ようこそAクラスの教室へ   作:yadooo

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7話

 早朝。

 オレを見る須藤の顔は不機嫌そうだった。

 挨拶しても、返ってくるのはぶっきらぼうな声。

 

「どうかしたか、須藤?」

 

「綾小路。確かお前はAクラスだよな?」

 

「それがどうかしたのか?」

 

 オレの返事が気に入らなかったのか、須藤は苛立ちを隠さず舌打ちする。

 

「お前も、俺たちのことをバカにしてるのかよ」

 

「……突然、どうした?」

 

「お前はAクラスだもんな。内心で俺たちのことを不良品だってバカにしてんだろ」

 

 被害妄想が過ぎる。

 確かに学校のシステム上、クラス順に優劣が決まっているが、だからといって個人までをバカにするかどうかは別の話だろう。そもそも不良品って何のことだ。

 

「落ち着け須藤。オレがいつお前をバカにした?」

 

 須藤は変わらず鋭い眼光をオレに向けている。まだキレてもいないが、冷静になる気配もない。 

 

「お前はどうしたい?」

 

「あ?」

 

「バカにされてると思ってオレとの関係を断つか。それともこれまで通り一緒に走るか。お前が選べ、須藤」

 

「っ、俺は」

 

 そう真っ直ぐ目を見ながら問うと、須藤は逡巡しながら先に目を逸らした。

 

「……わりぃ」

 

「別に気にしてない。それより走るぞ」

 

「ああ」

 

 気まずそうな顔で何かを言いたげな須藤を無視し、いつもよりもペースを上げてランニングをした。

 

 

「ハァハァ、前から思ってたけど体力あるよな、お前。運動部に入ってないのは勿体ないぜ」

 

 お互いに汗を拭い呼吸を整える。

 オレは須藤が落ち着いているのを確認してから口を開く。

 

「須藤。中間テストは大丈夫か?」

 

 ピタリと須藤が動きが止まり、また分かりやすく顔色が変化していく。

 

「赤点は退学だと説明は受けているだろう? 勉強はきちんと出来ているか?」

 

「おめぇには関係ねぇだろうが!」

 

「オレには関係ないかもしれないが、お前にはあるだろ? 別に赤点を取って退学したいわけじゃないんだろ?」

 

「うるせえ、放っとけってんだ!」

 

 怒鳴りながら背を向け去ろうとする須藤を、オレは腕を掴んで引き止める。腕を振り払おうとするのは分かっているので、グッと力を込めて。

 

「須藤。一緒に走る前に、お前はオレとの関係を断とうとはしなかったよな? だからオレは、お前が選んだその選択に対して誠意を返したいと思っている。だからこのままお前を本当に放っておくのは、不誠実なことだと感じた」

 

「っ、綾小路」

 

 須藤が振り返る。

 その表情に怒りはなく、戸惑いと困惑、そして僅かな罪悪感が見て取れる。オレは会話する意思を確認し、手の力を緩めた。

 

「Dクラスの方で勉強会とかの話は出ていないのか?」

 

「……()()()()

 

 出てないのではなく、知らないか。

 オレには須藤のDクラスでの立ち位置が分からない。もしかしたら嫌われ者でハブられている可能性もあるが、だからといっていきなり『切り捨て』に走るほどの愚行はないだろう。

 

 この場合は、クラス内の話し合いの場に須藤がいなかったと考えるのが自然か。

 まあ、オレと坂柳も昨日の放課後にも行われた、Aクラス内での話し合いには参加していないのだが(坂柳オーラ様々であり、誰にも引き止められなかった)

 

「須藤、部活が終わってからでいいから、オレに連絡をくれないか?」

 

「別に構わねえけどよ。何するつもりなんだよ」

 

「決まってるだろ。勉強会だ」

 

 話の流れで分かりそうなものだが、須藤は目を見開き分かりやすく驚いてくる。

 

「中間テストに向け、取り敢えずは一時間だ。一緒に勉強するぞ」

 

「あ、おい!」

 

 須藤の返事を待たずに、オレは早足で歩き出す。グチグチと言い訳を並べて逃げられるのは面倒だからだ。

 勉強嫌いなのは知っているが、この学校に来てしまった以上は『退学』以外で逃げることは叶わないぞ、須藤。

 

 

 

 

 * 

 

 

 茶道部。

 どうやら今日は、指導員の先生がやってくるらしい。

 普段のゆる~い活動ではなく、割ときっちりとした部活動になりそうだ。

 

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 重要なのは、指導員の先生が来る日は、基本的に着物を着用することを義務付けられているということ。

 

 着物は個人で用意するか、備品としての貸し出し用を借りるか。

 

 オレは着物に着替えてから、茶道室に入る。

 中には数人の先輩たちが既に集まっていた。ピンク、薄緑色と、備品のではなく個人で所有している着物を着ている。

 

「うわぁ、この部で男性の着物姿なんて初めて見る」

 

「懐かしいなぁ。私が1年の時は3年生に男の部員もいたんだけどねぇ」

 

「うむ、様になってるね、綾小路()()

 

「……ありがとうございます」

 

 囲まれながらもへこへこしていると、背後から茶道室の扉がゆっくりと開かれる。

 

 

「お待たせしまし……あっ……」

 

 

 そして、椎名と目が合った。 

 

 

 ふぁ

 

 

 天使

 

 

 

 ちゅき

 

 

 

「綾小路くん大丈夫? 宇宙に放出された猫みたいな顔してるけど?」

 

「先輩、これはただ単純に見惚れてるだけですよ」

 

「いや、2人して見つめすぎでしょ……」

 

入部した甲斐があった……

 

「え?」

 

 コホン。

 

「あ、あー、似合ってるぞ、椎名」

 

「あ、綾小路くんも、とてもお似合いですねっ!」

 

「椎名の方がオレよりも数億倍似合っているが、ありがとう」

 

 着物姿の椎名。

 椎名の雰囲気と合わせて調和が取れ過ぎている。似合い過ぎていてヤバい。

 いつもは下ろしている長髪を後ろで束ねているのも反則的だ。凄い引力。思わずうなじに目を向けてしまうのだってオレは悪くないはずだ。

 

 くっ、いや、待て、落ち着け写真欲しいな。待ち受けにしたい。

 どうすれば写真を撮らせて貰えるだろうか? ストレートに土下座すればいけるだろうか?

 

「あの、綾小路くんの姿を撮っていいですか?」

 

「ぁえ?」

 

「その、実は坂柳さんから綾小路くんの着物姿の写真を頼まれていまして。それに私も欲しいですから……

 

 流石は坂柳(友達)

 ナイスアシスト!

 

「構わないが、それならもちろんオレの方も椎名の写真を撮らせてもらうからな」

 

「それは……、はい」

 

 内心で飛び上がりながら、発言を撤回される前に素早く携帯を用意しカメラを起動する。

 

 そこからパシャパシャと椎名を撮影する。

 最初は穏やかな表情を努めていて椎名だったが、連続して写真を撮っているうちに変化していく。

 恥ずかしそうに赤面する表情も見せてくれるとか、椎名か? 間違えた、天使か? いや、天使だったな。

 

「と、撮り過ぎです! 次は私の番ですからね!」

 

 まだまだ撮り足りないのだが、渋々撮られる側に回る。

 パシャパシャと連続で撮られるオレ。

 

「綾小路くん、何かポーズとかお願いします」

 

「っ!? そんなこともしていいのか?」

 

 えぇ、椎名にどんなポーズさせようか?

 

「わ、私の番はもう終わってますからね」

 

「……ずるくないか、それ?」

 

「いいですね、その顔も。あ、ちょっと腕を組んで貰ってもいいですか?」

 

 要望に従うオレ。満足気にオレの写真を撮り続ける椎名。

 そろそろ交代して欲しいのだが、椎名が楽しそうだから言い辛い。

 

「後輩たちが私たちの目の前でいちゃついてるぅ」

 

「うぅ、一人身が寂しい……!」  

 

「ハァ……、ほら2人共。一人ずつじゃなくて一緒に並びなさい。写真撮ってあげるから」

 

「はい、お願いします、先輩!」

 

 椎名が嬉しそうな顔でオレの隣に並ぶ。

 カシャリと一枚。

 先輩から写真データを送ってもらう。

 

 オレと椎名の2人だけが映る写真。

 俗に言うツーショットというやつだ。

 ふむ……、めっっっちゃ嬉しいぞ。

 これはもう、友達というより『親友』だろ。

 

 むむ、しかし、どの写真を待ち受けにしたものか。オレ一人では決めきれない。なので本人の意見も参考にしようと聞いてみると「恥ずかしいので止めてください」と怒られた。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

「マジで来たのかよ……」

 

「連絡があったからな。ちゃんと行くと言っただろ?」

 

「ああくそ、分かってるよ」

 

 ガシガシと頭をかきながら、須藤はオレを部屋に招き入れる。

 須藤の部屋は思ったよりも片付けがされており綺麗だった。オレが来るから片付けしたのか、それとも片付けの出来るタイプだったのか。まぁ、どうでもいいことだが。

 

「ったく、まだテストまで2週間以上もあるってのによ……」

 

 口ではぶつくさ言いながらも、教科書の置かれたテーブルの前に須藤は座る。

 内心では分かっているのだろう。勉強しなければマズいということを。

 

「暗記教科は一人でやってもらうとして、まずは数学からやるぞ」

 

 教科書を広げ、テスト範囲である連立方程式の問題を須藤にやらせてみる。

 普通なら高校生が十分に解ける問題なのだが、残念ながら予想していた通り、須藤の手が早速止まった。

 

「須藤、その問題は連立方程式を用いて解ける問題なんだが、そもそも連立方程式がどんなものか理解しているか?」

 

「知らねぇ……」

 

「分かった。なら基礎から確実に、公式を一つずつ着実に覚えていくぞ」

 

 こうしてオレは約1時間、須藤に勉強を教え続けた。

 勉強嫌いという言葉通り、予想していたよりも予想以上に須藤は勉強が出来ていなかった。はっきり言えば中学生以下かもしれない。

 今更ではあるが、学校側はテストの点数だけで入学の合否を判断していないのだろう。須藤は学力ではなく、身体能力の高さを評価されて入学したようだ。

 

「お前は俺をバカにしないんだな……」

 

「バカにした方が良かったか?」

 

「ちげぇ、そういう意味で言ってねぇよ。ただ、クラスの奴等と違って見下されてるって感じなかっただけだ」

 

「……よく分からないが、ありがとう、と言っておくべきか?」

 

「なんでお前が言うんだよ。礼を言うのは、その、俺の方だろ。俺一人じゃ勉強しようなんてぜってぇ思わなかった」

 

 一人で勉強出来るようになるのが理想だが、それを今の須藤に求めるのは無理だろう。

 

「なら須藤。感謝の気持ちを盾にハッキリと先に言っておくが、一日一時間のペースじゃテストまで間に合わない。もっと沢山の勉強時間が必要だ」

 

「っ、俺には部活があるんだ。これ以上の勉強は無理だぞ」

 

「部活はもう終わってるだろ。それに、まだ寝るには早い時間帯だ。休憩して再開するぞ」

 

 げぇっと、分かりやすく嫌そうな顔をする須藤。

 

「お前をバカにはしないが、危機感は持っといた方がいい。何度も聞くが、別に退学したいわけじゃないんだろ?」

 

「わ、わーったよ! くそ、やってやるってんだ!」

 

 そこからプラス一時間半。オレは須藤に数学を教え込んだ。 

 そして頭を押さえながら机に突っ伏している須藤に別れを告げ、オレは部屋に戻った。

 

 

 





◇須藤
・原作と違い、朝を一緒に走ったりポイント変動の件を教えてくれたりと、綾小路の好感度は割とある。
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