Pokemon Legends YAKUZ−A!   作:洋菓子職人II

13 / 17
前回予告していたせいで文字数が平均の倍以上に増えてしまった…

タイトルの犠牲者とは未来のカズマと1番ワイルドゾーンのポケモンたちのことですのでご安心を


平和とは誰かの犠牲で成り立つ

 「カズマのスマホロトムにミアレシティの地図データが入ってるから、もし場所が分からなくなったらそれを見てね。よ〜し、出発!」

 

 タウニーの元気な号令とともに、一行はポケモンセンターへと移動を始めた。しかし、ホテルZの敷地を出て、大通りへと繋がる路地に差し掛かった、その時だった。

 

 「……ん?」

 

 カズマがグレーのジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、足を止めた。彼らの眼前に広がっていたのは、路地を完全に塞いでいる巨大な岩の塊だった。大人が数人がかりでもビクともしないであろう巨岩が、無骨に道を遮っている。

 

 「昨日はこんな岩、なかったはずだ。どういうことだ」

 

 カズマが訝しげに眉根を寄せると、タウニーも巨岩を見上げて困ったように頭を掻いた。

 

 「やられたね…。うーん、多分野生のポケモンが技で塞いじゃったのかな……。ミアレは今あちこち工事してるから、驚いたポケモンが暴れちゃうこともよくあるんだよね。仕方ない、ちょっと遠回りになっちゃうけど、別のルートから回り道をしよう!」

 

 タウニーが(きびす)を返そうとした、その瞬間だった。

 

 「――いや、その必要はねぇ」

 

 カズマの低い声が路地に響く。彼は腰のモンスターボールを手に取ると、迷わずボタンを押して光を放った。現れたのは、さっきススムに美味しいところを持っていかれて、いまだに手ぐすねを引いていた相棒のニシキだ。

 

 「おい、ニシキ。さっきのバトル、不完全燃焼だったろ。その鬱憤、ここで晴らしちまえ。――あの岩に『たいあたり』だ!」

 

 その言葉を待っていたと言わんばかりに、ニシキの瞳に獰猛な輝きが戻った。

 

 『おうよカズマ! 待ってましたァッ! 新入りのプリケツに負けてらんねえんだよ、俺の根性、特等席で見届けてくれやぁぁっ!!』

 

 ニシキは床の上で凄まじい尾ビレのしなりを見せると、弾丸のような勢いで巨岩のド真ん中へと跳躍し、渾身の『たいあたり』を叩き込んだ。

 

 ズガァァァンッ!!

 

 凄まじい衝撃音とともに、巨岩の右半分がクモの巣状の亀裂を走らせ、粉々に砕け散る。

 

 「わああっ!? ニシキ、コイキングなのに凄まじいパワー……!」

 

 タウニーが目を見開いて絶叫するなか、カズマはまだ残っている左半分の巨岩の前に、ゆっくりと歩み出た。グレーのジャケットの裾を軽く払い、どっしりと軸足を固める。

 

 「ふんっ!」

 

 短い呼気とともに、カズマの右足が電閃のごとく一閃した。トレーナーとしての修羅場を幾度も叩き伏せてきた、人間離れした渾身の回し蹴り。それが残った巨岩へと容赦なく炸裂する。

 

 ドゴォォォンッ!!!

 

 「な、なんだ今の音は……!?」

 「うそ……ポケモンじゃなくて、あのグレーの服の男が生身で岩を……!?」

 

 通りすがりのミアレの住人たちが、何事かと一斉に足を止め、驚愕の声を上げた。

 

 人間の生身の蹴りとは到底思えない破壊音が響き渡り、残された岩の塊は跡形もなく粉砕され、ただの瓦礫へと変わった。路地を塞いでいた障害物は完全に消え去り、そこにはまっすぐな一本の道が綺麗に開かれていた。

 

 「よし。これで回り道をする必要はなくなったな。行くぞ、ニシキ、ススム」

 

 カズマは何事もなかったかのようにスーツの襟を正すと、足元で『どうだ!』と胸を張るニシキと、カズマの圧倒的な蹴り技に『ワシに出来ないことをいとも簡単にやってのける…!そこに 痺れるぅ!憧れるぅ!』と目を輝かせるススムを伴って歩き出した。

 

 後ろに取り残されていたタウニーは、完全に開いた口が塞がらない様子で瓦礫とカズマの背中を交互に見つめていたが、すぐに我に返ると、あきれ返りながらも楽しそうに笑った。

 

 「……もう、本当にめちゃくちゃなんだから! でも、やっぱりカズマたちは凄いよ! 頼りになりすぎる!」

 

 タウニーはタタタッとカズマの隣へと駆け寄り、今度こそ彼らを先導するように前を歩き始める。

 

 「よし、このまま真っ直ぐ進めば『ポケモンセンター・ベール』だよ! 案内するから、あたしについてきて!」

 

 現場の空気は一瞬にしてざわめき立ち、周囲からは様々な視線とヒソヒソ話がカズマたちへと注がれる。

 

 「す、すげえ……! おい、今の見たかよ! スマホロトムで撮っとけばよかった!」

 興奮気味にポケットからスマホロトムを取り出す者がいれば…

 

 「な、なんなのあの男……。カタギの人間には見えないわ、近寄らないようにしましょう……」

 と、カズマの放つオーラに恐怖を感じて距離を置く者もいる。

 

 さらには、その圧倒的な武力に畏敬の念を抱き、じっと見つめる若者や…

 「……あの凄まじい力、わたしの『ジャスティスの会』にスカウトすべき人材ではないでしょうか?」

 と、何やら巨大な筋肉ダルマの影をちらつかせながら、品定めするようにカズマを観察する者まで、住人たちの反応は様々だった。

 

 「うわぁ……カズマ、すっごく注目されてるねぇ。ちょっと目立ちすぎちゃったかも?」

 

 タウニーが周囲の視線に少し気圧されながら苦笑いする。だが、カズマはグレーのジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、周囲の喧騒などどこ吹く風で、フッと不敵に口角を上げた。

 

 「――いや、寧ろ好都合だ」

 「え? 好都合って、どういうこと?」

 

 不思議そうに首を傾げるタウニーに、カズマは周囲に聞こえないような低い声で、冷静に言葉を紡ぎ出した。

 

 「俺たちがここで注目されるということは、後々、ホテルZの宣伝動画を街に流した時、観た奴らが『あぁ、あの時の大岩を生身でぶっ壊した奴だ!』と一目で気づく。人はな、全く知らない他人の動画はすぐにスクロールして飛ばすが、一度でも見かけたことのある人間の動画なら、気になって最後まで観てもらえる可能性が十分に跳ね上がるはずだ」

 「……あ!」

 

 タウニーは目を見開いた。カズマがただ暴れたわけではなく、最初から「ホテルZの宣伝」という目的に向けて、自分の圧倒的な存在感を売名のための『広告塔』として利用したのだと気づいたからだ。

 

 「なるほど……! 凄いよカズマ、そこまで考えてたんだね! やっぱり頼りになりすぎる!」

 

 タウニーは感激した様子でカズマの腕を軽く叩き、満面の笑みを浮かべた。カズマも「大したことじゃねぇ」と不器用に応え、二人は実に仲睦まじい様子で歩みを進める。

 

 だが、そんな二人の距離感を見た周囲の住人たちの噂話は、また別の方向へと脱線し始めていた。

 

 「なぁ…おい、見ろよあの二人……。もしかして、付き合ってるのか?」

 「ええーっ!? あんな凶悪な顔した大男と、あのお出かけ服の可愛い女の子が!? ……だとしても、全然似合わねぇな……」

 「キルリア(美女)リングマ(野獣)ってレベルじゃねえぞ……」

 

 そんな邪推に満ちた住人たちのヒソヒソ話を、カズマとタウニーの二人は一切気づくことなく、真面目な顔で明日の宣伝計画について話し合っている。

 

 しかし、床の上に居たニシキだけは、その噂話を完全に聞き取っていた。ニシキは丸い目を限界まで見開き、胸ビレを頭に当てるようにして、心の中で盛大にずっこけた。

 

 『おいおい… 周りの連中、勝手に何勘違いしてやがんだ! カズマとタウニーのお姉ちゃんが付き合ってるだと!? 似合わねえのはその通りだがよぉ……!

――って、当の本人たちはこれっぽっちも気づいてねえし! カズマ、お前は相変わらずこういう浮いた話には1ミリもアンテナが立たねえなぁ!』

 

 ニシキはハァ…とため息を吐きながら、鈍感すぎる兄弟分と、勝手な噂を立てるミアレの住人たちの間で、一人だけ激しく尾ビレをパタパタと打ち鳴らしてツッコミを入れまくるのだった。

 

 「行くぞ、ニシキ。遅れるな」

 『……っ! ――分かってるよ、今行くっての!』

 

 住人たちの驚嘆と邪推の視線を潜り抜け、カズマたちは目的の場所に到着した。目の前に現れたのは、ミアレシティの喧騒の中に佇む、ポケモンのオアシス――『ポケモンセンター・ベール』

 

 「ここがポケモンセンターだよ! ここにポケモンを預ければ、タダで完璧に治療してもらえるの。便利でしょ?」

 

 タウニーはそう言って、ポケモンセンターのなかに遠慮なく入っていく

 

 「最近はね、外にある『ワイルドゾーン』の影響で、野生のポケモンに攻撃されて怪我をする人が増えちゃってさ……。だから今は、ポケモンだけじゃなくて、人もここで一緒に治療を受けられるようになってるんだ」

 「……ワイルドゾーン、か。人間まで怪我をするとは、随分と危なっかしい場所だな」

 

 カズマはグレーのジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、静かに眉根を寄せた。だが、まずは目の前の相棒たちのケアが先決だ。カズマは受付カウンターへと歩み寄り、腰のボールからニシキとススムの二人を出し、優しくカウンターへと並べた。

 

 「すまないが、コイツらの治療を頼みたい」

 「は〜い! ポケモンセンターへようこそ……ッ!?」

 

  受付にいたピンクの髪の看護師のジョーイさんは、カズマの前に出た瞬間、その顔面凶器さながらの凄まじい仏頂面と、カタギに見えない圧倒的な圧に、一瞬だけピキリと顔を引きつらせた。

 

 だが、そこは数々の狂暴なポケモンや荒くれトレーナーを相手にしてきたプロの看護師だ。一瞬で完璧な営業スマイルを取り戻すと、何事もなかったかのように丁寧に対応を始める。

 

 「お預かりいたしますね! 激しいバトルの跡が見られますが、当センターの最新設備なら、すぐに元気になりますのでご安心ください!」

 

 その一連の鮮やかな引き際を、カウンターの上でまな板の上のコイキングと化していたニシキが、じっと見つめていた。

 

 『おい、今の見たかよカズマ? 一瞬で持ち直しやがったぜ。……やっぱりミアレの女ってのは、どいつもこいつも肝が据わってやがんなぁ! 感心しちゃうぜ、ホント』

 

 ニシキは感心したように尾ビレをパタパタと揺らし、隣で『早くバブバブ回復してほしいでぇ…ワシのプリケツに刺さった牙が痛む…』と涙目になっているススムの背中を、胸ビレで優しく叩いてやった。

 

 ジョーイさんはニシキたちを治療用のトレイに移すと、カズマのスマホロトムに目を留め、にっこりと微笑みかけた。

 

 「お客様、当センターのご利用は初めてですね? もしよろしければ、お預かりしている間に、そちらのスマホロトムに『ポケモン図鑑』のアプリをインストールしませんか? 街中やワイルドゾーンで新しいポケモンに出会って、図鑑のデータを埋めていくと、研究所から素敵なプレゼントが貰えるんですよ!」

 

 ジョーイさんは素晴らしい特典だとばかりに笑顔で勧めてきたが、カズマは腕を組んだまま、静かに首を横に振った。 

 

 「――いや、結構だ」

 「えっ……? 特典に興味はございませんか?」

 

 断られると思っていなかったジョーイさんが目を丸くするなか、カズマは低く、芯のある声で自分の流儀を告げた。

 

 「俺は、意味もなくポケモンを捕まえる気はねぇ。ニシキも、さっきのススムも……俺にとっては、命を預け合う唯一無二の仲間だ。図鑑のページを埋めるためだの、プレゼントを貰うためだのという軽い理由で、そこらのポケモンを片っ端から捕まえて回るような真似は……俺の生き様(ポリシー)が許さねぇ」

 

 カズマの真っ直ぐで不器用な、しかしポケモンへの深いリスペクトが詰まった言葉に、ジョーイさんは深く圧倒されたように言葉を失った。

 

 しかし、その硬派すぎるカズマの横から、タウニーがクスッと笑いながら口を挟んできた。

 

 「あはは! カズマってば、本当に真面目なんだから! でもね、無意味なんかじゃないんだよ? 捕まえたポケモンは、そのまま『ポケモン研究所』に送って、生態の調査や保護に役立ててもらうことも出来るの。決して、カズマの言うような、ポケモンを道具みたいに扱うわけじゃないんだよ?」

 

 その言葉に、カズマは「……ほう」と、意外そうに視線を向けた。

 

 タウニーはカズマのスマホロトムを指差しながら、ミアレシティが抱える現状を分かりやすく解き明かしていく。

 

 「ポケモン研究所に限らずね、今のミアレシティは再開発の真っ只中だから、どこも深刻な人手不足なんだよ。そこで、一般の住人や観光客の人たちに少しずつ手伝ってもらおうって考えて作られたのが、このポケモン図鑑のアプリなわけ」

 

 カズマは腕を組んだまま、タウニーの言葉にじっと耳を傾けます。

 

 「これならね、街の住人は『ZAロワイヤル』に挑むための新しい相棒を探しながら、自然と街の役に立てるでしょ?

  それにポケモン研究所側も、自分たちが忙しくて現場に調査に行けなくても、住人のみんなが捕まえてくれたポケモンの種類と場所がデータで送られてくれば、そこの生態系が完璧に分析できるじゃない。お互いにとって、すごく良い仕組みなんだよ?」

 

 「……なるほどな。街全体の力を合わせて、未来のミアレを造ろうってわけか」

 

 タウニーの合理的な、そして何よりポケモンと人間が共生するための熱い説明を聞き、カズマの胸にある疑念は完全に晴れた。単なるコレクションのための乱獲ではなく、街の発展とポケモンの保護に繋がる大義名分があるならば、拒む理由はない。

 

 カズマは組んでいた腕を解くと、カウンターのジョーイさんに向かって、丁寧にかつ深く頭を下げる。

 

 「そういうことなら、話は別だ。……さっきは無礼なことを言ってすまなかった。ジョーイさん、俺のロトムにも、その『ポケモン図鑑』のアプリをインストールさせてくれ」

 「ご協力感謝します」

 

 カズマの誠実な態度に、ジョーイさんは先ほど以上の晴れやかな笑顔を浮かべ、スマホロトムを受け取ってテキパキと作業を始める。

 

 『へえ、ただのスタンプラリーじゃなくて、街のインフラ整備の一環ってわけか。おいカズマ、これなら俺たちも大手を振って新入りをスカウトできるじゃねえか。研究所の連中にも、俺たちの仕事っぷりを見せつけてやろうぜ!』

 

 ジョーイさんがニシキとススムを治療室へと運び、ソファーで回復を待つ間。タウニーは思い出したようにスマホロトムを操作しながら、カズマの顔を見上げた。

 

 「そういえばさ、カズマ。昨日からZAロワイヤルの参加者の間で、物凄い噂になってるポケモントレーナーがいるんだよね」

 「……噂? どんな奴だ」

 

 カズマがソファーに深く腰掛け、グレーのジャケットの襟に手をやりながら尋ねる。

 

 「昨日、カズマがミアレシティに到着したほんの数時間後に、突如としてバトルゾーンに現れたらしいんだけどさ……。連れてるポケモンが『ウーラオス いちげきのかた』っていう、お目にかかることすら滅多にない格闘ポケモンなんだって。その子を繰り出して、並み居る強豪トレーナーを一撃でボコボコになぎ倒しているんだってさ」

 

 「ウーラオス……いちげきのかた、だと?」

 

 カズマの鋭い眉根が、ピクリと跳ね上がった。そのポケモンの持つ、容赦のない圧倒的な「格闘」の拳。そして、何よりその不穏なタイミング。カズマの脳裏に、ある一人の破天荒な男の顔が、嫌な予感とともに浮かび上がってきた。

 

 「タウニー。……そのウーラオスを連れたトレーナーの姿、どんな格好をしていたか、何か聞いていないか?」

 「え? 容姿? ……うーんとね、目撃した人たちの話だと、とにかく強烈な見た目らしくてさ……。左目に『眼帯』をつけてて、髪型はテクノカット気味。それでね……『ハブネーク柄のジャケット』を、なんと素肌に直接羽織ってるんだって! ちょっと変態みたいな格好だよねぇ?」

 

 「…………………………ハァ……………」

 

 タウニーの言葉を聞いた瞬間、カズマは片手で顔を覆い、大きく深いため息をついた。間違いない。ハブネークの蛇皮模様を素肌に着こなし、眼帯をつけたテクノカットの男。この広い世界で、そんな滅茶苦茶な格好が許されるのは、カズマの知る限りただ一人しかいない。

 

 「……あの人、もう追いかけてきたのか。相変わらず、しつこい……」

 

 カズマは心底うんざりしたように、ガックリと肩を落として気分を沈ませた。その急激なカズマの態度の変化に、タウニーは不思議そうに目を丸くする。

 

 「あれ? カズマ、もしかしてそのトレーナーのこと知ってるの?」

 「あぁ……知り合いだ。嫌というほどな……」

 

 カズマが不器用に応じた、その時だった。チーン、という小気味いい電子音とともに、カウンターの向こうからジョーイさんの明るい声が響いた。

 

 「カズマ様、お待たせいたしました!お預かりしていた ニシキくんとススムちゃん、バッチリ回復いたしましたよ!」

 

 『親分! ワシ、全身エネルギー満タンでバブバブ動けますわ!』

 『おうカズマ! 待たせちまったな。これでいつでも次の戦いにいけるぜ!』

 

 すっかり元気になってトレイの上で飛び跳ねるススムと、胸ビレをパタパタさせるニシキの姿を見て、カズマはソファーから静かに立ち上がった。スマホロトムをポケットに収め、グレーのジャケットの裾を軽く払う。

 

 「タウニー。その男についての話は、また今度だ」

 「えぇーっ、気になるよ! どんな関係なの?」

 

 食い下がるタウニーを、カズマは重厚な足取りでポケモンセンターの出入り口へと先導しながら、低く呟いた。

 

 「話す必要はねぇさ。……どうせ、近いうちに嫌でもすぐ会うことになる。………あの人はそういう人だ」

 

 ◆1番ワイルドゾーン

 

 ポケモンセンターをでたカズマはポケモン図鑑を埋めるために、タウニーの案内のもと『1番ワイルドゾーン』に向かっていた

 

 「はい!1番ワイルドゾーン到着〜!あ! ほら、あそこにいる『ヤヤコマ』なんかは警戒心が低くて大人しいから、最初の練習にはぴったりだよ!」

 「あぁ、なるほどな。街灯とかにもよくいるあの小鳥か……」

 

 カズマはタウニーから手渡された真っ新なモンスターボールを右手に握り、どっしりと構えた。だが、その様子を横で見ていたタウニーの顔が、みるみるうちに引きつっていく。

 

 カズマの右腕、そしてグレーのジャケットに包まれた逞しい肩には、どう見てもポケモンにボールを投げる人間のそれではない、鉄球をぶん投げるかのような凄まじい力が入りすぎていた。

 

 「ちょ、カズマ? 力が入りすぎじゃ――」

 

 タウニーが制止の声をかけるより早く、カズマの豪腕がしなった。

 

 ビュンッ!!

 

 空気を切り裂く、文字通りの『爆音』とともに放たれたモンスターボールが、のんびりとしていたヤヤコマの脳天へと直撃した。

 

――ベキゴキッ!!!

 

 それは、モンスターボールがポケモンに当たって鳴るような、小気味いい電子音などでは断じてなかった。鈍く、重く、骨が軋むような恐ろしい破壊音がワイルドゾーンに響き渡る。

 

 ボールはヤヤコマを物理的に叩き伏せ、そのまま強制的に内部へと吸い込み、地面に落ちると1回も揺れることなく完全に沈黙した。無事?ゲットである。

 

 「……ふぅ。これでいいんだな、タウニー」

 

 カズマは額の汗を軽く拭い、何事もなかったかのように振り返った。しかし、そんなカズマに注がれたタウニーの視線は、冷え切っていた。彼女の両目からは完全に光が消え失せており、底知れない暗黒のオーラがその背後から立ち上っている。

 

 「……っ」

 

 その尋常ではない圧に、さしものカズマも背筋に冷たいものを感じ、タラリと冷や汗を流した。

 

 「ねえ、カズマ……。もしかして、ボール投げるの……初めて?」

 「あ、あぁ。物を投げるのは……昔、ニシキを連れ去ろうとしたピジョンにイシツブテを投げつけて以来だ。……力加減が、いまいち分からん」

 

 カズマがタウニーの眼力に押されながら正直に肯定した、その瞬間。

 

 「おバカァァァァァッ!!! ポケモンを物理的に撲殺する気かぁぁぁーーーッ!!!」

 

 1番ワイルドゾーンの全域を震わせるほどの、タウニーの怒号と説教が爆発した。

 

 「いい!? ポケモンのゲットっていうのはね、ボールを優しく包み込むようにして、相手を傷つけないように投げるの! あなたのそれはただの遠距離物理技『なげつける』だよ! ほら、今すぐ手加減のトレーニング開始!!」

 「お、おう……分かった…!」

 

 こうして、タウニーによる地獄の「捕獲手加減ブートキャンプ」が幕を開けた。カズマはタウニーの厳しい指導のもと、何度も何度もボールを投げるフォームを修正し、筋肉の出力を極限まで抑えるコントロールを身に付けていく。

 

 『ぎゃはははは! おいカズマ、もっと力を抜けよ! お前のそれじゃあ、ボールが当たる前に風圧でポケモンが消し飛んじまうぜ!』

 

 足元ではニシキが床をパチパチ叩いて大爆笑し、ススムは…

『ワシは野生のポケモンじゃなくて良かったわ…』

 と震え上がっていた。

 

 カズマが完璧な力加減を身に付けるまでの数時間――。1番ワイルドゾーンからは、野生のポケモンたちの、かつてないほど悲痛で恐ろしい悲鳴が、絶え間なく響き渡っていたそうだ……。




お察しの方が大多数だと思うので紹介します
ゴロー『真島吾朗』
カズマを追いかけて来たストーカー。幸運にも人通りの少ないホテルZにカズマは宿泊しているため、エンカウントする可能性は限りなく低い。
多分、本作完結後に『どこでもユカリゾーン』に並んで『どこでもゴローちゃん』としてカズマに襲い掛かり続けるでしょう…

ウーラオス いちげきのかた タイガ『冴島大河』
圧倒的な筋力で全てを粉砕するゴローの相棒。
例えトウマのブロスターが万全であっても一撃で甲殻は粉砕される。ゴローよりも人間らしい常識ポケモン。
性格は真逆なのにも限らず、ゴローとのコンビネーションはバッチリ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。