ようこそAクラスの教室へ   作:yadooo

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8話:黒髪少女

「おはようございます、綾小路くん、椎名さん。早速ですが、紹介したい人がいます」

 

「…………」

 

 坂柳の隣で、彼女とは対照的に無愛想のまま少女は渋々といった様子で口を開く。

 

「神室真澄よ」

 

 同じクラスなので名前は知っていた。しかし、一度も話したことのない相手。また、神室が教室内で誰かと絡んでいる光景も見たことがない。いつも一人でいる印象がある女子生徒だ。

 そんな彼女と坂柳がどうして一緒にいるのか。

 

「実は()()さんのことは前々から目を付……、いえ、気になっておりまして、昨日の放課後にようやく仲良くなれてお友達になったんです。ですよね、真澄さん?」

 

「……ええ、そうね」

 

 神室の表情や声音から全然そんな感じがしないんだが、本当にお友達になったのか?

 

「椎名ひよりです。よろしくお願います、神室さん」

 

「綾小路清隆だ。よろしく」

 

「よろしく、椎名。あと、あんたのことは別に知ってるから。同じクラスでしょ」

 

 どうやらちゃんと認知されていたようだ。「こいつ誰だっけ?」とはならなくてちょっと嬉しい。

 

「神室さんは何か本とか読まれますか?」

 

「読まない」

 

 おいおい、にべもないな。

 

「なら椎名がおすすめの本を貸してあげたらどうだ? これを機に、神室も読書仲間に引き込もう」

 

「は?」

 

「良いですね、それは。神室さん、何か好きなジャンルとかありますか? ミステリー、ホラー、ファンタジー、恋愛物まで様々なおすすめ小説がありますよ」

 

ぐいっと神室との距離を詰める椎名。

  

「い、いや、いいわよ別に」

 

「椎名のおすすめする本はどれも面白いぞ。是非、神室も読書を始めるべきだ」

 

「何なのよ、あんたまで」

 

「ふふ、そうですね。真澄さんも読書を始めましょうか。退屈な時間を潰せる役には立てるはずですよ」

 

「っ、分かった。取り敢えず、椎名。SFで何か面白い本でも教えて」

 

 溜息と共に渋々といった顔で頷く神室。彼女の言葉で椎名は嬉しそうに微笑んだ。

 

「綾小路くん」

 

 坂柳がオレの隣にやって来て、オレにだけ聞こえる声で話し始める。

 

「真澄さんは私に色々と協力してくれるそうですが、綾小路くんの方も何かあれば彼女を使()()()あげてください」

 

「……友達なんだよな?」

 

「ええ、そうですよ」

 

 にっこりと微笑む坂柳。

 椎名と違って邪気を感じてしまうのは、オレが坂柳のことを穿って見ているせいなのか。

 

「一体どういった経緯で友達になったんだ?」

 

「そのうち話すかもしれませんが、今はまだ秘密です」

 

 坂柳はそう言って歩き出す。神室も無愛想のまま坂柳の鞄を持って彼女の横に並んだ。

 友達というより従者のように見えてしまうな。

 

「行きましょう、綾小路くん」

 

 椎名の言葉に頷き、4人で登校を始めた。

 

  

 

 

 

 

 5月初日から1週間が経った。

 中間テストまで後2週間になったところで、真嶋先生は落ち着いた声で、テスト範囲が変更されることを告知した。

 

「だが、お前達なら大丈夫だろう。今からでも十分に満点を狙っていけるはずだ。期待しているぞ」

 

 そう言って真嶋先生はHR終え、教室から出て行った。

 教室内で動揺が走ったのはほんの僅かな間だけ。日頃から勉強しているであろうAクラスの生徒達からしたら大きな影響はないだろう。無論、オレも坂柳も影響はない。

 

 

 しかし入学して初めての中間テストで、そのテスト範囲の変更か。

 テスト範囲が変更される理由は分からないが、真嶋先生の態度からテスト範囲の変更は、最初から決まっていたように思える。

 それに、前回の発言といい今回も発言の意味を考えるとーー。

 

「綾小路くん、()()()()()をしませんか?」

 

「……別に構わないが、その発言が既に()()を言っているようなものじゃないか?」

 

 坂柳は一瞬だけキョトンとした顔になり、いつもの見慣れた笑みを浮かべた。

 

「やはり、綾小路くんも気付きましたか」

 

「違和感は所々にあったからな。といっても、確定させる為には確認は必要だが」

 

「なら明日の放課後までに、お互いに()()を用意しておきましょう」

 

「ああ」

 

「話は終わった? 今日はどうすんの?」

 

 オレが頷き終えたタイミングで神室が近付いてくる。そして無愛想のまま坂柳の鞄を手に取った。前まではオレが坂柳の鞄を持っていたが、しっかりとお役目の交代が行われている。

 

「今日は一緒に読書でもしましょう。いい加減、椎名さんから借りた本を読み終えた方がいいですよ?」

 

「まだ読み終えてなかったのか? 借りてから3日も経ってるだろ?」

 

「たったの3日よ。読書する習慣がないんだから仕方がないでしょ。それに、椎名は自分のペースで読んでくださいって言ってくれたわよ」

 

 

 そんなこんなで放課後は椎名と合流し、4人で図書室にやって来た。

 椎名に神室、そしてオレに続いて坂柳も本を手に取り読書を始める。

 

 坂柳とはあの日以降、チェスをしていない。

 坂柳がどんな想いでオレと全力勝負を行ったかは分からないが、その勝敗に関わらず彼女は大きく満足しているようだ。

 満ち足りた状態で、間を置かずにチェスをやろうとすれば食傷気味になってしまう。オレでさえそう思うのだから坂柳も同様だろう。確認したわけでもないが、当分の間はチェスはやらないはずだ。チェス部の活動休止である。南無。

 

 

 図書室から聞き覚えのある、苛立ちに満ちた声が聞こえてくる。

 神室が「うるさいわね」と呟きながら顔を上げ、坂柳も本を読む手を止めた。椎名だけが気にせず穏やかな顔で読書を続けている。

 

 オレ達の視線の先に、須藤を含めた4人の男子生徒と2人の女子生徒がいた。

 その2人の内の一人はオレの恩人である黒髪少女であり、残りの一人も入学前のバスの中にいた少女だったということを思い出す。

 

「わざわざ部活を休んで来てやったのに、完全に時間の無駄だ。あばよ!」

 

 須藤は苛立った顔で黒髪少女に言葉を吐き捨て、他の3人の男性生徒たちと一緒に図書室から出ていく。そしてもう一人の少女も、一言二言の会話をして図書室から出て行った。

 

 残されたのは黒髪少女ただ一人。

 

 黒髪少女は去って行った須藤たちの後を追うようなことはせず、視線すら向けずに教科書だけを見ていた。

 

「あれ、Dクラスでしょ。悲惨よね。前回の小テストで7人ぐらいが赤点を取ってたらしいわ。今回の中間で一体何人が赤点を取るんだか」

 

「詳しいな、神室」

 

「真澄さんが、私たちの為に情報収集してくれたんですよね?」

 

「……そうね」

 

 「やらされてたの間違いじゃなくて?」と言葉を飲み込み、オレは本を置いて席を立ちあがる。そしてそのまま、黒髪少女に近付いた。

 

「あー、大丈夫か?」

 

「…………」

 

「せっかくの勉強会、残念だったな。須藤にはオレからも再度勉強しておくべきだって言っておこう」

 

「…………」

 

 あれ、もしかしたらオレが見えてない?

 声も聞こえてなくて、実は気付かぬ間に透明人間になってる?

 

「……ナンパならお断りよ」

   

「違う。ただ単純に心配になって声を掛けただけだ」

 

 くそ、自分で言っていてちょっとナンパっぽい台詞だと思ってしまった。

 

「別に私は心配されるようなことはないわ。困るのは彼らだもの。あれじゃあ、これからもずっとクラスに迷惑を掛けられ続ける」

 

 黒髪少女は教科書を鞄に詰めて立ち上がる。

 

「足手まといは今のうちに脱落してもらった方がいいわ」

 

 そう言葉を残してから、図書室から出て行った。

 

「何、綾小路。あんたナンパしに行ったの?」

 

 神室がニヤリと口角を上げ、からかいを含めた声で聞いてくる。

 

「綾小路くんはああいう子がタイプなんですか?」

 

 坂柳もからかってきているのが分かるが、目の奥があまり笑っていない。

 

「綾小路くん。図書室は女の子をナンパする場所じゃありませんよ?」

 

 椎名は、どっちか分からない。

 もしかしてナンパしに行ったって本気で思われてる?

 

「違うからな……」

 

 オレがそう言うと「分かってますよ」と椎名にくすくす笑われた。でも分かってくれてるならヨシ!

 

 

 

 

 *

 

 須藤からの連絡が来ない。

 いつもならこの時間帯に連絡が来るんだが、今日はサボるつもりか? いや、少し遅れる可能性だってあるし決め付けるのは早計か。そう思ってしまったのも、図書室でのあの光景が頭に引っかかっているせいだな。

 気分転換も兼ね、少し外でも歩こうか。普段とは違う、夜の景色を眺めて歩くのも悪くはなさそうだ。

 

「ん?」

 

 寮の外へ出て自販機の近くまで歩くと、人の気配を感じ、話し声が聞こえてきた。裏手の曲がり角をこっそり覗いてみると、そこには2人の男女がいた。

 しかも驚くことに、女子生徒の方は図書室で会った恩人の黒髪少女である。

 

「ーーもう、兄さんの知っている頃のダメな私とは違います。追いつくために来ました」

 

「追いつく、か」

 

 黒髪少女の言葉に男は冷めた声で……ん、よく見るとあの男は生徒会長だな。名前は確か堀北学だったか。それと「兄さん」か。

 

「Dクラスになったと聞いていたが、3年前と何も変わっていない。お前は今もまだ自分の欠点に気づいていない。この学校を選んだのは失敗だったな」

 

「それはーー何かの間違いです。すぐにAクラスに上がって見せます。そしたらーー」

 

「無理だな。この学校はお前が考えているほど甘いところではない」

 

「絶対に、たどり着きます……」

 

「無理だと言っただろう。本当に聞き分けのない妹だ」

 

 声に力もなく、叱られた子供のように弱々しい黒髪少女。

 そんな黒髪少女を見ながら生徒会長は一歩距離を詰めた。

 その表情には一切の感情がない。態度といい兄が妹に向ける目にしてはあまりにも冷めている。これが世間一般の兄妹関係なら、オレは一人っ子で良かったと心底思う。

 

 そんなことを考えいる間に、生徒会長は妹である黒髪少女の手首を掴み、強く壁に押し付けた。

 

「Dクラスに振り分けられた妹。恥をかくのはこの俺だ。今すぐこの学校を去れ」

 

「で、出来ません……っ。私は、絶対にAクラスに上がって見せます……! 私はーー」

 

「お前には上を目指す力も資格もない。それを知れ」

 

 黒髪少女の身体がぐっと前に引かれ、宙に浮いた。

 オレは直感的に飛び出し、気配を悟られる前に生徒会長の右腕を掴みとり、その動きを制限した。

 

「ーー何だ、お前は?」

 

 生徒会長は鋭い眼光をオレに向けてくる。

 

「ここはコンクリだぞ。投げたらどうなるか……、いくら兄妹とはいえ、やって良いことと悪ことがあるだろ」

 

「盗み聞きとは感心しないな」

 

「悪いとは思うが、結果的には正解だった」

 

 そのおかげで恩人が大怪我を負うのを阻止できたのだ。  

 

「この手を離せ」

 

「先に彼女の手を離してからな」

 

 オレと生徒会長が睨み合い、沈黙が訪れる。

 

「……やめて。これは私と兄さんの、2人だけの話よ。邪魔、しないで……」

 

 その沈黙を破ったのは黒髪少女。

 絞り出した声で、オレの助けを拒絶する。

 

「……分かった」

 

 オレがゆっくりと生徒会長の腕を放す。

 その瞬間、とてつもない速度の裏拳がオレの顔面に飛んでくる。

 上半身を仰け反らせて咄嗟に回避。続けて急所を狙った鋭い蹴りが飛んでくる。

 

「っぶね」

 

 思わず声が出てしまうぐらい、容赦のない威力と速度。

 生徒会長は僅かに表情を変化させてから、右手を真っ直ぐ開いた状態のまま踏み込んでくる。

 掴まれれば地面に叩きつけられる。それを阻止する為に左手の甲で、伸ばされた右手を弾いた。

 

「いい動きだな。何か習っていたのか?」

 

「ピアノと書道なら。小学生の時、全国音楽コンクールで優勝したこともあるぞ」

 

「中々ユニークな男だな。名前は?」

 

「人に名前を尋ねる時はまず自分からじゃないんすか?」

 

 オレの不躾な言い方に生徒会長は気を悪くした様子もなく、僅かにだが口元を緩める。

 

「3年Aクラス。堀北学だ。生徒会長を務めている」

 

「1年Aクラス。綾小路清隆。所属は茶道部とチェス部だ」

 

「綾小路か。なるほど、今年の入学試験、全科目で77点を取った新入生とはお前のことだったか。加えて、先日の小テストは88点。随分と面白い点を狙って揃えたものだな」

 

「偶然って怖いっすね」

 

 プライバシーはどうなってるんだという思いと、入学試験で77点を取っていたことを知られていたことに対しての僅かな喜びがある。7は縁起の良い数字だと聞き、手間だったが狙ってみたのだ。

 

「鈴音。他クラスとはいえ、友達が居たとはな。正直驚いた」

 

 鈴音と呼ばれた黒髪少女は戸惑った表情でオレを見る。オレも同じ気持ちだ。

 初対面ではないものの、お互いに友達以前に知り合い未満。

 この男、何をどう見てオレ達が友達同士だと思ったのか。

 

「彼は……違います。私の、敵です」

 

「敵……」

 

 間違ってないが、この場でわざわざ言う必要もないだろう。

 

「その様子ではやはり変わっていないようだな。孤高と孤独の意味を履き違え、一人でいるのだろう」

 

 堀北兄ーー学は鈴音から視線を切り、そのままオレの横を通り過ぎる。

 

「上のクラスに上がりたければ、死に物狂いで足掻け。それしか方法はない」

 

 学が去っていき、夜の静寂さを取り戻す。

 鈴音は壁際に座り込んで俯いてしまっている。オレは少しだけ迷い、鈴音に背を向け歩き出す。そして自販機から飲み物を2つ買ってから、座ったままでいる鈴音の前に再び足を運んだ。

 

「ジュースとお茶、どっちがいい?」

 

「……施しなんか受けないわ」

 

「ジュースな、了解」

 

「ちょ、ちょっと」

 

 ジュースを軽く放り投げると、慌てながらも鈴音はそれをキャッチする。

 

「1年Aクラス綾小路清隆だ。所属は茶道部とチェス部」

 

「……さっき聞いたわ」

 

「名乗り返して欲しいんだよ」

 

「……………………堀北鈴音よ」

 

 間なっが……。

 えぇ、そんなに名乗りたくないのかよ。

 

「お前の兄さん、色々と凄いな。殺気も半端なかったし相当強いだろ」

 

 軽く話を振ってみるが返答はなし。

 別に友達ではないとはいえ無視は酷い。

 

「……まだ何か用なの? さっきも言ったけどあなたには関係ない。今見たのは忘れてどっかに行ってちょうだい」

 

「…………」

 

 普通なら、オレは彼女の言葉に従うべきところだ。

 親切を働こうにも、彼女はそれを拒絶している。むしろ変なところを見られたと、一秒でも速く視界から消えて欲しいと思っているだろう。

 

「…………何なのよ」

 

 それでも動かないオレに対し、鈴音は憎々し気に睨んでくる。それからゆっくりと体を起こし、歩き出そうとする前に、オレは口を開いた。

 

 

「図書室で足でまといは脱落してもらった方がいいと言っていたが、本当に赤点保持者を切り捨てるつもりか?」

 

「……今日の勉強会で、赤点保持者に時間を割くだけ無駄だと判断したわ。テストが行われる度に、赤点を取らないようにカバーするなんて愚も骨頂よ。何のメリットもない。むしろ、赤点組を早々に切り捨ててしまえば、残るのは必然的にマシな生徒だけになる。上のクラスを目指すことも容易くなって、私には願ったり叶ったりよ」

 

 鈴音はそう饒舌に語ってから、はっとした顔になる。

 

「……そもそも、他クラスの、Aクラスのあなたには関係のない話よ」

 

 鈴音はオレから視線を外して歩き出す。

 もう足を止めないと、そう感じさせる背中にオレは言葉を投げつけた。

 

 

「Aクラスに上がるのは無理だな。1%の可能性すらない」

 

「なん、ですって……?」 

 

 鈴音は振り返り、オレを思いっ切り睨みつけた。

 

「AクラスどころかCクラスにすら上がれないだろうな。その力もなさそうだ」

 

「っ、あなたが私の何を知っているというの!?」

 

「オレは知らない。だが、お前の兄である学は、お前のことを知っているだろう? オレは、お前がお前の兄に言われた言葉しか口にしていない」

 

「っ!?」

 

「そして先ほどのお前の言葉を聞いて、堀北学の発言は何も間違っていなかったと確信を抱いた」

 

「わた、私は…………」

 

 鈴音は崩れ落ちるのを堪えるようにして、壁に寄りかかった。

 

「もう一度だけ聞くが、本当に足でまといを、赤点保持者を切り捨てる考えでいるのか?」

 

「……私の考えは間違えていないわ。退学者を出すことでクラスポイントに大きなマイナスが付けられるかもしれない。それでも今はたったの70のクラスポイントだけ。将来的にポイントが増えてきた時、赤点組を切り捨てなかったことを後悔したくないの。今このタイミングでリスクを取っておくべきなのよ」

 

「なるほど。お前の考えはよく分かった。確かに間違っていないのかもしれない。だが、正しくもないな」

 

「……ならあなたは、正しい答えを知っているというの?」

 

「知らん」

 

「なっ!?」

 

「知るわけがないだろう。オレはDクラスの生徒じゃない。赤点組がどんな奴等なのか何も知らないんだから。鈴音。お前は自分と同じクラスである彼らのことをどれだけ知っている?」

 

「っ、話を聞いていなかったの? 勉強の出来ない、クラスの足手まといよ」

 

「それは聞いた。だけど、勉強が出来ないだけなのか? 例えば、須藤。アイツは確かに勉強が出来ないし怒りっぽいが、バスケットをやっていて身体能力に秀でたものがある。他の奴等にもそういうのはないのか? それとも勉強は出来ない、他に秀でた能力も何もない無能たちか? お前はそうだと断言出来る程、彼らを知っているのか?」

 

「それ、は……」

 

オレは手に持っているお茶を飲み喉を潤す。

 

「学力だけの観点で見れば、お前の主張は何も間違っていないだろう。だけど、学力だけでこの学校への入学は決まっていないはずだし、クラス分けだって同じだ。学力だけでクラスが分けられたりはしていない」

 

 学力だけで決められているなら椎名はAクラスだったはずだ。小テストで70点台だった神室ならBクラスになっていたかもしれない。

 

「ここから導き出されるのは、この学校は学力以外にも求めているものがある、と言うことだ。お前は赤点組を切り捨てた方が後悔しないと言ったが、逆に失ったことを後悔する日だって、十分にある。鈴音、そのことを一片たりとも考えたことは、本当になかったのか?」

 

「…………」

 

 言葉を詰まらせてから、ゆっくりと鈴音はオレから視線を外す。

 彼女がオレの意見に納得している部分もあると、そんな手応えを感じ取った。

 

「……あなたは、随分と饒舌だったのね。それに、確か事なかれ主義を気取っていなかったかしら?」

 

「そういえば、そんなことも言ったな」

 

 入学式の校門までのやり取り。バスを降りてから鈴音と初めて話し、そんな深く考えないで言った発言をボコボコに言い返されたのだ。

 

ーーおかげで椎名と出会うことが出来た。

 

「鈴音、友達は出来たか?」

 

「さっきも思ったけど、勝手に名前で呼ばないでくれる?」

 

「……堀北妹は、友達が出来たか?」

 

「その呼ばれ方も好きじゃないわ。普通に呼びなさい」

 

「学と、堀北兄と一緒にいた時に紛らわしいだろ。で、友達は出来たか?」

 

「…………鈴音でいいわよ。ただし、兄さんのことを『学』なんて呼び捨てにしたら許さないわ」

 

「こわ。で、友達は出来たか鈴音?」

 

「……私の友達の有無とあなたに一体何の関係があるというの? そもそも私は友達なんて必要としていないわ」

 

「そ、そうか。オレには友達が出来たぞ。2人もな」

 

 須藤と神室は保留。

 友達って「今日から友達」ってお互いに言わない場合、どのラインから友達って呼んでいいんだろうか?

 

「それが何だって言うのよ? まさか友達を作れって、そんなくだらないことを言いたいわけ?」

 

「違う。友達を作るも作らないもお前の勝手だし好きにしろ」

 

「じゃあさっきから何だって言うのよ?」

 

「ただ、お前のことを知りたかっただけだ」

 

 あと友達が出来たことを自慢したかった気持ちもある。

 

「そして、今知りたかったことは取り敢えず知ることが出来た」

 

 

 堀北鈴音。

 彼女は恐らく優秀なのだろう。運動面は分からないが、学力に関しては相当な自信があることは、赤点組を切り捨てるなどの彼女の発言からも伺える。

 

 だが、それだけだ。

 相手を見下し、他人を足でまといだと決めつける視野の狭さ。

 堀北兄の言葉通り「孤高と孤独の意味を履き違えている」なら、恐らく彼女はクラスでは一人で、誰ともコミュニケーションを取ろうとさえしていないのだろう。友達がいないことは悪いことだとは言わない。だが、友達がいないのと、他者を寄せ付けず突き放すことは全く別だ。

 

「鈴音。お前は本気でAクラスを目指しているんだよな?」

 

「……そうよ。あなたを倒し、Aクラスになるわ」

 

「堀北学の言葉を借りてもう一度言うが、無理だ。少なくとも、今のままじゃな」

 

「なら、どうすればいいの……? どうすれば私は、兄さんに……」

 

 恐らく鈴音は兄である堀北学を尊敬し慕っているのだろう。

 だから兄に言われた言葉に大きく反応を示すし、心に受けたダメージも未だに残っている。誘導しているとはいえ、Aクラスのオレに弱音を吐いてしまうぐらいには、今も落ち込んでいる。

 

「決まってるだろ。分からないなら、勉強だ」

 

「え?」

 

 オレはそう言って、5分前にメッセージの来ていた携帯を見せた。

 

 





◇神室真澄
・原作では入学してから1週間程で、坂柳にバレて「お友達」になるが、この世界線の坂柳は基本的に綾小路と一緒にいて満足しているので、神室と接触する機会が殆どなかった。
 その為に神室の加入が遅れた模様。
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