる。
オレはいつものように時間ギリギリまで友達と過ごした後で生徒会室に向かった。
「いつものように重役出勤だな、綾小路」
時間には間に合っているし文句を言われる筋合いはない。いつもなら適当に返事を返して作業に取り掛かるわけだが、生徒会室に1人、生徒会メンバーじゃない人物が居た。
「これでようやく全員揃ったな。見ての通り、新しい生徒会メンバーだ」
南雲はちょっと離れた位置に立つ彼女を顎で示す。
「1-Dクラス、堀北鈴音です。よろしくお願いします」
鈴音がペコリと頭を下げる。明るかった一之瀬の時とは違い、愛想のない簡素で事務的な挨拶だ。らしいといえばらしいか。
「知っての通り鈴音は元生徒会長である堀北先輩の妹だ。ーー活躍に期待させてもらうぜ? 間違っても生徒会に泥を塗るような真似はしてくれるなよ」
南雲を他の生徒会メンバーに視線を一巡させ、最後にオレと一之瀬に目を向ける。
「綾小路、一之瀬。1年同士、鈴音に仕事を教えてやれ」
「あ、はい」
「めん……南雲会長は?」
「俺は俺で忙しいのさ」
南雲はそう言って書類を持ち、生徒会室から出て行った。
「私は何をすれば良いのかしら?」
鈴音はオレと一之瀬の間に座ってくる。……まあ、オレの仕事を割り振れるなら楽出来るし良いか。生徒会ではオレが先輩である。存分にこき使おう。
*
約2時間。テスト期間中に溜まっていた仕事は最低限終わらせ、無駄に長かった本日の生徒会活動が終わりを迎える。鈴音は物覚えが早く、孤高を気取っていただけあって優秀だった。次からは遠慮なく仕事を任せられそうだ。
「また明日ね、綾小路くん、堀北さん」
「ええ、また明日」
残っていた書類を整理している間に、一之瀬は元気のない様子でさっさと生徒会室から出て行き、桐山、溝脇、殿河の3人も挨拶と共に帰って行った。残ったのはオレと鈴音のみ。南雲はまだ戻っていない。
「オレ達も帰るか」
「そうね」
「今回の試験で一気にBクラスまで上がれたな。おめでと」
「一応礼は言っておくわ。あなた達のクラスが負けてくれれば言うことなしだったのだけれどね」
「正直な意見をどうも」
負けていてもおかしくない程にギリギリだったが、たった2点差とはいえ勝ちは勝ちだ。
「ポイント差が縮まらないのは歯痒いけれど、いつまでも独走状態にさせる気はないわよ」
「意気込みは買うが、上を見過ぎて足元を掬われないようにな」
「言われなくても分かっているわ」
外に出るとすっかりと日が落ちていて肌寒い。気付けば12月。あと2週間程度で冬休みが始まり年が明ける。冬か……。
「雪は降るのだろうか」
「天気予報の範囲では雪は降らないわよ」
答えが欲しかったわけでもないオレの呟きを鈴音が拾う。「それが?」と視線で向けられるが特に深い意味はない。気にしないでくれ。
「ところで、どうして生徒会に入ったんだ? 元生徒会長、お前の兄貴はもう居ないぞ?」
鈴音の大好きな
「知見を広げる為よ」
嘘くさ。
「……前に兄さんに勧められたのよ。生徒会に興味がないか、生徒会に入るのが私の為になるって」
理由は100%それじゃないのか?
「兄さんが生徒会長を務めていたから、今も兄さんの背中を追っていないと言えば嘘になるわ。でも生徒会に入ることを決めたのは私自身の意思で、自分の為になると思ったからよ」
学の言葉に諾々と従ったわけではないと、彼女の目は力強く輝いていた。それを見て久しぶりだなと感じる。
元々クラスは違うし最近までテスト期間中だった。図書室でDクラスの生徒と勉強会をしている姿は何度も見ていたし廊下ですれ違ったこともあったが、こうして会話を交わすこと。鈴音の真っ直ぐな
「何ニヤニヤしているの。気持ち悪いわよ」
「いや、してないだろ(多分)」
鈴音が生徒会入りした理由として、対南雲要員として学の指示を受けたからかと思ったが、今の話と彼女の表情を見るに恐らく違うのだろう。まあ助っ人要員なら事前に学から連絡がくるはずだしな。それに他学年の鬼龍院ならともかく、今のところ鈴音に手助けして欲しいことは何もない。
「せっかくだ。このまま食事に行かないか?」
「あなたの奢りならね」
「言うと思った。毎回オレが奢ってないか?」
「嫌なの? ケチ小路くん」
「どちらかというとオレの台詞だろ、ケチ北」
お互いに軽口を叩いていると、ピロン♪とオレの携帯が鳴った。
確認する。うわ。
「悪い、鈴音。呼び出された」
「誰に?」
「南雲会長だ」
『今直ぐ生徒会に来い』と書かれた文面。その15分ぐらい前にも南雲からメッセージが届いていたようだが、こっちの方は全く気付かなかった。このまま見なかったことにしたいが、後日くどくど嫌味を言われたらもっと面倒だ。オレは後ろを振り返って校舎に戻った。
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「思ったより遅かったわね」
「……待っててくれたのか」
文庫本を片手に下駄箱前の廊下に寄り掛かっていた鈴音を見る。普通に帰ったと思っていたので少し驚く。
「ええ、待ったわ。待たされた。お腹も空いたわ」
「それは、待たせて悪かったな」
いやオレも呼び出された側だしオレが悪いわけでもないが。
「これで綾小路くんの奢りで決まりね」
やはりケチ北。どうしてもオレに奢らせたいらしい。
「この学校に来て知ったわ。人に奢ってもうらう食事は美味しいってことに。綾小路くんの財布からだと猶更ね」
酷い学びだ。思ってても口には出すなよ。
「タダより高いものはないとも言うが?」
「その内に返すわ。ツケにしておいて」
生徒会では絶対にこき使おう。
「それで? 南雲先輩からの呼び出しは何だったの?」
「生徒会に関して色々だな」
「色々ってどんな内容よ」
「色々は色々だ。鈴音に話すつもりはない」
「話すつもりはないって変な言い方ね。もしかして私に関係している内容なの?」
「それを含めて話す気はないってことだ」
睨むように見てもダメだ。オレの態度に鈴音は諦めたように嘆息し「ならお寿司ね」と言葉を漏らす。何が「なら」なのかさっぱり分からないが、そうしてオレと鈴音は回らない回転寿司に向かった。初手大トロか。ならオレも。
寿司を食べながら会話をする。久しぶりということもあり、互いに話題は事欠かない。
「ーーそういえば、一之瀬さんはやっぱり元気なかったわね」
本人はいつも通りに振る舞っていたようだが、それでも普段の明るさはなかった。それに鈴音も気付いていたようだ。
「それは仕方がないんじゃないか?」
「まあそうね」と鈴音は頷いて続ける。
「私も一之瀬さんの立場になったら焦るし落ち込むわ」
「まだ卒業まで2年以上も先のことなんだけどな」
「頭では分かっていても、そう気楽に受け止められないでしょう。むしろ何も感じていなかったらリーダーとして無責任よ」
「だからといって責任感に潰されても仕方がないと思うけどな」
それこそ一之瀬ではなく鈴音に言っても仕方がないことだが。
それでこの話はここで終わり、また別の話題へと雑談が続いていく。
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Bクラスに配属されてクラスメイト達と出会った時、私は勝ちを確信した。自惚れと言われるかもしれないけど、とても良い仲間に恵まれたと思った。その気持ちは今も変わっていない。
だけど……。
葛城くん、坂柳さん、そして綾小路くん。
あまりにも手強い実力者が率いた、入学当初から大きなミスの一つもない、圧倒的な優位を誇るAクラス。
秩序ではなく暴力によってクラスを統べる龍園くん。
そのやり方は決して褒められたものじゃないかもしれない。けれど暴君として君臨する彼には、私には取れない強烈な戦略を選ぶことが出来る。勝つ為に非道を進める意思を持っている。
最初にクラスポイントを70ポイントまで落としておきながら、そこから一気に駆け上がってくるDクラス。堀北さん、平田くん、櫛田さん。他にも磨けば光るような生徒達はきっと居る。半年前まで不良品のクラスと揶揄されていたのが信じられないぐらい、今最も成長しているクラス。
勉強に運動。
私たちのクラスだって他のクラスに負けないぐらいのポテンシャル、地力は持っている。それなのに、私たちのクラスだけが何も出来ないまま沈んでいっている。
原因は分かっている。勝てると思っていた
それは他でもない、リーダーである私。
私がもっと上手く立ち回っていれば。
私がもっと優秀だったら。
私がもっと……。
もっともっともっとーーーー
ーー
大好きなクラスメイトの期待に応えられないから。
何も出来ずに皆の足を引っ張り続けているから。
分不相応にリーダーをやっている私への『罰』
『一之瀬帆波は犯罪者だ』
私がもっとしっかりしていれば、あの日に『過ち』を犯すことはなかったのかな。
『咎』から逃げたりしない。正面から受け止めてみせると、そう誓っていたのに。
たった一行だけの文字を見て、ただただ硬直することしか出来ない。
意味がないのに、何度も何度も変わらない文字を読み返す。
ああーー。
やっぱり私は何も成長していない。
◇綾小路清隆。
・夏休みぶりに、
回転寿司は奢った。
◇堀北鈴音。
・他愛もない会話が殆ど。それでも久しぶりに過ごした綾小路との時間を内心で悪くないと思っていた。
もっと登場して絡んで欲しいと思うキャラは?(参考程度に)
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椎名ひより
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坂柳有栖
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神室真澄
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堀北鈴音
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櫛田桔梗
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山村美紀
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森下藍
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その他